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昔、地下室タイムズというサイトがあった。

2015〜18年を過ごした音楽好きな人で、地下室タイムズを知らない人はいないと思う。

地下室タイムズは音楽系のウェブマガジンで、昔は色んな人が記事を書いていたが、いつしか石左さんと谷澤さんという人しか記事を書かなくなった。特に石左さんは毒のある文章を書くのが得意で、色んなミュージシャンをけちょんけちょんにしていた。一方、褒めるときはしっかりと褒める人でもあり、音楽に対してはしっかり向き合っている人でもあった。

最初の頃、地下室タイムズはバランスの取れたウェブマガジンだった。例えば、海外在住のライターがアメリカ人に英語で歌う日本のミュージシャンの曲を聴かせ、1番発音の上手いミュージシャンを決めてもらう企画など、批評だけではない幅があった。しかし、いつしか石左さんのエッジの効いた批評文が人気を集め、石左さんの記事中心のサイトになっていった。

ここまではとても良いサイトだったし、自分も中々楽しく見ていた。しかし、いくつかの理由で歯車がどんどん噛み合わなくなってしまった、と思う。

まず、石左さんのバランス感覚が狂ってしまった。毒がどんどん強くなり、面白味に欠けるようになった。悪口というのは、どこかに言われた相手が逃げられるスペースを作らないと、読んでる側としてもしんどい。石左さんはその辺のバランス感覚が上手く、嫌な言い方をすると「読み手が罪悪感を抱かずに悪口を楽しめる」文章を作れていた。ところが、もっと強い毒を求める読者の声に応えるかのように、毒はどんどん増えていき、1人、また1人と地下室タイムズから離れていった。

そしてサイトの内輪感がどんどん強くなってしまった。地下室タイムズは途中、レーベルを作り売れないバンドにCDを作る機会を与えていた。しかし、必然といえば必然なのだがCDを作ったバンドに熱量が向いてしまい、熱い推薦文のようなものが地下室タイムズにあがっていた。悪いとは言わないが、これでは冷静な音楽レビューが今後担保されないのではないか?という不安が個人としてはよぎった。前述したバランス感覚の狂いもあり、この辺で地下室タイムズを読むのをやめた。

今思えば、地下室タイムズは「バンドマンがやってるサイト」だったんだなと思う。これまでの音楽誌やサイトは、音楽評論家やリスナーなど業界にいない人々があーだこーだ好き勝手言っていた。しかし地下室タイムズは、バンドを挫折した(石左さんは現在再度バンドをやってるらしい)人が書いている、という点が新しかったのだと思う。書いている文章も売れないバンドマン達がリアルに思っている事を代弁しているように読者に感じさせ、リアルな世界に触れているような感覚を与えていたのだろう。けれど、どんどんバンドマンの良くない側面(ロッカールームトークを全世界に発信してしまったり強すぎる仲間意識を持ったり)が出てきてしまった、という事なのだと思う。

自分でも驚くのだが、地下室タイムズに関してはもうすっかり読み返していない。「見る前に飛べ踊れ」という音楽2chまとめに関してはウェイバックマシーンを使ってでも読み返した事があるというのに。なんというか、地下室タイムズに関しては卒業してしまった感じがある。

けどひとつ。地下室タイムズのおかげでSunny Car Washを知れたことは感謝している。あとリバーシブル吉岡とNinja Sex Party。でも、Sunny Car Washとリバーシブル吉岡はもういない。Ninja Sex Partyはいるけど、来日しないだろうから見にいく事もないと思う。

まあでも。Sunny Car Washはいなくてとズットユースがいる訳で。過去を振り返るのもいいけど、今はズットユースを応援していこうかな、と思う。ライブ行きたいんだけど行けてないんだよね…。来年は絶対見ます。

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