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「やらなければならなかったこと」 - The Last of Us Part Ⅱ ネタバレ解釈・感想

PS4『ラストオブアス2』のストーリー解釈・感想文です。
まだ発売して間もないので、ネタバレを見たくない人の目にも入ってしまうTwitterではなくこちらに投稿します。

一周した時点での余韻が抜けないうちに書いてます。ぐちゃぐちゃになってた感想を本編のことを振り返りながら整理してるのでちょっと長いです。


“Part Ⅱ”の受け取り方

・続編としてのスタンス
 本作をやっていて思ったのが、このゲームは人気作品ラストオブアスの続編として開かれているというよりは、世のシリーズものの中でも閉鎖的な部類で、前作をやった人だけに向けて見せられる後日談だなということ。
 プレイ中は「あの物語の後に何が起こるか、本当に見るの?」というふうに問われて、はいと答えた人だけが見に行くもので、「向き合わないままでも良いけど向き合わなくちゃいけない話」てな感じの捉え方をしていました。好きだった人にとってはそれくらい構えなきゃならないくらい重かった。
 ですがそうして向き合った先で最後に一つの納得が待っていたので、ああ、やって良かったなと思います。

・実際に描くということ
 前作ラストオブアスの終わり方は非常に好評だし、自分も大好きです。ジョエルの嘘と、それを受け取るエリー。「わかった」の真意はどうだったのか。
 パート2をやらなければ、それはそのまま思い出に残すことが出来たものでした。その後の二人に何が起こるのか。静かに暮らすのか、あるいはやってきたことの報いを受けるのか。エリーはジョエルの嘘をどう疑うのか、決別するのかそれとも共に生きてゆくのか。想像はしても、全てはフワフワしたまま。たとえ暗い未来を想像しようとも、そこにはあのエンディングの空気感が寄り添っている。

 しかし地続きの話が作られる以上、それらは具体的に描かれなければなりません。
 自分の想像はどこか温い幻想で、実際にはこの悲惨な筋書きも当然起こり得た話であったということに正面から向き合わされることになる。
 そこには想像することと実際に描かれることのあまりにもハッキリとした差があって、足を突っ込む以上はもう生半可な作りでは許されない事だったと思います。

 作中でもそういうことがありました。回想シーンでのことです。エリーは前作ラストのソルトレイクシティの病院での件について、何が起こったのか自ら調査もして、恐らくはかなりのところまで察していたはずでした。しかしそれでも、ジョエルの口から実際に真実を聞くや否や感情が抑えきれなくなってしまう。そういう差がある。

・とことん描ききったノーティ・ドッグ
 なので復讐譚となると聞いた時、不安を抱きました。あの傑作の続きをそういう作り方をして本当に大丈夫なのか。中途半端にやって陳腐にならないか。
 ですがその点に関しては杞憂だったと思っています。
 途中で2回ほど「そろそろで終わるのではないか?」という場面がありました。劇場に帰ったエリーがアビーに襲撃されるシーンもそうでしたし(今思うとプレイ時間的に早すぎたけど)、その後アビー編を終えて農場で暮らすエリーが描かれた時もです。しかし物語は終わらず、更に進んでいった。「一体この話はどこまで行ってしまうんだ?」と、止まる気には中々なれないような作りになっていたと思います。

 自分のプレイ時間は難易度ノーマルで、結構しっかり探索するスタイルで遊んで24時間半でした。サブミッションや自由に行き来し遊べるマップといった時間を使う要素があるわけでもなく、一本の道を辿り続けるリニア形式のゲームで、ほぼフル尺を用いて復讐に支配された物語をとことん行くところまで描いています。徹底的に付き合ってくれました。だからその点では本当によくやり切ったなと思います。

・予防線
 結果賛否両論というか、否の声も結構多かったりして、さらにはデリケートな社会問題にも首突っ込んでるので世間の評判はかなりカオスらしい。
 ここ数ヶ月は意識して情報断ちに努めていたんですが、遊んでみて自分も実際キツいところがある作品だよなとは割と思ってはいたけど、クリア後ちょっと人々の感想覗き見したら思ってた以上でビックリしました。

 しかし僕はこの作品には大いに心を動かす力があったと思っています。いくらか「悪い作品」なところはあるかも知れないけど、作品として悪いものだとは思いません。
 こんな続きは望んでない、趣味が悪すぎる、不快。こんな話をラスアスでやらせる必要があるのか。そんな領域に最先端のゲーム技術を注ぎ込んで、最高品質で突っ込んで行ったノーティ。
 こんな贅沢があるか。こんなに本気の特大ボリュームで憎悪と暴力を、しかも大好きなあのラストオブアスで!憎いけどありがたい。

 僕は結構どっぷり感情移入しちゃうタイプなんですが、ゲーム中に見た光景がふとした時に想起されてしばらくキツかったので、ラスアスが大好きだけど今ちょっと精神的に弱ってるなんて人はハッキリ言ってやらない方が良い。ネタバレOKで読んでくださってるプレイ済みの方とかに今更言っても遅いけど。
 前作に引き続きCERO:Z指定の作品になっていますが、今作は前作よりもはるかに表現が残忍だと思います。暴力描写の痛ましさが本当に凄まじい。個人的には作品に心を寄り添わせて楽しもうと思い続けられる許容ラインの限界スレスレというかライン上歩いてるみたいなレベルの残酷さだったので、あるのか知りませんがDLCとか次作やるとしてもこれ以上のはちょっと勘弁……。前作平気だったとしても今作は人によっては割と普通にアウトだったりすると思う。酷いことするゲームとか、単純なゴア表現ならもっと過激なものもいくらでもあるけど、嫌悪感というかショックをもたらす文脈とグラフィック品質まで込みだとここまでのは中々ないですよね。

 ということで、この作品について語りたいなと思ったので、ここに一周した現時点での解釈・感想を余韻のままに書いていきたいなと思います。
 こんな受け取り方のスタンスに長々と(自分にも自分以外に対しても)予防線を張らなきゃいけないなんて危ういよなって話ですけども、だからこそ評価したい。いや評価というか、感じたことや解釈を吐き出したい。


ゲームの感想

 ストーリーの話に本腰を入れる前に、もう少し大雑把な感想を書いておきます。

・全体的な感想
 満足度としては、最終局面までたどり着いた時点でとても高くなったかなと思います。詳しいことはストーリーの解釈のところで後述しますが、終盤はもうエリーが納得を求める旅だと感じ、わかったよ俺はエリーが行きたいところまで見届けるよという気持ちで話を追っていたので、その着地点を得られたことによる満足感。
 一本道進行なストーリー主体の3Dアクションゲームでプレイ時間24時間半ってのはボリューム多い方だと思うんですが、話の重苦しさの力で体感プレイ時間はもう3割増しくらいに感じました。結末で納得を得られたから良かったものの、そこまでの疲労感は尋常じゃなかった。思い返してみると、ちょっと中だるみというか、先の見えないままずっと進んでいくだけみたいなパートも中盤多かったかなとは思います。

・キャラクターについて
 アビーとレブは進むにつれて好きにはなってはいったんですが、もうちょっと親しみやすいキャラ造形でも良かったかなとは思いました。思想や立ち位置がどうこうというより、単純なキャラ魅力的な意味で前作まるっと分あるジョエルやエリーたちとは好感度レースでどうしても大きなハンデがあるので。あと、なんか割と変に普通の人感というか。その普通の人感がより一層、色々なものを失っていく彼女のただただ辛い側面を引き立てていたとこもあると思います。話の特性上仕方ないけどユーモアのあるキャラ成分が不足していた。そして数少ない一緒にいて楽しいキャラだと感じたジェシーとマニーが二人とも頭撃たれて即死な退場していったのが辛かった……。
 ディーナに関しては元よりあまりプレイヤーからの好感度あまり高くなるように作られてはないっぽいなと感じましたね、不憫な子ではあるんだけども。ちゃんと思い返してみると抱いていた印象よりずっと健気です。でも報われていない。
 アイザックや預言者はメモであんだけ引っ張ったんなら実際に登場した際にもう少しちゃんと掘り下げて欲しかったかなぁ。メモ系は前作より読む楽しさは弱かったかも知れません。なんだか勢力系の話ばっかりで。でも金庫の番号探しは楽しかった。あとガラス殴って割って回るのも地味に楽しかった。
 キャラについて具体的な話になるとどうもつらみな部分が滲みがちですが、でも今作もなんだかんだでみんな好きかなと思います。
 トミーの扱い方なんかはとても良かったなと感じています。復讐の過程で変わっていく姿が描れるのも良かったし、敵に回した時の強さも凄まじくて…こういう前作キャラっていいよね。
 あと最初に出てきたセスの不器用頑固ジジイ感地味に好き。それに突っかかっていっちゃうもう一人の親父も好きだしそれ見ていい加減にしてよってなる娘もよい。

・表現力
 単純なグラフィックとか、モーションとか、演出とかは流石の一言ですよね。文句なしに凄かった。これノーマルPS4でもちゃんと動くのか?モーションが本当によく出来てるので画面もとても滑らかに見える。
 キャラクターの表情の表現なんかも、無機質さなんてもうなくて、本当に来るところまで来てるよなと思います。本物の表情としてプレイヤーの心を揺さぶってくる。暴力がもたらす肉体の傷や、死体なんかの描写にも気合が入っていて、生々しさが凄い。本当に生理的な感覚に訴えてくる。そうした今の表現技術だからこそ手を出せたテーマとドラマだったかなと思います。
 武器の改造全部個別に改造動作用意してたり、細かい作り込みもエグい……。
 ただ一点、なんかやたらゆっくり棚開けるモーションはなんやねんこれって思ったけどw

 物語においては若干感染者の影が薄い今作ですが、ブローターなんかはそんな技術進化の恩恵で迫力増して前作より怖く感じました。突進が恐ろしすぎる。
 人々と感染者をぶつけられるのも面白いシステムだったので、もう少しできる場面欲しかったなって思います。ラトラーズが感染者を鎖で繋いで音楽で弄んでたあの感じは本当に人間の嫌な部分が出てましたね……。
 ストーカーとシャンブラーは嫌い……でもシャンブラーが急に出てきて焦りまくってプレイしてるこっちの顔までこわばっちゃう、なんてことも多かったのでゲームプレイのアクセントとしてヤツは優秀だったかも。
 そして何よりラットキング。最初期に感染者が運び込まれた病院とか最高にゾクゾクする設定でホラーしてたし、待ってましたよこういうの感あって怖くて楽しかったです。分離したストーカーと第二ラウンド始まった時、もう怖いのヤダって速攻ショットガンぶち込みまくったのにクソ硬くて参った。後からEXTRAの3Dモデル見られるやつで眺めて思ったけど、このラットキングのストーカーのデザイン最高に好きです。
 あと感染者じゃないけどスカーのフィジカルおばけたちは何なんだあいつら……燃える島で最後戦ったおっさんとか半端なかった。

・その他感想
 ゲームバランス的にもなかなかいい調整だったと思います。最初はステルスと探索頑張ってると物資余りすぎるなこれとか思ってたんですがそれは序盤だけで、中盤からはもうちょっと戦闘になったりして色々使いながら進んだりするとすぐ物資不足に陥る感じで、戦闘後入念に探索しても取り戻せたりしなかったりして良い具合になってるなと。布ください。

 話の暗さに苦しんだ方でも、時おりあったジョエルとエリーの思い出パートは結構楽しめたんじゃないでしょうか。そうそうこれだよこういうのが見たかったんだ。でも、ジョエルは結局……ってなりはしますが、あの関係の延長線上にある二人の姿が見られるのは本当に良かった。ブローターとの一悶着とかジョエル最高にかっこよかった。恐竜知識がジュラシックパーク由来すぎて笑った。川に突き落とすくだりとか、誕生日プレゼントとかも本当に……そしてビターな締めも。その辺のエピソードは高い完成度で纏まっていたと思います。前作最後の嘘についてのことが過去の時点で思ったよりある程度折り合いがついてたのも良い意味で驚きでした。

 ただやっぱり話がヘビーで精神的にとても疲弊したので、こういう作品はしばらくはお腹いっぱいかなって思います。明るいゲームやりたい。高難易度で二周目やろうと思ってたけどいつやろうか。
 とりあえずこの感想文を書き終わったら開発者インタビューや他人の感想を解禁して読み漁ろうと思います。人の感想はネットにいる以上チラチラと目には入ってきちゃってますが、この文はなるべくまだプレーンな状態で書きたい。


物語を満たすもの

・発端
 まず話の始まりとして何より、ジョエルの死がありました。
 前作から5年後、ジョエルとエリーはジャクソンにあるトミーの住む街へ戻り暮らしていた。その付近にアビーという女性と、その仲間たちがやって来た。アビーは単独行動中、一人遭難しかけ感染者の群に襲われ逃げていたところを、巡回中に同じく襲われ逃げている最中であったジョエルとトミーに出会い助けられる。そして二人と共に自らの仲間が待機している山荘へ避難するも、アビーらは突然二人を拘束。たった今命を救ってくれた恩人であったはずのジョエルを拷問。消息を絶った二人を探しに来たエリーの目の前で、ジョエルは殺害されてしまう。

・惨殺の表現
 ジョエルの片脚はショットガンで砕かれ、トミーは殴られ気絶。それが自分が過去に行なった何かへの報復だと察し早く終わらせればいいと構えるジョエルに、しかしアビーは脚の止血をさせた後、ゴルフクラブで何度も殴打し痛ぶります。
 仲間と手分けして二人を捜索し、偶然いち早くその山荘を見つけ一人潜入してきたエリーは多勢に無勢、取り押さえられてしまい、まさに最後の一撃を与える場に組み伏せられる。
 突然の悪夢のような光景に、やめて、殺さないで、ジョエル立ってと泣き喚き懇願するエリーですが、伏したジョエルの血に塗れ歪んだ顔は、力なく視線を向けるのみ。そして最後の一撃が振り下ろされた。
 ジョエルを殺した彼女たちは、トミーとエリーも始末していくべきという意見と二人には何もされてないだろうという意見で仲間内で少し揉めた後、二人を放置することに決め、去っていくのでした。

 非常にショッキングです。皆が薄々その可能性を感じつつも、最も望んでいなかった展開が開始早々描かれます。
 ジョエルに敵が多かったのは周知の事です。前作は家族愛を描いたものでしたが、そこで行なった事実は、世界を救おうとしていた者たちを、人類を、エリーひとりと天秤にかけ殺戮してしまうという事でした。皆が当然のように奪いあっている世界でありながらも、やはりジョエルが大量の命を奪った事の報いを受ける予感はなかったといえば嘘になります。

 それでも、ここまでやるのか。そんなにやるのか。こんなに早く。ここまでされる筋合いもあるかも知れないと知っていても、実際に、しかも最大限にやられて受け入れられるわけがない。果てしない重荷を背負ってまで手にした二人の続きを見ることはこんなに早く叶わなくなるのか。プレイ中は嫌な焦りと進んでいく死への殴打に混乱しっぱなしでした。エリーの懇願とシンクロしたプレイヤーの心に、前作のように立ち上がってはくれないジョエルのか細い目だけが覗いて、もうどうにもならないという事を突きつけてくる。死の瞬間を迎えて、頭が真っ白になりました。サウンドがそれを強調する。

 圧巻の表現でした。本当に見ていて辛かった。
 エリーがそうなったように、プレイヤーもあの死に際のジョエルの目を忘れる事はない。
 ラストオブアスの思い出はこの瞬間、もう同じ形には戻らなくなってしまいました。

・物語の動機を満たすもの
 ジョエルの死によってアビーの復讐は果たされ、そして同時に二人の復讐鬼が生まれました。エリーとトミーは激しい憎悪に駆られ、復讐を誓います。この時この二人は何もしてないだろと見逃すよう主張したオーウェンの甘さが、後に自分たちを殺す事となるのです。
 トミーはエリーをこの応酬に巻き込んではならないと考え妻マリアにエリーの制止を頼み一人先に旅立ちますが、彼女はどうせエリーを止め続ける事は無理だと考え、やむなくエリーに行く事を許可してしまいます。トミーに追いつき、無事連れ帰るためという建前を与えて。そしてエリーはディーナという仲の良い同世代の女性と共に、アビーらの手がかりを追いシアトルに向かいます。

 前作ラストオブアスでは、話の目的は唯一の免疫保持者エリーを運ぶことでした。それはもはや人類は滅びゆくのみと思われたパンデミック後の世界で、ワクチンを作り救いの可能性を見出すための希望の旅であり、そしてお互いに大切なものを失くしているジョエルとエリーが少しずつ絆を育んでいくという、暗い世界でも光を見出していく物語でした。
 しかし本作では、開始早々その愛は報いを受け蹂躙されて、その後のほぼ全てを憎しみと哀しみが覆っています。ゆえに全編に渡って非常に暗く陰惨で、時おり差し込まれる悲劇の前の回想すらも、やはりその後に待ち受ける運命を思うと暗い影を落としているように見ざるを得ません。ただひたすらに、エリーはジョエルの仇を討つための旅をするのです。
 ラストオブアス2において、物語の原動力は復讐に満たされています。


アビーという鏡

・復讐者アビー
 ラストオブアス2を語る上でやはり外せないのが、アビーという存在です。
 彼女は前作主人公ジョエルを殺した張本人でありながら、操作キャラクターとしてエリーと対をなすもう一人の主人公を務めます。事が事なだけにその実行犯を使わされるのには強い抵抗だと感じる方もいて、中々に物議を醸していたりするマッチョな女性です。

 明かされるのは物語がいくらか進んでからですが、多くの方が察していたであろう通り、アビーはジョエルに愛する人を奪われた復讐者でした。彼女はファイアフライの残党で、そしてあろうことか前作の最後、ソルトレイクシティの病院の手術室で立ちはだかったあの医者の娘です。
 彼女はマーリーンと父の口論を聞いていました。マーリーンにとって娘も同然であるエリーの命を奪うということ。覚悟の下行われるはずだった世界を救うための手術。しかし騒動を受け病院に駆けつけた彼女が目の当たりにしたのは、無残にも殺された父の姿でした。

 指導者を失い、免疫保持者を失い、ワクチンを作れる技術を持った医者を失い……希望を失ったファイアフライは解散、残党は散り散りに。アビーらの集団はワシントン解放戦線(通称WLF)という集団に受け入れてもらうことになりました。
 そしてジョエルを強く恨んでいる彼女たちは5年後、その弟でありかつてファイアフライのメンバーだったトミーがジャクソンにいるという情報を足がかりに、復讐へ向かうのでした。

・アビーは残忍か?
 ジョエルの殺され方は惨いものでした。復讐とはいえ、たった今命を救ってくれた相手から自由を奪い、ゴルフクラブで何度も叩き続けて殺すのはやはり残忍に見えます。
 しかしアビー編を体験していくと、復讐に心を燃やしてもどうにもあそこまで残忍になるような人間には思えなくなってきます。というか甘いし、割と女々しい普通の人。価値観が振り切れている人間ではない。割り切って敵対勢力との戦闘に勤しんではいても、どこか変なところで言動に常識的な部分が見えて来てしまう。甘さのある人間です。

 しかし物語開始直後、ジョエルを殺すアビーは、その人生でただ一度きりの残忍さを発揮するのです。

・復讐が壊したもの
 「復讐のむなしさ」というテーマは、復讐を描く上で定番といえるほどに重要なポイントの一つですが、本作ではその話を担っているのはアビーではないかと感じました。エリーも多くを失いますが、しかし彼女の復讐はまた別のものをメインとして背負っています。

 最初で最後の残忍さを最初に見せるので最初プレイヤーからの印象は良くないアビーですが、それはプレイヤーだけのものではありませんでした。復讐に取り憑かれた際の彼女の振る舞いは、彼女の周りの人間にも影響を与えます。
 それが特に顕著だったのがオーウェンです。オーウェンは昔からアビーが想いを寄せていた男性で、かつては両思いの関係でした。しかし復讐心から離れられなくなっていたアビーからやがて心が離れていってしまい、メルという同じくソルトレイク組のWLFメンバーの女性と恋仲になってしまいます。
 しかもタイミングが悪いことに、ジャクソンへの旅の途中でメルの妊娠がわかったようで、さらにはジャクソンの集落の大きさを見て、少し復讐に尻込みしている様子でした。そのようにブレた状態で目の当たりにした復讐に彼はショックを受けてしまいます。
 また、戦闘に参加する事こそあるものの兵士ではなく医者であるメルもまた復讐にショックを受けていたようで、アビーとはこの一件の後少し疎遠になっていたようです。戦闘慣れしているマニーでさえも、普段の戦闘とジョエルの件は別だと語っていました。
 生き抜くための戦闘と、相手に剥き出しの憎悪を向け同時に自らの内にある辛い過去と向き合うことになる復讐の間には、結果は同じ殺人でも精神的に大きな違いがある部分を認めざるを得ないのです。
 このようにしてジョエルへの復讐は、元ファイアフライ組の彼女らの関係を歪ませ、その後の事件へと発展していきます。

・オーウェン
 オーウェンはWLFの下で敵対組織のセラファイト(通称スカー)と日々戦っていましたが、ジャクソンから帰った後は特にひっきりなしに任務に出続けることで気を紛らわしていました。
 そんなある日、彼は仲間と二人で巡回中に出くわしたスカーと戦闘になり、その時に死を悟り無抵抗になったスカーの老人の目を見て、ふとポッキリと心が折れてしまいます。今まで多くのスカーを殺して来たのに、どうしても彼はその老人を殺すことができませんでした。そして遂には、その老人を殺そうとした仲間を撃ってしまい、WLFには帰らず行方をくらませてしまいます。

 オーウェンはあの奪い合いの世界にはあまり似つかわしくない、甘い人間です。人に優しい青年。同時にメルが身篭ってるにも関わらずアビーと再び関係を持ってしまうような弱い人間でもあります。ジョエルを殺した時、エリーとトミーを復讐相手じゃないだろと見逃させたのもオーウェンです。ファイアフライの行いを客観視してテロリストと呼ばれていたことを認めていたり、敵対組織のカルト集団スカーに対しても一方的に拒絶せずいくらか理解を示そうとしていました。
 どこまでも甘い人間ですが、しかし共感を持てる人も多かったはずです。アビーとメルからも好かれていたわけですが、その弱さ故に気を病み、最終的にはメル共々エリーに殺害されてしまうことになります。

・ジョエルの鏡としてのアビー
 アビーは行方をくらませたオーウェンに会うため、WLFの指導者アイザックの命令に背き拠点を抜け出して一人、心当たりのある場所へと向かいます。かつて二人が訓練の合間に抜け出して遊びに来ていた、思い出の廃水族館です。
 しかし道中、アビーはスカーに捕まってしまいます。そして他の捕まった者たちのように吊し上げられ殺されてしまうその寸前で、二人のスカーの子供たち、ヤーラとレブと出会うことになります。スカーに反逆した二人と共に逃走し、特にレブとは文化の隔たりこそあったものの、次第に関係を結んでいく様が描かれます。
 やがてスカーの島で子供らを巡りWLFと本格的に対立し、ヤーラを殺されてしまった後のレブとの二人の旅は、かつてのジョエルとエリーを彷彿とさせる構図になっているかと思います。

・全て失っても、復讐から降りるという選択
 ジョエルへの復讐から巡りめぐって、アビーはレブ以外の全てを失うことになります。ファイアフライ組の仲間たちはエリーとトミーの手によって皆殺しにされ、WLFとも衝突し、ヤーラも無残に銃殺。愛するオーウェンも、犬のアリスも、妊婦だったメルさえも。
 アビーは再びの復讐のためエリーたちが隠れ家にしていた劇場を強襲します。トミーを人質に取り、ジェシーを出会い頭に銃殺、エリーとの殺し合いの末、エリーの加勢に来たディーナをも殺害しようとしますが、エリーはディーナが妊婦であることを理由に彼女を殺さないよう懇願します。同じく妊婦だったメルを手にかけたエリーを(アビーは知らないが不本意だったとはいえ)それで許す理由なんてアビーにはありません。むしろ目には目を。
 しかしアビーはレブに諭されることで、殺さないことを選択するのです。尋常な選択ではありません。あの時見逃してやった甘さが招いた結果で、さらに多くの大切なものを、出会ったばかりのレブ以外の文字通り全てを奪われたのにも拘らず、アビーはそこで連鎖を断ち切ることを選びました。ディーナもエリーも殺さない。二度と自分の前に現れるなと。もしかしたらそうすることを通して、最後に残ったレブを守ろうとしたのかも知れません。とにかくもう、アビーは戦わない。どこまでも失くし続けることになると理解したから。

 この後にもサンタバーバラで操作パートはありますが、個人的にはアビーは復讐から降りたこの時点で、物語の中での主人公としての役目は終わったかなと感じました。あとはエリーの物語です。

・構成の是非、失うところから始まる物語
 先にも書きましたが、アビーは物語の冒頭で登場して間もなくジョエルを惨たらしく殺害します。それを後から操作させ、理解していけという事の是非。
 やはり人によっては受け付けなかったりするようです。僕はエリーに同調して、何か事情があるのは解りきってるけどそれでもこの先その時がきたら(もし分岐だったら)殺すことを選ぼう、と考えて遊びつつも、アビーを使うときはアビーに寄り添わなければ何も始まらないのも解りきってるのでどちらの視点でも感情移入して楽しめました。それゆえに劇場での戦いは、やはり凄く苦しかったです。混乱して、拳を振るうアビーに肩入れして一刻も早くそのまま全てを終わらせるのもありなのではないかと揺らぎかけて、でも胸がざわざわとして。鬼になったエリーを客観的に見るのがこんなにもつらい事だとは。頼むからもうやめてくれと。

 アビーって強く生きているような気がしてくるけど、置かれた状況考えれば考えるほどキツいですよね。父を失って、復讐の直前で好きな人から新しい彼女妊娠したわとか言われて尻込みされてヤケになっちゃって。今言うかよそれって。殺したかった相手に窮地を救われてしまって、でも殺さなければ今までの全てにおさまりはつかない。あの時の殺人は仲間を変えてしまった。新しいボスからはそれでも好きなオーウェンを切り捨てられて、メルには嫌われ地味に精神的に頼りにしていたマニーも殺され、気づけば仲間は全員死んでいて。
 ジョエルを殺さなければ、いつも寝ている時に酷く歯軋りまでしているらしいあの病院の悪夢は晴れなくて、でも結局悪夢はまだ形を変えて見続け、もっと後まで晴れてはくれなかった。
 父は覚悟の上で手術に臨もうとした、ワクチンを作れるたった一人の医者だったのに。なのに結局はそれを殺したジョエルと同じ、出会ったばかりの子供を命を投げうってまでも守ろうとする人になった。サンタバーバラではもうボロボロでした。また見逃してやったのに、それでも追ってくる復讐鬼。あのあと、ファイアフライの元へはたどり着けたのでしょうか。

 後から思ったんですが、ラストオブアスってみんな大切な人を失うところから始まってるんですよね。サラを失ったジョエルはその日から心に穴が開いていた。エリーはライリーを失い免疫を得て、いつか訪れる死を待っていた。アビーは父を失って復讐者になり、そこから失い続ける連鎖が始まった。そしてエリーはジョエルを失った。
 エリーもアビーも失うところから始まる物語なのだから、話の始まり方はこれ以外になかったように思います。アビーにもっと感情移入してからジョエルを殺すなら、プレイヤーのうちに湧き起こる復讐心が薄れて話の意味合いが変わってきてしまう。エリーの復讐心に強く同調するところから始まって、そして親しみを覚えるに連れてアビーの環境は壊れ、ジョエルに近づいていく。そういう構成になっている。


エリーの旅

・ラストオブアス2のテーマ
 ラストオブアス2において、アビーとエリーはダブル主人公であることは間違いありません。アビーの物語は復讐がもたらすものを描き、彼女は虚しいその螺旋から降りることを選びます。しかし前章で書いた通り、アビーはあの劇場でそうした時点で、この復讐の物語においては主人公の役目を終えたのだと感じました。
 ですがエリーの物語は違います。復讐の是非の話は彼女の物語の本質ではない。だからこそアビーがそれを背負っていた。物語の最終局面に至って初めて気付かされました。これはやはりラストオブアスの正統な続編であり、エリーとジョエルの関係を主軸に置いた物語だった。
 今作の出発点は何といってもジョエルの死であり、プレイヤーにとってはエリーとシンクロして憎悪と哀しみを滾らせるところから始まるもので、そしてエリーの行く道を見届けるところが終着点です。前作の結晶といえるあの嘘を、その行動を、エリーがどのように受け入れるのか。それを描いた父娘愛の物語の続編がラストオブアス2で、暗く苦しいここまでの全てはそのための旅路だったのだと思います。

・傷跡
 エリーは目の前でジョエルを惨殺されるという、この上なくショッキングな光景を目の当たりにします。それは彼女の心に消えない傷を残しました。ジョエルのことを思い出そうとしても、思い起こされるのはあの日の事ばかり。絶対にあの女を殺す。復讐の旅が始まる。
 アビーの足取りを追い、その仲間を見つけ出し、迫って行く。彼女たちがファイアフライの残党で、どうしてこんなことになったのかを理解してもエリーは止まりません。彼女はすでにあの日何があったのかを知っていた。それについて彼女自身ジョエルを一生許せないだろうと思っているけれど、あの件の復讐だったからといってアビーへの復讐心は消えることはない。

 しかしメルを殺害したときは流石にこたえてしまいます。彼女は妊婦でした。エリーは今まで多くを殺してきたが、それは皆、殺すか殺されるかの関係の相手です。復讐のためだけに拷問を受けたジョエルの喪失はそんなものでは揺るがない。復讐鬼になったエリーは行手を阻む者は皆殺してきた。
 でも、妊婦は違う。お腹の子に罪はない。これは理屈じゃないと思う。人はあのお腹の膨らみを見て、そこに特別なものを感じないようには中々出来ていない。そもそもエリーは相手があのデビットでさえ、殺害することと極限状態で真正面から向き合ったとき錯乱してしまったということや、ノラを拷問した後にもやはりかなり参ってしまっていたことを思えば、殺したということに向き合う相手が妊婦だったなら尚更こうなることでした。オーウェンがスカーの老人をどうしても殺せなかったように、そういう隙間が生まれた瞬間、何かが崩れてしまう。鬼の仮面を被っても、エリーは若い一人の人間だった。

 そこまで行ってもアビーは不在でした。追いついたトミーとジェシーに連れられ、ディーナの待つ隠れ家の劇場へ帰る。メルと同じく妊婦のディーナ。エリーの心が酷く揺らいでいるそこへ突然アビーがやってくる。ジェシーを殺しトミーの顔も撃ち抜き相対したアビーに、エリーは感情を吐露する。ジョエルは私を守ろうとしただけだと。弁明のようで、しかし復讐心が消えたわけではない。それでも言わずにはいられなかったんだと思う。その後殺意を剥き出しにして、口汚く罵って戦いながらも、エリーは間違いなく混乱の中にあった。
 エリーはその状態で、アビーとの一騎討ちに敗れてしまう。助けにくるもあっけなく殺されそうになったディーナを、妊婦だからという理由で見逃すよう懇願する。エリーにとってこんなにも惨めなことはない。かつて情けをかけて自分を見逃した相手を殺そうと迫り、相手の仲間の妊婦を殺害したのにも拘らず、今こうして自分は敗れ地面に倒れて動けず、妊婦だからという理由で仲間の命乞いをしている。そして再び見逃される。
 エリーの心は折れてしまいました。その表情はもう、いつものように強がることすらも出来ずいっぱいいっぱいで、限界だった。

・心象風景
 いくらか時が経って、傷心のエリーとディーナは農場で暮らしていました。感染者を駆除しきったエリアでしょうか。ジャクソンの人々が二人のために用意してくれたのかな。穏やかでどこか寂しげな農場は、最初エリーの妄想かと疑ってしまったほどに平和です。実際には妄想ではなく現実のようですが、でもきっとそういう心象風景的な意味合いも持たせた風景だと思います。農場には彼女ら二人と、そしてディーナと死んでしまったジェシーの子である赤子のJJとの三人で暮らしていました。そして家畜の羊たちも。
 あの終末の世界では考えられないような暮らしですが、エリーには消えない傷が残ったまま。彼女はPTSDを起こしていました。農具が倒れたちょっとした衝撃音で、狩りで射抜いた動物の悲鳴で。ジョエルの死がフラッシュバックして、パニックを起こしてしまう。
 ディーナもジェシーを失ったのに、しかし彼女はJJに対してジェシーの思い出を明るく語ります。エリーはジョエルの死に向かい合うなんてまだ到底出来ないのに。小さくてもかけがえのない幸せを今手にしているはずなのに意識のズレがある。訪問してきたジェシーの両親もいい人なのに、ジャクソンへ帰ってくるよう迫ってきたことがエリーには受け容れられなかった。そんな風に日記に綴っています。あの世界の中にあって現実離れしたこの風景から、外に出るのを恐れているのでしょうか。

 そんなある日、農場に一人の訪問者がありました。トミーです。彼はアビーに顔を撃ち抜かれましたが、片目を失いながらも一命を取り留めていました。
 彼の様子はもう、以前とは全く別のものでした。復讐に取り憑かれたトミーは、あんなに無茶をしても見放さずにいてくれたマリアとも別居状態になってしまったと言います。あの旅が彼を完全に変えてしまったのです。冷酷になれる人でありながらも見せていた仲間への優しさやユーモアももう覗かせてはくれません。
 その彼の言葉が、エリーを現実に引き戻すかのように告げます。アビーの居場所を突き止めたから、もう身体がうまく動かない自分の分まで思いを乗せて彼女を殺しに行ってくれと。戸惑うエリーの様子や、生活をエリーを壊されまいと反発するディーナの言葉も彼には関係ない。兄もジェシーも殺されて、自分も目を失い、今や人生すら捧げている。彼はただ一心に復讐に生きている。
 そんなトミーもまた、このどこか現実味のない心象風景にあってエリーの復讐心の映し鏡となっているように思えます。こんなところで何をしている。ジョエルを殺したあいつに復讐しなくては。
 トミーは彼自身であって同時に、エリーが目を背けていた己が内に渦巻くものの現れとしてやって来た。

・「やらなければならなかったこと」
 エリーはディーナの制止を振り切って、農場を後にします。せっかく生き延びられたのに、また無事帰って来られるかも分からないあなたを待たなければならないのか。愛する者ではなく、あんな奴を追いかけることを取るのか。ディーナはこれ以上失うことには耐えられない。それでもエリーはアビーを追うことを選び、目撃情報のあったカリフォルニアのサンタバーバラへ向かいます。
 もはや抱いている感情が何なのかすら解らなくなってくる。単純な憎悪ではない。何がゴールなのかも定かではない。確かなのは、行き着くところまで行かなきゃならないということだけ。止めることは出来ない。
 こうなってはプレイヤーの心情としてはもう、エリーが納得いくところまで付き合ってあげるほかない。

 サンタバーバラの地で待ち受けていたのはラトラーズという武装集団でした。そのメンバーからアビーは死んでおらず捕虜になっているという情報を聞き出したエリーは、彼らの基地に潜入します。そこに囚われていた他の捕虜たちによると、アビーは脱走を試みるも捕まり、見せしめに海岸の杭に縛りつけられているという。
 基地の屋敷は成り行きから脱走させた捕虜たちの反乱により火に包まれますが、しかしエリーにとってはアビーと己の手で決着をつけることだけが問題で、彼らがどうなろうが知ったことではない。

 その地獄の喧騒を背に海岸に向かうと、夥しい数の見せしめの杭が並んでいます。その中に、見る影もなくやつれながらも辛うじて生きながらえているアビーとレブがいた。
 杭から解放するも、アビーにはもはや戦意はない。それでもエリーは、行かせるわけには行かないと彼女を殺すことを望みます。私はもう戦わないと言う彼女に対しエリーは、気を失ったままのレブにナイフを突きつけ人質に取ってあんたがこの子を巻き込んだんだと言い放ち、強制的に戦いに引きずり込む。

 そして最後の戦いが始まります。
 アビーは全てを失い、残ったたった一つ、レブのために決して負けるわけにはいかない。この最後の障害さえ乗り切れば、因果から逃げ切り、再結集しているファイアフライという光にありつける。瀕死の身体を動かし、またしても現れたエリーに立ち向かう。
 エリーもラトラーズの対感染者用の罠により腹に大きな傷を抱えている。しかしどうなろうともう関係ない。アビーを殺すことでしか先には進めない。
 決闘はあまりにも悲惨で、痛々しくて、目を背けたくなるほどです。プレイヤーの操作するエリーのナイフが、アビーの肌を生々しく切り裂いていく。特に倒れたアビーの右胸に突き立てたナイフが、必死の抵抗を受けながらもゆっくりと肉を断ち入り込んでいき、その痛みに彼女が絶叫する様は見ているこっちが叫びそうになるほどでした。しかしすんでのところでそれを跳ね除けたアビーとエリーの戦いは殴り合いに持ち込まれる。それでも再びエリーがアビーを殴り倒し、首根っこを押さえつけ、浅瀬の海に沈めて呼吸を止めて殺そうとする。アビーはがむしゃらに暴れ抵抗し、エリーの指さえ噛みちぎったが、押さえつけられ続けて抵抗は段々と弱まっていく。それでもエリーは力を緩めない。もうすぐ終わる。これまでの全てを今終えようとしている。血と汗と海水と、憎しみと苦しみと喪失と、全部入り混じってぐちゃぐちゃになって強く力んだその顔は、見ていてあまりにも胸を締め付けられる。
 しかし最後の瞬間に脳裏を過ぎったのは、ギターを手に穏やかにこちらを見るジョエルの姿だった。エリーは涙が溢れて止まらなくなって、手を緩めた。アビーを殺すことを止めた。「もう行って」と二人を逃し、エリーは一人浅瀬に座り込んでいた。

・エリーとジョエル
 エリーは農場に帰って来た。ディーナとJJはもういなかった。きっとジェシーの両親の言う通りジャクソンに帰ったのだろう。ここを出てからどのくらいの時間が経ったのだろうか、まるであの生活は夢で、最初から存在しなかったみたいに、エリーの部屋以外はディーナと過ごした痕跡が綺麗に消え、荒れ果てている。置き手紙のひとつもない。
 エリーは唯一そのまま残っていた自分の部屋に入ると、ギターを手に取った。何か弾こうと試みるも、アビーとの戦いで指を失ったせいで、ジョエルから教わった音さえも上手く出せなくなっていた。
 エリーはギターを部屋の壁に立てかけると、そのまま農場を去っていった。


 エリーがあの時最後にフラッシュバックした光景こそが、『ラストオブアス2』の全てを清算するものでした。このゲームをプレイし、苦しみに満ちた物語を追い続けたことに意味が与えられた瞬間でした。
 エリーはもうずっと、ジョエルのことをうまく思い出せないでいました。命を奪われてしまうあの時の姿に囚われ、それが彼女を復讐の旅へ誘い続けていた。
 しかし最後の最後、決着をつけて終わらせようとしたその時にまぶたの裏を覆った記憶はそうではありませんでした。
 みんなの前でディーナとキスをして、セスが怒って、ジョエルがそれに怒って、その後の記憶。会話のきっかけはそうだったけど、二人がしたかったのはその話ではない。あの病院での、ジョエルの選択の話。

 「多分…一生そのことは許せないと思う。でも…許したいとは思ってる」
 そう語るエリーに、ジョエルは「それでいい」と一言、肯定します。

 あの時、アビーを許したこと。それは一生許すことが出来ない相手として、ジョエルを投影したアビーを許したこと。父がそれでいいと言ってくれたこと。
 アビーを許すことを通して、エリーは深層で本当の意味でジョエルを許せたということ。
 ジョエルの辿って来た道は決して綺麗なものではなかったし、だからロクな死に方は出来なかった。それはあの滅びゆく世界では仕方のないことだったし、その父の因果を継いだ娘もまた、血と苦しみに塗れた長い長い道のりを辿ることになった。
 それでも最後に、全身傷だらけになりながらも、エリーの心の最も深いところについたままだった傷は治せたんだと思う。
 もう幻影に囚われることもなくなって、エリーは自由になった。

 プレイしている最中は、自分を守るために「これは続編というよりは、向き合わなくてもいいその後の話をあえて見に来てるんだ」というスタンスで向き合っていました。そしてもし選ぶ時が来たならば、全てを断ち切るためエリーを鬼に堕とし切ってアビーを殺し、復讐を完遂する覚悟を決めていた。選んだ俺も共に地獄に堕ちてやると。
 けれども旅の終着点は、ラストオブアスが育んだ二人の絆の物語の続きだった。ジョエルも前作でそうしたように、彼女のエゴのためにあまりにも多くの人が死んでいった。しかし壮絶な障害を乗り越えて進んだ、親子愛の続編だった。決別の予感をはらんだ続きは、死別こそすれどしかし和解へ向かうものだった。
 だからやった価値はあったと思う。確かに娯楽としてすんなり受け入れられるような類の苦楽の道ではない。正直言ってそれなりの精神的苦痛も伴った。それでもやり遂げてよかったと思えるドラマを見たと強く思う。ジョエルの死も、エリーの旅の結末も、この感情の揺さぶりの強さは、ゲームとして長時間自らの体験に落とし込まれて来たからこそだと思う。だから描こうとしたことは尖っているけど、紛れもなく前作同様に、そしてその続きとして、今世代の最後を飾るのに相応しい傑作だった。


エリーは多くを失ったけど、思い出されるジョエルの姿はもう、つらいものではない。


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