2023年8月15日 「戦争と独裁者」

14時起床。ひどい。台風のせいか? いや、8時半に一度目を覚ましてはいる。そのときは窓ががたがたして怖かった。ただ眠気が凄まじく、いつの間にか寝ていた。起きたらもう風はそんなになく、雨が降っていた。

さて、8月15日である。終戦の日である。

昨日『独裁者たちのとき』を観て、やはり日本は変な国だ、と思った。ドイツやイタリアなどの国々には、第一の戦争犯罪人としてヒトラーやムッソリーニがいて、彼らは悪の象徴として認識され、だから彼らの顔を見れば恐怖や反省の念が心に浮かびもするんだろうと思うわけだが、そのとき、彼らにあたる人物が日本にはいないのだ、ということにも気づく。映画の中で輪郭を失った海のような民衆に熱狂的に迎えられ握手していたヒトラーやムッソリーニを、誰かあの時代の日本人に置き換えてしっくりくるだろうか? しっくりくる人物はいない。戦中・終戦直後の海外では昭和天皇が挙げられるだろうが、現代では日本でも海外でも昭和天皇が戦争を主導したと考える者はいない。昭和天皇はむしろ度々戦争回避を指示している。なら東京裁判で裁かれ死刑になった東條英機? それも違和感がある。元々陸軍を抑えて戦争を回避するために任命されたようだし、戦争中に退陣している。最も近いのは近衛文麿だろう。各政党を大政翼賛会に統合し、何より日独伊三国同盟を結んだ張本人だ。しかし、彼も戦争が始まるとなれば内閣を投げ出した。

ドイツ・イタリアと日本の最大の違いは、独裁政党の有無だろう。ドイツではナチ党が、イタリアではファシスト党がそれぞれ選挙で大勝したのち独裁を敷いた。しかし日本ではそういうわかりやすいポイントがない。戦争を主導したのは軍部だが、今のタイやミャンマーのようなクーデターがあったわけでもない。強いていえば二・二六事件だが、それにしても起こした青年将校たちは反乱軍とされている。そもそも指導者の決め方からして違う。ドイツもイタリアも選挙で決まった政権党の党首が首相になるという方式だったが、日本では元老が枢密院で話し合って決めた。そもそもどこかの政党組織が独裁を敷くということ自体不可能だった。だから、やっぱり原因は軍部なのだが、どうして軍部がこんなことになってしまったか、と考えても結論は出ない。この時点で、ヒトラーやムッソリーニのようなカリスマ的支配者を挙げることはできないことがわかる。マックス・ヴェーバーか誰かの考えだったと思うが、支配形態には3種類あって、伝統的支配、カリスマ的支配、合法的支配がそれだという。ドイツやイタリアはカリスマ的支配に当たるが、日本は伝統的支配の内実が形骸化したもの、という表現が適当なのかもしれない。

無理やり原因を考えるならば、やっぱり明治政府の時点から間違っていたんだろう。あの憲法を見れば、主権が天皇に存するといえども軍部の権力が大きすぎる。構造的にダメだったのだ。そうなれば、伊藤博文や山県有朋のせいだと言える。特に軍部の基礎を作ったのは山県だし、実際、山県は強権的な政治観の人だったらしい。それでも、戦争を避けることはできただろう。小さなターニングポイントの集積だ。ある法律の制定や、ある制度の廃止や創設、そういう諸々が、あとあと最悪な結果を招いたのだろう。それが一つずつ避けられていれば、あるいは……いや、やはり無理かもしれない。じっくりじわじわと国民が洗脳され騙されていった。軍部だって自分で勝手に騙されていった。それがこの国の「空気」というやつなんだろう。その「空気」というやつの最終形態を活写したのが、岡本喜八監督『日本のいちばん長い日』だ。

『日本のいちばん長い日』を観ようかと思ったが、しかし気分が乗らない。アレクサンドル・ソクーロフ監督『太陽』はサブスクにはない。

岡本喜八はシリアスなものも撮っているが、筒井康隆原作の『ジャズ大名』という笑える楽しい映画も撮っている。子供の頃、BSのどこかのチャンネルでやっているのをたまたま親と一緒に観て、けらけら笑っていたのを覚えている。今覚えているのは若者が算盤をスケボにして廊下を滑っているところだけだが。

ホリー・ジャクソン『優等生は探偵に向かない』(創元推理文庫)を読んだ。1作目は読書日記に書いたが、流石に2作目は書かない。ここに少しだけ感想を書いておきたい。

SNSの描き方がうまい。武器にもなるが、自分を襲いもする。リアルだ(ちなみに、私の細田守への不満はそこだ)。また、普通のミステリや名探偵譚のように1話完結的でない。前作が前提となり、物語としては地続きだ。主人公ピップは変化するし、周囲も変化する。前作の事件が解決した世界で起きる事件だ。【以下ネタバレあり】しかし、不満点は真相に辿り着くのが自力でない点。犯人が向こうから姿を現す。とはいえそれが、前作で大成功を収めたピップの大きな挫折であり、3作目への引きになっている。3作目で完結を目指すシリーズの2作目としては完璧だ。すぐに3作目を読みたいところ。

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