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【3月第4週】DAOレポート Vol.11
イントロダクション
最近の銀行危機のきっかけを作ったの米国政府であり、実は仮想通貨業界を取締まろうとする流れの中で起きたのではないか?一見、陰謀論のように聞こえる上記の説が米業界関係者の間では話題になっている。シルバーゲートとシグネチャー銀行の破綻は、米バイデン政権による政治的な意図を持った介入の成果であり、仮想通貨フレンドリーな銀行を完全に狙い撃ちしたのではないかという説だ。仮想通貨のプロジェクトは、従業員の給与やオペレーションコストの支払いで銀行口座の開設が必要だ。DAO関連の支払いで銀行口座を開設するDAO(正確にはサブDAOやDAO内のプロジェクト)も多い。今回の銀行危機の本質は何かを見極める必要がありそうだ。
上記のバイデン政権の責任論を主張するのはCastle Island Venturesのパートナーであるニック・カーター氏だ。急激な利上げに対応しきれなくなった米銀行システム全体の脆弱性がナラティブの中心(そしてそれは間違いなさそうだが)にある中、仮想通貨関連事業の息の根を止める試みがバイデン政権によって行われたのではないかという分析だ。とりわけ、シルバーゲート銀行とシグネチャー銀行は、強制的に破綻に追い込まれて強制的にFDIC(連邦預金保険公社)の管理下に置かれたという。
「両銀行は『自殺』をしたのではなく『処刑』された」というわけだ。
今年の米国における主な仮想通貨規制を見てみよう。
SEC(米証券取引委員会)がパクソスに対してステーブルコインBUSDの発行停止を求めて訴訟。
SECが取引所クラーケンとステーキング停止で合意
SECのゲンスラー委員長がビットコイン以外はセキュリティ(証券)と発言。
ニューヨーク司法長官がイーサリアムについて証券と宣言。
SECが取引所コインベースに対して今後の取締りの意図を示すウェルズノートを送付。
ホワイトハウスは仮想通貨について複数の問題点を指摘したレポートを公開。
米バイデン政権による仮想通貨に対するスタンスは、少し前までのニュートラルからネガティブへと確かに変わってきているようだ。
こうした背景の中で、シルバーゲートとシグネチャー銀行の問題を捉える必要がある。とりわけ、シグネチャー銀行に対する仕打ちは酷かった。2022年末時点で預金額は1100億ドル存在し、約20%が仮想通貨関連プロジェクトからの預金だったが、3月12日の日曜日、ニューヨーク州金融サービス局(NYDFS)によって突如FDICの管理下に送られた。まだ、営業を続けられる体力があったにも拘らずだ。
利上げの影響は銀行にとってもちろん逆風だ。しかし、シグネチャー銀行と同時期に苦しんでいたファースト・リパブリック銀行は、建て直しに向けてより多くの時間を与えられたという。同社の株価は87%も下がっているにも拘らずだ。単純に両者の命運を分けたのは、仮想通貨と付き合いがあるかどうかだ。
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ちなみに、シグネチャー銀行のライフラインとなっていた連邦住宅貸付銀行(FHLB)制度に苦言を呈し、実質的に停止に追いやったのは、民主党のプログレッシブ系議員として知られるエリザベス・ウォーレン議員らだ。その後3月16日、ロイター通信は、シグネチャー銀行の買収先は仮想通貨関連ビジネスを除外しなければならないと報じた。
シルバーゲートとシグネチャー銀行は、仮想通貨関連企業が銀行口座を開けられる上で重宝していた数少ない銀行だ。今後困るのは、仮想通貨プロジェクトだろう。どこで銀行口座を開いて給与や経費の支払いを行えば良いのか?米銀行は、仮想通貨関連事業の預金割合を全体の15%にしないといけないという。それに加えて、米政府からの圧力が高まる中、銀行による仮想通貨プロジェクトの選別が進むだろう。その時、苦しむのは、スタートアップ系やまだ規模が小さいプロジェクト、そしてプロフェッショナル化が始まったばかりのDAOプロジェクトだろう。米政治の動向には警戒が必要だ。
今週のDAOニュース
【3月21日】DAOへの投資組織、Seed Club Venturesの登場
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60のファンドおよびエンジェル投資家から構成されるSeed Club Venturesは、DAOや創業者へ早期投資を目的に設立された。
すでに2500万ドル(約32億5000万円)を確保しており、すでに複数のプロジェクトへの投資を開始している。
Seed Club Ventures自体も、DAOにより運営されている。
【3月22日】Sushi Swap、米証券取引委員会から召喚状を受け取る 法的防衛基金設立へ
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分散型取引所SushiSwapを運営するSushiは、3月21日に米証券取引委員会(SEC)から召喚状を受け取ったと明かした。
召喚状とは、証券取引委員会の規制に関する調査であり、一般的に証券法違反や詐欺などに関与した可能性がある個人や企業を対象に発行される。
Sushiを運営するDAOは、300万ドル(約3億9000万円)を訴訟に備えるための基金として用意し、SECの訴追に備える構えである。
【3月22日】アービトラム、DAOへ1億1200万 ARBトークンをエアドロップへ
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イーサリアムのレイヤー2スケーリングソリューションであるアービトラムのDAOは、エアドロップ全体の約10%に当たる1億1200万ARBトークン(約191億円)を受け取った。
アービトラムのネットワークに参加したユーザーに加え、主要なDeFiプロトコルもエアドロップの対象となっており、分散型暗号資産取引所であるUniswapとSushiにはそれぞれ430万 ARB(約7億3500万円)が付与された。
エアドロップされたARBトークンは、3月23日に各取引所に上場した。
【3月23日】MakerDAO、DAIの価格安定にUSDCの使用を継続へ
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ステーブルコインDAIを発行するMakerDAOは、DAIの価格安定の役目を担う主要なリザーブ通貨として、引き続きUSDCを採用することを投票で決定した。
USDCは、シリコンバレー銀行の破綻の影響で、一時的に1 USDCが1米ドルを下回るディペッグが発生し、多くのプロトコルで緊急対策が取られていた。
今回の投票では、約79%がUSDCの使用継続へ賛成に票を投じたが、一部USDCへ依存することを危惧する声も挙げられた。
【3月22日】StableLab、DAOの成熟度を測るDAOmeterを発表
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デリゲートおよびガバナンスをデザイン・構築するStableLabは、DAOの成熟度を測定するために設計されたツールである「DAOmeter」を発表した。
DAOmeterは、コミュニティやトレジャリー、投票、ドキュメンテーションを含む 6つのカテゴリーで評価し、DAOの成熟度レベルをスコア化する。
StableLabは、DAOを作成・管理するためのガイドラインが不足していると主張。DAOmeterを通して、DAO創設者やチームへのサポートに加え、改善点の検出としての活用が期待される。
注目のプロポーザル
① Sushi Swap、訴訟対応のための基金設立 - Establish Sushi Legal Defense Fund
提案/ 投票(未定)
要点
SushiSwapのDAOは、米証券取引委員会(SEC)から召喚状を受け取っており、法的リスクに直面する可能性があることから、訴訟対応のための基金の設立を提案した。
本提案では、300万ドル(約3億9000万円)を要求しており、資金は、専門家の法律チームを雇用など今後起こりうる法的問題への対応に当てられる。
② Aave、Aave Chan Initiative (ACI)に6ヶ月の予算を提案 - [TEMP CHECK] Aave Chan Initiative 6-Month Budget Proposal
提案/ 投票(3月28日投票終了) 要点
「Aave Chan Initiative (ACI)」は、Aaveのコミュニティの拡大を目的とした6ヶ月間のデリゲート活動の継続に、予算として25万ドル(約3250万円)の確保を提案している。
ガバナンストークン保有者から投票権を委託されるデリゲートであるACIは、今後も積極的にAaveガバナンスのディスカッションへ参加し、提案や投票を行う。
提案へのコメントとして、Aaveのデリゲート参加に対するモチベーションの向上に繋がると期待する声が挙がる一方、実際にデリゲートへの報酬を支払うMakerDAOと比較して、高めの報酬額が設定されていると指摘されている。
③ Optimismのデリゲートの不正対策 - Delegate Suspension: Fractal Visions
提案 / 投票(未定) 要点
イーサリアムのレイヤー2ソリューションを開発するOptimismのDAOは、トークン保有者から投票権を委任されるデリゲート「Fractal Visions」の規範違反を理由に、デリゲートの一時停止を求めている。
本提案でFractal Visionsの行動規範違反として指摘されるのは、特定の個人に関する誤った情報の拡散である。
デリゲートの行動規範には、「持続的で不適切な行動を含むコミュニティ基準の繰り返しの違反、または差別、嫌がらせ、意図的なドクシング、不正行為、または開示されていない自己取引を含む深刻な違反」と記載されている。
当事者であるデリゲートは、ネットワークを全てのユーザーにとってより安全にすることが目的であったとした上で、本物と詐欺を見分けることは非常に困難であったと反論している。
④ 0xのプロトコルセキュリティ監査が選出したメンバーへ緊急機能を付与 - 0x Protocol Security Council
提案 / 投票(未定)
要点
DEXの構築に必要なソフトウェアを提供する0xプロトコルは、スマートコントラクトの安全性やトレジャリーの監督を行う「0x Protocol Security Council」のメンバーへ、緊急時に使用できる2つの特権の付与を提案。
2つの特権とは、ガバナンスの提案に対する拒否権とガバナンスプロセスを1段階巻き戻す投票権利である。
これらの特権は、1回限り使用可能であり、特権を使用したメンバーは即時解任となる。
0xプロトコルは、完全分散化への移行段階であり、悪意のある提案によるリスクを最小限に留めることを目的としている。
⑤ ROOK DAOの解散 - KIP Draft: Dissolution of the DAO
提案 / 投票(未定)
要点
イーサリアム系のDeFiプロトコルであるROOKは、ガバナンストークン保有者と管理チームの間で意見衝突が起こっており、DAOの解散を提案している。
理由として、プロダクトの成長率が劇的に低下しており開発が追いついていないにも関わらず、DAOのトレジャリーから管理チームに対して年間610万ドル(約7億9300万円)が支払われていることが挙げられている。
また提案者は、現在のガバナンスシステムでは、DAO管理者に異議を申し立てることができないシステムとなっており、ROOKトークン所有者をガバナンスプロセスから除外されていると訴える。
➅ Olympus DAO、助成金プログラムの変更を提案 - OIP-135: Olympus Grants Program 1-Year Review & Path Forward
提案 / 投票
要点
ステーブルコインOHMを発行するOlympus DAOは、1年前に承認した「助成金プログラム」を振り返り、複数の変更を提案。
助成金プログラムは成功であったが、より効率的に助成金を使用するため、既存の助成金プログラムの管理を担っていた助成金委員会を解散し、「パートナーシップ」と呼ばれる別のプログラムに統合することを提案している。
これに伴い、2022年10月にスイスに設立されたOlympusの開発を担うNPO団体であるOlympus Associationへ、既存の助成金である約50万ドル(約6500万円)を送付し、助成金の管理を託す計画である。
⑦ MakerDAOの憲法設立 - Ratification Poll for the Constitution MIP Set - March 13, 2023
提案 / 投票
要点
MakerDAOは、フレームワークの構築および「Endgame(エンドゲーム)」と呼ばれるMakerの最終到達地点に向けたロードマップの推進に必要な憲法(Constitution)に対する投票を実施している。
憲法は、プロトコルと組織レベルで、「単純」「分散化」「耐久性」の最大化を達成するために必要な規則や構造を定義している。
話題のTweet
プロジェクトの内容よりも気になるのは・・・トークンの価格?エアドロップ?
— Owocki.Ξth (🤖,💚) (@owocki) March 17, 2023
データ振り返り
トレジャリー総額
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オススメの読み物
①「偽名経済」 “The Pseudonymous Economy”
元コインベースのバラジ・スリニバサンは、「偽名」は仮想通貨の発展に必然なものだと説く。近年、ソーシャルメディア上で発言が炎上したり不特定多数の人から袋叩きに合う事例が増えているが、スリニバサンが根本的な要因と考えているのは「実名」の存在だ。全てが「偽名」でコミュニケーションできていれば、ポリコレを心配する必要なく、「正しいこと」を言うことばかりを意識しないで正直な会話が冷静にできる。人間関係も損なわなくてすむ。またソーシャル上で形作られる「評判(Reputation)」の構成要素に着目し、実名から偽名に移行することが技術的に可能になっていることを指摘する。読み物ではなくYouTubeチャネルだか必見だ。
②「懐石料理」 “Kaiseki”
最近の銀行危機のマクロ経済的な背景が分かりやすく書かれている。ビットメックス創業者アーサー・ヘイズが書いた最新のブログだ。始まりはコロナショックが世界を襲った2020年3月。FRBによる大規模な金融緩和策の後に待ち受けていたインフレ、そして利上げ。この一連の流れが、なぜシリコンバレー銀行の破綻や銀行セクターの危機につながったのか。そして、この状況下で、なぜビットコインが買いなのか。このブログを読めば、全体像がクリアになるだろう。
③「CFTCのOoki DAO訴訟に対する反対意見」Dissenting Statement of Commissioner Summer K. Mersinger Regarding Enforcement Actions Against: 1) bZeroX, LLC, Tom Bean, and Kyle Kistner; and 2) Ooki DAO
SushiSwapが米証券取引委員会(SEC)から召喚状を受け取る中、過去の類似例を検証する上で大変参考になる読み物。米商品先物取引委員会(CFTC)が、昨年9月に違法なマージン取引を提供していたとしてOoki DAO全体を訴えた。「DAO全体」が訴訟対象になるとはどういうことかと、当時、物議を醸した。今回の読み物は、CFTCのOoki DAO訴訟に反対したCFTCの委員の見解。全ての投票参加者を訴訟の対象にすることで、DAOというイノベーションを否定することや訴訟の対象を決めるのが難しく不平等性が残ることなどを反対の理由に挙げた。