ショットガン・マリッジ(短編小説)
「ショットガン・マリッジって知ってる?」彼女はそう聞いてきた。
「いや、知らないですね。なんすかそれ。」
「英語のスラングで、出来ちゃった婚の事よ。女の子のお父さんがショットガン持ち出す事態だから、っていう。」
ああ、なるほど。確かにアメリカらしい発想だ。僕の脳内には、顔を真っ赤にした男が、綺麗に整った歯を剥き出しにしながら、Fワードと弾丸を乱射する様が映った。彼の妻、つまりは女の子のお母さんは、お父さんやめて!と肩を掴んで懇願するが、怒りに支配された父の耳に届く事はない…。少なくとも、日本の発想では生まれない言葉だ。
「でもね、あんまりしっくりこないの。だって、ショットガンじゃなくてもいいじゃない。ガン・マリッジでも、ライフル・マリッジでもオッケーな訳じゃない。せっかく、弾があちこちに散らばるという特徴がある銃なんだから、もっとそこを生かしたネーミングにしたいわ。」
彼女は、ショットガンを構える格好をして、バーンと打つフリをした。それは、僕の心臓あたりを直撃して、撃ち抜いてしまった。顔が赤くなり、僕は恥ずかしくなって、顔を背けてしまった。
「まあ確かに、一理ありますね。ええと、やっぱり弾が散らばる感じを出すために、無秩序というか、バラバラのイメージがついてるといいですね。」
「バラバラねえ。あ、ショットガン・ラブってのは?」
「バラバラのラブ、ですか?」
「色んな人をバラバラに愛しちゃう、っていう事。ショットガンが複数人を撃ち抜くようにね。貴方達の心も、まとめて撃ち抜いちゃうぞって感じ?」
「なんか昭和な感じですけど、いいんじゃないですか?」とは言ったものの、さっきのバーンで一人すでに撃ち抜かれてるんだよなあ。全く、急にバーン、とかされるのが一番弱いって学校で習わなかったのか。僕だから致命傷で済んだが、他の人間ならどうなっているか分からない。
「…貴方は私が、ショットガン・ラブするの嫌?」
「…何でそんな事聞くんですか?まあ、一般論として複数人と同時にラブするのは、リスクはあると思いますけど。最終的には、個人の選択ですよね。ただ…。」
「ただ?」
「僕個人としては、嫌ですけどね。」
僕は後ろを向いたままだった。前を見る事なんてできなかった。頭から蒸気が出ている気がする。今なら、機関車トーマスに出演できるかもしれない。
彼女は僕の肩を掴んで、180度回した。沈黙が流れる。互いがショットガンを持って睨み合う。そして、気がつくと。
その半年後、ショットガン・マリッジになったのは、言うまでもない。
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