とあるVTuberの独り言
マイクのカフを落とし、配信が終わった。
フゥー…
深くため息を吐く。
今日の配信も、リスナーのみんなの反応が良くて一安心だった。
特にASMRの配信では、いつもリスナーのみんなが喜んでくれるか不安になってしまう。
こればかりは、何年やっても慣れない感覚だ。
「そういえば、あの人今日もいたなー。」
最近、気になる人がコメントに現れるようになった。
男性か女性かもわからない不思議な人。
その人からコメントがつくと、眼が吸い寄せられてしまう。
今日も、ついついその人のコメントを拾って、セリフでアドリブしちゃったし。
この間の雑談枠は、スパチャ投げてくれたけど、他の人のコメントで流れちゃったフリして、わざとスルーしちゃった。画面の向こうでどんな顔してたのかな?
その後、何食わぬ顔でふつうにコメントしてたし。
「なんかムカつく。」
椅子の上で膝に顔を埋めながら、ぽつりと呟いた。
「・・・。」
小さく息を吐く。
「次の配信も来てくれるかな?次はどんな風にいじめちゃおっかな。」
そんなことに考えを巡らせて、クスリと笑ってしまう。
「他のみんなと同じようにしなきゃいけないんだけどなー。」
あの人は、私の声を知ってる。私の姿を知ってる。
「でも、私は君のことを、君の書いてくれる文字以上は知らない。」
配信終了後から動いていないモニターを眺める。そこには今日寄せられたみんなのコメントが残っていた。その中にはあの人の言葉も
「ずるい」
ぽつりとこぼす。
「君はどんな姿で、どんな声で、どんな表情でわたしのことを観てくれているのかな?」
あの人の姿や声を想像しようとするけど、上手くいかない。
「あー、お腹すいた!ラーメンでも食べながら、次のASMRのネタでも考えるかぁー。」
そう言って椅子から勢いよく立ち上がる。
そして、夕食の準備を始めながら、次の配信について考える。
また来てくれるだろうあの人に、私の全力の気持ちが届くように。