見出し画像

人口推計の不確かさなどについて

つくばに住む研究者です。

今回は人口推計の不確かさについて、守谷市の人口推計と合わせて考えたいと思います。

過大規模校への対策として小学校の新設のを求める声について、市は独自に行った人口推計を根拠の一つとして否定していますが、”ある特定の条件で作成された人口推計”の危うさについて、少し考えて見たいと思います。
(なお筆者は守谷市の政策等について熟知している訳ではないことを申し添えておきます。)

まず、2020年につくば市が作成した「つくば市未来構想 - 第2期つくば市戦略プラン 2020 2024」のp5より、2020年時点でのつくば市の人口目標と、当時の国立社会保障・人口問題研究所(以下社人研)の人口推計を見てみます。つくば市も守谷市と同様に、つくばエクスプレスの開通以降で人口増加が著しい自治体の一つです。

つくば市未来構想 - 第2期つくば市戦略プラン 2020 2024 p5より

2つの推計では総人口数のピークの位置や高さが大きく違います。つくば市では社人研の推計値に比べて強気の人口目標を掲げていました。社人研の推計では人口は25万人を超えず、2035年あたりから人口減少に転じる推計でしたが、24年4月1日時点のつくば市の人口は25.6万人となり、つくば市の人口目標の数字に近い結果となりました。つくば市の推計では2048年ごろに人口のピークが設定されています。

ところで、2015年の社人研の「日本の地域別将来推計人口」では、いくつかの条件でつくば市の将来人口をシミュレートしていますので、少し確認して見ます。

つくば市の人口推計(RESASより)

図では3つの条件でシミュレーションをしていますが、各シミュレーションにおける設定は以下になります。

  • パターン1:全国の移動率が今後一定程度縮小すると仮定した推計(社人研推計準拠)

  • シミュレーション1:合計特殊出生率が人口置換水準(人口を長期的に一定に保てる水準の2.1)まで上昇したとした場合のシミュレーション

  • シミュレーション2:合計特殊出生率が人口置換水準(人口を長期的に一定に保てる水準の2.1)まで上昇し、かつ人口移動が均衡したとした(移動がゼロとなった)場合のシミュレーション。

出生率が2.1になるとした高位推計においても25万人を超えるのは2025年となり、現実のつくば市の人口推移に届きません。移住者による影響が如何に大きいかがわかります。

なぜこのように大きな差がでるのでしょうか。
人口推計をする上では、いくつかのモデルが提案されています。社人研による各自治体の推計などでは単一地域モデルがよく用いられます。これはモデルが比較的単純であり、予測にかかるコストが少ない一方で、他の地域の事情を考慮しないために人口移動の激しい自治体で誤差を生みやすい特徴があります。移動度が少ない地域で、封鎖人口を考慮する場合に特に向いているとされます(例えば日本全体の人口など)。
多地域モデルでは単一地域モデルの欠点を解決できますが、推計対象とする全ての地域間のペアについて転出率を設定する必要があります。予測には大きなコストがかかるという問題から広く実施されていませんが、守谷市などについていえば十分に試す価値があるようにも思えます。

さて、単一地域モデルについて、コーホート分析結果を利用した将来人口の推計手法については、同団体より算出手順を記した資料がありますので、簡単にシミュレーションを行って見たいと思います。ざっくり、人口推計をする上で重要な指標は次の3つです。

  1. 生残率:ある年において年齢 x~x+4歳の人口が、5年後にx+5~x+9 歳として生き残っている割合

  2. 純移動率: 5歳階級ごとの転入超過の割合

  3. 子ども女性比:t 年の 0-4 歳の人口(男女計)を、同年の15-49歳の女性人口で割った値。出生率の代替として用いられる。

専門家の研究では、単一地域モデルの人口推計において、地域の将来人口には出生よりも人口移動による影響の方がはるかに大きいことが指摘されています[1]。その”影響の大きい”純移動率ですが、将来の人口移動率は政策などによっても変化するため、正確な数字を見通すことはきわめて困難です。そのため、ほとんどの場合、モデルで使用する純移動率は「妥当な数字」で仮定しますが、この「妥当な数字」をなんとするかによって、推計は大きく変わります。純移動率を用いて将来人口推計を行う場合、特に人口変動が激しい地域では非現実的な推計値が算出されることがあることは、過去の研究でも指摘されています[2]。

それでは、移動率などの調整によって、推計にどの程度バラツキが生まれるのか、数字を変えながら実際に守谷市の人口推計をいくつかシミュレーションしてみます。(なお、このシミュレーションでは先の資料の手順を少し簡略化しています。)

まず、市区町村別年齢階級別人口のデータをe-Statより入手します。今回は最新のデータである2023年と、その5年前の2018年、更に5年前の2013年のデータを使います。男女毎にデータを整理すると、以下のようになりました。

2013-2023年の守谷市の年齢階級別人口(男性)
2013-2023年の守谷市の年齢階級別人口(女性)

データを元に、3年度分の人口ピラミッドを確認します。特に出産年齢の女性の分布に著しい偏りがないかを確認します。

守谷市の2018~2023年の人口ピラミッド

次に2018年から2023年にかけての人口の純移動率を計算します。比較のために、茨城県全体の数字と合わせてプロットします。

2018年から2023年の5年間の間の人口移動率

守谷市の年齢別の移動度をみると、特に20歳〜24歳の転出が大きく、30歳〜39歳の転入が大きいことがわかります。守谷市の人口変動は明らかに”激しく”、準移動率の影響が大きい単一地域モデルによる人口推計において、将来的に大きな誤差が生じることが懸念されます。

移動率と子供女性比率のパラメータを変動させながら、実際に人口推計を行います。以下の4つのパターンで作成します。

A. 2018-2023の移動率が継続する場合
B. 2023年以降、移動率が5年ごとに1/2になる場合
C. 2023年以降、移動率が5年ごとに1/4になる場合
D. 2023年以降、移動率が5年ごとに1/2になるが、子供女性比が5%の改善を得る場合

まずはAのパターンの結果を見てみます。

A. 2018-2023の移動率が継続する場合

このパターンは現実には少しあり得ない(研究でも指摘されているとおり、純移動率は確率を表す指標ではないため、同率で上昇し続ける仮定は非現実的)のですが、移動率の影響の大きさを比較する目的もあり、一応作成してみました。年少人口の人数はほとんど維持されることがわかります。

次にパターンBをみてみます。

B. 2023年以降、移動率が5年ごとに1/2になる場合

パターンBはパターンAよりも悲観的な想定として、人口の移動率が5年ごとに半分になると仮定します。2033年に総人口はピークとなり、以降は高齢化が加速します。生産年齢人口の割合のピークは2033年ごろです。守谷市の子供女性比は0.2程度のため、年少人口は比率と総数も減少します。高齢人口比率は2043年に30%を超え、以降も増加する見込みです。
なお、守谷市の最近の児童生徒数推計でも「将来における純移動率は落ち着く」と仮定していますが、この辺りの数字は議論になりそうにも思います。

パターンCでは、パターンBよりも更に悲観的な設定として、人口移動率が5年ごとに1/4になると仮定します。移動率が5年ごとに1/4になる場合、Bのパターンより急速に人口が減少します。

C. 2023年以降、移動率が5年ごとに1/4になる場合

最後にDのパターンをみてみます。Dでは移動率が5年ごとに半減するものの、地域の出生率が改善する場合(この例では5年後の0~4歳の人口が子供女性比*1.05で計算される場合)の人口推計は以下のようになります。

D. 2023年以降、移動率が5年ごとに1/2になるが、子供女性比が5%の改善を得る場合

パターンDでは高齢人口の占める割合が30%に達するのは2043年となり、人口のピークと重なります。以降は高齢化が進み、総人口と労働人口比率は減少するものの、年少人口比率が改善するために高齢化率は下げ止まります。

繰り返しになりますが、他の自治体の状況などを考慮しない「単一地域モデル」を用いた推計では守谷市のような人口移動率の高い自治体の人口推計では誤差が大きく出ることは研究でも指摘されています。特に転入者を増やすような政策や、出生率を改善するような政策に力を入れる場合には、地域の人口推計は社人研の高位推計を上回ることもあります。

ある一つの推計を基準としても、その推計を上回る場合・下回る場合についての補助的なプランについて議論し準備する必要があります。また、推計と乖離が無いかを確認するための指標を明確にし、定期的にモニタリングする必要があるでしょう。

それでは。

[1] 小池 司朗, 地域別将来人口推計における純移動率モデルの改良について, 人口問題研究 / 国立社会保障・人口問題研究所 編 64 (1), 21-38, 2008

[2] Smith,S.K.,Tayman,J.andSwanson,D.A.(2001)State and Local Population Projections:MethodologyandAnalysis,NewYork,KluwerAcademic.

いいなと思ったら応援しよう!