小さいからこそ、できること
プレオープンを含めると、NOMAyadoが立ち上がってもうすぐ半年になる。
まだまだお客様は多くないけれど、訪れていただいたお客様のお顔、どんなお話をしたか、みんな覚えている。宿泊予約サイトにも一切載せていないのに、SNSやGoogleマップからNOMAyadoを探し当てて、ご予約をしていただいた方ばかり。
一味違う宿に泊まりたいと考える方は、きっと見つけてくださるだろう・・・。
経営的な王道からいくと、ずいぶん的外れなやり方なんだろうけど、来られる方はNOMAyadoを楽しみにしてお越しくださる。こんなに嬉しいことは無いと思っているし、お客様に接するに連れ、自分の考えは間違っていなかったとリアルに感じるられるようになってきた。
昨晩も京都からお越しになった新婚のご夫婦と夜遅くまで、お酒を飲みながらいろんなお話をさせてもらった。お二人が出会ったなれそめや、互いのどんなところに惹かれたか、結婚に至る葛藤、さらにこれからの二人のこと・・・。
お話を聞いていて、人を愛するドキドキする気持ち、ともに生まれる不安な気持ち、そんなリアルな恋心を久しぶりに思い出した気がしました。人にはそれぞれいろんな物語があり、そこには、さまざまな示唆が潜んでいる。
小さい宿だからこそ、一人ひとりのお客様と向き合うことができる。効率は良く無いかもしれないが、そのことが自分自身にとっての喜びにも繋がっている。
お客様を見送って、部屋を掃除した後、今日は波もなく時間を持て余したので、
アマゾンプライムで何気なく選んだ「騙し絵の牙」という邦画を見た。簡単に言うと、大手出版社で創業一族の社長が急逝し、社内で次期社長を巡る覇権争いが勃発。伝統ある文芸誌路線を守るもの、新しい切り口の雑誌で強引な改革を進めるもの、さまざまな思惑で動く人間たちの騙し合いを描くというもの。
あの手、この手で、出し抜こうと切り出すアイデアが妙にリアルで、映画自体とても面白かったのだが、違う意味で私にとってとても示唆に富んだ映画となった。
覇権争いに翻弄された若い女性編集者が最後に会社を裏切り、父親が経営する街の本屋を継ぐという選択をするのだが、「クリック一つで世界中の本が買えるのが今の世の中ならば、この小さな街の本屋に足を運ばないと買えない本を置けばいい」とアッと驚く斬新な手法で、経営不信に陥っていた街の本屋を立て直す。
そんな彼女が言い放った「小さな街の本屋だから、できることがある」という言葉が妙に胸に突き刺さった。盆休みが終わって、予約が落ち着きつつある中、より多くの方に来ていただくには、どうすればいいだろう・・・などと何気に考えていたのだが、その言葉を聞いて、ふと我に帰った。
小さいからこそ、できること。
目の前のお客様と向き合い、心を通わせること。
コラムやラジオを通じて、NOMAyadoという独自の価値に共感いただくこと。
広告めいた手法を取らなくても、いいと思えばお客様が広めてくださるはず。
店主が一人で切り盛りする、たった2部屋だけの小さな宿。
ここにしか無い価値を、今声が届く方々に誠実に伝えていくのが、やはり一番だと
ロックグラスを傾ける夜です。