日曜日のくしゃみとしゃっくり(短編小説)
くしゃみが止まらない。鼻の奥に杉の木が生えているかのように止まらない。いい加減疲れたし、喉の奥が痛い。
日曜日、布団に包まり、くしゃみをする。汚い音は薄黄色い壁に吸い込まれて無かった事になる。僕は早く死にたくなる。窓の外からの光は、チラチラと舞う埃を赤く染めていた。
昨日の夜、旧友と酒を飲んだ後、布団に倒れ込んで。狂ったように眠った。少し目覚めて飯を食い、また眠った。それを繰り返したら日曜日が終わっていた。しかも、旧友と酒を飲む前は、休日出勤だった。疲れなんか取れている訳がない。身体の中から鉛が滲み出てくると思うほど、重さが全身を襲っていた。
旧友とはほとんど一年ぶりに再会した。酒を酌み交わすのは楽しい時間だった。途中、友人はしゃっくりが止まらなくなっていた。理由を聞くと、土曜日の夜はいつもこうなのだという。
「月曜日がしんどくてさ、土曜日の夜くらいから無意識に月曜日の事考えちゃってさ。体が拒否反応を起こすんだよ。それで、しゃっくりが止まらなくなる。」
楽しい時間の中に垣間見える闇に突っ込むほど、無責任な訳でも子供な訳でも無かった。旧友とは狂ったように酒を飲み、解散した。
今のくしゃみは、医学的に言えばハウスダストの類だと思う。しかし、それは非常に浅い見方だと思う。結局考えてみれば、原因は労働である。
休日に働き、疲れ果てた中で掃除も出来ず、体力を養う事しか出来ない。もし労働がなければ掃除ができていたはずだ。だからくしゃみを起こらない。つまり、真の因果関係はくしゃみ=埃が原因ではなく、くしゃみ=労働が原因なのである。
…そんな訳がない。いや、別に嘘をついた訳ではないが、きっと働いていなくても掃除をしなかったと思う。俺みたいな人間は。けど、何かのせいにしないとやっていられない。自分の醜さと向き合いたくない。辛い気持ちになるから。
けどそうやって、何もかもから目を背けてきて、こんな今がある。くしゃみをしてもひとり、である。情けないたらありゃしない。
こうやって、このまま何もせずに夜になって、くしゃみで苦しみながら寝て、ろくに眠れなくて、ボロボロの状態で朝を迎えて、仕事でありえない数のミスをして、迷惑をかけて、最悪の気持ちで退社して、それを繰り返す。何年も何年も繰り返す。心臓が鷲掴みにされたように苦しくなる。
気がつけばくしゃみは止まっていた。その代わり、しゃっくりが出始めた。ああ、これからの人生、日曜日はしゃっくりと共に生きるのか。暗澹たる気持ちで天井を眺めていた俺は、滲むような気持ちで目を閉じた。