近況報告:フィンランド公共領域におけるデザイン組織の展開とそのエコシステムに関するリサーチをしたり
ちょっとした報告。
最近はフィンランドの公共領域における、デザインや共創など新たなアプローチの展開とそのエコシステムについてリサーチを行っています。
この領域においてはイノベーションファンドであるSITRAが最も有名だと思いますが、他にもヘルシンキ市は2012年にワールドデザインキャピタルに選ばれて以降、ヨーロッパ初のChief Design Officerを採用し、行政内にデザイン組織を持っていたり、あるいはエスポー市はCity as a Serviceというチームを市長室直下に組織し、共創のイネーブラとして、産学官民に持続可能性などの視座を含んだイノベーションを進めていたりします。
日本ではこういう話をすると、Mind LabやSITRA、UKのポリシーラボなどの「最先端の」あるいは「ヒーローの」思考や手法にばかり焦点があたりがちです。もちろんこうした視点も必要ですが、一方でいま本当に大事なことは、「じゃあ、どうやってそういうデザイン組織がうまくやれるのか」ということなのではないか。
この観点から見れば、SITRAのような、投資から得た利益で毎年40億円近くのお金をほとんど自由に使える組織は、それぞれのプロジェクトや組織の仕組みは非常におもしろいのですが(社会のなかでSITRAなしでもそのコンセプトが走り始めたら、そのプロジェクトをやめるという、めちゃくちゃイカれた組織です)、必ずしも現実的な参照先ではないように思います。
一方で、地道に行政機関のなかでデザイン的なアプローチに取り組んできたフィンランド各所でのリサーチは、極めてリアルなあり方を浮かび上がらせてくれています。
例えば2017年にフィンランドMigri(移民局)内に生まれた政府内デザイン組織・Inland Designでは、どうやって政府内でLegitimacyを確保するか、ということが極めて重要な問題でした(Kristin Swanによる2018年のアアルト修士論文において、このことが語られています)。やはり「デザイン組織」と聞けば一般の公務員はやはりまだまだ「グラフィックデザインをやってくれるのかな」と思ってしまうわけです(それでも今回のリサーチを通じて、サービスデザインなどのコンセプトはだいぶ広がっているなと感じましたが)。
こうしたなかでは、むしろ実際の手法は一定程度見えてきている中で、どうやって上長からの理解を得るか、どうやって組織を巻き込んでいくか、どのように組織内に自分たちを位置付け、正当性を確保するかという組織的なアプローチが非常に重要ですし、そしてそのあたりにこそ、公共領域でデザイン(などのアプローチ)が広がっていくためのレバレッジポイントがあるのではないか。
はっきり言って、フィンランドでも行政領域が「おかたい」ことは同じです。変化を好まないこと、サイロ化していることも全く同じです。なんならフィンランドの行政は日本よりも数倍デカいですし(エスポーは人口27万人ですが市職員は1万5000人います。人口規模ほぼ同じ福井市は職員数2000人)、行政職員は日本よりも圧倒的に面倒くさがりです(これは個人の主観です)。
しかしこうしたなかで公共領域のなかに職を手にした一部のデザイナーたちが、組織内での正当性を確立するために走り回ってきたのがここ5年〜10年ほどのことなのです。
公共領域にイノベーションを起こしたいというなら、派手で目立つヒーローではなくて、そのまわりで大規模組織のあいだを飛び回り橋をかけ続けてきた、その日々の実践にこそ目を向けていくべきなのではないか、そういう目立たない、言語化しづらい部分にこそリアリティが眠っているのではないか、と思う今日このごろです。
……という実際のリサーチの内容もまたそのうち公表できると思うので、またお待ちいただけると幸いです。すでにこうしたリサーチと並走するように、鯖江市内でのプロジェクトもどんどん進んでいます。このリサーチ結果を、鯖江市のなかでも良い形で現実化していけるといいな〜と思っているところ。
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というわけで、最近はフィンランドのイノベーションエコシステムのこととか、フィンランドの政府・行政内におけるデザイン・イノベーション・共創の展開とかについてめっちゃ詳しくなりつつあります。
なんかこういうフィンランドやヨーロッパでのリサーチとかご一緒できるのすごく嬉しいので、何か思いついたら、またぜひ声かけてもらえると嬉しいです。