2拠点生活のススメ|第122回|どう生きるかは、どう死ぬか
ずっと気になっていた映画「ノマドランド」を見た。
アメリカの低所得者層の老人たちがノマド化しているという現実をドキュメンタリータッチで描いたこの映画、主演の2人以外は、すべて本物のノマドたち。もはや映画であることを忘れるほどのリアルな説得力があった。
主演のフランシス・マクドーマンドは、大好きな女優。本物のノマドのなかに違和感なく馴染んでいる姿にビックリ、やっぱり彼女は凄いわ。
シロウトを名優に変えてしまえる、クロエ・ジャオという監督の力も大きいのだろうな。知らなかったのだが、中国出身の女性監督のようだ。
美しい景色とは裏腹に、自由ではあるけれど、過酷さと孤独さがにじみ出る生活。しかし、屋根のある定住生活に何処か居心地の悪さを感じる人たち。そうした心情が言葉ではなく、ちょっとした仕草や表情からにじみ出てきて、痛いほど伝わってくる。そこがよりリアルさを引き出しているんだろうな。
アメリカの社会保障制度について詳しく知っているわけでは無いけれど、少なくても日本よりは自己責任の部分が多いように聞く。そうした中で、迫られた選択なのかもしれないが、日本の老人にその気概があるとは思えない。自由であると言うことは、頼らない代わりに、束縛させないということ。
主人公が劇中で子どもに質問され「ホームレスでは無く、ハウスレス」と語るように、人生を放棄してなすがままに生きているのでは無く、そこに生きるという強い意志を感じる。
そうした強い意志を感じれば感じるほど、雄大な自然の風景がより美しく見えてくる。贅沢な景色を堪能するためには、覚悟がいるということなのだろうか。
同じような年齢、境遇に近付いていく身にとって、すごく考えさせられる映画だった。息をすることが大切なのではなくて、自らの意思で生きることを大切にし、生きていると実感できることを選んだ人たち。
キャンピングカーで寝泊まりしながら、生きていくことはできなくても、同じような心構えで、歳を取っても人生を選択することはできる。悲しい性のような映画では無く、私には人としての尊厳を感じる映画だった。
「どう生きるかは、どう死ぬか」ということでもある。
「どう死ぬか」いや「どう死にたいか」、真剣に考えておきたいとおもった。