【いらっしゃいませ‼︎ またお越しくださいませ⁇ 17-3】
全ての原因は店長 (解決編?)
翌朝。
マネジャーは、病欠2日間後、元々決まっていた公休に入った。
村岡紗奈が最初に店に出勤した。
正社員なので、店と金庫の鍵は持っている。
10分後、店長の鎌田が出勤した。
パワハラな鎌田とは、既に人間関係が崩壊している紗奈だが、挨拶ぐらいは社会人の基本だと割り切って挨拶をした。
「おはようございます」
「……」
何も知らないで、シカトの鎌田。
紗奈は事実だけを淡々と話した。
「昨日、大きなクレームが入りました。その前にマネジャーが一昨日から病欠だったので、その時点で店長の自宅に電話を何度か掛けたんですが、いらっしゃらなかったようだったので」
「何、大きなクレームって?」
「義足のお客さんが、激怒して電話してきましたよ。『こんなもん、要らねぇ!』って」
「あっ‼︎ やべぇー」
「あと、ファスナーの長さも足りないし、左右、逆に付いてましたよ」
「えーっ⁉︎ 小田切さん、ミスったのー?」
バカな男だと思った。
全て自分のミスだと、まだ分かってない。
「いえ、直しの指示伝票通りに仕上がってましたよ。商品は、レジに保管してます」
鎌田は青ざめた表情で、走って休憩室から売り場に向かった。
紗奈が朝礼前にレジに釣り銭セットをするために、売り場に行くと、鎌田が伝票を見ながら電話をしていた。
クレーム客・真田の娘さんに事情説明をしていた。
開店時間となり、鎌田はお客様が入院している病院に向かった。
1時間後に戻ってきた鎌田は、自ら全店舗の在庫を検索し、同じスラックスを取り寄せる依頼をした。
縫製業者の小田切にも電話を入れ、改めて直しの依頼をしていた。
鎌田は紗奈に何も言わなかったが、夕方になって店に来た小田切と鎌田の話し声が聞こえたので、状況を知った。
謝り倒して、お客様・真田に再納品することになったらしい。
しかし、小田切は酷く不機嫌で、自分を含め、今回の契約外の直しや行動で、どれだけの人に迷惑をかけたのかと鎌田に強く言った。
閉店後の終礼で、鎌田が皆に頭を下げたが、それは建前としての謝罪で、紗奈への個別謝罪は無かった。
紗奈と一緒に病院へ付き添ったパートさんが言った。
「本当に大変だったんですよ!村岡さんだって大変な思いしたんですよ!」
鎌田はそれでも苦笑いで済ませた。
取り寄せたスラックスが店に到着したのは2日後だった。
そこから急いで小田切に裾上げと、リフォームでファスナーを正しい部分に、希望の長さで取り付けてもらった。
特殊直しなので、即日納品とはいかなかったが、数日後、なんとかお客様にお渡しした鎌田。
「いやー、今回はやばかったよ〜」と、パートさんたちに笑いながら話していた。
1番迷惑をかけた紗奈に労いの言葉もなく、小田切だけにお礼を言っていた。
年下相手(紗奈)に謝る気は全く無いままだった。
そんな鎌田を、紗奈と同じく鎌田から被害を受けている若いパートさんやアルバイト達が、呆れて見ているとも知らずに。
この物語について / 実際のところ
その後も鎌田(仮名)による、些細なことでの怒鳴る行為は続きました。
紗奈(仮名)とアルバイト女性が主なターゲットで、売り場でも、休憩室でも、事務室でも、時間や周りに誰がいてもお構いなしで怒鳴りました。
殴られるのでは?と思うほどに。
ある日、休憩室近くの縫製室のパートさんが教えてくれました。
「店長が村岡さんとかに怒鳴る日って、夫婦喧嘩した日ばかりなんだよね。怒鳴ってる日は決まって『昨日夫婦喧嘩してさぁ』とか言ってるよ。村岡さんや◯◯さん(アルバイト)に八つ当たりしてるんだと思う」
そんなことは、こちらは全く知りませんでした。
今の時代なら、完全アウトな行為です。
一昔前のことなので、こういう店長に対し、自分やアルバイトが、どこに、どう訴えれば良かったのか、当時は若かったこともあり、分からず、耐えるしかありませんでした。
それから1年も過ぎると、鎌田は他店舗へ異動となったのですが、それからしばらくして、驚きのことが起こりました。
地方都市への出張に行った時のことです。
出張は3日間ほどで、閉店後は出張先の店の正社員と、本社の社員と、他店から出張に駆けつけた紗奈を含めた数名の社員で、飲み会が行われました。
その席で、販売部長と県(エリア)の店舗全てをまとめる責任者が、私のすぐ隣で鎌田について話をしていました。
(鎌田はいませんでした)
エリア責任者は、「鎌田は全然ダメだ。売上も落としてるし」と言い、販売部長は「そうですね」と……。
エリア責任者は更に「鎌田に、店を任せるのはこれ以上、無理じゃない?」と言っていました。
そして次の人事異動で、鎌田は出向となりました。
その後、どうなったのかは分かりません。
あの当時、「パワハラ」という言葉があれば、私・紗奈(仮名)もストレスで大学病院通いと検査を受けなくても済んでいたかもしれません。