見出し画像

およげ!たいやきくんの真実(エッセイ)

およげ!たいやきくんを知らない人はいないだろう。日本で1番レコードが売れた曲で、たいやきくんの暴言と悲しい結末を歌った子供向けコミックソングだ。

この、およげ!たいやきくん。もう一度歌詞をよく読んで欲しい。腑に落ちない点がないだろうか?

「まいにち まいにち ぼくらはてっぱんの うえでやかれて いやになっちゃうよ」

どう見ても焼きすぎである。たい焼きなんて、せいぜい5分も焼けば充分である。その後は基本的に常温で保管され、食べる時にレンジやトースターで加熱される。店によっては、スチームで保温される事もある。しかし、ずっと鉄板の上にたい焼きを置く店はないだろう。

しかし、ここは冷静に考えてみたい。たい焼きが自力で海に飛び込む世界観である。例えば、よく焼きのたい焼きか流行っている世界観かもしれない。この後の歌詞を見てみよう。

「やっぱり ぼくは タイヤキさ すこしこげある タイヤキさ」

おじさんに食べられる直前の歌詞である。もがいても、生まれながらに持ってしまったリビドーからは逃れられない事を知った諦念が滲み出ている歌詞である。

しかしここから分かるのは、このたい焼きがそんな焦げていないという事だ。つまり、適度に焼かれて適度に保管されたたい焼きという事だ。しかし冒頭では、「まいにち まいにち ぼくらはてっぱんの うえでやかれて いやになっちゃうよ」と歌われている。たい焼き自身が嫌になるほど鉄板の上に乗せられているのに、焦付きはそこまでではない。これは一体どういう事か?

思うに、鉄板の上にはそこまで長い時間いなくて、たい焼きが大げさに言っていただけではないだろうか。そもそも、熱した鉄板の上に乗りたいと思う者は非常に稀である。そして、乗せられたなら、1秒でも早く鉄板から降りたいと思うのが普通だ。

熱した鉄板の上に乗せられたトラウマ。それが、たい焼きの平常心を狂わせた。おじさんは美味しく焼こうとしただけなのに、熱さから我を忘れて反発してしまった。その苦い記憶を、より悲劇的に改竄したのが、「まいにち まいにち ぼくらはてっぱんの うえでやかれて いやになっちゃうよ」ではないだろうか?

鉄板の上で熱さに耐え、最後には食べられる運命を持つたいやき。しかし、たい焼きに産まれてなお、彼は自由を目指した。海の底での束の間の自由。しかし最後に待ち受けていたのは、たい焼きとしての運命だった。たい焼きはたい焼きとして、運命を全うしなくてはならなかったのだ。およげ!たいやきくんは、運命を嘆き、変えようと足掻くも上手くいかなかった、悲しみの曲なのかもしれない。

そうなると、およげ!たいやきくんのタイトルの見方も変わってくる。あの世では安らかに泳げよ、という追悼のメッセージにも思える。たいやきくん、君はもう自由だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?