モノクロフィルムの違いと選び方
僕はモノクロフィルムで写真を撮っていて、現像もプリントも自分でひとつひとつ手作業で写真をつくっています。
最近は中国の若者を中心にフィルム写真のブームが来ているようで、日本の若い人もクラシックなフィルムカメラを首から下げていたり、写ルンですで写真を撮っているのを見かけることが多くなりました。
僕はそんなフィルム写真ブームとは全く関係のないタイミングで、気まぐれに写真素人の段階からフィルムでカメラデビューを果たし、暗室の教室に通ってアナログ写真を学んで現在に至ります。
今時、写真屋さんに行ってもあまりフィルムを置いているところが少なく、せいぜいフジフィルム製のカラーネガを1~2種類、申し訳程度に置いているかどうか、といったところでしょうか。僕の近所ではそういう様子です。
でも、ちょっと大型のお店、例えばヨドバシカメラや、フィルムに特に力を入れている写真屋さんでは、ものすごい数のフィルムを取り扱っているお店があります。
ただ、いろんな種類はあるけど一体何が違うのか。パッケージだけ並べられても違いなんてわかりませんよね。値段が違うのと、メーカー、それから感度が違うことくらい?
じゃあ同じ感度、たとえばフジフィルムのacrosⅡ100とコダックのT-Max100は同じフィルムなのかというと全く違うフィルムです。
僕はモノクロ専門でカラーの事は完全に専門外なので、今回はモノクロフィルムに限定して、フィルムの違いがどこに現れるのかということと、フィルムごとの特徴の違いを知るにはどういう方法があるのか、という事についてお話をします。
モノクロフィルムの違いとは
モノクロフィルムの違いを語るという事は、つまりモノクロ写真を語るという事になります。
なにせ、現像されたネガフィルムをそのまま覗くなんてことはあまりしないからです。紙にプリントするか、今ならフィルムスキャナで取り込んでモニタに表示するか、いずれかの方法で必ずモノクロ写真にした状態で見ます。
モノクロ写真にしてフィルムの違いを比べるとき着目するポイントは3つ。
1つ目は粒状性
2つ目はシャープネス
3つ目はコントラスト・階調
これらのポイントが、その写真の美観を左右していきます。
粒状性
粒状性とは、粒子の粗さや、粒子の整いのことを言います。
モノクロフィルムは、黒い点の集合体で画像が構成されています。
その点の粒が大きいか小さいか、粒の形が整っているか不規則か、といったところを、ひとつの美観として評価します。
たとえばこの写真。
あまりざらつきは感じませんよね。これは粒子が細かく目立たない、微粒子という特徴のフィルムを使っています。
つぎにこの写真。
ひと目でわかる、ざらつき。ざらっざらですよね。粒子ひとつひとつがみえるほどに、粒子が粗いです。これは元々粒子が目立つフィルムを増感処理してより粒子が粗くなっているので、こんなにざらついています。
フィルムによって、この粒状性が違っていて、ほとんど粒子が見えないほどに細かいフィルムもあれば、どう頑張っても粒子が目立ってしまうフィルムもあります。
女性のポートレート写真を撮るときは、きめ細かい肌で美しく撮ってあげたいので、粒子が粗いフィルムよりは微粒子のフィルムのほうがいいですね。
逆に、岩肌や波のしぶきなど荒々しさを表現したいときは粗い粒子がいい味を出してくれるかもしれません。
シャープネス
シャープネスとはそのなの通りシャープさ、画像の精鋭さ、鋭さのことです。
くっきりはっきり、切れ味よく。
最近のデジタルカメラで撮った写真はとてもシャープなので、それを思い浮かべてもらった方がいいかもしれません。
たとえば葉っぱの輪郭とか。
デジタルっぽい、というとフィルムで撮るアイデンティティを全否定するようでアレなんですが、シャープな画像はどことなく現代っぽく写って見えます。
植物の葉脈や細かな彫刻の細部までしっかり写し取りたい、森の木々の枝一本一本まで手を抜きたくない、そんなときはシャープネスが高いフィルムを選びましょう。
コントラスト・階調
モノクロフィルムで言うコントラストは、メリハリのこと。明るいものをより明るく、暗いものをより暗く表現する傾向があるフィルムを、コントラストが高いフィルムと言います。
階調は、白から黒へ変わる間に存在する中間グレーのトーンが豊かかどうか、というときに階調という言葉を使います。
一見同じ言葉のようで少し指しているものが違いますが、これを書いている僕自身も自信をもって説明できるほど言葉で理解できていません。
多分見た方が早いと思うのでまずはこの写真。
コントラストが高めの写真を選んできました。
木の陰になっているところや構造物の脚のなかの影などは、黒つぶれをしていて詳細がわからなくなっています。一方の空も白く飛んでいて、雲があるかどうかはわかりません。こういう、白や黒のメリハリがはっきりと強い状態を、コントラストが高い写真を言っています。
また、山の木に注目してみてみると、木の種類によって葉の色は微妙に違うはずですが、だいたいどの木も同じ黒色になっています。階調が低いとなにを撮っても同じトーンになってしまってインパクトのない写真になりがちです。
つぎにこの写真。
植物の影や木々の葉の色、露出した岩肌や空など、どこを見ても黒潰れや白飛びがありません。先ほどの写真とくらべると、こちらの方がコントラストが穏やかですね。
草の種類や光の当たり方、岩肌や空の雲の塩梅によってついた濃淡がそれぞれ微妙に違うトーンで表現されていて、グラデーションのある写真になっています(自分の写真を評価するの恥ずかしいんですが)
これらの性質は、分光感度曲線や特性曲線といったフィルムの特性を数値化してグラフ化したものでその違いを確認することができます。
光は波である、と言われますが、色によってその波長の長さは異なります。フィルムによって反応する波長の長さや、特に反応する波長、反応が弱い波長があります。それを表したのが分光感度曲線で、違う銘柄のフィルムで撮ると、同じ赤い薔薇でもグレーに写ったり真っ黒に写ったりと違いが現れます。
光の強さに対してフィルム上にどれくらいの濃度で現れるかを表したのが特性曲線です。陰った場所のちょっとした光でも写し取れるフィルムもあれば、ちょっと陰っただけですぐ黒潰れるフィルムもあります。
光や色の濃淡や豊かさを表現したいときは階調が豊かなフィルムを選ぶと、白から黒までの間にある様々なグレーのトーン豊かな写真ができると思います。
ドラマチックな写りが欲しいときは、思い切ってコントラストが強く出るフィルムを選ぶと、白黒はっきりとした画像になってカッコイイと思います。
フィルムの比較の仕方
それぞれの特性についてはわかったけど、結局どのフィルムがどういう特徴なのか、なにを見ればわかるの?というお話で、これが実は今回の本題。
例えば、今使っているモノクロフィルムとは別のフィルムを使いたいと思っていて、今使っているのとはガラっと違う写り方をするフィルムが欲しいとき。
手あたり次第買って試すのは時間もお金もかかる。かといって、ネットや店頭に置いてある撮影のサンプル写真を一枚二枚見ただけじゃ、あまり違いがわからない。
データの読み方がわかる人は、さっきでてきた分光感度曲線とか特性曲線を見て「ふむふむ、このフィルムはハイライトは飛びやすいがシャドウは粘るようだ」などとわかるみたいですが、正直僕もそこまで見方はわかりません。
ではどうするか。
ずばり、Flickrを見ましょう。
Flickrって、あのFlickrです。世界的に大きな写真の共有サイト。
スマホで撮った写真の最大の共有サイトがinstagramなら、カメラで撮った写真の最大の共有サイトは多分Flickr。
Flickrは、撮影した写真を公開するだけではなく、その写真を撮ったカメラやレンズ、ISO感度やF値、シャッタースピードなど細かな情報を掲載することができ、それらをタグ付けすることで、同じカメラやレンズで撮った他の人の写真をまとめてみることができるようになっています。
そして、Flickrにはフィルムで写真を撮ったひともアップしていて、プリントしたものをスキャンしたり、ネガを直接スキャンすることによってデジタル化した写真が沢山共有されています。
それらの写真には、撮影したカメラやレンズの情報は勿論、使ったフィルムや現像液、丁寧な人だと現像データまで掲載してあるのです。
なので、Flickrの検索でフィルム名を入力して検索すると
そのフィルムで撮影された写真が大量にでてきます(権利の関係でモザイクをかけています)
一枚二枚ではわからないフィルムの特徴も、数十枚、数百枚あればなんとなくわかってきます。
ひとつひとつを精査してみる必要はありません(もちろん気になったものはしっかり見てあげた方が作者が喜びます)
サムネイルの一覧を流し見しているだけでも「なんか黒が濃いな」とか「全体的にグレーが多い気がする」「ざらついてね?」など気づくことが多いと思います。
別のフィルム名で検索をかけてみると、また違う感想がでてくるはずです。
その直感的、なんとなく感じた傾向こそが、そのフィルムの特徴です。
ものによっては「なんかあんまり好きじゃない」とか「やたらとかっこよく感じる写真が多いぞ」などと思うこともあるかもしれません。
それを自分の描写の好みだと思って
気に入った写真の多いフィルム=好きな描写のフィルム
と考えてもいいと思います。その方が撮るモチベーションは上がります。
もちろん、写真一枚一枚はそれぞれ使われている現像液も違うし、スキャンする段階でコントラストや濃度を調整している可能性も多いにあり得ます。なので、全ての写真が参考になるわけではありませんが、何十、何百、何千と眺め続ければそれだけ参考にできる数も増えます。
なので、とにかくFlickrを眺めましょう。
店頭で気になるフィルムを見つけたらその場でスマホからFlickrを見てチェック。これだけで、なんとなくそのフィルムがどんな描写をするのかがつかめます。
僕もかなりFlickrは参考にさせてもらっていて、新しいフィルムを使ってみたいと思った時や、いま使っているフィルムに不満を感じた時、もっとこんな描写のフィルムを使いたいなと思ったときに、片っ端からフィルム名を検索しています。
あとは、フィルム名+現像液名で検索をすることで、件数は少ないですがより具体的な描写の傾向や、現像データを得られることがあるので、そういった使い方もしています。
Flickrに限らず、instagramのハッシュタグでも同様にフィルム名で検索すれば、ある程度の傾向は掴むことができます。ただこちらはタグの表記にばらつきがあるので(例えばrollei RPX100が#rollei#RPX#100のように分断されていて他のものも混じったり、絞り込みづらい)、どちらかといえば僕はFlickrの方が好きです。
ちょっと変わった趣向の持ち主や、熟練の腕の持ち主の方は、別のフィルムで近しい描写を目指して現像データを模索してみたり、あるいはデジタル写真で"〇〇のフィルム風"なデジタル現像や加工をしてみるのも面白いかもしれませんね。