米国アーティストビザ取得の経緯
これはDubstepというジャンルの音楽プロデューサー/DJとして活動する私DubscribeがアメリカでDJをするためにアーティストビザを取得した際の経緯とそこで得た情報を記したものです。
アーティストビザについて調べていく中で、知り合いのDJにアーティストビザについて知りがっている人がいる、インターネットにはアーティストビザについての情報が少ない、ということに気づき、この記事を執筆しようと思いました。
以下の内容は「このようにすればアーティストビザを取得することができる」というものではなく、あくまで私の経験と私が得た情報です。
1. 国内弁護士と相談
2022年4月中旬ごろ、ある日突然Lost Lands Music Festival(以下Lost Lands)から出演オファーが届きました。
Lost Lands とは毎年9月にアメリカのオハイオ州で開催される世界最大規模のベースミュージックフェスです。ベースミュージックとはダンスミュージック/EDMのジャンルの一つで、主にBass(低音)を強調した音楽です。
この写真は私が撮影した今年のLost Landsの様子と、念願のLost Lands出演に浮かれる私です。
Lost Lands出演のためにはアメリカのビザが必要なのかLost Lands運営に問い合わせたところ、「必要だ」と回答が来たため、アメリカのビザ取得について調べ始めました。
まずはGoogle検索で見つけたビザ申請を取り扱っている4つの国内弁護士事務所に問い合わせメールを送り、そのうち1つと面談による相談、1つとメールによる相談を行いました。
なお、相談の前にどの種類のビザの申請をすべきかの判断と、ビザ取得の可能性の判断のために、私の音楽活動や実績の説明、メディア掲載情報、渡米歴、家族情報、犯罪歴(なし)、収入などの情報を国内弁護士に提出しました。
以下、相談結果のまとめです。
アメリカで音楽活動をする場合に関係するビザは主に以下の3つとのことです。
・Bビザ
・Pビザ
・Oビザ
Bビザは90日を超えてアメリカに滞在が必要な観光目的または商用のためのビザです。Bビザは、ミュージシャンについてはレコーディングなど表に出ない活動を行うことは認められますが、有償で公衆の前でパフォーマンスすることには適用されないため、私はこれには該当しないとのことでした。
Pビザは、グループがアメリカで活動する際にそのグループのメンバー個人に適用されるビザであるため、私はこれには該当しない、とのことでした。
Oビザは科学、芸術、教育、ビジネス、スポーツなどの分野で優れた業績をあげた人に適用されるビザであり、アメリカでイベントに出演するためにはこのOビザが必要になります。
よって、私がアメリカでDJをするためにはこのOビザ(以下、アーティストビザ)を取得する必要がある、とのことでした。
国内弁護士との面談では、アーティストビザ申請のためには以下の書類や資料を米国移民局に提出してビザ申請手続きを行う必要があると説明されました。
・ポートフォリオ(知名度や実績を証明する自己紹介文)
・国際的な賞の受賞の証明(1または2つ)
・日本国内の賞の受賞の証明(1または2つ)
・申請者の活動分野において著名な推薦人による推薦状(10通:推薦人10人分)
・国内外のメディアに掲載された証明
・コンクールなどで審査員を務めた場合、その証明
・申請者が他のアーティストより高いギャラをもらっていることの証明(契約書、請求書など)
ポートフォリオと推薦状については、書き方の指南、添削、翻訳は国内弁護士が行うが基本的に書くのは私である、とのことでした。
アーティストビザはアーティストが個人で申請することはできず、申請者は組織、会社、団体、エージェンシー、マネジメント会社などアーティストの雇用主やスポンサーである必要があります。よって、アーティストは自分の雇用主やスポンサーになってくれる団体を探す必要があります(アーティストがどこかの会社等に所属している場合にはその会社等を申請者とすればいいようです)。
その雇用主も以下の書類を米国移民局に提出することが要求されます。
・その雇用主がアーティストを雇用し、サポートするということを証明する書類(雇用条件などを含む)
・アーティストビザ取得以降のその雇用主の元でのアーティストのアメリカでの活動スケジュール
・請願フォーム(ビザ申請書類)にサイン
国内弁護士の検討の結論、以下の理由で私のアーティストビザ取得は難しい、という結論に至りました。
・メディアの掲載数が少ない
・知名度、実績が足りない
・音楽による収入が十分ではない
私の感想としては「まあそうだろうな…。提出が必要な書類の条件全然満たしてないし…」と納得するものでした。
ただし、アーティストビザ取得のためには上述の書類や資料を全て提出する必要はなく、米国移民局はアーティストビザを認めるか否かを提出された書類や資料に基づいて「総合的に判断」するそうです。
したがって、上述の書類のどれか一つでも足りない場合には即アーティストビザは認められない、ということではありません。
「総合的に判断」なので、国内弁護士の説明では極端な例として、受賞履歴やメディア掲載の記事がほぼ無くても推薦状が最強(レディガガやジャスティン・ビーバーなど世界のトップスターの推薦状など)である場合、アーティストビザが認められるかもしれない、とのことでした。
ただし、ポートフォリオ、推薦状を提出しない例は過去にはなかったとのことです(これらは最低限提出が必要なものと考えてよさそうです)。
音楽による収入については、特に「音楽による年収が○万円以上」などの明確な基準はなく、音楽で高い収入を得ていることは必須の条件ではないそうです。ただし、音楽による収入が多ければそれも実績の証明の1つになるので、収入は多ければ多いほどいい、ということでした。
推薦状を書いてもらう推薦人は著名であればあるほどよいため、可能な限り著名な人にお願いすべきとのことでした。
相談の際、アーティストビザ取得にかかる費用の見積もりをもらいました。
費用合計:115万円
その内訳は、
国内弁護士費用:58万円
提携米国弁護士費用:15万円
米国移民局への納付金額:42万円
ポートフォリオと推薦状を私が日本語で書いた場合、それを米国移民局に提出するためには英語に翻訳する必要があるのですが、国内弁護士の事務所に翻訳を依頼した場合、上記見積の他に翻訳料が別途発生するとのことでした。
ちなみに、国内弁護士との面談(コロナでオンラインでしたが)は1時間4万円でした。その国内弁護士は過去にダンサー、画家、ネイルアーティストなどのアーティストビザ取得の依頼を受任し、取得成功の実績もあるとのことでした。
国内弁護士の経験上、アーティストビザの取得には早くて3~4ヶ月かかり、長引くと半年~1年くらいかかる場合もあるとのことでした。その期間はほぼ提出書類の準備に費やされます。準備が整い、申請が完了した後は通常15日以内に結果が出ます(これはプレミアムサービスというものを利用した場合であり、後ほど説明します)。
Lost Landsの開催日が9月23日であるため、5月のゴールデンウィーク開けの時点で残された期間は約4ヶ月半です。すぐにアーティストビザ取得に向けて動き始めても間に合うかどうかいうギリギリのラインだとのことでした。
上述の国内弁護士による検討結果、見積もり、時間的にギリギリ、という現実を総合的に判断して、私はアーティストビザの取得を諦めることにしました。5月のゴールデンウィーク開け直後にその旨を国内弁護士に連絡しました。
2.米国弁護士と相談
アーティストビザ取得を諦めてから1ヶ月半ほど経った6月末頃、過去にコラボもしたことがあるアメリカのDubstepプロデューサー(以下、Fさん)から「Lost Lands出演するためにアメリカのビザは取ったのか?」と連絡が来ました。
Fさんに「ビザは取っていない。ビザ取得は諦めた」と伝えると、
「俺が所属してるエージェンシーでビザ取れるぞ!お前も知ってるあいつ(ヨーロッパのDubstepプロデューサー)もうちでビザ取ったんだ!」と言われました。
しかし、国内弁護士との相談でアーティストビザ取得のハードルの高さに心が折れてた私はそのことを伝えて断ろうとしたのですが、
「あいつ(ヨーロッパのDubstepプロデューサー)がアーティストビザ取れたんだからお前の実績なら絶対に取れるぞ!」
と強めに説得され、かなり迷いましたがとりあえずFさんが所属するエージェンシーおよびそのエージェンシーと提携している米国弁護士と相談してみることになりました。
というわけで、Fさん、エージェンシーのスタッフ2人、米国弁護士2人と私の合計6人によるメールのやり取りが始まりました。エージェンシーは主にDubstep、Bass Musicのアーティストが複数所属しているアメリカのエージェンシーです。
アーティストビザ取得の可能性の判断のために、国内弁護士のときと同様に私の音楽活動や実績の説明、メディア掲載情報、渡米歴、家族情報、犯罪歴(なし)などの情報を米国弁護士に提出しました。
FさんとエージェンシースタッフはDubstepと私の実績を熟知しているので国内弁護士のときよりもより具体的に検討が可能なようでした。
検討の結果、アーティストビザを取得できる可能性は高いとのことでした。国内弁護士が検討した結果アーティストビザ取得は難しいという判断だったのに米国弁護士が検討すると真逆の結果になるのか?と戸惑いましたが、「やらない後悔よりやって後悔だ!」と自分に言い聞かせてアーティストビザ申請を行うことにしました。
なお、申請が認められずアーティストビザを取得できなかった場合でその後アメリカに入国しようとESTAを申請する場合、ESTA申請における手続きで「ビザの申請が拒否されたことがありますか?」という質問に対してはYESと答えることになります。そこがYESだとESTAが認められないらしいです(あくまで「らしい」ので要確認)。ビザ申請が拒否されるようなやつはそう簡単にはアメリカに入れないぞということらしいです。
ESTAとはアメリカに入国するときにビザを持たない人が利用するシステムです。観光でアメリカに入国する場合はほぼESTAです。よって、アメリカ入国のためにはアーティストビザ以外のビザを取得する必要があり、気軽にアメリカに入国できなくなるのでリスキーでもあります。
3. 資料集め、書類作成、申請手続き
米国弁護士からはアーティストビザ申請のためには以下の情報、書類を用意する必要がある、と指示されました。
(1)ポートフォリオ(実績、経歴などを含めた自己紹介)
(2)推薦状(3通:推薦人3人分)
(3)ストリーミングサービスの統計データ
(4)各種チャートインの証明
(5)メディア掲載の証明
(6)過去に出演したイベントのフライヤー
(7)今後の活動予定を記載した書類
(8)エージェンシーとの契約書
(9)弁護士事務所との契約書
(10)その他、ビザ取得に有効な情報
米国弁護士はFさんが所属するエージェンシーと提携しており、過去に何人もの音楽プロデューサー/DJのアーティストビザ取得を行ってきたため、国内弁護士と相談したときとは変わり、提出すべき書類として提示された内容が音楽プロデューサー/DJ用に具体的になっています。
(1)ポートフォリオ(実績、経歴などを含めた自己紹介)
国内弁護士との打ち合わせにも出てきたものと同様のもので、私の知名度や実績を証明するための自己紹介文です。エージェンシーのスタッフはDubstepと私の活動についてしっかり把握しているため、彼らがポートフォリオを書いてくれました。米国移民局に提出するものであるため、ポートフォリオは英語で記載する必要があります。内容確認のためにポートフォリオを読みましたが、修正や加筆の必要はありませんでした。
国内弁護士との打ち合わせではポートフォリオの書き方の指南、添削、翻訳は弁護士側がやるが基本的に書くのは私だと言われたので、私の労力が全然違いました。
(2)推薦状(3通:推薦人3人分)
米国弁護士から推薦状を3通(推薦人3人分)提出する必要があると言われました。
「え!国内弁護士からは10通と言われたけど全然違う!3通でいいのか?」と驚いたのですが、とりあえずは3通でいいとのことでした。
国内弁護士の10通とは何だったのか…と疑問に思いましたが、ネットで調べるとアーティストビザについて解説したサイトのほとんどが「推薦状は8~10通必要」と書いてあるので、私が相談した国内弁護士の言ってることが間違ってるというわけではなさそうです。私は以下の3人に推薦状をお願いすることにしました。
・Excision(Lost Landsの主催者であり、Dubstepシーンの絶対的頂点)
・Downlink(Excisionの盟友であり、シーンの黎明期から活躍するDubstepシーンの大物プロデューサー)
・某国内音楽プロデューサー(名前は伏せます)
正直3人共推薦状をお願いするのも躊躇してしまうほどの大物なのですが、推薦人は著名であればあるほどよいとのことでしたので、ダメ元でお願いしたら全員快く承諾してくれました。ExcisionとDownlinkはこれまでにも様々なDubstepプロデューサーのために推薦状を書いたことがあるとのことだったので理解が早く即承諾してくれました。また某国内音楽プロデューサーも事情を詳細に説明してお願いしたところ快く承諾してくれました。ほんとうにありがたかったです。
なお、推薦状は「申請者がアーティストビザ取得すべき優れたアーティストであると推薦する文書」であるため、厳密には推薦人が書くべきものなのでしょうが、そんな煩雑なことをお願いすることはできないので、アーティストビザ申請者が文書を用意し、推薦人はその文書にサインをするだけ、というのが一般的です。
推薦状はエージェンシースタッフが書いてくれました。私はエージェンシースタッフが推薦状を書くために、
・推薦人はどのような人物か
・私と推薦人の関係
・推薦人はどのようにして私を知ったか
・私と推薦人は過去にアーティスト活動においてどのような関わりを持ったか(具体的に)
などの情報をエージェンシースタッフに提供しました。
完成した推薦状を読むと、私が提供した情報以外にもインターネットで調べたであろう情報も含まれていてとても内容が充実したものでした。特に修正や加筆の必要はありませんでした。米国移民局に提出するものであるため、推薦状は英語で記載する必要があります。
推薦状は主に
・推薦人はどのような人物か
・推薦人とアーティストビザ申請者はどのような関係か
・推薦人はアーティストビザ申請者をどのように素晴らしい者だと考えているか
・推薦人はアーティストビザ申請者がアメリカで活動するにふさわしいと考えている
というような内容が記載されており、2ページほどの内容でした。
国内弁護士との打ち合わせでは推薦状の書き方の指南、添削、翻訳は弁護士側がやるが基本的に書くのは私だと言われたので、私の労力が全然違いました。
推薦人のうち海外に住んでいるExcisionとDownlinkにはこの推薦状をメールで送り、サインしたものを送り返してもらいました。日本に住んでいる某国内音楽プロデューサーについては、私が自宅に推薦状を持ってお邪魔してサインをもらいました。
(3)ストリーミングサービスの統計データ
これは私の音楽活動の実績を示す情報として扱われるものです。統計データとして下記の情報をスクショ画像で提出しました。
・Spotifyにおける総再生回数
・Spotifyにおける曲ごとの再生回数
・Spotifyにおけるリスナー数
・Spotifyにおける再生回数とリスナーの国別データ
画像はSpotify for ArtistというSpotifyにおける統計情報を見ることができるサービスにおける画面をスクショしたものです。このような画像を米国弁護士に複数提出しました。
また、Soundcloudについても同様の情報を提供しました。このストリーミングサービスにおける再生回数はとても重要なようで、私に「お前ならアーティストビザ取れるぞ!」と言ってきたFさんは私のSpotifyの再生回数とリスナー数を見てアーティストビザが取れると確信したようです。
(4)各種チャートインの証明
これも私の音楽活動の実績を示す情報として扱われるものです。
私は以下のようなBeatportのチャート画面のスクショを複数提出しました。
このチャートは2014年(8年前)のものでかなり古いですがその点は指摘されませんでしたし、「◯年以内のチャート」のように期間を限定して提出することも要求されませんでした。よって時期に関係なくあるものは全て提出するのがよいと思います。
Spotifyなどストリーミング全盛になって以降私はBeatportのチャートはほぼ見なくなっていたのですが、まだSpotifyがない頃に私の曲がBeatportのチャートで上位にいった場合、チャート画面のスクショをInstagramにせっせと投稿していたのでその画像を送りました。過去のチャートを今オンラインで見ることはできない場合もあるのでInstagramに投稿しておいてよかったです。
将来アーティストビザを取りたいと思ってるいる方にはチャート画面のスクショを保存しておくことをお勧めします。
またBeatportに限らず、iTunes、Soundcloud、オリコン、ビルボードなどチャートの情報ならどのようなものでも提出するのが望ましいです。
(5)メディア掲載の証明
インターネットメディア、雑誌、書籍、テレビなど自分が掲載されたあらゆるメディアの情報を提出します。出せるものは全部出します。これはあればあるだけいいです。出し惜しみせず全部出しましょう。
私の場合は全てこの画像のようなネット上の記事を提出しました。
以下の3つは私が提出したネットの記事の一部です。合計で10つほどのネット上の記事のリンクを提出しました。
https://edm.com/music-releases/dubscribe-excision-space-laces
https://music-newsnetwork.com/?p=31844
英語の記事については記事のリンクのみを送り、日本語の記事は記事のリンクと英訳を送りました。日本語記事の英訳は文章をDeepL(翻訳サイト)に突っ込んで一読して違和感がなければそれをそのまま送り、違和感がある場合は修正して送りました。DeepLには助けられました。自分で英訳してたら大変すぎでした。
なお、サイトが閉鎖されてしまうと自分が掲載されていた記事も見れなくなってしまうので、将来アーティストビザを取りたいと思っている方には記事のスクショを保存しておくことをお勧めします。自分の場合、NEST HQ、他いくつかのサイトが閉鎖されてしまっていたため掲載されていいた記事が見れなくなっていました。
(6)過去に出演したイベントのフライヤー
出せるものは全部出します。あればあるだけいいです。出し惜しみせず全部出しましょう。私は自分の過去の記憶、ツイート、Instagramの投稿を遡って集めれるだけ集めて、合計40枚ほどのフライヤーを提出しました。自分がメインである必要はなく、どんなに小さくても自分の名前が載っているフライヤーは全て提出しました。
(7)今後の活動予定を記載した書類
アーティストビザ申請の際には、ビザ取得以降の3年間のアメリカにおける活動の予定を提出する必要があります。ただし、音楽プロデューサー/DJは3年後に何をやってるかなんてわからない人が大半だと思います。ほとんどのプロデューサー/DJは「音楽活動を続ける限り、継続して曲をリリースして、呼ばれればDJをする」という感じなのではないでしょうか?私はそうなのですがそんなもの提出できるわけがありません。
どうするのかな?と思っていたら、この活動予定はFさんとエージェンシーが作成してくれました。3年後の2025年まで2~3ヶ月おきにEDC、Lost Landsなどアメリカにおけるフェスやイベントに出演予定であると記載されていました。そんなブッキングは来ていないし、3年後のブッキングなんて現時点であるわけがないので、ほぼ「希望」、「アメリカでこんな風に活動できたらいいな」というような書面になっていました。内容を確認したとき「大丈夫か?」と思いましたが、最終的にアーティストビザは取れたので問題なかったようです。
この「今後の活動予定を記載した書類」はとても重要で、アーティストビザの有効期限に大きく関わります。3年間というのはアーティストビザの最長有効期限であり、最長有効期限のアーティストビザが欲しい場合には3年分の活動予定を提出する必要があります。
例えば、「3年も必要ない。1年でいい」という人は1年分の活動予定を提出すればいいようです。その場合アーティストビザの有効期限は1年となります。
例えば、1つのイベント(3日間開催)に出演するためだけにアーティストビザを取得する必要がある、ということで今後の活動予定をその3日間だけにしてアーティストビザが認められた場合、ビザの有効期限は3日になってしまうので注意が必要とのことです。有効期限が3年であろうか、1年であろうが3日であろうがかかる金額、提出する書類、労力は同じです。
(8)エージェンシーとの契約書
エージェンシースタッフが「Dubscribeがエージェンシーに所属するための契約書」を作ってくれたのでそれにサインをして送りました。上述したようにアメリカのアーティストビザは個人では申請することができないという点が重要です。ビザの申請者は組織、会社、団体など雇用主である必要があります。
(9)弁護士事務所との契約書
米国弁護士事務所に仕事を依頼するための契約書です。
米国弁護士から送られてきた書面にサインをして送り返します。
(10)その他、ビザ取得に有効な情報
アーティストビザの場合、これは主にアーティストとしての知名度や実績を主張するための資料です。上述の情報以外にもアーティストとしての知名度や実績を裏付ける資料は何でも提出した方がよいようです。
私の場合、私のアメリカのDubstepシーンでの知名度はかなりの部分が大型フェスなどで大物プロデューサーに曲がプレイされていることに起因しているのでその証拠となる映像を送りました。具体的にはEDC Las Vegas、EDC Orlando、Lost Lands、Bass Canyonなどアメリカの大型フェスで私の曲がプレイされている映像です。
これについてはアーティストビザ取得に役立ったのかは不明ですが、自分で「これは使えない。意味ない」などと判断はせず、少しでも自分の知名度や実績をアピールすることができる可能性があるものは全部提出したほうがいいです。上述したように米国移民局はアーティストビザを認めるか否かを提出された書類や資料に基づいて「総合的に判断」するからです。米国弁護士が使えるかどうか判断してくれます。
また、その他の情報として、Lost Landsの詳細、Lost Lands出演のオファーメール、契約書、私の名前が乗ったLost Lands開催告知の画像なども提出しました。これにより、「こんな大規模ですごいフェスから出演依頼が来ているDubscribeはすごいアーティストなんだ!」という主張することが可能なようです。
なお、国内弁護士の話ではインタビュー記事というものはアーティストの実績を証明する有効な資料となる可能性が高いようです。
音楽プロデューサー/DJ以外のアーティスト、例えば、ダンサーや大道芸人のように人前でパフォーマンスするアーティストは過去の出演イベントの詳細、出演している様子を写した写真や動画などを提出することも有効なようです。イラストレーター、画家など作品を生み出すアーティストは自身の作品の受賞歴、展示された様子などの写した写真や動画などを提出することも有効なようです。
上述の資料を全て送り終えて1~2週間後、米国弁護士から「ここからは米国移民局への手続きとなるので、手続きを進めるには費用を振り込んでもらう必要がある」との連絡が来ました。
米国弁護士からの請求費用の合計は7760ドル(当時のレート1ドル140円換算で約109万円)でした。
その内訳は、
弁護士費用:4300ドル
米国移民局への納付金額:860ドル
プレミアムサービス料:2500ドル
輸送費などその他:100ドル
となっていました。
プレミアムサービスとは、通常ではアーティストビザ申請後審査結果が出るまで2~5ヶ月かかるところ、申請後15日以内に必ず審査結果が出る特急審査です。
私の場合、審査結果が出るまで2~5ヶ月かかってはLost Landsに間に合わないため、プレミアムサービス一択でした。2~5ヶ月はやはり時間がかかりすぎなため、プレミアムサービスを受ける人が大半のようです。
昨今の円安のせいで100万円を超えてしまいましたが、それでも国内弁護士の見積もりよりも安いです。国内弁護士の料金が高くなってしまうのは、国内弁護士に依頼する場合は国内弁護士の費用と提携する米国弁護士の費用とで二重に弁護士費用がかかってしまうからだと思います。
とはいえ、メールでやり取りしただけの海外の相手に100万円を振り込むのは躊躇します。
「振り込んだ後連絡がぱったり途絶えたらどうしよう…」
「そもそもアーティストビザには100万円出す価値があるのか?」
なんてことが頭をよぎりましたが、「ここまで来たらもうやるしかない!」と腹をくくって支払いました。
支払いの数日後、米国弁護士からI-797Cレシートという、米国移民局に申請手続きを行った証明書が届きました。ちゃんと手続きしてくれたようで安心しました。
ここから15日間は米国移民局による審査結果待ちです。
そして、申請から12日後、米国弁護士から「有効期限上限の3年間で申請が認められた」という連絡が来ました。寝てる間の午前5時頃にそのメールが届き、朝起きてメールを見たときの興奮は今でも覚えています。
また、関わってる米国弁護士とエージェンシースタッフの合計5人と私で「ありがとう!!」「おめでとう!!」「ありがとう!!」とお祭り騒ぎのように盛り上がりました(メールのやり取りだけですが)。
なお、申請が認められない場合は直ちに申請が却下されるのではなく、ほとんどの場合、追加資料の提出が求められるとのことです。アーティストビザの場合にはアーティストの知名度や実績を証明する追加資料の提出を求められる場合が多いようです。追加資料を提出後再度米国移民局による審査がなされて、再度審査結果が通知されることになります(その場合、また米国移民局に手数料を支払う必要があります)。追加資料を提出してもアーティストビザが認められない、もう提出できる資料がない、というような場合は最終的に申請が却下されてしまうようです。
4.面接
いよいよ、アーティストビザ取得の最終関門「面接」です。面接には以下の書類を持っていく必要があります。
(1)面接予約確認書
(2)DS-160確認書
(3)証明写真
(4)有効なパスポート
(5)過去10年以内の期限切れのパスポート
(6)申請が審査を通過したことの証明書
(7)ビザに応じた補足書類
(1)面接予約確認書
面接予約確認書は文字通り面接の日時、面接確認が記入された書面です。面接の予約は米国領事館の公式ホームページでオンラインで行う必要があります。申請が認められたら即オンラインで面接の予約をしましょう。面接の予約が完了すると面接予約確認書がメールで送られてきます。
予約は以下のサイトで行います。
https://www.ustraveldocs.com/jp_jp/jp-niv-appointmentschedule.asp
(2)DS-160確認書
面接を受けるためには米国領事館のビザ申請用サイトで各種情報(個人情報、パスポート情報、渡米目的、渡米予定の詳細など)の入力を面接の前に行っておく必要があります。入力は以下のサイトで行います。
https://www.ustraveldocs.com/jp_jp/jp-niv-ds160info.asp
この入力はDS-160と呼ばれ、入力が完了すると入力完了を証明する書類であるDS-160確認書がメールで送られてきます。
(3)証明写真
一般的な証明写真です。ビザ用のサイズが決まっています。
(4)有効なパスポート
アーティストビザはパスポートに貼られるので期限切れしていない有効なパスポートが必要です。
(5)過去10年以内の期限切れのパスポート
手元にある場合には持っていく、無くても特に問題はないようです。私の場合古いパスポートはなかったので持っていかなかったのですが米国領事館では何も言われませんでした。
(6)申請が審査を通過したことの証明書
アーティストビザ申請が審査を通過したことを示す書類であり、私の場合はI-797Bという書類でした。これはビザ申請手続きをした米国弁護士に対して米国移民局から送られてくるものなので、米国弁護士が私に送ってくれました。
(7)ビザに応じた補足書類
アーティストビザの場合は申請者のアーティストとしての知名度や実績を証明する資料等がこれにあたります。しかし、私は既にアーティストビザ申請の段階で知名度や実績を証明する資料を米国移民局に提出済みであったため、「同じ資料を持っていく意味はあるのか?」と思いましたが、念のため、自分の音楽活動に関する記事、過去に自分が出演したイベントのフライヤー、Spotifyの統計データ、推薦状、Lost Landsの出演オファー、契約書、ギャランティの書類を持っていくことにしました(これらは全て申請のために米国弁護士に提出したものと同じものです)。この判断が面接本番で重要になってきます…。
面接は赤坂にある米国領事館で行います。
アメリカのビザ公式サイトでは
「25cm×25cm以上のカバン、バッグ、リュックなどの持ち込みは認めらない」とありましたが実際に行ってみると普通にリュックを背負ってる人もいました。
米国領事館に入ると、まず1つめの窓口で提出書類の確認を行います。次に2つめの窓口で指紋の採取を行います。そしてその後に面接が行われます。
「面接」と聞くと、長机の向こうに複数の面接官おり、自分は椅子に座って質疑応答をする就職の面接のようなものを想像するかもしれませんが、ビザ面接はそのような形態ではありません。ドラマで見る刑務所の面会のような感じで、面接官と私とで透明の板を挟んでこっちは立ったまま面接を行います。よって、面接時間はそんなに長いものではなく、一般的には2~3分、長くて5分くらいと言われているようです。
面接官が待つ窓口の前に申請者が列を作って並んでおり、一人面接が済むと次の申請者が窓口の前に立つ、という流れ作業のように面接が行われます。
私が列に並んだときには前に20人ほど他の申請者が並んでいました。
以下、面接官(面)と私Dubscribe(私)として面接の全やり取りを掲載します。( )で面接官の行動と私の心の声も含めています。日本語で書いてますが、実際のやり取りは全部英語です。
私:Hi
面:how are you?
私:Good
面:職業は?
私:音楽プロデューサーとDJです。
面:音楽活動はどのくらいやってる?
私:約10年くらいです。
面:ステージネームは?
私:Dubscribeです。
面:スペル教えて。
私:D、U、B、S、C、R、I、B、E
面:・・・(キーボードを叩いておそらくGoogle検索して見ている)
面:あなたはアメリカで有名なのか?
私:(有名か?と聞かれると自信持ってYESとは言えないけど、否定するとビザが許可されなさそう。有名と答えてしまおう)
私:はい。私の曲がアメリカの様々な音楽フェスティバルでプレイされています。
面:例えば?
私:EDC Las Vegas、Bass Canyon、Lost Landsとか。
面:Lost 何?スペル教えて。
私:L、O、S、T、L、A、N、D、S
面:・・・(キーボードを叩いておそらくGoogle検索して見ている)
面:あなたは日本だけで知られているのではないか?
私:世界中で私の音楽が聞かれています。証拠を持ってきました。
面:見せて。
私:これがSpotifyの統計データです。
面:・・・(資料を見てる)
面:なにかしら賞を取ったことは?
私:(賞なんてとったことない。やっぱり賞って重要なのか!どうしよう。ただ「ない」とだけ答えたら心象悪そうだし、それで面接終わってしまいそう…どうする…)
私:賞は取ったことないんですがチャートの1位ならあります。証拠も持ってきました。
面:見せて。
私:これです。このようにチャートで1位になっています。
面:これはワールドワイドチャート?
私:ワールドワイドです。世界最大のワールドワイドなダンスミュージック販売サイト(Beatportのこと)です。
私:(この際だから持ってきた他の資料見せてアピールしよう)
私:それと私の活動に関する記事も持ってきました。
面:見せて。
私:これです。
面:・・・(記事を見てる)
面:賞は取ったことないということか?
私:(まだ賞のこと聞くのか…。賞めちゃくちゃ重要じゃん…やっぱり賞取ってないとビザ認めらないのか…終わった…)
私:賞はないです。
面:で、アメリカには何しに行くの?
私:イベントでDJパフォーマンスをします。
面:そのイベントはいつあるのか?
私:9月です。
面:(何かを入力している)
・・・・沈黙数十秒・・・・
私:(完全に終わった…まさか面接で落ちるとは…死…)
面:来週ビザ発行します。
私:え!!ありがとうございます!!
以上が私と面接官のやり取りです。事前にインターネットで調べた感じでは、面接は形式的なもので「アメリカに何しに行くのか?」「アメリカのどこに行くのか?」など定型的な質問しかされないとのことでしたが、実際に私が受けた面接は全然違っていてめちゃくちゃ詰められたのでとても焦りました・・・。私の前に並んでた人で私のように紙の資料を面接官に見せながら説明している人は誰もいなかったのでやはりアーティストビザはやはり特殊で取得が難しいビザなのかもしれません。
もし、自分の音楽活動に関する記事、過去に自分が出演したイベントのフライヤー、Spotifyの統計データ、チャートインの証拠などを持参していなかったら面接官の質問に的確に答えることができずアーティストビザは認められていなかったと思います。
面接に合格すると持参した書類(パスポート、証明写真など)を全て回収されます。そして、面接から約1週間後にビザが貼られたパスポートが郵送で家に届きます。
この画像にあるようにビザはパスポート内のページに貼り付けられています。アーティストビザはO1ビザなので「Visa Type/Class」に「O1」と記載されています。
私の手元にアーティストビザ付きのパスポートが届いたのはLost Lands開催の約2週間前だったのでほんとギリギリでした。少しでも判断を躊躇したり、推薦状の用意などが遅れていたらLost Lands開催までにアーティストビザを取得するのは無理だったかもしれません。
5.最後に
以上が私のアーティストビザ取得までの経緯の全てです。アーティストビザを取得できたことで私は無事Lost Landsに出演することができ、音楽活動の目標の一つを実現させることができました。
私
の場合は米国弁護士と提携しているエージェンシーに所属しているFさんが背中を押してくれ、全面的にサポートしてくれたのがとても幸運でした。人と人の繋がりは大事だなと改めて感じた次第です。
上述したようにアーティストビザはアーティストが個人では申請できないため、アーティストビザの取得を目指す方で企業、エージェンシー、マネジメント会社などに所属していない方は、まずは、
・アメリカ国内の企業、エージェンシー、マネジメント会社などに所属させてくれないかとコンタクトをしてみる。
・知人/友人のアーティストに企業、エージェンシー、マネジメント会社などに繋げてくれないか、紹介してくれないか頼んでみる。
ということから始める必要があると思います。
なお、この記事の内容はあくまで音楽プロデューサー/DJである私の場合の経緯であり、全ての方がこの様になるとは限りませんし、この通りにやればアーティストビザを取得できるというわけではありません。また、アーティストビザを申請する者の活動内容や、依頼する弁護士などによって米国移民局に提出する情報などは変わってくると思います。しかし、音楽プロデューサー/DJに限らず、バンド、ダンサー、パフォーマー、画家など様々なアーティスト活動に共通する点も多くあると思います。この記事がこれからアーティストビザの取得を目指す方のお役に立てれば幸いです。
終わり