美濃加茂市長汚職事件の真実 7
車に乗り込むと時間は18:30を過ぎていた。
先ほど同じ車内で見た時刻は朝8:00、10時間を超える「長いようで、さらに長い」取り調べだった。
この取り調べの間一度も席を立っていない事を追記しておく。
トイレすら行っていない。
身も心も疲弊していたが、事件の全てを手に入れたその武器をすぐにでも磨く必要があった。
帰宅後、朝から何も入れていない胃に2ショットのエスプレッソを流し込み、新聞社が用意したリムジンに乗り込むと「行動確認(警察の追跡)がされているはずだから気をつけて下さい」とだけ運転手に告げ車は動き出した。
高速道路を使い30分で着くであろう道のりを1時間ほどかけ告げてもいない目的地で降りるとそこには朝警察車両から電話をした記者が待っていた。
「お疲れ様です」
「なんかわかった?」
「色々と。タカミネさんのガラ(身柄)拐われたのは、どこも知らないみたいです」
「だろうな」
「じゃ、中へ」
と、誰にも後を付けられていない事を確認し店の中に入った。
(ほー、名古屋にもこんな店があるんだ)というような手を叩けば襖を開けて芸者衆が出てきそうな店だが、目の前にはむさ苦しい記者1人。
「リムジン大丈夫?バレない?」
「ちゃんと〇〇(別の新聞社)が使ってる会社ですよw」
やはりなかなか使える男だ。
「朝、電話もらってびっくりしましたよ。でも藤井がパクられたってだけで、タカミネさんがパクられたって情報入ってないしどういうことかなと思って」
「まぁ、その理由はしっかり掴んできたから、君の情報次第で小出しにするよ」
「頑張ります」
と記者が朝からかき集めた情報を精査した。
いくつか使えそうなものをピックアップし、この日始めて食べる固形物をビールで流し込んだ。
「藤井は自供したの?」
「まだしてないようです」
「俺のガラが拐われたのは知ってそう?」
「多分取り調べの中で『あっちはこう言ってる』的なブラフをかけると思うので認識してるかも」
「じゃあ自供はしないだろうな。ブラフかければかけるほど『俺は何も言ってない』って確信するだろうから(笑)」
食は進まなかったが、これから長くなるであろう戦いの為に無理矢理栄養補給をした。
「で、藤井の弁護士は誰?」
「ああ、郷原さんがなったとかならないとか」
「マジで?俺郷原さん好きだから『助けますよ』って囁いといて」
「わかりました」
と記者はどこかへ電話をかけた。
美濃加茂市長汚職事件の真実 6
https://note.com/dsplab2011/n/n6e3f1eb2c697
で出てきた弁護士こそ正に「郷原信郎」弁護士だった。
これがこの事件、
「最初の奇跡」だ。
食事を取りながら小一時間その日外で起きていた話を聞くと
「明日も朝から調べあるから行くわ。車借りといていい?」
と待機していた先ほどのリムジンに乗り込んだ。
「すいません。〇〇まで」
と名古屋有数の繁華街へと移動した。
目的地に着き
「ありがとうございました」
と運転手に告げると
「ここで待ってるのでごゆっくり」
「でも何時間かかるかわかりませんよ。多分ガッツリ飲むし」
「大丈夫です。待つのも仕事ですし料金に含まれるので」
と満更でもない運転手の表情を確認し記者から預かっていたタクシーチケットを財布の奥にしまった。
(運転手まで使える男だなw面白くなりそうだ)
とこの日初めて心が和み、車内で連絡をしていた「情報屋」の待つ店に向かった。
「どうなの」
「どうもこうもないよ。7時にガラ押さえられて県警出たのが6時半」
「マジ?容疑者じゃんww」
この日初めて少し警戒を緩めて話せる相手と会話を始めた。
「弁護士、郷原さんらしいよ」
「らしいね。俺助けるよって囁いといて」
「いけそうなの?」
「多分。証拠があれだけなら俺次第だと思う。あとは藤井がゲロっちゃわないか(自供)だけだな」
「じゃあそれも藤井にまわるようにしとくわ」
お互いの手持ちのカードを全て見せ合い、必要なものをピックアップするといつもの「ベルエポック」がテーブルに置かれた。
「流石に今日はそんなに飲めないよ」
といい、30分ほどで2本飲み干すと相方を1人残し店を出た。
待機していたリムジンに乗り込み、深夜にも関わらず見知らぬ路上駐車している車を横目に帰宅し、長いようで長過ぎる1日が終わった。