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「今、褒めるのは嘘くさいと思うのが僕の悪いところだ」

夫と喧嘩して、部屋にこもって泣きながらキョウにlineしたことがある。

「私の悪いところを教えてほしい」

夜中に突然こんなメッセージがきたら、ある種のホラーだな。
キョウからは、すぐに「情報が少なすぎるね」と返信がきた。
でも私のホラーはなおも続く。

「じゃあ、私のいいところを教えて」

「たくさんあるよ。でも、今、褒めるのは嘘くさいと思うのが僕の悪いところだ」

不思議なもので、そのメッセージを読んだとき「私にはいいところがいっぱいあるんだろうな」と思えた。

キョウと初めて会ったのは大学生のときで、そろそろ30年になる。
手紙の類は一つもないし、もらったメールやlineのメッセージは、機種変更や時間の経過とともに消えてしまったものも多い。
私の記憶に残っていればいいのだが、忘れちゃったことも多いと思うと少し寂しい。

「お父さんの何が好きだったのか、お母さんにきいてみたら?」

キョウによく父の話をする。キョウが今では父を知る数少ない人だからだ。
noteには散々書いてきたけど、私は父に複雑な感情をもっている。その感情をキョウにはよく吐き出す。
あのときも、いつものように「子供は親を選べない」という理不尽さを訴え、あんな父親をもたなくてはいけなくなったのは母の選択ミスだと責めた。
「女はしっかり父親となるべき男を選ぶべき」みたいな、しょーもないことを愚痴ってしまった。我ながら馬鹿である。
こんなつまらん話に、キョウはよく付き合ってくれたと思う。

上記の言葉は、そのとき彼がそっとくれた提案だ。
言われた瞬間、怒りが急速に萎んでいくのを感じた。
そして「ききたくても僕はもうきけないからね」と続けた彼に、自分がいかに無神経な話をしていたか激しく後悔した。
子供の時、ご両親が離婚して父子家庭で育ち、そのお父様をすでに亡くした彼にとって私の言葉はどれだけ残酷だっただろう。申し訳ないことをした。

「父が母をすごく愛していることはわかるんだけど、じゃあ、母のどんなところが父は好きだったのか。それは僕にはわからない」

なんだか怖くなって、さっそく母にきいてみた。
「面白いところ」と即答された。
そうか……面白いところか。確かに面白い人ではあったな。
なんか笑えた。そして気持ちも晴々した。

〇〇さん(夫)に優しくしてあげて。他の誰に優しくされても駄目なんだ。あなたじゃないとダメなんだ

義父が癌で余命いくばくもないとき、夫の親戚の行動で私がぶち切れたことがある。そして、その親戚に対して何も言わない夫を責めてしまった。
夫は「ごめんね。次はちゃんと注意するから」と謝るのだが、怒りが収まらない私は某SNSでその怒りをぶちまけた。
それを読んだらしいキョウから、即、連絡がきた。

「お父さんをすでに亡くしたあなたなら、今の〇〇さんがどれほど辛い状況にあるかわかるだろ?お願いだから、〇〇さんに優しくしてあげてほしい」

「他の誰が〇〇さんに優しくしても駄目だ。あなたでないとダメなんだ」

響きました。すぐに夫に泣きながら謝った。
このメッセージだけは手元に置いておかないといけない気がして、今も大切に残してる。

冷たくされるのはその人が不幸だからだ

突然、女友達に冷たくされて落ち込んで、キョウに相談したときに言われました。
彼にしては珍しくキツイ物言いに、私がひるんでしまった。
「不幸ではないと思うけど?」と否定したら「不幸は言い過ぎたな。余裕がないんだと思う」と言い換えていたけど、妙なものでこの言葉以降、彼女に対して「なんか大変なことでもあるんだろうな」と余裕をもって接することができるようになった。
彼に相談すると状況は全く変わらないが、私の視点はしっかり変わってる。本当はこれを自力でできればいいんだけど、なかなか難しい。

今は過渡期で女性に押しつけられる役割が多くなって大変だけど、僕は近い将来、女性がもっと生きやすくなる世の中は必ずくると思ってる。女性であるがゆえに抑圧されてきたあなたのような人は、そんな時代を見るべきだ

だから長生きしなさいね、と言われた。
元カノはフェミニストだったという話をきいたことがあるけれど、詳しくは知らない。当時の私は東大と京大の遠距離恋愛ってかっこいいなぐらいしか思わず、彼女のことは聞きそびれてしまった。後々、どんな女性だったのかな、と興味がわいたが今さらききにくい。
ただ保育園に落ちてしまった女性が子供を連れて出社できるよう会社の環境を整えたり、彼が他の男性よりもかなり女性に対して柔軟な姿勢をみせるのは、この彼女さんの影響なんじゃないかと思ってる。

すごい女性だったんだろうな。