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1列目のライブ(エッセイ)
ライブを一列目で見た事はあるだろうか。音楽でも、お笑いでも、演劇でも、一列で見ることは特別な事だ。憧れのあの人が、すぐそばにいる。なんと幸福な事だろう。
しかし、そう簡単に一列目に行ける訳ではない。チケットは基本的に抽選制。最近では、ブロックごとに値段が違うケースも増えてきているが、そのブロックの中で抽選が行われるので同じ事である。とにかく、一列目というのは、一生に一度あるかないかの特別なものなのだ。
筆者は、2017年スピッツの武道館ライブで1列目を獲得した。最初見た時は、頭の中が???で埋め尽くされた。え、これって、一列目?マジで?え?
特別なコネを持っている訳ではない。チケットは、普通にファンクラブ 先行で手に入れただけだ。それなのに、一列目?当日まで信じられなかったし、当日一列目になっても信じられなかった。武道館クラスのライブは、アリーナにパイプ椅子が並べられ、椅子の番号を指定されるのだが、誰かが「あのー、それ私の場所ですけど」と言ってきてもおかしくないな、と思っていた。しかし、そんな人待てども暮らせどやってこない。もしかして、もしかして。
明かりが落とされ、メンバーが入ってくる。その時、ようやく気付く。意外と見えにくい。
そう、確かに1列目ではあった。しかし、そこは武道館の端っこ。確か、三輪さん側だった。体を傾けて見るのだが、かなり見えづらい。それに、武道館のステージは当然ながら高く設定されている。首を思い切りあげないと、見えない。映画館で、一列目が逆に見えにくいのと同じ現象だ。あーあ、うまい話なんてあったもんじゃない。
しかし、演奏の方は最高だったので、そんな気持ちはすぐに吹き飛んだ。軽やかにロックへの愛を歌う「醒めない」から始まり、キーが上げられたバージョンの「惑星のかけら」、代表曲「ロビンソン」などを歌い上げる姿を見ると、場所なんてもうどうでもいい。
そう、見えにくくても伝わるものがある。スピッツが大阪のフェスに出た時の事だ。会場には大きな柱があり、見えにくそうな人がいる事を察したのだろう。「見えてない人もいるかと思いますが、大したビジュアルではないので…。でも、音楽は届けますので!」かっこいい。そう思った。(そしてその見た目で大した事ビジュアルとは、言ってくれるものだなとも思った。)
良い思い出になったなあと思っていると、本編はクライマックスに突入する。「俺のすべて」は、草野さんがハンドマイクに持ち替えてステージ上を動き回る曲だ。草野さんが、こっちにきた。目が、合った?…合ったという事にしておいてほしい。本当に感動したんだから。
いやー、見えにくいとか言いましたけど、あんなん嘘ですわ。ばっちり目合いましたわ。最高ですわ、一列目。ええ。
ライブにはしばらく行けてませんけど、またいつか、会いに行くよ。