オフコース「あれから君は」と「あいつの残したものは」を考察する
今回はオフコースの「あれから君は」という曲と「あいつの残したものは」という2曲について記したいと思います。
この2曲は共に鈴木康博さんの作詞・作曲によるもので、「あれから君は」は1975年12月20日発売のアルバム「ワインの匂い」に収録され、「あいつの残したものは」は1976年5月5日発売のシングル「ひとりで生きてゆければ」のB面に収録されいるアルバム未収録曲です。
割と近い時期にリリースされたこの2曲、実は歌のテーマと背景が殆ど同じなのです。それについて公言された記録は無いようですので、今回は勝手に推測してあれこれ書いてみたいと思います。
この2曲の基本的な背景は、主人公は友人の妹に恋心を抱いていましたが、その友人が突然亡くなってしまい、その妹との恋愛も上手くいかなくなってしまう、というものです。その心象風景が歌のテーマになっているという訳ですが、この2曲、主人公の心象が全くの正反対なのです。
「あれから君は」では、兄を亡くして心を閉ざす彼女に対し、「僕はいつまでも両手を広げ 走ってくる君を待ち続けるよ」と歌っていますが、「あいつの残したものは」では、兄が亡くなってしばらく時間が経ってから会いに来た彼女に「何故今頃 愛を打ち明けに来た 若き日々の中へ君を置いてきたのに」と歌っています。
この2曲の対極さには興味津々です。
同じテーマで内容が異なるものを作ってみよう!と思ったのか、それとも「あれから君は」のアンサーソングを作ろうと思ったのか。
そのどちらでもないとしても、このテーマを意識していたことは間違いないと思います。近い時期に同じシチュエーションの歌がリリースされているのですから。「あいつの残したものは」のレコーディングはアルバム「ワインの匂い」の後なので、アルバムのアウトテイクという訳でも無いようです。改めてこの曲をレコーディングしたということを考えると、やはり意図的にこのテーマで作ったということなのでしょう。リリース時にリアルタイムで聴いていたファンの人達がどう感じたのかにも興味がありますね。
「あれから君は」には、次のような歌詞があります。
それはそうですよね。若くして仲の良かった兄を亡くしてしまう悲しみは、想像を絶するでしょう。それが原因で、2人の恋も頓挫してしまうのでした。それでも彼女を待ち続けている主人公は、純粋な愛に溢れています。
対して、「あいつの残したものは」には、次のような歌詞があります。
きっと主人公は、少女らしい「君」に恋していたのでしょう。それが時間が経ち、少女から大人の女性に変化した「君」を、受け入れることが出来なかったのではないでしょうか。そして歌の最後には、
「あいつが私に残したものは あどけない頃の君の微笑みだった」と綴られています。なんか、結構キツい歌だなぁと思ったものです。せっかく愛を打ち明けにきてくれたのにね。
待ち続けた結果、ようやく愛を打ち明けにきた彼女に幻滅してしまった、というのが「あれから君は」から「あいつの残したものは」のストーリーということなのでしょうか。それはかなりヘビーな物語ですよね。まぁでも現実はもっと厳しいですからね…。
歌のテーマとしては色々と思いが及ぶ2曲ですが、実は楽曲としては非常に重要な2曲なのでした。「あれから君は」が収録されたアルバム「ワインの匂い」は、オフコースの新境地を拓いたアルバムとして今もなお名盤として高い評価をされていますし、「あいつの残したものは」は、ドラムの大間ジローさんが参加した最初の曲なのです。2コーラス目が終わり、サビの繰り返しに入るまでの2小節のドラミングは、大間さん特有のノリが存分に表現されています。この部分、いつ聴いてもゾクゾクします。
そんな感じの2曲です。宜しければぜひご一聴下さい!