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アルバムの中の既発曲、何曲まで許せる? パート2!(エッセイ)

前回の続きです。(上に前回のリンク貼ってます。)

前回、米津玄師さんの新アルバムはどうなるんだろう、という話をしました。その後、新アルバムの詳細が発表されました。新アルバムは全20曲で、そのうち新曲は8曲でした。割合で言うと、40%が新曲という事になります。

率直にいうと、頑張った方ではあると思います。既発曲には、シン・ウルトラマン、FF15、ジブリ、朝ドラなどの超巨大タイアップがついています。これらをかなぐり捨てる選択は、レーベルが許さないと思います。溜まりに溜まった既発曲を入れながら、新曲を一定数入れてくれるのは、流石かなと思いました。

さて、この最近のアルバム既発曲多すぎ問題について、前回はKing gnuさんとVaundyさんのスタンスの違いについて述べました。King gnuさんはインタールードをつける事で、既発曲と新曲を上手く繋ぎ、アルバムの世界観を作っていました。Vaundyさんは既発曲をDisk 2に固める事で、アルバムの世界観を守っていました。米津玄師については、まだアルバムを聞いていないので分からないのですが、明らかにこれらのアーティスト達と違うスタンスの大物アーティストの新アルバムを見つけてしまいました。

それはAdoさんです。「うっせえわ」や「唱」でお馴染みの超人気アーティストです。余談ですが、5月に行われた国立でのライブは私も参加しました。素晴らしかったです。

それで、Adoさんの新アルバムなのですが、全16曲中、新曲は2曲です。新曲の割合は12.5%と、中々に低い数字となっています。(ただし、ドラマタイアップのためにルルが先行配信されており、これを新曲としてカウントするならば、新曲は3曲。割合は18.7%。まあ大差はないですね。)

これは今までのアーティストとは違う傾向にあります。Adoさんサイドの意図は分かりませんが、シングルコレクションにボーナストラックをつけただけ、という意地悪な見方をする事も出来てしまいます。前回挙げたKing gnuやVaundyは、アルバムのシングルコレクション化を絶対に防ぎたい!という思いが伝わっていました。スタンスこそ違いましたが、目指していた事は同じだったように思います。しかし、Adoさんはそもそも目指している場所が違うのでは?と思うほど、新アルバムはシングルコレクションに近いものになっています。

ただ、Adoさんは前回のアルバムである狂言でも、比較的シングルコレクションに近いアルバムを出していました。なのでこれは、Adoさんというアーティストの意図的なスタンスだと思われます。その意図はなんなのか?

ここからは完全なる想像になります。100%憶測になるので、嫌な方はブラウザバックの方、お願いします。

Adoさんは歌ってみたアルバムを出してみたり、国立ライブのMCで歌い手についての熱い想いを語っていたりと、自身を「歌い手」と定義しているように思えます。それこそが、King gnuさんやVaundyさんとの明確な違いなのかな、と思います。

要するに、畑が違うのです。King gnuやVaundyの畑である、ロック畑やポップ畑では、オリジナルアルバムの完成度が高い事はとても大切な事です。この畑では、数年に一度くらいのペースで、ヲタク達が歴代のアルバムベスト100!みたいなのを作ってあーだこーだ言っています。アルバムの出来、というのはこの畑において、アーティストとしての価値につながります。

一方、歌い手の畑ではどうでしょうか。歌い手は自身が歌っている動画を動画サイトにアップロードし、評価を得ます。そこで評価が高まれば、デビューしてアルバムを作るという流れになります。つまり、アルバムの出来がアーティストとしての価値につながるというよりも、アルバムは頑張った成果を見てもらうという記念碑的な役割の方が強くなります。歌い手がアーティストとしての価値を得るのは、アルバムではなく動画サイトにアップした動画、という事になります。

Adoさんはメジャーデビューしてそれなりに経っている方なので、現在は頻繁に動画を上げている訳ではありません。しかし、ファンの価値観や判断基準は、歌い手の畑で培ったものになってきます。だから、一見シングルコレクションに見えるアルバムでも問題ない。それこそが歌い手のカルチャーだから。

ただ、先述したようにメジャーデビューから期間が経ち、国立でライブができるようなアーティストになった訳でありまして。このまま歌い手としてのカルチャーを捨てずに行くのか?という点は気になります。何故なら、米津玄師さんはそのカルチャーを捨てているんです。

米津玄師さんは元々ボカロP(ボーカロイドで曲を作る人)でした。ハチで調べると、彼がボーカロイドで作った曲が出てきます。ボカロ界隈と歌い手界隈は、インターネット中心の活動という事で、比較的近い畑と言っていいでしょう。なので、米津玄師とAdoがアルバムについて近いスタンスで勝負していても、違和感はないはずです。

しかしボカロPではなく、米津玄師さんという歌手としてメジャーデビューした後、彼はロック畑やポップ畑に近いアルバムのスタンスを見せます。その効果もあり、過去のアルバムはロック畑やポップ畑の方々にも高い評価を受けています。また、2017年には「砂の惑星」というボーカロイド界隈を批判するような曲を発表し、物議を醸した事もあります。

米津玄師さんはインターネットのカルチャーから離れました。そして今の、邦楽界のトップといえる立場に上りつめました。その事は、Adoさんも分かっていると思います。

それを踏まえて、今後Adoさんがどう立ち振る舞うのか?つい最近までニコニコ動画の広告に出ていた事を考えると、しばらくはインターネットカルチャーの中でやっていくのかな、と思うのですが、どうなんでしょう?今後もアーティスト達から、目が離せないなと思うのです。

とりあえず、米津玄師さんの新アルバム、楽しみにしてます!後、Adoさんの新アルバム、良かったからみんな聞いてね!

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