【一問一答】フィンランド・アールト大学大学院に家族でデザイン留学。ご質問にお答えします
2023年5月末にフィンランド・アールト大学を卒業しました。皆様、2年間お世話になりました。本当にありがとうございました。
徐々に僕の経験も古くなっていきますし、僕の仕事も始まるので、なかなかzoomでお話が聞きたい!といった相談にも乗れなくなってくるかなと思っています。そこで今回、僕がお話しできることについて可能な限りここに書き残しておきたいと思います。
以下、Twitterで頂いた質問に回答します。以下3万字を超える記事になってしまったので、目次をインデックスとして有効活用していただければと思います。
前提情報
2021年8月から2023年7月まで、フィンランドのアールト大学Collaborative and Industrial Design修士課程に留学をしていました。専門は参加型デザインやサービスデザインです。
入学前の経歴としては、僕個人は意匠的なデザインのバックグラウンドはほとんど持っておらず(とはいえ多少イラレやフォトショも使えますが)、デザインプロジェクトや地域の人々と協働するプロジェクトに対するプロジェクトマネジメントの実践に長く取り組んでいました。
英語は多少話せましたが、本当に多少という感じです。入学前のIELTS overallは7.0。
在学中に子どもが生まれ、前半一年間は一人で、後半一年間は家族とフィンランドで暮らしていました。
その他記事はこのあたりを。
注意事項として、このQ&Aはあくまで僕の主観、僕の経験をもとにした記事です。事実や統計に基づいて書くことを全く意図していません。それゆえ、他の人は全く違う感想を抱いているかもしれませんし、間違っていることだってあるかもしれません(しかし、そうであったとしてもこうした主観的な経験を記述しておくことに大きな意味があると思っています)。それゆえ、この記事を読まれる皆様におかれては、この記事だけを参考にすることなく、積極的に他の方にもコンタクトを取り、情報を比較するようにしていただければ大変幸いです。
留学に役立つ情報発信をしてくださっている方々として、例えば以下のような方々がいらっしゃいます。
川地さん (CoID)
くにちゃんさん (IDBM/子連れ留学)
松丸さん (IDBM)
くまたろうさん (IDBM)
まりこさん (Nordic Visual Studies in Art Education)
また、フィンランドでの日々の暮らしを発信してくださっている方々として、例えば以下のような方々がいらっしゃいます。
Erikaさん(リンク先IG。CoID)
Mitsukiさん(建築系の1年間のプログラム、Wood program)
■ 留学準備編
Q. フィンランドの大学を選ぶメリットは?
大都市は比較的似通っていると僕は考えているので、NYやロンドンに行くという選択肢がまず僕の中にはあまりありませんでした。また、僕は教育系のバックグラウンドがあるので、フィンランド(というか北欧)に住むというのはまた、ひとつの重要な人生上の実験でもありました。この観点でクオリティの高い学びを得られる環境を探した結果、アールト大学がベストだった、というのがアールト大学を選んだ基本的な理由になります。
一方、来たからこそわかったこともいくつかあり、以下、フィンランドに来る理由となりえる要素を挙げます。
1.小規模である
フィンランドは小規模国家で、例えばヘルシンキの人口は約60万、首都圏人口約100万人と、かなり小さいです(例えば、仙台市の人口が110万人、広島市の人口は約120万人です)。それゆえ、ヘルシンキで学ぶと、エコシステム全体がどうつながり、どう支え合っているかを感じることができます。具体的に言うと、例えばデザインエコシステムにおいて、企業・大学・市・国といったアクターが、どのように役割を果たし、どのように影響を与えあっているかがよく見えるのです。これはおそらく東京をはじめとする大規模都市圏では難しいことです。
また、大国と小国では、論理も全く違います(日本は大国です)。例えばフィンランドの人が英語を話せる理由も、フィンランドが小国だから、というのがひとつの主要要因です。こうした「新しい目」を持つことができるのは、米英を選ばない、ひとつの重要な理由のひとつになりえます。EUのなかで支え合うエコシステムとか、めちゃくちゃ面白いですよ。
2.高福祉国家レジーム
アメリカを選ばない理由の大きな点のひとつが、その制度に根ざす思想自体があまり好きじゃないからです。僕が個人的に日本に対して不満を持っている部分の急進的な形態のひとつがアメリカの社会制度なんですよね。
一方僕の興味のひとつとして、「世界一幸せな国に住むとはどういうことなのか」という重要な問いがあり、それを満たすという理由で、北欧という要素はひとつ重要なポイントでした(し、実際に感じてきました)。
またこうした社会体制は、学べることにも影響を与えます。すなわち、イタリアやアメリカでは、市民を中心としたボトムアップ側からのデザイン的なアプローチを比較的意識する機会が多くなるでしょう。一方フィンランドなど北欧諸国では、社会的に困難な環境にある人を助けるのは行政の仕事だと当然認識されているので、社会課題解決のためのデザインアプローチも、行政・政府からの議論が多くなります。こうした、社会制度とそれに伴うデザインアプローチの違いという意味でも、フィンランドは非常に興味深い学びを提供してくれました。
ちなみに、ボトムアップ的なアプローチという意味では、肌感にもかかわらず断言しますが、学術的に、あるいはグローバルに知見が広がっていないだけで、日本は世界トップクラスの知見を有しています。
3.自然が多い
別に自然大好きタイプではないんですが、めっちゃいいですよフィンランドの自然は。これはガチです。
4.ジェンダー観と家族観
それなりの年齢で、あるいは家族を連れて海外留学に行く場合(別にこれも事前に考えていたことではないのですが)、どう考えても北欧一択です。教育のレベルは言うまでもなく、環境(キャンパス内に保育園やファミリーアパートメントが多々あります)、安全性(フィンランドと日本は唯一子どもだけで外で遊べる国だそうです)、過ごしやすさ(子どもと一緒なら、首都圏内無料でどこまででもいけます)、周囲の手助け(周囲・教授陣にも家族連れが非常に多いため、早退や困ったときの相談相手で困ることはありません)…等々。
また、ジェンダー的にも大きい違いがありそうです。Aalto大学、特にデザイン・アートの領域では、修士・博士・教授職の(pronounが)女性の割合が極めて多いです。非常にエンパワリングな環境だと思います。
5.学歴目当ての学生について
最後にひとつだけ、入学後にわかったことですが。以下スレッドを参照してほしいのですが、米英の有名な大学にいくと、残念ながら学歴目当ての、あまり熱意のない学生に囲まれる可能性があるようです。これは彼らを批判する意図で言っているのではなく、そうなってしまう社会的な構造があるということです。色々と話を聞く限り、特にグループワークの多いデザイン系大学では、結構しんどい環境を強いられるようです。
Q. なぜアールト大学?他におすすめの大学は?
ありがとうございます、候補については以下記事をご覧ください!Aalto大学のほか、RCAとパーソンズを受験しました。
Aaltoに決めた理由は以下の5つです。
北欧に身を置いてみたかった(←ミラノ工科大学。北欧でなくてもよかったなら、おそらくpolimiもひとつの重要な選択肢だったはずです)
実践と理論のバランスが良さそうだった(←アイントホッフェンなどは、かなりコンセプチュアルでアート寄りだとのこと)
ランキングが高い
なんか良さそう(主に川地さんのnoteを読んで…)
都会は嫌(←RCA/パーソンズ。受けましたが、これは力試し的な側面が大きかったです)
Aalto大学を卒業したあとで、もう一度デザインの院に入り直すという話であれば、僕はミラノ工科大学を選びます。改めて3年前に戻って大学を選び直すとしたら、僕はもう一度Aalto大学を選びます。Aalto大学、良い大学だと思いますよ。 ちなみにデザイン以外で選べと言われたら、ヨーロッパのどこかの人類学系大学院に入りたくなると思います。
ありませんが、フィンランドをフィンランドとして一括りに考えるのは結構危ないことなのではないかな、と思います。アールト大学のデザインとそれ以外の学部でさえ雰囲気は全く違いますし、過ごすことでフィンランドに対して受ける印象もすっかり違うものになるはずです。地域によって、大学によって本当に様々で、場所によってはすごく排他的な扱いを受ける大学もあると聞きました。可能な限り、望む大学を十分に選ばれることをおすすめします。
ちなみに、シェンゲン協定でビザなしでも3ヶ月は滞在できますし、ワーホリも始まったので、暮らすことが優先なら、まずは可能な限り長期での滞在にチャレンジするのもいいのかなと思います〜!
Q. ポートフォリオの作成方法
僕はデザイナーではない(なかった?)ので、僕自身のグラフィックやプロダクトでアピールできるようなポートフォリオではありません。そこで、基本的にはどのような思想を持って、どんなふうに振る舞ったのか、何が起きたのか、ということを丁寧に記述することを心がけました。なので、割と文字多めです。
実際のポートフォリオはこちらから有料ですがご確認いただけます!
僕は添削サービスは使っていないです。人によってかなり見せ方も変わってくると思うので、あんまり添削サービスとか使ってもしょうがないのかなという気もします。
ただ、ちゃんと何らかの考えを持って取り組んでいる、ということが見えたほうがいいと思いますし、受ける学科で何が求められていそうか、ということに対して合わせていくことは必要でしょう。僕はCollaborative and Industrial Designという学科を狙っていたわけですから(僕はcollaborativeのほうのみですが…笑)、プロジェクトの「過程」にかなり焦点をあてていて、これまでどんなふうに「collaborative」な取り組みをしてきたのか、どういう思いでそれに取り組んできたのか、それがどういう結果につながったのか、ということはかなり意識的に多めに記述しています。
また、良いポートフォリオをたくさん見るのも重要です。検索(当然、英語で)すると色々出てきますから、ぜひたくさんご覧になってみてください。僕のものも一つの参考程度に、色々なポートフォリオを見て、教授の気持ちになりきったうえで、「うわ、この人めっちゃ優秀だな〜、こんな人に入学してもらえたら嬉しいな〜!!」と思ったポートフォリオを真似すればいいと思います。
Q. 奨学金制度?
奨学金制度については、僕が30歳を超えていたことから、該当する奨学金制度はほとんどありませんでした。確か平和中島財団かどこかに出したと思いますが、箸にも棒にもかかりませんでした。
ただし、アールト大学の場合は(他の大学も基本そうですが)、出せば基本的に、勝手に奨学金審査が入り、大学側から学費減額のオファーが来ます。僕の場合はアールト大学からは50%オフ、パーソンズからは75%オフでオファーが来ました。
Facebook上で大学院留学コンサルティングさんが毎年奨学金リストを公開してくれているので、こちら参考までにご覧になってみてください。
僕は50%奨学金ですが、これ実は友人ともこの話をしたことがなく(ちょっとデリケートな話なので)、本当にわからないのですよね…。ごめんなさい。ただ、選考において可能な限り良い位置で選ばれることが重要なのは間違いないはずなので、ポートフォリオ制作やモチベーションレターなどに尽力するのが確実な方法かなと思います!
Q. アールト大学に入るのに、学歴や職歴は必要か?
僕の「日本では輝かしい経歴」っぽいものも、フィンランドでは「どっかの大学で地理学を勉強して、どっかのコンサルにいた人」にすぎません。
「日本で優秀な大学」も、フィンランドに来れば、どこかの詳しく知らない国の一大学に過ぎません。例えば「ヘルシンキ大学のマッティです」と自己紹介されたと考えてみると、どんな感じを受けるでしょうか。へえ〜、、、て感じですよね。でもフィンランドでは一番頭の良い大学です。
フィンランドの人に東京大学です、というのも同じような響きです。東京の大学というほどなのだろうから、まあかなり良い大学ではあるんだろうな〜という推測はできる、でもその程度です。東大だよっていうと、中国、韓国、台湾、香港、あたりの人にだけびっくりされます(みんな東大のことを知っているので)。でもそんなもんです。
同様にコンサル出身ですが、僕は別に四大コンサルでもないですし、フィンランドに来れば大学と同様、どこかの国の、有名かどうかもわからない企業の一出身者に過ぎません(当然、googleとかマッキンゼー卒であれば話は別です)。
というわけで、重要なのは大学や仕事の「ランクの高さ」ではなくて、実際に何を学び、何をし、何を考えてきたのかということ、そしてそれがAalto大学に入る理由として十分に納得できる説明ができるかどうか、それだけです。輝かしい職歴や学歴は必要ではありません。
ちなみにこれは友人との会話(≒フィンランドでは学歴や職歴が重視されるのか)においても同様です。なぜ大学でそれを学び、何を学んで、どんな仕事をし、なんでAaltoに来ようと思ったのか、という話をよくします。
日本では割と学部の専門と仕事とが結びついていることは少ないので、大学で何勉強してきたの?それは今の仕事にどう繋がっているの?なんて問いが出ることはあまりありませんよね。でも、EUで「なんでそういう進路を選んだのか、なぜその分野に興味を持ったのか、どういう学びをし、それがいかに現在につながっているのか」ということに対して、比較的強い興味を持たれる印象です。
Q. アールト大学に入るのに、何歳で入学するのが適切か?
フィンランドでは大学院で学ぶのに年齢は関係ない、これは割とガチです。
以下に何度か述べている通り、ボリュームゾーンは20代後半ですが、同級生には30代も40代も50代もいます(推察です)。キャンパス内には保育園もファミリーアパートメントもいくつもあります。当然、子どもを抱えた同級生も何人もいます(僕もそうですが)。また、学ぶのに年齢が関係ないのと同様、私生活についても、恋だろうが結婚だろうが、年齢は本当は関係ないですよね。
まわりではなく、自分の気持ち良いように生きていけばいいんじゃないでしょうか。フィンランドにいってさらにその気持ちが強くなりましたし、そうできるんだという確信を持ちました。
Q. アールト大学に入学するのに、実務的なデザインスキルは必要か?
できます。イラストレーターやフォトショップ、Figmaを使ったことがない同級生もめちゃくちゃ多いです。特にAaltoは、デザインは「手を動かすこと」を意味しないので。ただ入るためには、実践的スキル以外の観点で、適切に自分が「デザイン的な態度/思考」を発揮してきたのだということを証明する必要があるでしょう。
Q. 大学生の進路としてのデザイン(デザイン大学院)
学部で専門性を身につけることはほとんど不可能なので、あんまり思い悩まないほうがいいと思いますよ。ただ、院だろうが社会人だろうが、何かにきちんと取り組んでいれば専門性は勝手にできてきますし、何も考えていなければ、何も生まれてきません。(ちなみにですが、課題を見つけて解決したい、ということは、ほとんど全ての社会人がやっている/やることになることなので、それはやりたいこと、ではないのではないかな…と感じます)
僕自身は一度社会人を経験した身なので、僕のルートが正しいと感じるバイアスが非常に強くかかっています。なので、僕は社会人になることをおすすめします。ただ正しく言えば、「社会人か、院か」ではなく、知識の注入を超えて「何かを具体的にやってみる」必要があります。それが実現できるなら、肩書は何でも構いません(その意味では、インターンやボランティアで色々活動してみる、とかが最適解なのかも)。
また「興味」というものは極めて曖昧なもので、実際にやってみないと、本当に好きかどうか、おもしろいかどうかはわかりません。さらに言えば、それも一生持続するかどうかはわかりません(僕の場合、デザインだ!と感じているのはここたった2,3年のことです)。なので、あんまり深く考えず、今面白いと思ったことを、「やってみる」(知識を受け取るという意味での学んでみる、ではありません)といいのではないかと思います。
とはいえ、何かをやってみたことのない環境から、一番最初の「何かをやってみる」経験をするのって、おそらく非常に難しいことだと思います。色々と言い訳をつけて、やる、ということから避けてしまいがちだからです。
というわけで、改めてここまでの点をまとめると、「とりあえず目についたものに、まず応募して始めてみる」ことをおすすめします。例えば僕の方からは、越前鯖江のイベントRENEWの当日ボランティアや、ヤッチャの学校、アナザージャパンなどをおすすめすることができます。あとは、いまは被災地支援なども良いでしょう(キャリアのために被災地を理由にするなと言われそうですが、僕は偽善は善だと考える立場です)。とにかくなにかやってみると、いろんなものの解像度が上がると思います。
「デザイン」ってなんでしょうか?
デザインという言葉を使わなくても、社会課題解決的な仕事にデザイン的なアプローチを持って取り組むことは可能です。おそらく、実際に本気で社会課題解決に取り組んでいる人々は、デザインの言葉で見ればかなりデザイン的なのでしょうが、それをデザインという枠組みに押し込んでしまうなら、それはデザイン業界の単なる押し付けでしょう。また逆に、デザインという言葉を使っている(業界にいる)からといって、グラフィックやUI/UXのスキルが必要なわけでもありません。ご質問を読んでいて、逆に変にデザインという言葉に囚われすぎているのかも、と思いました(その意味で、自分が純粋に社会課題に関わりたいということなのか、それともグラフィックなどの意匠を入り口にして社会課題に関わっていきたいのか、というところは明確にしたほうがよさそうです)。
昔、行政の友人と話しているときに、「僕たちにとってはそれがデザインだろうがイノベーションだろうが行動経済学だろうが、それがよい結果を生み出すのであればなんでもいいんです」と言っていたのを思い出します。僕もいま、学問のバックグラウンドという意味ではデザインという語を使いますし、その結果僕がやっていることをデザインだと解釈して記述しています。しかし、僕はやるべきことをやっているだけで、「デザイナーだから」こうした活動をしているわけではありません。本来どんな語でも解釈が可能で、そのひとつの芯としてデザインを持つ、おそらくこの順番のほうがうまくいくことも多いのではないかと思います。
なので、変に興味関心を狭めず(日本ではデザインという語で、意匠的なもの以外のデザインを学ぶのはまだ比較的難しいのではないかと思います)、とにかくなにかやってみたらいいのではないでしょうか。挙げてくださっている「地域」や「社会課題」に興味がある、という言葉も、いまのところ、まだ言葉が大きすぎて、あまり実感が伴っていないように感じられます。
地域であれ、社会課題であれ、それぞれの地域やそれぞれの課題のなかで、それに向き合っている人々がいます。まずはひとつ(なるべく現場に近いところが僕はいいと思いますが)インターンなりなんなりで飛び込んでみることを僕はおすすめします。
ちなみにご質問のなかに、どのようにRENEW(森が取り組んできた、福井県の越前鯖江エリアにおける持続可能な地域を目指す取り組み)に関わることができたのか、という質問がありましたが、これは偶然鯖江市に半年間滞在するなかで、自分自身で当時RENEWを企画していたTSUGIにメールをし、会いにいき、ここで何かさせてください、と言ったのがきっかけです。ちなみに当時僕は24歳でしたが、「まちづくりに興味がある」という言い方をしていました。おそろしく大雑把な言葉を使っていたなと思い返しています。しかしRENEWに実際に関わる中で、「まちをつくる」なんて、なんて傲慢な言葉なんだ!と思ったり、「まちづくり」なんていう領域があるのではなく、本当はそれぞれのローカルのなかに、それぞれの意図や歴史や産業が深く混ざり絡み合ったうねりみたいなものがあって、それがある方向で形になったときに、誰かがそれをまちづくりと呼んでいるにすぎないのだ、ということに気づいたりしました。
こうした実感の伴う経験をもって、「言葉をこまかくしていく」ことは、非常に大事なことです。たぶん、「まちづくりがしたい」と言っているあいだは、「まちづくり」はできないのだろうと思います。
ちなみに「まちづくり」に関してそういうことを書いた記事を以下においておきます、参考まで。
なので、アドバイスはひとつで、実際に3ヶ月から半年間程度、インターンなのかボランティアなのか、なんでもいいので、実際に深く関わってみてください。
アールト大学に限っての話をすると、社会人を多少は経験してから来ることを個人的にはおすすめしています。
フィンランドはかなり流動性の高い社会なので、院生も日本と違って年齢が比較的高い学生が多いです(おそらくCoID, IDBM, CSは特にそうだと思います)。具体的にいうと、あくまで個人的な肌感覚として、年齢のボリュームゾーンは20代後半。割合としては、学部上がりたての人は本当に2,3人(/25人)くらいしかいないのではないかな…?(※フィンランド人の中にも学部から直で来る人もいますが(上記プラスで3人くらい?)、そもそも学部生の頃から毎年のように長期でインターンをしている人たちなので、ちょっと事情が異なります)。
それゆえ、学部から直で院生として入学する学生ももちろんいますが、特に初期は、グループワークなどで肩身が狭いと感じている学生も多い印象を僕個人としては受けました。おっしゃるとおり、実際のプロジェクト経験をいくつか経てからのほうが、学びも深まるのではと思います!
Q. パートナーとともに留学するための準備は?
僕たちは事実婚での渡航でしたが、問題なく帯同での在留許可が出ました。いくつかの条件(フィンランドの場合は2年間以上同じ住所で住んでいる、など)を満たせばこれが可能です。フィンランド以外の場合はわかりません。おそらく北欧諸国はこのあたりの受け入れが進んでいる国なのではないかと思うので、もしかすると東欧や南欧では難しいこともあるのかもしれません。情報は出ているので、まずは調べてみてください。
また住むところも、少なくともアールト大学では家族留学において、カップル用、家族用の住宅斡旋が普通にあり、都市部の一般的な家賃よりも、かなり安価に部屋を借りることができます。
こうした問題は最終的に金や気合いでなんとかなることも多いので、まずは自分にとって最適な大学を選んで、その選択肢の中から適切な環境を選ぶ、という順でもいいのでは。先にガワの部分を考え始めると、動きづらくなりそうな気がします。
Q. その他
ワーホリは1年その国に滞在できる、というだけの制度なので、そこで何をするか、どんな経験ができるのかはその人次第すぎます。僕にはオススメする/しないの判断がつきません。ただ、何もアテなしに行く場合、何も身につかないことだけは間違いないです。なぜフィンランドに行きたいのでしょう?働き先なのか、学習プログラムなのか、なんらかアテを見つけていくことをおすすめします。
いつだって僕たちは好きなことを自由に学ぶ権利があると思います。
僕はフリーランスかつコロナで多くの仕事がなくなった時期で、かなりの時間を英語学習やポートフォリオ制作にあてていました…。お役に立てず、非常に申し訳ないです。
ただ個人的には、きちんと会社や公に宣言して、時短にするくらいのことをしてもいいんじゃないかなと思います。宣言しておけばやらなくちゃいけない理由にもなりますし、なにより、自分の人生なので。
ちなみに僕も割と自分自身を追い込まないと動けないタイプなので、2020年の年明け投稿で、海外の大学院に行くことを宣言しました。こうすると、やらざるを得ないので。
高校生は学部からがいいと思いますよ。おそらく、高校生から院に直接入ることは、ほとんどできないと思います。
ちなみに、Aaltoには日本人の学部生も最近増えてきたなという印象があります。毎年1,2人はいます。また、卒業後直で大学行く必要はないかもしれないですね。ギャップイヤーをとって、色々と試してみてもいいと思います。
すいません、高校→学部のことはわかりません。
■ 語学編
Q. 必要な英語力は?
まず日本ですべきことですが、あまり入学をゴールにしないほうがいいと思います。 将来やっていきたいことから逆算して(あるいは今の興味・関心のもとで)一貫したポートフォリオを構築できていれば、十分に受かる可能性があると思います。そしてその成し遂げたい未来、あるいは依って立つ思想に基づいたポートフォリオを増やしていくことが何より、受かるためにすべきことだと僕は思います。
英語については、正直Aalto大学では英語なんて全員できて当たり前だと思われている節があるので、必要な基準(IELTS7.0)さえ超えていて、面接で適切に受け答えができれば、入学にあたって足切りになったりすることはないでしょう。
授業という意味では、あってもあっても足りませんが、入学さえできればあとはなんとかなるでしょう(なんとかするしかないでしょう)。
当時、IELTSで偶然overall 7.0取れましたが、一年目はみんなが何を言っているのか、泣くほど理解できませんでした。まあ、それでもなんとかなったので、「どれくらい必要かどうか」というより、英語力はあとからついてくる、くらいの気持ちで行動しないと動けないのではと思います(逆に言えば、それくらいでもとりあえず来れるは来れるということです)。
とはいえ同級生からは「あいつ英語マジでできひんな〜」と思われていたと思いますし、グループワーク中心のアールト大学では、相当足を引っ張る側だったはずです。今でも日本人にしては相当べらべらしゃべれると思いますが、まだみんな何言ってるか完璧にはわかりません。ちなみに、フィンランド人の英語は(あくまで他の国の人たちの英語に比べて…)とても聞き取りやすいので、比較的チャレンジしやすい国なのではないかなと思います。
Q. フィンランド語は必要か?
少なくともアールトのART&DESIGNに限っていえば、疎外感を感じることはありません。まず修士のプログラムはすべて英語で提供されているのがひとつ。また、留学生が非常に多いことがもうひとつ(肌感2/3)。さらに若いフィンランド人は英語が本当にぺらぺらなので、フィンランド語を話す必要が本当に全くありません。フィンランド人同士がフィンランド語で話していたとしても、僕がすっとその輪に入ると一瞬で全員英語に切り替えてくれます(し、あまりにスムーズで、申し訳無さを感じることさえほとんどありません)。
ただ、他の学科では少々話は異なります。例えば都市計画系の学科などではほとんどフィンランド人しかおらず、他国から来た人が肩身の狭い思いをすることはよくあるようです(僕も都市計画系の授業を受けて実際にそう感じました)。
ただし、進路のQAで述べるように、卒業後に実際にフィンランドにいつくつもりであれば、フィンランド語を身につける努力はすべきだろうと思いますし、実際の就職シーンではフィンランド語は可能な限りあったほうが良いです。
■ アールト大学やデザイン学部とは?編
Q. アールト大学ってどんな大学?
そもそも、アールト大学はヘルシンキ工科大学(1849年創立)、ヘルシンキ経済大学(1904年創立)、ヘルシンキ美術大学(1871年創立)の3つの大学が合併して2010年に設立された新しい大学です(wiki)。その中心的な目的は「フィンランドにイノベーションを生み出すこと」。つまり、非常に雑な言い方をすれば、ビジネスに秀でた人、デザインができる人、技術畑の人を掛け合わせることで、イノベーションを起こすことがアールト大学の主たる目的です。その「イノベーション」のうねりについては以下の記事に書いたとおりです。
こうした背景から、アールト大学は比較的、実務に強く、また逆に言えば社会に対する価値創出をかなり強く求められる大学だとも言えます。この実践的な態度は事実、フィンランド内ではかなり成功しているといえ、2023年にはヘルシンキ大学のランキングをアールト大学が抜きました。
一方でやや抽象的なもの、社会に対する価値創出が見えにくい授業は近年いくつか削られています。具体的にいえば、more-than-humanやtranshumanism、ジェンダーに関する授業などを含む「UWAS」と呼ばれる授業群が近年なくなりました。これは個人的にかなり痛手というか、多様性を失っていく悪い傾向のひとつだなと思います。
とはいえ、実務に強いというのは、「手を動かす(だけの)大学」、「職業人育成大学」だということを意味しません。研究や議論のレベルも高いですし、実践と抽象とのバランスは良い大学なのではないかと思います。具体的にいえば、サービスデザインでもサービス・ドミナント・ロジックを扱いますし、サービスエコシステムも視野に入ってきます。また参加型デザインの議論でも、参加の倫理や、more-than-humanの参加、といったことまで議論の射程に入ってきます。このレベルになると研究領域としてはCS側になるかもしれません。
例えば最近PhDを取得したEmīlija Veselovaの博論なんかは、持続可能性と参加型デザインという、Aaltoの強みが出ている博論の良い例のひとつだと思います(タイトルは「持続可能性のための自然とのデザイン: 持続可能性のためのデザインにおいて、非人間、自然のステークホルダーを協働・参加型デザインに包摂する重要なアプローチに向けて」)。
僕の修論指導教諭も割とエゲつないことやってたりもします。
Q. 各学科の特徴は?
デザインで特に迷う人の多い、CoID (Collaborative and Industrial Design), CS (Creative Sustainability), IDBM (International Design Business Management)に限って説明します(他の学部学科のことは全くわかりません)。
CoIDは一般的にプロダクトやUI/UXなどのバックグラウンドを持つ学生が多い、一番「いわゆるデザイン」的な学科です。抽象度で言うと、CSと比べてかなり実践寄りです。授業で扱う領域はプロダクト、UI/UX、サービスデザイン、参加型デザインあたりがメインですが、ジェンダー、持続可能性、インクルージョン、AIなどを射程に入れて活動している人も多い印象です(勝手な印象です)。
CSは非常に社会的に強い問題意識を持った学生が多い印象です。実際に、Extinction Rebellionなど環境系の活動団体に所属している人も多い印象を持っています。学ぶ内容も、トランジションデザインなどをはじめ、「どう社会を変えるか」「そのためにどうやって政治/ビジネスにインパクトを与えていくか」など比較的社会的に振り切った授業が多い印象ですが、一方でその分、おおぶりな議論が多いなという印象もあります。一方で、きちんと興味さえ持てれば、政治と持続可能性、ビジネスと持続可能性、建築のための持続可能なマテリアル開発、エネルギー問題など、特定の方向性を深掘りしていけるのは面白いな〜と思っています。
CoIDの人(例えば僕はCSを副専攻で取得しています)は、CoIDとCSの授業を両方とりつつ、実践と抽象のバランスを取っている人も多いのかな〜という印象を受けています(だからといって、CoIDが抽象的な議論をしないかというと全くそういう意味ではありません)。
IDBMは当然のことながらビジネスへのマインドセットを強く持っている人が多い学科です。JUNCTIONやAaltoESなど学内の起業系サークルに所属している人が比較的多いですし、実際起業している人もいます。実際の授業の内容については一切わかりません。
Q. アールト大学/CoIDは地域とのデザインを学ぶのにおすすめなのか?
僕が長らくローカルでのデザインをしていたことから、アールト大学はそうしたローカルでのデザインの専門が強いのか、それを勉強しにいったのか、と思われることが何度かありました。しかし、アールトがローカル領域のデザインに強い、というのはあまり正しくありませんので、ここで説明しておきたいと思います。
まず、ここで僕が「ローカルなデザイン」という言い方をしている領域について簡単に説明しておく必要があります。
この語はかなり厄介な言葉で、そもそも学際的な性質を持つために、まとまった学問領域を形成していません。もともと流れとしてあるのは建築/都市計画系の流れで、例えばアメリカにはCommunity-based planningという都市計画の流れがあります。日本でも、山崎亮さんが牽引してきたコミュニティデザインという流れは、元々建築をバックグラウンドにした議論です。「まちづくり」という言葉もまた、主に都市計画系の流れにあります。
また、イギリスなどではヘルスケアやウェルフェアの領域でこうした議論が展開されることが多い印象を受けています、これは孤独解決などの領域と紐づいており、例えばヒラリー・コッタムのCIRCLEなどはこの流れにあります。さらに、イギリスの「農村開発」的な文脈にも近い議論があります。
僕はこれらの議論を領域ごと(例えば「福祉」「コミュニティ」など)に分割して議論するのがあまり好きではなく、一方で都市計画系は「都市計画」という言葉がそうであるように、「上から」の議論がメインストリームで、ボトムアップ的な議論はどうしても傍流になりやすいです(→このあたりは、コモンズという語のまわりに議論が形成されているなという感じもあります)。
こうしたなかで、ぎりぎり境界を緩めつつ広い議論ができるのがデザインで、その中でも特に日本の「まちづくり」にあたる議論をデザインで展開しているのが「参加型デザイン Participatory Design」という領域です。もっと言えば、北欧での参加型デザインの議論を牽引してきたPelle Ehnの流れ、およびその議論を取り込みつつEzio Manziniが発展させたDesign for Social Innovation、ここに僕のいう「ローカルなデザイン」のコンテクストがあります。
そういう意味では、ローカルなデザインの流れが強いのはまず第一にEzio Manzini(すでに引退していますが)からの流れを引き受けているイタリアのミラノ工科大学。および、(現在もその流れがあるのかわかっていないのですが…)スウェーデン南西部のマルメ大学。この両者がEUでは大きな流れを作ってきた/ている印象です。
これには構造的な要因もあります。つまり、イタリアでは行政の立場が強くないため、市民によるボトムアップ活動に光があたりやすく(例えば「地区の家」など)、そうした歴史を前提に市民を前面に出した形でのアプローチ(例えばボローニャのco-cityなど)が生まれてきました。また同様にスウェーデン・マルメリビングラボの動きは、難民を積極的に受け入れてきたスウェーデンの、特に難民が集積するマルメという問題が発生しやすい土地柄において、その困難を引き受ける形でマルメリビングラボが立ち上がってきました。
これに対しアールト大学における参加型デザイン(→co-design)の位置付けは、少なくとも実践レベルでは僕の印象ではかなり「クライアント的」です。つまり、行政やビジネス上の課題に対して、いかに応答するか、という点での参加型デザインが探索されています。これはなぜかといえば、フィンランドにおいてはデザインの立場が比較的トップダウン側に近い(大企業や行政側に近い)位置にあり、社会の中でよく認識されているためです。
事実、フィンランドは結構おもしろい国だと思っていて、日本だったら地域でめちゃくちゃどっぷり面白いプロジェクトをやってそうなタイプの人が、ガンガン行政の中で、しっかりと予算を取ってゴリゴリやっている、そんな印象を僕としては持っています。「行政の側がちゃんと予算を取って、市民を巻き込み、より良い政策を作っていく」、そのためにデザインがど真ん中で使われているのです。例えばアールト大学があるエスポー市の取り組みについては以下に書きましたが、読んでいただければ分かる通り、めちゃくちゃ面白いことをやっています。
つまり簡単に言えば、アールト大学のデザインは、「行政や大企業の中から社会に影響を与えていく」ためのデザインとしては強いですが、必ずしも「ボトムアップ的に市民に寄り添いながら社会に影響を与えていく」デザインのスタイルではありません(その動きが「ない」とは言っていません。例えばKeran HallitやPasilaで活動してきたJaakko Blombergや、Kalasatama地区での運動に関わってきたHella Hernbergなどが、ボトムアップ的な活動を展開ししています)。
そのため、いわゆるローカルなデザインを考えるうえでアールト大学という選択肢は、僕はおすすめしません。というかその文脈では、すくなくとも実践レベルでは日本が一番おもしろいと僕は思っています。
それでも僕はアールト大学に来てよかったなと思っているのは、僕の経験としてのボトムアップとしての(あるいはそれに寄り添うものとしての)デザインのあり方と、アールト大学で学んだトップダウンとしてのデザインのあり方、その両方に対する視野を持つことができたから。特にフィンランドでは、ヘルシンキ市中央図書館Oodiをはじめ、大規模な行政案件における参加型デザインの蓄積などがあり、当然そこでの参加の公平性の倫理や、行政内における参加型デザイン活用のpros/consなど、広い目線での学びを得ることができました。事実この感覚は現在の仕事にかなり活かされている感覚があって、非常によい視座をもらったと思っています。
とはいえ、いわゆるローカルなデザイン的なものをまなびたいのであれば、どうしても大学院で学びたいならPolimi(あるいは、パーソンズなども良さそうな印象を受けました)がいいかなと思います。しかしPolimiもそういうコースがあるわけではありませんし、Polimiは教育側と研究側がかなりがっつりわかれているそう。かなり意思をもって研究側の人たちにコミットしていく力強さが求められそうな気がしました。
しかし個人的には、純粋にローカルなデザインについて学びたいなら、まずは日本のローカルに飛び込んだほうが肌感としての学びが得られると思っていて、その上でそれをPolimiやAaltoでのまなびを通じて統合していく、みたいなプロセスを踏んだほうが、よい学びができるのではないかしら、という感覚を持っています。
Q. CoIDと工業デザイン
学べます!メインのうちのひとつです。CoIDにはおおよそサービスデザイン、CoDesign、UX/UIデザイン、プロダクトデザイン、ソーシャルデザインが全て含まれています(肌感)。おっしゃるとおり、僕は僕自身の偏った立場からしかお伝えできていないので、すいません…。笑
CoIDは僕のひとつ下の世代から、3つのコースのうち1つを選ぶというシステムになりました。これがいつまで続くのかはわかりませんし、今やその3つがどれなのかもよくわかりませんが(確かソーシャルデザイン、UX/UIデザイン、プロダクトデザイン、だったか…)、そのうちのひとつがプロダクトデザインです。
特定のテーマを提示されて、それに向けてプロダクトなどをグループで制作していくスタイルが多いです。場合によっては、クライアント(パートナー)がつくこともあります。アールトはワークショップが本当にめちゃくちゃ充実していて、木工、金属、繊維、3Dプリントなど(よりアート寄りになりますが陶芸、ガラスなども)、あらゆるものでプロダクトデザインを経験することができます。具体的な授業については、以下などを見てみてください。
その工業デザイン系の授業が良いものなのかどうかは、僕には全くわからないです、すいません!
Q. CSってどんな学科?
素晴らしい学科です。おそらく世界的に見ても、持続可能性とデザインの領域ではトップクラスだと言っていいんじゃないでしょうか?今改めてAaltoに入り直すとしたらCSとCoIDのどちらが良いかと言われると、正直かなり悩みます。以下、あくまでデザイン学科にいた側からの目線で回答します。他のルート(科学・テック)から入る場合、たぶんかなり印象は異なります。
まずCSの特徴は、学科がテック(?ビジネス?)・科学・デザインという3つの異なるバックグラウンドを持つ学生から構成されていることです(かといって、日常的に深い関係が築けるかというとそれは学生次第です。クラスみたいなものはないので)。異なる背景を持つ人々とのグループワークを中心とする授業が複数あります。
学生の雰囲気でいうと、IDBMが現実主義的、CoIDがコミュニティ的だとすると(恐ろしいほど単純化していますが)、CSは達観しているというか、Aaltoの中でも最もリベラルで環境やジェンダー、社会問題に対する意識が高いです。ヴィーガンの割合も非常に多いです。
授業という側面では、CoIDがより実践的なサービスデザインや参加型デザイン、UX/UIデザインが中心になるのに対し、CSはトランジションやデザインフューチャーなど、抽象的な議論が増える印象です。また、より具体的な興味を持っておくともうすこし面白いと思います。持続可能性×マテリアル、エネルギー、ビジネス、政治その他様々な領域に対して、持続可能性の適用可能性を考えることができます。逆に、もう一歩深い適切な興味を持っていないと、頭でっかちというか、抽象的な批判はできるんだけど、具体的に持続可能性のデザインとして何をしたらいいかはわからない、みたいな状況に陥る可能性もあるよな、と思っていました。とはいえ実践系もあり、Design for Governmentという授業は、政府系クライアントと実践的なプロジェクトに取り組む授業ですが、この管轄はCSです。
ちなみに、CS(のデザイン系)とCoIDはかなり関係が深くなりやすいです。なぜかというと、CSの人が実践的なことを学ぼうと思うとCoIDの授業を取ることになり、CoIDの人がもう少し全体的/抽象的なことを学ぼうとCSの授業を取ることになるからです。逆に言うと、どちらの学科からでも、比較的互いの授業を自由に取ることができます。ちなみに僕はCoID卒業ですが、クリエイティブサステナビリティ副専攻でもあります。
まとめると、おすすめです。
Q. アールト大学デザイン系には、どんなタイプの人がどれだけいるか?
IDBMのことはわからないので、CoIDのことを共有しますね。
学年:1学年25名(クラスはありません)。IDBMもそんなに変わらないはずですが、ビジネス/デザイン/テックの合計が25名くらいなのではないかな〜と思います。ちょっと自信ないので、こちらはご自身で調べてください!
バックグラウンド:プロダクトデザイン系が40%、UI/UXやサービスデザインを含め広くデザインをやってきた人が40%、残りはそれ以外です。起業家、広告、環境系団体…などなど。あくまで肌感です。
年代:20代後半がボリュームゾーンで、20歳〜50歳くらいまで幅広くいます。
男女比率:pronounがsheの方が多いです。he:she比でいうと4:6か3:7くらいでしょうか。
これって、実際に文理という話じゃなくて、イメージとしての話ですかね?笑
本当にめちゃくちゃ大雑把な肌感で言いますが、また、あくまで僕の学科に限った話ですが、文系っぽい人が2/3、芸術系っぽい人が1/6(もうちょっと多いかな…)、理系っぽい人が1/6(かちかちプロダクトを作るタイプの人です)というイメージかなと思います。(いわゆる"体育会系"みたいな人はフィンランドにはほとんどいないと思ってもらっていいです。熱量!!みたいなものからは根本的に一番遠い人たち(だと僕は思っている)なので…)
Q. どんな授業があるか
先人のログをぜひ参照してください。
悩むけどDesigning for Servicesかな。必ずしもアウトプットのクオリティは最高のものではなかったと思いますが、エスポーのうちに入っていろんな行政からリアルな話を聞けたのが非常に面白かったです。
ただ、アールトの授業はほとんどグループワークなので、はっきり言って授業そのものよりも、偶然組んだチームメンバーがいいやつなのかどうかによって、授業の満足度は天と地ほどに変わります。
Q. アールト大学は、どんな人におすすめか?
以下、アールト大学デザイン学部(CoID, IDBM, CS)に限った話になります。
ボトムアップでの活動(NPOや市民から始まるまちづくりなど)に興味のある方には僕はアールト大学をおすすめしていません。おそらくPolimiやパーソンズのほうが良いと思います。一方、行政やビジネス領域からどうやって市民を巻き込むのか(これもやや上から目線の言葉で必ずしも良い言葉遣いではありませんが)に興味のある方には、アールト大学はおすすめできます。
行政とデザインについて興味のある方にはCoIDあるいはCSを強くおすすめします。
デザイン領域の目線からイノベーションに興味のある方、起業に興味のある方にはIDBMおよび一般にアールト大学を強くおすすめします(ただし、2010年代序盤の勢いに比べると、徐々に勢いは弱まってきているようです。それでもEUの中では相当イノベーションに強い大学です)。
一般的なサービスデザインや参加型デザイン、UI/UXデザインという意味では、どれほどレベルの高い学びができているのかは、比較対象を持たないので判断がつきません。
持続可能性、環境、トランジション、ジェンダーといった社会問題に興味のある方、およびデザインを通じて社会をいかに変えられるか、ということに興味のある方には、CSを強くおすすめします。しかし、頭でっかちになりやすい学科なので、CSに来る場合は特に社会人や現場レベルでの長期インターンの経験をしてから来ること、あるいは特定の興味や専門(マテリアルとか、海洋問題とか)を確立してから来られることを強くおすすめします。
(これは他の大学でも一緒なのですが)アールト大学は放任主義なので、学生に対する丁寧な伴走や進路相談などはありません。一定の興味や自分なりの方針、取るべき授業、進路などを自分自身でマネージできるという自信のある方にのみアールト大学をおすすめします。
家族(子ども)連れで留学する方には、非常に恵まれた環境があります。
いずれにせよAaltoはフィンランドにある、(基本的には)フィンランドのための大学です。それゆえ文脈としては、サービスデザインであれば行政・企業との参加体制の設計やシステム効率化の議論が多くなったり、持続可能性ならフィンランドに関わる森林/バルト海の議論が多くなったりします。また、フィンランドが直面している/牽引してきた課題として、フェミニズムや人種関連(移民の統合)などの議論が多くなります。だからといって根本的なデザインの進め方は変わるわけではないのですが、例えば作れる人脈だったり、深められる議論は明らかに変わってきます。また同様に、社会制度がかなり異なるため、フィンランドで学んだことをそのまま日本に適用するのは不可能で、このあたり日本での社会制度の肌感を持っておくことも大事なのかなと思っています。こうしたAalto大学の特徴をきちんと認識してからAaltoを志望されることをおすすめします。
Q. アールト大学では、XXXは学べるか?
クリティカルデザインという領域のことは、僕はよくわかっていないのですが…、Speculative Designに連なる領域という意味では、こうした専攻はありませんし、それを求める人にはAalto大学をおすすめしません。Aaltoはかなり実践・現実志向のコース設計をしている大学なので、授業群のなかにDesign Futureなどのコースはありましたが、社会に問いを投げかけるようなサービス/製品を作るということについては(少なくともデザイン系学科は)強くはない大学だと思います。そして予算削減の煽りを受けて、特にこの領域の予算は(直接社会に成果を生み出すことから遠いという意味において、非常に残念ながら…)削減傾向にあるという印象を受けています。この領域については、例えばパーソンズやRCAをおすすめします。
一方で目線を変えて、デザインに対する批判的姿勢という意味においては、Aaltoはレベルの高い議論を学べる場のひとつだと思います(他の大学のことはわかりませんが!)。特にCSやCoIDでは、持続可能性やジェンダーに対する意識が極めて高いことはもちろん、デザイナーの特権性に対する批評や、それを乗り越えるためのデザインについて学べる機会があります。
学べますが、専門で学べるわけではありません。インクルーシブデザインについて専門に探求したいのであれば、僕はアールト大学をおすすめしません。
おそらくアメリカのほうが進んでいるのではないでしょうか。確か法律が強いからだったと思いますが、iPhoneなどもボイスオーバー機能など、大企業レベルで、インクルージョンをデザインに埋め込むという考え方がかなり根付いていますよね。
一方で(クリティカルデザインの質問でお答えしていますが)、ジェンダーや持続可能性(→非人間)といった領域について、デザインの持つ特権的な立場や、デザインが無意識に行使している排除の論理などについては、一部これらを学ぶことのできる授業があります。
Q. その他
最近そんなことをやっている人を伝え聞いたことがあるような気がしましたが、すいません、わかりません。
■ 卒業後の進路編
Q. 一般的な卒業後の進路は?
IDBM卒業生の松崎さんが、つい最近IDBMからの就職について書いてくれています。状況は僕の肌感とそう遠くないように感じました、良かったです、、。笑
フィンランドへの就職・転職に興味がある方は、フィンランドの某N社で働いていらっしゃったToshiさんの記事も参照のこと。
残念ながらわからないので、めちゃくちゃざっくり答えます。UI/UXデザイナーになる人が多いです。サービスデザイナーになる人は多くありません(ちなみにサービスデザイナーになりたい人は非常に多いです。しかし、サービスデザイナーの枠はやはり多くなく、これは特にフィンランド語を話せない人に対して顕著です)。
それ以外は正直全くわかりません。起業家や、元々の会社/働き方に戻ったというパターンが割とありそうです。そもそも、すぐ就職するということを考えていない人が多いみたいで、インターンをしたり、卒業後ふらふらしたりしながら徐々に進路が決まっていきます。そのため、あまり友人の状況もよくわからないというのが実情です。
進路については以前回答したとおりです。 おすすめの企業については、あまりに人によりすぎる質問すぎます。一般にフィンランドでみんなが入りたいな〜と言っているのは、Hellon、Reaktor、Futuriceあたりでしょうか。後者二つは、入りたいというより、学生に対するPRをすごくやってるという印象です。
日本の企業はよくわかりませんし、なんか言うと微妙な感じになりそうなのでちょっといいづらいところもあります。笑
Q. フィンランドで就職することは難しいのか?
まずもって、「フィンランドでの就職は、結構難しい」というところが基本です。まず第一関門として、フィンランド語が話せない人には、フィンランドでの就職はもう2,3段階ほど難しくなります。やはり同じくらいの能力を持っているなら、多少その日本人のほうが優秀だったとしても、フィンランド人が採用されるでしょう。もちろんこのことに多々内外から批判はあがっていますが、致し方ないことではないかと思います。
しかし、それでも職種によってかなり異なります。
例えばフィンランドでサービスデザイナーの職を得るのは、相当難しいです。なぜならインタビューやデスクトップリサーチが、言語の壁によってほとんど成り立たないからです。一方、プログラミングやUIデザイナー(意匠のみのデザインをする場合)など、会話よりも技能の価値が優先される職種では、雇ってもらえる可能性はかなり高くなります。
ちなみに実務経験の有無については、フィンランドには新卒文化がなく、そもそも実務経験が必須です。なので学生もガンガンインターンをして実務経験を積む国です。そのため、経験があるかないかで判断されるというより、その経験のなかで何をしたか、何を言えるかが重要かなと思います。
フィンランドで就職したい場合は上記で述べた通り、まずはインターンにチャレンジし続ける、というのが一般的なコースです。そこで認められればそこの会社にとってもらえる可能性も高まりますし、他の企業の面接等にもよい影響があります。
■ フィンランドでの暮らし編
※ ヘルシンキ都市圏のみ、さらに言えばそのなかでも豊かなエスポー市東部エリアの、さらに(おそらく)最もリベラルなアールト大学のアーツ&デザインで暮らした感想です。フィンランド社会のなかでも相当偏った目線からの感想であることをご承知おきください。
Q. フィンランドのジェンダー観
フィンランドは非常にジェンダー観(のみならず)が極端な国で、例えば僕がフィンランドにいた時代のサンナ・マリン元首相などは象徴的です。34歳の女性として首相になったということも、またその際連立政権を組んだ5つの政党党首全員が女性であったことも注目を集めました。
さらにサンナ・マリン氏はこうした表向きの情報のみならず、生育歴として、同性パートナーの家庭に育てられた、経済的に困窮しており、大学生時代はスーパーのレジ打ちをしていた、といった歴史を持ちます。そのことをエストニア首相のある大臣が「レジ係が首相になった」と皮肉ったのに対し、サンナ・マリンは、レジ係でも首相になることができるフィンランドを誇りに思いますと返した、という逸話も残っています。
サンナ・マリンの話はここまでにしておくとしても、特にアールト大学ノアーツ&デザインでは、こうした広くジェンダーやルッキズム、環境問題といった社会問題に対する意識が恐ろしく高いです。特にジェンダーについては、おそらく大学全体としてのバランスを見ているのでしょう、アールト大学の他の学部は男性がいまだ優位であることもあって、アーツ&デザインの教授陣は他学部と比べても特に女性が多いです。
僕が未だに覚えているのは、フィンランドに来た直後あたりに訪れたトークイベントでのことです。三人のPhDが登壇するというイベントだったのですが、そのとき、僕はその事前情報だけを見て、全員男性だと思い込んでたんですね。それがイベントに行ってみたら、全員女性(ここではpronounがsheという意味です)だった。このことは、ああ、僕自身もまだまだものすごく強い偏見を持っていたんだなあと思わされたという意味で、今もすごく覚えている出来事です。
こうした背景もあって、女性の方で、アーツ&デザインでアカデミックなキャリアを探索していきたいと考えている方、特に日本の環境がつらいなと感じている方には、僕は特にアールト大学を推します。非常にエンパワメントのある環境だと思います。
Q. フィンランドの環境問題に対する態度
フィンランドでは環境問題への意識は高いですが、ここまで何度も述べているように、アーツ&デザインでは特に環境問題への意識は高いです。
これは色々理由があるのでしょうが、やはり一番は教育の中に環境問題が埋め込まれているからなのかなという気がしています。同級生とのグループワークのなかでも、「僕たちの間では子どものときから何度も教わってきてることだから、持続可能性なんて前提中の前提でしょ。考慮に入れないなんてありえない」みたいな話をされて、俺は習ってない!!!(もちろん酸性雨のことなど、習ったには習ったのですが…)と思ったのをよく覚えています。
それがどのようにあらわれているかという意味では、例えば同級生の中には、ヴィーガンやベジタリアンが非常に多いです(この立ち位置は、日本の立ち位置とも全く異なるので注意してください。僕の肌感のみですが、ちょっとヴィーガンって日本では特殊な立ち位置ですよね)。大学の中にもヴィーガン食のみのレストランが2箇所あります(ちなみにこれは芸術・デザイン・建築スクールの学生団体が保有・運営している学食です)。友人のなかにヴィーガンがいれば、ランチはそこで食べようという話に基本なりますから、僕もかなりの頻度でそこで訪れていました。
また、Alepaというフィンランド内でも最大規模のシェアをほこるスーパーマーケットには、値札に「V(ヴィーガン)」マークがついていて、ヴィーガンフードを即座に購入できる環境が整っています。つまりフィンランドは、ヴィーガンの数も多いし、ヴィーガンをするのも相当簡単な国です。
ちなみに僕も3ヶ月ほどヴィーガンをしていました。僕もヴィーガン記は以下のスレッドを参照。
ちなみにフィンランドやイタリアの友人を交えた会話からは、フィンランドはイタリアなどと比べて食に強烈な執着や歴史を持たない、という背景も強いのでは、という会話もありました。確かにイタリア人からチーズを奪うのは結構キツそうですよね。
さらに、環境問題への意識は例えば子どもを持つ、というレベルにまで及んでいて、僕の友人は、人間は二酸化炭素をどうしても排出してしまうから、私は子どもを産まない、と言っている人もいました。めちゃくちゃラディカルだなと思いましたが、しかしこういう人は必ずしもマイノリティではありません。
また、これが実際に「気候不安症 eco-anxiety」という社会問題としてあらわれつつもあると聞きました。気候変動に対する不安感から、無力感や怒りなどを感じている状態とのこと。どうやらフィンランドでは他国に比べてそういう感情を持つ人は少ないようですが(穏やかでいることを好む国だからでしょうか)、それにしても強烈な言葉です。
一方、彼らができることは彼らがやるということは前提な上で、僕の周りのフィンランド人の中では比較的、持続可能性への問題は行政や企業のコミットが必要不可欠だ、という思考が強く根付いていると感じます。それゆえ、個人レベルのみならず、いかに政策レベル、企業レベルで持続可能性を根付かせていけるか、というレベルで考える人も多い印象です(特にCSはそういう学科です)。
Q. フィンランドのコロナの状況
フィンランドではもうコロナは存在しないような雰囲気で、話題にのぼることは全くありません(今ももちろん、かかってる人はいます)!
Q. フィンランドと社会/コミュニティ観
根本的にフィンランドは個人-(弱い集団)-全体によって社会が成り立っている国で、日本は一方、個人-集団-(弱い全体)によって社会が成り立っている国だなと思います。
それゆえ、フィンランドに住み着いた当初はかなり友人とのコミュニケーションに違和感がありました。LINEグループにたくさん人がいるのが気持ち悪い、というのです。個人がそれぞれにばらばらで暮らしていて、その歪みを是正するのが全体(e.g.行政)の役割だ、というかたちで社会ができているのです。
日本はそこが根本的に考え方として違っていて、割と集団というものがしっかりとあって(例えば「友達関係」「会社」「クラス」など)、その集団が持つやわらかい規範やルールを調整しながら、それと付き合っていくのが日本のスタイルなんですよね(主語デカすぎトークですいません)。
これ、僕は日本にいると、そういうのはあまり好きじゃないな、うまくできないな〜と思うのですが、フィンランドに来ると、自分はあまりに日本人だった、ということに強く気付かされます。例えばで言うと、日本で「友だちになる」過程って、まずは部活やクラスなどが一緒になるというところから始まり、その集団があるからこそ一緒に遊んだり行動したりし、気づいたら仲良くなっている(集団の関係から個-個の関係へ)という流れが多いのかなと思います。フィンランドではその「集団」の部分がなくて、「まず個-個」からはじまります(もちろんいろんなパターンがあります)。これほんとにどう友達を作ったらいいのか、どう社会が成り立ってるのかわからないんだよな。
以下は今読むとかなり極端な回答を出しているなという感じがするので、ちょっと眉唾で見てほしいのですが(例えば、マンション組合みたいなものはあるし、地域のお祭りみたいなものあります。Kallio Block Partyなどが有名)、傾向としては今もそこまで外していないのではと思います。
Q. フィンランドと教育
以下あたりのツイートを参照。
フィンランドの教育から学べることが多いことは確かでしょう。しかし、「フィンランドだから良い教育だ」と思っているのだとしたらそれは間違いです。当たり前のことながら、先生次第、学校次第、生徒次第、それらの相性や環境次第で、それが良い教育になるのかどうかは変わってきます。
Q. フィンランドの食べ物
フィンランドの食べ物は結構厳しいな、、、という感じです。良くも悪くも個人主義的かつ効率主義的な国なので、毎日丁寧にごはんを作る、みたいなことをあまりやらない印象があります(例えば友人たちに聞くと、夕飯は基本サンドイッチだよ、と言っていました。びっくり)。
かつ、人件費がめちゃくちゃ高い国なので、なかなかおいしいものを食べにいくことはできません(これはフィンランド人も割とそうらしい)。僕は外食するの結構好きなので、フィンランドの環境は割とこたえました。普通のバーでピザ1枚食べてビール3杯飲んで、みたいな程度で、たぶん7,000円くらいします。し、それでもめちゃくちゃおいしいな〜!!と思えるものに出会えることは多くありません。結構きついです。
Q. フィンランドと自然
フィンランドの自然の身近さたるや、おそろしいほどです。ど真ん中(例えばヘルシンキ中央駅)にいたとしても、ものの15分で自然のど真ん中まで行くことができます。多少でも郊外にいけばこれはさらに顕著です。
これはフィンランドの自然の特性みたいなものもあるような気がしていて、すごく林道などが歩きやすく整備されています。
Q. フィンランドと競争
(特にデザイナーに限らないと思いますが、)フィンランドではそもそも社会階級だとか、上下格差みたいな考え方をすごくしない国(森の主観)なので、マウントを取ったり、高圧的な態度を取る人は、日本と比べるとすごく少ないように思います。というか、高圧的な態度を取ることは本当によくないしダサいことだと思われている(と僕は感じている)ので、フィンランドでそういうことをする大人は、相当外れ値だと思ってもらっていいと思います。
ちなみにこれは社会構造的な背景もあって、フィンランドは相当な量を税金で取って再分配する国なので、年収などで上下格差がそこまで生まれにくいんですよね(格差がないとは言っていません)。学歴、働く会社、あるいは持っているものなどで人を判断したりもあまりしないので、そもそもマウントは機能しません。割と深く個人主義が根付いているので、やりたいことやればいいんじゃない?別にあんたのことはあんたのことでしょ、というお国柄です。
ちなみにこれはすべての回答にあてはまることですが、全員そうだとは言っていません。当然いろんな人々がいて、そのあたりの「ぬるま湯感」みたいなものに嫌気がさした成長志向の人々が、スタートアップサウナなどで起業したりしている印象です。そちらには熱量!長時間労働どんとこい!みたいな人も当然います。
Q. フィンランドと安全
僕はないです。日本の次くらいに(ジェンダー等によっては日本よりも…)おそろしいほど安全な国です。ただ、反移民の人に殴りかかられた日本人の方を知っています。もちろん、地区によっては酔っ払いや麻薬をしている人の多いエリア、注射針がよく落ちているエリアもあります(大麻などはもはや一般的すぎてアレですが)。
当然、危ないエリアは避けるべき、といううのは日本でも当たり前にすべきことですから、普通に暮らしていて危険を感じることはほとんどないと思っていいのではないかと思います。
Q. フィンランドと医療(と子ども)
私(と家族)自身は実は病院利用したことはありませんが、フィンランドでの医療のあり方について伝え聞いたことをお知らせさせていただきます。
まず公的医療について説明します。フィンランドは皆保険制度が整っており、留学生とその家族でも安価で質の高い医療が受けられることは事実です。このしかし、フィンランドでは大したことでは病院にはいかないのが基本で、風邪でもとりあえず病院に行っておく日本とは、根本的に考え方が異なります。基本的には、フィンランドの公的医療は事前予約制で、3ヶ月以上待つのが一般的です。
それゆえ一般的に当日診療は受け付けておらず、どうしても見てもらいたい場合、緊急でなければ基本的に死ぬほど待ちます。例えば、「子どもが風邪を引いてどうしても不安なので見てほしい」ということになれば、朝イチでいって10時間待つ、みたいなことが普通に起こり得ます。また、そもそも医者が診るまえに看護師が診て緊急性を判断するため、とりあえず帰って寝てください、みたいな対応をされることも普通だとか。私の友人は、病院に絵本やごはんや遊び道具をすべて持っていって、10時間待った、と言っていました。上記に「緊急でなければすぐには診てもらえない」と言いましたが、この緊急というのは相当の相当に緊急なもので、例えば僕の友人は事故で骨折をして病院に行って、5時間待ったと言っていました。日本の制度に慣れている僕にはこれのどこが「皆保険」なのか僕には正直よくわかりませんでした(し同時に、日本は病院に行きすぎなのかな、というのも確かに思ったのも事実ですが)。
それゆえ、留学生はそもそも在留許可の取得において保険の加入が義務付けられているので、子どもの病気でも(少なくとも公的医療よりは)早く診てもらえる民間医療に行くのが一般的なのではないかと思います。しかしこれでも、3時間程度は待つと聞いたことがあったと思います。なかなか病気をした人には厳しい国です。
Q. 留学中に仕事をしてもいいのか?
僕はガンガン働いてましたよ。フィンランドの学生は(留学生含め)かなり働きます。僕の場合は個人事業主としての住所/事務所が日本にあり、日本のクライアントとの仕事のみだったので、すべて日本で確定申告・納税を行いました。ただしこういう情報については、人によって条件が異なるので(そもそも僕の振る舞いも合っているのかわかりません)、ご自身で丁寧に調べていただくことをおすすめします!
参考
Q. フィンランド留学で感じたギャップ
ギャップのなさがギャップだったかな。
2つあげると、まずひとつめが、フィンランドでの暮らしは、マジで日本で暮らすみたいに暮らせるということ。水道水は飲めるし、レストランで食べるものに不安を感じたりしなくていいし、夜道を歩くのにびくびくしなくていいし、公共交通は時間通りにくる。
なんか勝手な偏見で、海外の電車は遅れるものだと思っていたから、逆にこのあたりにびっくりした(なんなら時間ぴったりにきてちょっと寂しかった)。
あとふたつめは、「あー、同じ人間なんだな」ということが一番かもしれない。フィンランドだからといってなにか特別なわけじゃないんだということがよくわかった。
行政はめちゃくちゃ効率的だしみんな優秀だけど、でもやっぱり「議員からの圧力とかと上司との間で板挟みで…」とか、縦割り行政の弊害とかみんな問題を抱えているし。
幸せな国だからといってみんな幸せそうに見えるかというとそんなことはなくて(見た目でそんなハッピーな人たちばかりだったらそれも気持ち悪いけれど)、みんなそれぞれに葛藤を抱えて生きてる。なんかそういう、素朴なんだけど当たり前のことが、じわじわっとすごく良いギャップとしてしみたかな〜。
あとフィンランド人はシャイだし、ほんとに結構無言だし、パーソナルスペースがデカい。
■ 子どもとフィンランド暮らし編
Q. 家族と滞在住居
フィンランドでは、家族帯同で大学に進むのは普通のことなので、僕も他の単身学生と同様、生協が斡旋している学生アパートに住んでいました。というか、子どもがいる家庭は、ほとんど最優先でアパートが手配されます。
僕が住んでいた家は、2つのベッドルーム(8畳くらい?)と狭いキッチンおよびバスルームがある、最もシンプルなタイプの家で、月家賃は480€でした。安いですよね。
Q. 子どもと遊びにいける場所
ヘルシンキ圏前提で回答します。何より普通に、暮らすように過ごすのが一番良いと思います(一ヶ月半の滞在期間でもそれができる国だと思います)。
とにかくベビーカーと一緒に移動しやすいまちなので、まずはその喜び(?)をぜひ体感してほしいです。その上で、例えばショッピングモール(例えばIso OmenaやLippulaiva)で買い物をしながら、あるいはOodiやEMMA(金曜夕方は入場無料です)に立ち寄るついでに、遊び場スペースやトイレに寄ってみる、みたいな普通のことをぜひやってほしいです。つまり、子どものために特別に用意された場所、というより、親が気持ちよく日々を暮らす導線上に子どもが遊べる場所がある、ということの素晴らしさを感じてほしいのです。
ハイハイ期ではちょっと早いでしょうが、そこら中にあるフェンスで囲まれた遊び場スペース(例えばCafe Regatta/シベリウスモニュメントの公園の北東端などにあります)なども見てみると、もう少し大きくなってからの実感も湧くかもしれないです!
乳幼児が遊べるスペースは、そこら中のショッピングモールや公共施設にありますし旅行者でも利用できます。時間によっている世代は変わりますので、平日の日中など、時間を見計らって利用してみるといいと思います。具体的な場所については先程の回答を参照。
Q. 家族と在留許可
帯同ビザ、的なものが発行されます。LGBTQのカップルや、事実婚でも全く問題ありません。学生自身の在留許可よりもやや時間がかかってしまいますし、色々と書類を作るのが面倒ではありますが…。
具体的な方法についてはここで簡単に書けるような量ではないので、先人の皆様の記事を読んでみてください。めちゃくちゃ参考になると思います。
■ お金編
Q. 2年間でいくらかかるか?
お金に関する質問、多かったです。ありがとうございます。結論から言うと、2年間でかかったお金は約840万円でした。高いね…。
一応状況を説明しておくと、僕は1年間は自分ひとりで、その後パートナーと乳幼児が帯同しての留学生活でした。また、ユーロがおそろしく高騰していく時期だったのと(たぶん当初133円/ユーロくらいだったものが、最終盤には157円/ユーロくらいにまで上がりました)、ロシアのウクライナ侵攻のために色々なものが値上がりし、特に航空券に至っては、最後の日本への片道フライトが25万円/人ほどというおそろしい状況だったので、必ずしもみんながそれだけお金がかかるわけではないでしょう。
ちなみに一人暮らしについて言えば、僕のかなりざっくりした計算だと、奨学金が50%出た場合で、かつ一人暮らしの場合、600万円あれば多少余裕を持って留学できます。
以下、内訳です。
見ての通り、僕(たち)は日本に帰国しすぎです。日本に帰省せず、また帰国時も最安のチケットを取れれば、さらに140万程度は圧縮できそうです。
このあたりはくにちゃんさんのnoteのほうが詳しいかも。以下参照のこと。
Q. お金をどうやりくりするか?
僕自身の貯金が約450万。パートナーの支出が約150万。僕が2年間の間に日本とのリモートワークで稼いだお金が240万ほど。合計で840万円です。
フィンランドにいる間の稼ぎ口ですが、レストランの裏方の仕事など、探せば仕事は見つかります。そのうえ、フィンランドは時給がえげつなく高いので、さくっとアルバイトをやれば、月10万程度ならさくっと稼げます(マジです)。また、インターンでもお金を出してくれるところも多いです。そのため、その後フィンランドで就職するという気持ちがある場合は、お金が足りない前提で、200万円くらいはこちらで稼ぐぞ、という強い気持ちで来てもいいというか、そのほうがいい可能性もあります(そのほうが必死でインターン先を探したりするだろうから)。
■ その他
就職するという意味でしょうか、それとも🇯🇵-🇫🇮の協働プロジェクトを立ち上げたい、みたいな意味合いでしょうか?一旦、後者だと理解して回答をしてみます。
フィンランドの行政関連のイケてる事例は、かなりの部分がEUからの資本注入によって成り立っています(これはEU内他国もおそらく同様です)。それゆえ、本当に肌感でしかないのですが、EU外の国との協働はかなり難しいのではないかと感じられます(そうするインセンティブがない)。
おそらく何かできるのだとしたら、その人がIT、持続可能性、交通、イノベーション、あたりで寄与できるものがあると何かできそうな感じはあります。例えばEspooのKera地区という再開発地区では、MUJIのGachaが実証実験として走っていました。こうした事例も、おそらく日本側の担当者が色々と奔走して実現したプロジェクトなのではないでしょうか(本当に何も知りませんが)。また、Espooのイノベーション関連の事業では、DESNOが確かイノベーションセンターにお金を出していたりします。EnterEspooには清水さんという日本人の方が働いていらっしゃって、かなり丁寧におつなぎしていただけます。こうした、行政関連以外の専門を持たれている方が必要とされているのではないかと思います。