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集合

カランコロン
いつものドアベルがなると二人の人物がはいってきた。

「おおう、三田さんと渡辺じゃないすか」
はからずも関係者ステークホルダーが勢揃いだ。

「三田さん、いつもお世話になってます」
巴さんもとい雅也が三田さんに挨拶をする。
「こっちは弊社の社員の生島です」
「生島です。よろしくお願いします」
三田さんが一瞬生島さんの目を見る。
次の瞬間には破顔していた。
「はじめまして」

三田さんが生島さんもとい龍馬に握手を求める。
俺は言う。
「巴さんのところのプロジェクトもお手伝いさせてもらえることになりまして」
「なんか順風満帆だな」
「まあ、黒字化にはもうちっと働かないとっすけど」
三田さんが真剣な顔つきになっていう。
「前も言ったが、最初はフルリモートにしとけよ。家賃ってのは結構洒落にならないコストだからな」

雅也が言う。
「うちはもともとリモート前提なんで問題ないですよ」
三田さんが言う。
「うちもだ」

実にありがたい環境だ。
「とは言え、毎日のようにここで顔合わせるんでしょうけれどね」
「そいつは違いない」
雅也がそう言って笑いがその場を包んだ。

トール

「トールの方から契約書は三田さんに届いてるかと思いますが、問題ありそうです?」
俺が三田さんに問う。
「ああ、今法務部でチェックしてもらってるところだが、まあ問題ないだろう」
「健一の信頼の積み上げあってのことだもんな」
「よせやい。トールの作業は俺には逆立ちしたって出来ないんだからな」
「したくないの間違いだろ?」
うぐぐ。

そこで、三田さんが言葉を挟む。
「ファーストネームで呼び合ってるんだな」
今度は俺が即答する。
「社風です」
三田さんは満面の笑みで答える。
「それは素敵だな。うちもそうしてみるか?渡辺」
渡辺が激しめにうろたえる。
「え?田中さんを健一さんってよぶんすか?無理無理無理」
「俺は一向に構わんが?あ、でも三田さんは三田さんで」
「なんだよ。仲間はずれかよ」
また笑いがこだまする。

「自分もトールで良いですからね」
正直、トールを初対面でファーストネームで呼ぶのは難易度高いと思った。
眼光が尖すぎるんだよ。

なんとなく渡辺が観念したっぽい。
「わかりました。自分のことも啓二って呼んで下さい」
「じゃあ、よろしく啓二」
「はい」
渡辺は啓二として俺たちとヒトとヒトの関係が始まった気がした。

啓二

「プロジェクトマネージャーは初めてだよな。啓二」
「はい。不安でいっぱいっす」
若いってのは良いよなぁ。素直に言葉を発せるってのは若さの特権だ。
「その辺は俺たちがフォローする。ただ、窓口はトールな」
「よろしくお願いします」
啓二はトールに頭を下げる。
「こちらこそよろしくお願いします」
定型的な挨拶が交わされる。

「ホントは会社で面通しする予定だったんですけどね。今後ともよろしく」
トールがそういうと啓二が答える。
「むしろ良かったです。っていうか、三田さんにここにつれてきてもらったのももしかしたらって思いがあったんで」
ニヤリと俺はしながら三田さんに言う。
「コミュニケーションハードル下げる作戦っすか」
「バカ、そんなの基本中の基本だ」
ホントかなわねぇなぁ。このヒトには。

俺としてもこういうプライベートなコミュニケーションって結構意味がでかいと思ってるんだよな。
コミュニケーションを開始する負荷ってのが断然軽くなる。
龍馬にしても同じだと思う。

まずは俺たちをメンバーとして迎えてもらうことが重要だからな。

「じゃあ、新しい仲間との出会いを祝してかんぱーい」
流れで俺が音頭を取る。
何となくトールがしたほうが良い気もしたけれど、全員と面識を持ってるのは俺だしな。

「まあ、三田さんは三田さんのままっすけど」
「もはや、イジメだな。この野郎」
三田さんが俺の頭をぐりぐりする。

ママが言葉を挟んでくる。
「啓二さんは私と同じ苗字ですから、私のことも翔子と呼んでくださいね」
「いや、ママはママでいいんじゃねぇか?」
「たまには名前を読んでもらいたいんですよ」
「わかりました。翔子さん」
「今後ともご贔屓に」
得意のアルカイックスマイルで答えるママ。
「こちらこそ」
啓二が笑顔で応えた。

#歌えないオッサンのバラッド

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