ショートショート『自由な小説』
前書き
元々は、「坊っちゃん文学賞」に応募しようと思っていた作品です。しかし、ネタを思いついた時には、既に締め切りが過ぎておりました。
さすがに来年の募集開始を待つのもどうなんだろう? と思いまして、初の有料記事として、こちらで公開させていただきます。
内容的には、思いっきり皮肉を利かせた、ある種マニア向けかも知れないもの。
少しでもお楽しみ頂ければ、幸いです。
『自由な小説』
ある世界線の、近い未来かも知れない話。城ノ内金太(じょうのうちきんた)……しかし、名字の「じょう」という発音が、「○○嬢」という職業にかかる性別蔑視に抵触し、かつ、「きんた」という名前も、陰嚢を連想させるという意味でアウトだ。ちなみに、あまねく「じょう」を含む単語が規制されているため、例えば薬は、サプリメント同様に「粒」で数えるようになったし、「錠前」は、「ロック」に統一された。裁判などでの「情状酌量」などもってのほかで、「あなたの気持ちを汲みます」というのが、今や正式な法律用語になっている。
主人公の名字に話を戻すが、では、「しろのうち」ならばどうかと言えば、「シロ」は白人に繋がり、人種差別への配慮から禁止であり、同時に、犯罪の容疑者が無罪であった時に称する言葉を思わせて、犯罪容疑者の人権を鑑みた時に、やはりアウトであった。一方の名前も、「かねた」と読めば良さそうなものだが、「カネ」という言葉が、悪しき資本主義の金儲けを思わせるということで、これも一般的に使用できない。なお、「金曜日」という名称も、意地汚い金銭にまつわるとされ、「ヴィーナス曜日」に改められた。
要するに、主人公の名前はトータルで放送禁止用語なのであり、各種手続きの際は除いて、他人に名乗る時は「シウキタです」という通称略名を使うしかない。とにかく彼は、と続けたいところなのだが、明確に男性を指す「彼」、またあるいは女性を指す「彼女」という人称代名詞も、ジェンダーの平等性の観点から、「男」、「女」を含めて、放送禁止用語だ。よって、「染色体がXYの人」という正式名称を略して、「XYの人」、一方の女性は、「XXの人」と呼称するのが、現在の決まりである。ただ、これに関しては、先天的に染色体異常のあるものはどうするのか? と、今なお議論が続けられている。
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