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リベルダージの「これは安いぞ!」お兄さん(エッセイ)

数年前まで、ブラジルのサンパウロに住んでいた。
知っている人も多いと思うが、ブラジルには日系人が多い。かつてブラジルに夢を追い求めて移民してきた日本人の子孫が沢山いるのだ。そういう事情もあり、ブラジルには珍しい事に、リベルダージという日本人街がある。これは自論だが、日本人は日本人街をあまり作りたがらない。逆に、中国人はチャイナタウンをめちゃくちゃ作る。なんなんですかね、あの現象。

そんな話は置いておいて、リベルダージは中々面白い街なのだ。リベルダージには、やたらめったら宝石店と眼鏡屋が多い。恐らくは、日系人の家業なのだろう。そして、食料品店と雑貨屋。この辺までは想像がつくと思う。しかし、一番面白いのは、やはり路上販売だろう。

リベルダージの路上販売は、基本的になんでもある。パチモノのスマホケース、お菓子、プラスチックのおもちゃ、日本の番組を収録したDVD(もちろん無許可)など、いわゆる路上販売で想像できるものは大抵揃っている。いつ行っても、お祭り気分なので見ている分には楽しい。(今はコロナなのでどうなっているかは分からないが)

今まで見た中で一番意味が分からなかったのは、でっかいライターと世界地図を販売するお兄さんだ。でっかいライターは、30-50cmくらいのサイズがある、いわゆる面白グッズだ。ちゃんと火をつける事も出来るが、デカ過ぎて実用性はない。彼の凄いところは、ライターと世界地図をずっと売り続けていたという事だ。ブラジルには2年半いて、ほぼ毎週リベルダージには言っていたが、彼を見ない日はなかった。そんなにライターと世界地図は売れるものなのだろうか。

「これは安いぞ!」この決まり文句で、ライターと世界地図をアピールする。正直、面白ライターと世界地図を買う時に、値段はあまり重要じゃない気がする。それでも、叫び慣れたせいで流暢になった日本語で、にこやかに叫んでくるのだ。「これは安いぞ!」と。

正直、一度くらい買っても良かったかな、と思っている。ブラジルの事を思い出す時、一番に出てくるのは何故か彼の元気な声だ。でっかいライターを持ちながら叫ぶその姿は、インパクトしかなかった。会話なんかした事もなかったが、妙に印象に残っている。

とはいえ、申し訳ないがそんなでっかいライターなんか使い道ないし…。何故そんな商品のチョイスなのだろう。一度聞いてみたい気もする。

それにしても、今はコロナなのであの元気な声は聞けないのだろうか。だとしたら、寂しい事である。コロナが収まって、リベルダージにまた行く事があれば、今度は世界地図の方を買ってもいいかもしれない、と思った。

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