タイムマシン(短編小説:後編)
タイムマシン(短編小説 :前編)|ちりとり (note.com)
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「うーん、どうしようかな…。」
「なんか、3日くらい考えっぱなしな気がするんだけど…。」
「時計はなんて言ってるんだ?」
「…30秒。」
「じゃあ気のせいだろ。それよりどうする?3分しか時が巻き戻らないタイムマシン。俺たちのイタズラで気絶した上司。バレたらクビ。なお、既に3分巻き戻っても倒れる前には戻れない。これもう詰みだろ。」
「やけに説明くさいな…。まあいいや。とにかくヤケを起こさない事が大事だ。冷静に。クールに。」
「冷静に?そうだな…。殺すか?銃もあるし。」
「まあ冷静に考えるとこれなる、訳がないよな。」
ー沈黙。時計の針の音のみが響く。チクタク。チクタク。
「選択肢は二つあると思う。謝るか、殺すか。いずれにせよクビになると思う。後は君の気持ち次第だね。」
「そうか…。」
「あのさ、君がもしクビになっても、僕の研究室で雇ってあげるよ。コーヒーとか淹れてくれればそれでいいからさ。それか2人で、寂れた観光地で流行りの飯ばかり出す屋台を始めたっていい。最初はそうだな、10円パンとか出そう。寂れた観光地で少ない子供を騙して、小銭を稼いで生きるってのも悪くないさ。」
「…屋台ってのはさ、暴力団が取り仕切ってるから、余所者が勝手に店を出したら殺されるんだぜ。」
「…そっか。」
「だから、まあ、俺はのんびり刑務所で暮らすよ。どうせ、銃を持ってる時点でアウトだからな。時々手紙を書いてくれよ。それだけでいい。」
ー外から滝音のような勢いでノックをする音。
「おい!大丈夫か!返事をしろ!おい!」
「…終わった。」
「…。」
「刑務所かあ。入りたくないなあ。」
「…怖い?」
「ああ。親友に会えなくなる退屈さが恐ろしいね。」
「おい!入るぞ!」
「…。ポチッとな。」
ータイムマシンにより時が3分戻る
「どうして時を戻した?」
「君に会えなくなるの寂しいから。」
「けど…。」
「…ねえ、とんでもなく恐ろしい事思いついたけど、聞きたい?」
「何?」
「耳貸して。ひそひそ。ひそひそ。」
「…正気か?」
「でもこれで捕まる事も誰かを殺す事もしなくていい。最高じゃない。」
「ある意味では終身刑だぞ!?いや、終わらないのか…。」
「でも親友がついてくるんだよ?」
「…お前だって、研究できなくなる…。」
「そんな事は承知で、やろうって言ってるんだよ。分かる?親友。」
「…飽きたら止めろよ。」
ータイムマシンにより時が3分戻る
「上司、外に出しちゃおうか。邪魔だし。」
ータイムマシンにより時が3分戻る
「寝転がるのはいいけど、寝ないでくれよ。ボタンが押せなくなる。」
ータイムマシンにより時が3分戻る
「もう永遠に唐揚げも焼肉も食えないのか。腹は減らないからいいんだけどさ。」
ータイムマシンにより時が3分戻る
「昨日見たテレビの話でもしようか。えーと、あれ、忘れちゃったなあ。凄く前の事に思える。」
ータイムマシンにより時が3分戻る
「もう喋る事がないな。」
「沈黙も素敵だね。」
ータイムマシンにより時が3分戻る
「…。」
「…。」
ータイムマシンにより時が3分戻る
「…。」
「…。」
ータイムマシンにより時が3分戻る
ータイムマシンにより時が3分戻る
ータイムマシンにより時が3分戻る
ータイムマシンにより時が3分戻る
ータイムマシンの電池が切れる
「どうしたんですか!?廊下で倒れて!」
「指?中に人がいるんですね?おい!助けに来たぞ!」
「君も倒れているのか!大丈夫か!?こっちはお客様か!?大丈夫ですか!?」
「…なあ親友。」
「…電池切れらしい。」
「…お前そんな声してたのか。」
「…君の方こそ…。」
「…何年あそこにいた?」
「…凄く楽しかった…。」
「…俺もさ…。隣にいるだけで…。」
ー2人の総タイムトラベル数は約2兆6千3百億回にのぼる。
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