美濃加茂市長汚職事件の真実 12



今回も時系列ではなく昨日の流れの続き。


事件の方向性も見えてきて、裁判のプランも固まりつつある中、この「95000円」の扱いを郷原弁護士と話し合った。

郷原弁護士とは毎日のようにやり取りをし、事件の進め方を話あっていたが、「95000円」の話はメディアが報じるタイミングまで伝えてはいなかった。


これには意味があった。

この証拠を警察がどこで確認するかはわからないが、慎重に扱う必要があった。

これをうまく使えば無罪だし、扱いを間違えれば有罪となる。

メディアに出すタイミングにも細心の注意を払った。

(この辺りの詳細は 「美濃加茂市長汚職事件の真実 11 
https://note.com/dsplab2011/n/nd8701b802382 )


その日は名古屋の料亭で郷原弁護士と昼食を取りながら打ち合わせをした。

ひと通り打ち合わせを済ませて本題を切り出した。


「『95000円』の件は、どうなってますか?」

「それ、なんのことですか?」


(え?新聞読んでないの?)

これには愕然とした。

東京と名古屋行ったり来たりで、忙しいとは思うけど確実に俺よりは忙しくない。

さらには移動時間があるんだから新聞くらい読めよ。

私は自分のコントロールを確認する為、毎日全紙を読んでいたが、弁護士はそれくらいやっているのだと思っていた。

多分100%俺頼りになっていたんだろうが、それは流石にまずい。
後でわかる事だが郷原弁護士はこの事件が「初めての刑事事件」だったらしい。
だからこそ私が導く「素人考え」を全て受け入れ理解できたのだろうが、あまりにも「緩いな」と不安が常に付き纏っていた。


「〇〇新聞読んでないですか?」

「そんなこと書いてありました?」

「僕が書かせたんです」


「95000円」の内容 「美濃加茂市長汚職事件の真実 11 (https://note.com/dsplab2011/n/nd8701b802382


を説明し、

「これ絶対潰さないとダメですよ」

と伝えるもあまり理解していない様子。


「多分これが唯一の証拠なんです。これさえ潰せば無罪が勝ち取れる。絶対大事なポイントなんですよ。まだ藤井の調べがそこまで行ってないなら『隠し玉』にしてる可能性ありますよ」

「でもそのくらいの金、普通に持ってるでしょ?」

「いやいや、郷原さんとは生活水準が違う。僕らにとっては10万円は大金ですよ」


郷原弁護士は六本木に事務所を構えるブルジョアなので私達庶民とは金銭感覚が違った。

もし、そのまま行ってたら藤井は簡単に有罪になっていただろう。


「ここ一番大事な所なんでちゃんと潰しておいてください」

「そんなもの証拠にならないでしょ」


ここで私は大変なことに気づいた。

これを正さないと確実に有罪になる。

まわりを見渡し、個室の壁、目の前にいる郷原弁護士との距離をしっかり測り、目の前の「お気楽弁護士」にしか聞こえない声で

「郷原さん、もしかして藤井貰ってないと思ってません?」

一瞬驚いた顔をしたが、「貰ってないでしょ」と返してきた。

(これかー。これはまずいぞ。絶対この「95000円」だけは潰さないと)


「郷原さん、いいですか?ありもしない事件で警察は動きません。そこはしっかり認識してください。僕が命懸けでやってるのが無駄になりますよ」

納得のいかない顔をしていたが、私がいなければこの事件を扱うことは無理な為、渋々受け入れた。


その後毎日続く各メディアからの接待攻撃の中で、

「ああ、あの「95000円」の話、どうなってる?」

「例のアレですね、なんか親戚の冷蔵庫の中に入っていた金だって言ってますよ」

「は?どういうこと?」

「なんか親戚の家の冷蔵庫に常に自由に使える金が入っていてそれを入金したってことになってます」

「なんだ、その話」

その場で郷原弁護士に電話をし、
「どうなってるんですか?」
と尋ねると同様の答えが返ってきて、とりあえず次の日の朝、郷原弁護士の宿泊するホテルの部屋を訪ねることになった。


ホテルのロビーに着くと郷原弁護士の助手である女性弁護士が待っており、郷原弁護士の部屋まで案内された。

私は部屋に入るなり
「郷原さん、真面目にやってください。あなたの好きな『ドラマのような話』は良いですけど、これは藤井の人生がかかってるんですよ!」

「タカミネさんそれは・・」
と昨日聞いた親戚の冷蔵庫に入っている金の話を細かく説明するが

「そんなの通用するわけがないでしょ!そもそもなんで冷蔵庫貯金からわざわざお金出して銀行に入れるんですか?証拠が出ない話作ろうと思ってるんでしょうが、そんなことは通用しませんよ!」

こんな丁寧な言葉を使ったかは記憶にはないが、郷原弁護士の顔を指差し、その指を上下に振り回しながら話した記憶はある。

その後の詳細な記憶はあまりない。

何か話をしたと思うが、大した話ではなかったと思う。


(ちゃんとしてくれるかな・・)

と不安を抱えながらも、連日のハードスケジュールに戻った。

確か次の日か二日後だったと思う、毎日のように食事をし、酒を交わしている新聞社の人間が、「タカミネさん『95000円』の話変わりましたね。今度は塾の月謝だって言ってますよ」

「95000円」の原資は、当時藤井が経営していた塾の月謝ということになったらしい。

(そうか、なんとか俺の話を理解してやっとまともな設定にしたか。でも話が変わるのはまずいな・・)

と思っていると目の前の記者は身体を乗り出し、高級肉が焼かれている網に顔を被せるようにし、私にしか聞こえない声で

「でも藤井、塾の方で30万円の還付金もらってるらしいです」
と囁いた。

事業の売り上げが少ない場合このような還付金が支払われることがあり、藤井の塾は売り上げが少なかったため「30万円の還付金」を手にしていたらしい。

記者は続ける

「で、「95000円」売り上げがあるとすると還付金は貰えない計算になるので、これだと『還付金詐欺』になるんですよね。まあこれだけ供述が変遷してるとそもそも信憑性のかけらも無いですけど」


(郷原やりやがったな・・)

と心で思ったが、これでこの記者も藤井の罪を認識し、それまでは「冤罪なのでは」という方向だあったが、その後明らかに「有罪」の方向に記事が変わっていった。


このメディアを中心に「冤罪キャンペーン」を図ろうとしていたが、郷原弁護士のミスにより私が仕込んできた無罪への階段が音をたてて崩れた。


当たり前のように次の日も郷原弁護士との打ち合わせだった。

「郷原さんあの話なんですか?還付金詐欺になるって話聞いてます?」

郷原弁護士は全く私が言ってる意味を理解していないような顔をしていた。

私は「還付金詐欺」になる事情を説明し、

「郷原さんには縁遠い話かもしれませんが、還付金を貰うのは明らかに認識できる話です。これ意図して還付金をもらう為の過少申告に取られますよ。『30万円の還付金詐欺をする人間が、10万円貰わない』はどう考えても筋が通らない。なんで僕に相談してくれないんですか」

と詰め寄ると郷原弁護士はめんどくさそうに
「この事件とは関係ない。これとそれとは別の話」
と開き直った。

後に「一審無罪判決」が出た後スッパリ私を切ったのは、この時の厳しい追求が郷原弁護士のプライドを傷つけたのか、それともその前から私の「事件を掌握している上からの目線」が気に入らなかったのかはわからないが、私が命懸けで見つけ、完璧に利用した唯一の証拠は、証言がコロコロ変わり、また「還付金詐欺の証拠」となった事から、逆に藤井の罪を証明することになってしまった。


しかし幸か不幸か、いや、これは私の計画通りだ。
早い段階で私が表に出した証拠であった為、その時点で争点にはし辛い証拠として踏み躙られていた為、この証拠よりも「私が席を外したかどうかが争点」になり無罪へ導くことができた。

しかし、当然控訴審で改めて審議される際は「供述の変遷」「還付金詐欺」などこの時裏では皆が認識していた藤井の罪が明らかになるだけであった。

(この控訴審にも私は大きく関わっているのだが、それはまた別の記事で)


この日から私の裁判プランの拠り所は「自分が席を外したかどうか」という、到底証明の難しい「無理ゲー」のみとなってしまった。

(これをどう証明し、裁判長が信じる事になったのかもまた別の記事で)


その後も連日続く、全てを知ってしまったマスコミとの会食での私の口癖は「藤井は無罪だけど無実ではない」になった。

今も付き合いのある当時の記者の何人かは
「あれで藤井は真っクロってわかったけど、毎日タカミネさんと飲むの楽しかったし、この無理な事件をタカミネさんがどうするのかも楽しみで、応援するような感じでしたよ。まさか無罪判決が出るとは思わなかったですけどね」
と言ってくれる。
どうも私と酒を飲むのは楽しいらしく、この事件が終わっても当時の関係者達との付き合いは続いている。

この関係性が「一審無罪判決」の大きな要因になった。

今でもこの事件が「酒の肴」になることも多い。



そして、真偽は定かではないが郷原弁護士はどうも藤井の無実を最後まで信じていたように見える(現在も?)

その甘さこそが、私が離れた後藤井を有罪に導き、現在も悪あがきととれる(いや、この美濃加茂市長選挙のためのパフォーマンス?)「再審請求」に繋がっているのかも知れない。


実はその結果、一番辛いのは藤井なのではないだろうか。

ある意味、藤井は「郷原弁護士」の被害者であると思う。

郷原弁護士のピュアな藤井を信じる気持ちが、
「藤井に本当の話を誰にも出来なくさせているのでは」
と思う時もある。


この「真っ黒な事件」がこの後どうやって「一審無罪判決」を導くことになるのか。

まだまだこの事件は私の手の中にあり続けた。

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