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架空エッセイ

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#日常

しゃべるゴミ箱

しゃべるゴミ箱

昔、しゃべるゴミ箱を見た。どこかのテーマパークだったか。何をしゃべっていたのか、思い出せないが、たしかにいた。

作業机の隅に置く小さなゴミ箱を買ったら、そのゴミ箱がしゃべりだした。

いわく、あの、ゴミ箱だという。生まれ変わってこのサイズになった。君を覚えているよ、なんてリップサービスまでする。こちらはその存在以外てんで覚えていないし、もう夢を与える仕事は卒業したのだから少し楽にしたらどうか、と

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ビスポーク・テーラー

ビスポーク・テーラー

その店は、少し暗い裏路地にあった。一本通りに出てしまえばよく知った街なのに、その存在を今まで知らなかった。人懐っこい笑顔で出迎えてくれた赤髪の人物が、店の主だった。

店主と一時間ほど話し込む。することはそれだけで店を出る。後日、家に商品が届く。私の元へ届いたのは、柔らかな室内着だった。室内着だ、と思った。本当にそうなのかは分からない。

店での会話から、店主はその客の服を仕立ててくれる。「あなた

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