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映画を見た上で改めて灰原哀だと思った「美しい鰭」についての個人的解釈(エッセイ)

劇場版名探偵コナン黒鉄の魚影(サブマリン)、ご覧になりました?凄かったですよ。まじで。

ネタバレなしの感想を言うと、え!?こんなシーン見せてくれんの!?え!?あ!?嘘!?あ、あ、あ…。ありがとうございます…。という感じ。笑ってる奴、覚悟しとけ。いずれこうなる。後、少し高くなるけどIMAXをお勧めします。映像は綺麗だし、迫力も凄い。何より音がいい。あれがね、あれするんですよ。ネタバレになるので言えないですけど。

そして音といえば、今作の主題歌である美しい鰭。その素晴らしさ、そしていかにこの曲が灰原哀かについては既に記事にした。

これですね。けれどこれ、3月に書いた奴なのでその時に公開されていた範囲でしか書けてないんですね。そして今回、曲がフルで聴けるようになり映画が公開されたタイミングで、改めて歌詞について見ていこうという訳です。

ここから先は映画のネタバレをバリバリにします。オチも普通に言います。映画を見ていない人はブラウザバックお願いします。




では、フルの歌詞を見ていく。

波音で消されちゃった はっきりと聞かせろって
わざとらしい海原

100回以上の失敗は ダーウィンさんも感涙の
ユニークな進化の礎

あの日のことは忘れないよ
しずくの小惑星の真ん中で

流れるまんま 流されたら
抗おうか 美しい鰭で
壊れる夜もあったけれど 自分でいられるように

びっくらこいた展開に よろめく足を踏ん張って
冷たい水を一口

心配性の限界は 超えてるけれどこうやって
コツをつかんで生きて来た

秘密守ってくれてありがとうね
もう遠慮せんで放っても大丈夫

流れるまんま 流されたら
出し抜こうか 美しい鰭で
離される時も見失わず 君を想えるように

強がるポーズは そういつまでも
続けられない わかってるけれど
優しくなった世界をまだ 描いていきたいから

流れるまんま 流されたら
抗おうか 美しい鰭で
壊れる夜もあったけれど 自分でいられるように

いやぁ…。改めて映画を見た後に見ると、凄いなこの歌詞。改めてスピッツというバンドの実力に感服します。惚れ惚れしますわ。

では、それぞれの部分を見ていこう。

「波音で消されちゃった はっきりと聞かせろって
わざとらしい海原」

はっきりと聞かせろ、という強い言葉が印象的な歌い出しの部分。言い換えれば、波音で消されるくらい小さな声で何かを喋ってる事になる。では、ここで喋っている事は何なのか?ここだけでは判別できないので、一旦次にいこう。

「100回以上の失敗は ダーウィンさんも感涙の
ユニークな進化の礎」

ここでポイントなのは何を100回以上失敗したのか、という点だと思う。個人的には、黒の組織にいた事そのもの、ひいてはアポトキシンで殺めてしまった人数じゃないかなと考える。そう考えると、「ユニークな進化の礎」が見えてくる。ダーウィンの進化論では、時と共に動物が環境に適応して変化する事を主張しているのだけれど、それと真逆のものがある。アポトキシンによって幼児化したコナンと灰原だ。時の流れに逆らい肉体を逆行させた彼らは、人類の通常の進化では考えられない存在だ。これは作中でもネガティブに捉えられる事が多いが草野マサムネは敢えて「ユニーク」と言った。それはなぜか。灰原哀の今を否定したくなかったからではないかなと思う。灰原哀にとって、いまのかけがいのない生活は皮肉にもアポトキシンのおかげだ。その事を考え、敢えてポジティブなワードに落とし込んだのかな、と思った。

「あの日のことは忘れないよ
しずくの小惑星の真ん中で」

小惑星と小学生を聞き間違えないで、という異例のお願いがあったパート。言い換えればそれだけ小惑星というワードじゃなきゃいけないという事だ。しずくの小惑星は涙の事かなと思うが、では「あの日」はどの日だろう。灰原と涙で思い出せるのは、やはり広田教授の事件かと思う。コナンの圧倒的な推理力を目にした灰原は思わず感情を抑えられなくなる。どうしてお姉ちゃんを救ってくれなかったの、と。それまでクールなキャラだと思われていた灰原が初めて流した涙という事で印象に残る回だ。ただ、これに関しては映画内で流していた涙かもしれない。

「流れるまんま 流されたら
抗おうか 美しい鰭で
壊れる夜もあったけれど 自分でいられるように」

ここに関して言えば、前回の記事で扱ったところなので簡単に触れるだけにする。映画を見て思ったのは、やはり美しい鰭は意地悪なサメとイルカの話を念頭に置いていると思う。灰原が自分の事を意地悪なサメに例え、蘭ちゃんをイルカに例える名場面。絶対ここは念頭にある。それがスタッフからの要望。じゃなきゃ、映画のエンドロールで、サビが流れる所で上に登るイルカを出さない。もう灰原哀は意地悪なサメなんかじゃないってか?憎いねえ。後、「抗う」という言葉は今作にピッタリだと感じた。抗った結果がお父さんが殺された(生きてたけど)みたいな結果になる事もあるけど、それでも諦めずに抗う事の大切さ、みたいなテーマを本作から感じたので。

「びっくらこいた展開に よろめく足を踏ん張って
冷たい水を一口」

灰原哀の人生って、びっくらこいた展開の連続だと思うんですよ。いい意味でも悪い意味でも。少なくとも普通の人生ではない。で、悪い事が起きるたびによろめく足を踏ん張って耐えてきた人生でもある訳で。どれだけボロボロになっても生きるのを諦めないんですよこの子は。だって一度死んだ命だから。ピスコの時もそうだし、今作だって命懸けで魚雷発射管から出てくるし。けど決して諦めない。それどころか他人を引っ張って、私を信じてとまで言える。その芯の強さみたいな部分と、クールな部分を説明する「冷たい水を一口」が実に灰原哀だと思う。

「心配性の限界は 超えてるけれどこうやって
コツをつかんで生きて来た」

心配性の限界、ってワード、かなりしんどいな。いや、草野さんじゃなくて黒の組織とかいうゴミが悪いんだけど。あんないい子を何であんな目に遭わせるんですか?けれどよく考えたら、心配性の原因の半分くらいはコナン君だわ。それでも波長を合わせてバディとして良いコンビネーションを見せられるのは、コツを掴んで生きてきているからなのかな、と。灰原哀を説明するときに、心配性は忘れられがちだけど確かに大事な要素だわ。

「秘密守ってくれてありがとうね
もう遠慮せんで放っても大丈夫」

待て待て待て待て。え?ちょっと待って。「遠慮せんで放っても大丈夫」って、え?「江戸川君の唇、返したわよ」って事?今までありがとう、けどもうひとりで生きていけるよって事!?待って待ってそんな寂しい事言わんといてよ…。この曲はここから強烈なラブコメの波動を見せる。その集大成が次の歌詞だ。

「流れるまんま 流されたら
出し抜こうか 美しい鰭で
離される時も見失わず 君を想えるように」

ここでの最大のポイントは「想える」。思えるとも書けるのに、想えるなんですよ。なんで、と思って調べて見た。参考にしたのはこの記事。現役のアナウンサーさんが解説してくれている。

記事を引用する。「つまり、「思う」は、「おもう」が持つさまざまな意味を広く表すのに対し、「想う」と書く場合は、何度も心の中で気持ちを巡らせるような、情感のこもったニュアンスが強くなるようです。」

嘘だろう草野マサムネ…。思うを想うにしただけで、一気に今作の灰原哀になってしまった。じゃあなんですか?「出し抜こうか 美しい鰭で」は蘭ちゃんに抜け駆けでキスしたあのシーンの事で、「離される時も見失わず 君を想えるように」はこの思い出が胸にあるから離れていても大丈夫って事ですか?だから哀ちゃんは江戸川君の唇を蘭ちゃんに返したんですか?でもその思いは、もう思えるようにじゃなくて想えるようにと表現せざるを得ないくらい情感がこもったニュアンスって事ですか?同じ日本人なのにこんなに漢字を使いこなしている人がいるのか、と驚いてしまう。初めてこの歌詞を見たとき、想の方を使ってるのちょっとカッコつけてないとか思ってごめんなさい。僕が日本人なのに漢字を知らなすぎるだけでした。もっと勉強します。

草野さんのコメントに「コナンは壮大なラブストーリー」とあったけれど、この部分はもうラブストーリーである今作を念頭に置いていると思う。じゃないと、こうはならない。けれど「愛してる」とかを使ってしまうとやりすぎだし、灰原哀じゃない。灰原哀ならどうするか?という問題に対して「想える」をスッと出す。惚れ惚れするわ、こんなん。

「強がるポーズは そういつまでも
続けられない わかってるけれど
優しくなった世界をまだ 描いていきたいから

流れるまんま 流されたら
抗おうか 美しい鰭で
壊れる夜もあったけれど 自分でいられるように」

この部分は前回まるまる書いたので、解釈については割愛。追加でひとつだけ。最初の進化の話で、結局何が進化したのかについて、ここで語られていると思う。それが「優しくなった世界をまだ 描いていきたいから」の部分。アポトキシンという人を殺す薬物を作っていた人間が、他人の事を想えるようになり、世界を美しいと思えるようになる。これ、普通は逆だと思うんですよね。人って、他人と関わる中で人間性を育んで、そっから勉強して賢くなるというのが今の人間社会の流れだと思う。しかし、灰原哀は逆だ。幼少期から凄まじい知識を叩き込まれた反面、人間性を育む機会がなかった。だから幼少期の出来事を思い出せず、何年かぶりに会った知り合いも思い出せない。けれど、今こうして様々な人と関わる中で、ようやく世界の事を「優しくなった」と言えるようになった。作中の言葉を借りれば「私は変われた」という事ですね。その逆転した進化のあり方こそご、「ユニークな進化」なのかなと感じた。総合的に言って、もう灰原哀でしかない。何これ。灰原哀の事しか考えられなくなってきた。

いかがだっただろうか。この曲は灰原哀すぎるし、映画は最高すぎる。アクションの後を爽やかに終わらせながら、ラブコメの波動を見せつけていく。日本屈指の人気キャラがフューチャーされ、作品史上初の100億を狙える期待がかかるプレッシャーの中、よくこんなに素晴らしい曲を書けたな、と。それは映画を作ってくれた全ての人に言える事だけど。本当にみなさんお疲れ様でした。美しい鰭、たくさん聞きます。

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