借金と失踪。プライドチョモランマ男の逃げ癖について。
「失踪」という手段に驚いたものの、私には夫がウチを出て行った……正確に言えば私から逃げ出した理由に心当たりがあった。
夫が失踪する約2ヶ月前の2022年5月1日(日)の昼下がり。昼食を食べ終わって、私が洗濯物を畳んでいると、夫が隣りにやって来て、一緒に洗濯物を畳み始めた。
夫が洗濯物を畳むのは珍しいので、どうしたのかと思っていたら、もごもごと話を切り出した。
「借金が500〜600万円あり、自己破産を考えているが、今住んでいる物件が資産になることと、配偶者に収入があると自己破産できないので離婚してほしい。この物件も売却するのでできるだけ早く出て行ってほしい」
ちょ!……おま!!!
青天の霹靂とはこのことだ。夫が借金していたなんて、今まで全く知らなかった。いや、まぁ、それはともかく、離婚だ? 家を出ていけ???
突然のことに、脳みそが働かない。どのくらいまでに出ていってほしいのかと聞いたら「できるだけ早く。遅くとも1ヶ月以内に」と言い出した。
いやいやいやいや。そんなの無理に決まってるでしょ。
そもそも、夫婦揃って2馬力で借金を返済して、生活を立て直していくという方法もあるのではないか? と提案する私にニベもなく「そんなつもりは毛頭ない」とバッサリ。
あまりにも理不尽な言い分にイラッとして、出ていくにしても物件を探したり、引越しの用意したりしなければならないから1ヶ月というのは無理だと伝えると、
「そんなの、ウェークリーマンション契約して、荷物はトランクルームに預ければいいじゃん」と、きたもんだ。
あんた、どんだけ鬼なんだよ……。
私に迷惑かけて、良心は傷まないのかと尋ねると「傷まない」と即答された。なるほど。私に迷惑をかけても心が傷まないような奴のために、ウェークリーマンション借りてまで急いで家を出て行く理由など、私には、ない。
というわけで、今住んでいるマンションから退去しないと告げると、夫は「金銭的に厳しくて、このままだとパンクして、ローンを払いきれず、このマンションも競売されることになる。それが嫌だったら、ローン代の半分を払ってくれ。そうしたら半年間は住んでもいい」と言った。
ローン代の半分とはいくらなのか。聞いてみたところ、7万円だという。 半額で7万円ということは、14万円払っているということだ。……いや、そんなに高くないはずだ。購入する際のローンシミュレーションはたしか10万円を切っていたはず。夫の親からの頭金援助もあったので、半額で7万円というのは怪しすぎる。
そもそも、借金の理由はなんなんだ。たしか、ギャンブルとかはやらないはず。夫曰く、会社の運転資金に使ったという。2022年の2月に、広告代理店に250万円払って、自分が作ったサービス(めざましアプリ)の宣伝をしたのが大きかったらしい。
ほとんどの人がケータイを所持し、アラームを使って起床しているなか、わざわざ有料の目覚ましアプリなんて使う人はいるのだろうか。
否。
いないっすよ。……それで、広告代理店に250万円払って、夜中や早朝の番組のミニコーナーでサービスを紹介してもらって、Web上に記事広告載せてもらって、成果はゼロ。新規契約者、ZERO。
番組の中では新進気鋭の実業家的な紹介のされ方をし、その番組を焼き付けたDVDを実家で流して、さぞかし気持ちよかったことでしょうよ。
夫が失踪して、義母に電話した際も、そのDVDの話が出て「うちのせがれはアンタには勿体無い。返してもらうものを返してもらわなきゃいかんからねぇ」とうすら気味悪く言われた。
ともあれ、効果のない広告に250万円費やして借金増やして、首が回らなくなって、安直に今住んでいる物件を売ればなんとかなる、ついでにめんどくさい女房を追い出してしまえ……と思ったんでしょうよ。
夫がいかに理不尽なことを言っているか、借金の使い道があまりにも意味がなかったこと、安易に自己破産するのではなく、建設現場でもなんでも働いて、少しでも借金を減らす方法を考えるべきだ……など話したところ、夫は怒り狂ってすっくと立ち上がると、荷物をまとめ始めた。
おや。お得意の家出ですかねw
夫はプライドがチョモランマよりも高く、自分よりも目下の人間(つまり私のこと)から正論をぶつけられて逃げ場がなくなるとこれまでもたびたび家出した。
その日も荷物をまとめて出ていってしまい「あぁ〜ぁ。やっぱり逃げ出すんだな」と思っていたら、めずらしく5分もしないうちに帰ってきた。どうしたのかと尋ねると「お金がないから」と一言言って、寝室にこもってしまった。
それから失踪するまでの約2ヶ月、離婚や財産分与などについて話したが、全く話が噛み合わず、モヤモヤしながら一緒のテーブルを囲んでごはんを食べていた。
そんな矢先の失踪。
とにかく、話し合って解決することができない。都合が悪いことからはすぐに逃げてしまうのだ。