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黒字だった会社がクローズ。それでもなお、僕が子会社社長を続ける理由と、子会社社長に求められるマインドセットとは
僕が代表を務めているバンカブルは、デジタルホールディングスのグループ会社です。ちなみに、僕には今回も含めて2度の「子会社社長」の経験があります。
自分の資本が入っていない会社の社長は、起業して自分の資本が入っている会社社長とまったく立場が異なります。グループ判断で会社をたたまなければならないことがあることも、子会社社長ならではです。(僕の経験です。後ほど記述します)
そんな経験をしながら、なぜ僕は今もバンカブルで子会社社長をしているのか。また、子会社社長として持っておきたいマインドセットは何なのか。今回は、そのあたりのことを書いてみたいと思います。
まだ見ぬ景色が見られると思い、経営の世界に飛び込んだ
過去のnoteで触れたこともありますが、まずは僕の過去の経験をお話しさせてください。
僕が初めて子会社社長になったのは2015年。2013年から取締役をやっていたところ、社長が「辞める」と言い出したことでの就任でした。
その会社は、2011年にオプト社(現デジタルホールディングス)にグループ入りし、その後、子会社になった広告代理業をやっている会社でした。
僕が常勤の取締役になる前までは、オプトから社外役員が来ているだけの状態で、社長からの「グループインしたからには、もっといい意味でコミットしてほしい」という要望があっての体制変更でした。
声がかかったときは嬉しかったですね。かぶせ気味に「やります!」と答えたことを覚えています。良い会社をM&Aしたと評判でしたし、これまで見たことのない世界を見られるんじゃないかとワクワクしたんです。
何事も飛び込んでみないとわからない。迷ったときは難しいほうに行くのが僕のスタンスですから、二つ返事でOKしました。
ただ、いざ行ってみると、事業コンディションのギャップが大きかった。例えるならば、買った機体を見てみたら、そもそもまだ羽が付いておらず、滑走路にいて飛べていない状態だった、といったイメージです。聞いていた話と違ったわけですが、僕としては「やりがいがあるな」と感じました。
そんなこんなで2年間がんばっていたところ、社長が「辞める」と言い出したわけです。
驚きましたね。「なぜですか?」とも聞きました。ただ、言い出した以上、その判断は覆らないだろうなとも思っていました。結局、2015年から僕が代表を務めることになったんです。
グループ入りすると、その会社はもう自分の会社ではありません。そのギャップに悩み、「辞めます」となったのだろうと思っています。子会社社長という役割に「合わなかった」のかもしれませんね。
初めて社長になった僕はというと、彼のような人を魅了するタイプの社長にはなれないぞと思いつつも、彼のいいところを少しでも踏襲したいと思って取り組んでいました。結果、最初のうちは人がめちゃくちゃ辞めましたけどね。
伸びているのに、会社をクローズすることに
2度目に子会社社長を務めた会社は、8年3ヶ月取り組んだ結果、クローズするという結末を迎えました。
こちらのnoteでも書いていますので、よろしければお読みください。
あらためて説明すると、M&A当初は12人ぐらいの規模、僕がジョインしたときで18人ぐらいの規模の会社で、2021年3月時点では100人規模にまで成長していた会社でした。
CAGR(年平均成長率)も2桁で、当時は黒字でした。儲かっていたんです。事業内容も、今でも広告代理業界において絶対必要な事業だと思っています。でも、クローズが決まった。
「ふざけんなよ」と思いましたね。
でも、それは最初だけの憤りでした。グループの判断に納得できないなら、結局「自分でやれよ」の一言で終わる話だと思ったんですよね。「自分の資本が入っていない会社って、そういうものだとわかっていただろ?」と改めて思うことで、憤りは収まりました。
そもそも、グループとして判断するなら、クローズは決しておかしなことではありませんでした。確かにその事業は儲かっていましたが、グループとして一定の人的リソースと資本を投入するほどの拡大可能性があるのかと問われると、求められる期待値にはフィットしていなかったんです。
ただ、僕らがやってきたことが間違いだったわけではありません。メンバーが培ってきた知見やノウハウは、この業界のどこに行っても通用するものだと思っていました。
「間違いじゃなかったけど、外部環境としてこうなっているから、クローズすることになった。でも、みんなの価値は思っている以上に高いから、次の場所で活躍してほしい」
そう、メンバーに伝えました。
「子会社社長」に求められるマインドセット
自分の資本が入っていない会社は、社長の所有物ではありません。「自分の会社」と思う側面がある一方、「自分の会社じゃない」という意識も持ち続けなければなりません。
グループ判断で社長を務めていた会社をたたむ経験をした僕ですが、冒頭でも述べた通り、今も子会社社長を務めています。バンカブルが目指す世界観に心から共感し、全力でコミットして事業に向き合い続けている。でも、会社へのフルコミットだけでは足りないのが子会社なのではないかと考えているんです。
過去の経験も踏まえて大切にしているのは、社長を務める会社だけにコミットするのではなく、グループにもコミットすること。「グループにも」といいましたが、僕個人としては両者のコミットに差はなく、どちらもメインだという意識があり、同等のコミットをしています。
グループへのコミットを具体的にいうと、「グループを主語にする・グループ視点を持つこと」「グループの経営陣と密なコミュニケーションを取ること」です。
まずは、グループを主語にする・グループ視点を持つことから説明しますね。
僕は、チーム・部署・子会社のすべてはグループに価値をもたらす手段だと思っています。グループが成長したい方向性を考えた上で、その判断は合っているのかどうかを判断することが重要。「このグループでは」という冠が大切なんですよね。
僕はメンバーにも情報開示を積極的にするタイプで、インサイダーにならない範囲で僕が今やっていることも話します。ですから、メンバーは自分に直接関係なくても「グループがこういう方向に向かっているから、この判断があるんだな」とイメージできる。新規事業の提案がきたときも、「そのアイディアはとてもいい。でも、グループの状況としてはこうで、こういう方向性に向かっているから、今は取り組めない」と文脈を含めた説明ができます。
あとは、グループ経営陣とのコミュニケーションですね。忙しくなると疎かにしてしまいがちですが、これも本当に重要です。このときも「バンカブルの高瀬」だけではなく、「グループの高瀬」の視点を持っておく必要があります。
「バンカブルの高瀬」だけでコミュニケーションを取ってしまうと独りよがりになってしまいますし、とはいえ子会社社長だから権限は限定的だということで、結果「やーめた」ということにつながってしまうおそれがあるでしょうから。
まずは、財務面や取締役会の議事録の提出など、最低限やるべきことも押さえる。その上で、グループとして同じ方向を向きつつ、バンカブルとしてはどうすることでグループに貢献したいのかを日々丁寧に伝えていく。会話をするときは「グループ側の人間だったらこう思うんだけど」と、グループ視点を忘れずにいる。このあたりに気を配ることで、グループ側の子会社への理解が生まれ、人や資本の投入にもつながるんだと思います。
バンカブルはグループから約33億円を投資してもらっていますが、これは我々への理解がなければ出せない金額でしょう。このように、結果、子会社側もやりたいことができればいうことなしですよね。
私が今も「子会社社長」を続ける理由
前の会社をクローズさせたあと、私には「独立」「転職」「残留」の3つの選択肢がありました。その顛末についても過去のnoteで触れています。
なぜ、黒字会社のクローズというハードシングスを経験した上で子会社社長を続けているのか。その1つは自分のなかのグループ愛に気付いたからですし、人生を賭けてまでやりたいことがなかったからでもあります。
ですから、やりたいことが明確にあり、それが独立してやったほうが成功しそうなものであれば、子会社社長の道を選ばずとも良いでしょう。
でも、「グループが好き」で、「やりたいことはないけれど、経営してみたい」なら、子会社社長も良いものですよと言いたいです。人のお金を使って経営に携われるのって、美味しいでしょう?(笑)
グループを通じて世の中に貢献したい。その前提の元、私は今バンカブルにめちゃくちゃコミットしています。