さよなら、ブラック・ジャック(8)患者目線の創作はありえるか
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ぼく「まだもうちょっと時間いけるな、もう少し話しましょう」
大塚「じゃあ、幡野さんからみて……患者からみて、医療マンガは、どうあったら『やさしい』んでしょうか。どうあるべきなんでしょうか」
ぼく「あれでしょ? ブラック・ジャックにかわる現代の医療マンガがあるとしたらどういうのがいいか、って話でしょ?」
大塚「そうそう。」
幡野「うーーーーーーーん、立場によって見方変わるからなー……」
ぼく(反る)(←最近感動するとすぐ反る)
幡野「たとえばね。『サザエさん』」
ぼく「ん?」
大塚「ん?」
幡野「サザエさんって、子どもの頃見てると、カツオの目線で見てるんですよね。ずるがしこいなあというか、頭いいなあというか、こいつすげぇなあって。でも今は嫁の実家とあんなにうまくやりくりできちゃうマスオさんのすごさに感動してますけれどね」
会場(笑)
幡野「とんでもない人格者がいるぞ、とね」
ぼく「人格者(笑)」
幡野「そうやって目線ごとに違う楽しみ方があれば……あるいは」
大塚「あー……その話でいうと、今ある医療系の創作物って、たいてい、感情移入する先が医者ばっかりなんですよね。」
ぼく「ほほう?」
大塚「たとえばドクターXって、毎回出てくる患者にそれぞれ感情移入ってしづらいじゃないですか」
ぼく「あー」
大塚「やっぱりスーパードクターみたいな方に感情移入してみるし、創作物自体がそうやって作られてますけれど……患者側に感情移入できるような創作物、マンガって、どれくらいあるんですかね?」
幡野「……ぼく……患者側に感情移入するようなストーリーって、成り立ちにくいと思うんですよ。だって患者ってたいてい高齢者でしょ。」
会場(うんうんという声がもれる)
幡野「ぼく毎週病院行ってますけど、おじいちゃんとおばあちゃんしかいないですよ。」
会場(苦笑)
大塚(笑)
幡野「小児科とかは別にしても。30代の病人は実際問題あんまり見ないし……なかなか、患者目線の物語で世の大多数の共感は得られないんじゃないかなあ。それよりも、家族側の視点であるとか、あるいはドクター側の視線の方が、みんな想像はしやすいですよね。」
ぼく「あー。」
前列にいたマンガ家・こしのりょう先生(腕を組んで考えこむ)
ぼく「患者側を描いて共感を得られるようなマンガがあったらかっこいいでしょうけれどね……。」
幡野「うん。」
ぼく「そういえば、けいゆう先生はよく、医療系のドラマの解説を書いてたりしますよね。けいゆう先生からみると、テレビでやってる医療系の創作物はどうですか?」
山本「あー……」
大塚「あ、その前に、ひとつしゃべっていいですか?」
ぼく「あっ、はい、どうぞ!(どうした大塚、今日一番の前のめりだ、何かすごいことを思いついたのか?)」
大塚「さっきのサザエさんの話なんですけど」
ぼく「そこまで戻るのかよ(笑)」
幡野「そこまで戻るんだ(笑)」
大塚「波平さんって、B’zの稲葉さんより年下なんですよ。」
ぼく「何を言っているのかな?」
幡野(今日一番の笑顔)
・・・
ぼく「気を取り直して山本先生」
山本「医療ドラマに関していえば、視聴者にどう共感してもらうかっていい視点だけじゃなくて、求めるものがもう少しはっきりしていますね。たとえば『コウノドリ』は、日本産科婦人科学会と、厚生労働省がバックアップしてて、明らかに産科疾患の啓発をするために作られていますし。」
ぼく「そうか、なるほど」
山本「一方でドクターXは、純粋にエンタメですね。誰に共感してもらうかはともかく、純粋にエンタメとして楽しむためのつくりです。」
ぼく(なんでもかんでも啓発目的で作ってるわけじゃないもんな……あたりまえだけど。創作物ひとつとっても様々な視点があって、目的が違って、ターゲットも違うわけか……)
ぼく「……堀向先生はどうですか?」
堀向「そもそもぼく医療系ドラマって集中してみられないんですよ」
ぼく「ほう」
堀向「奥さんと見てると、エピソードごとに、『これほんと!?』って聞かれるから集中して見られない」
会場(爆笑)
・・・
ぼく「さて時間もそろそろおしまいなんですけれど、最後にもういちど、幡野さんがさっきおっしゃった話に関連して。
『患者目線の情報発信は、たとえば、エンタメとして成立しうるのか』
って話。医療マンガ大賞とも絡む話なので最後にここをもう少し掘ってみます。あらためて幡野さんにもう一言いただきたいなと思うんですが。」
幡野「そうですね……自戒を込めてなんですけれど。患者目線の発信自体は、あるんですよ。数はある。アメブロとかにも闘病ブログとかいっぱいあります。」
ぼく「そうか、あることはあるのか」
幡野「でもね、闘病ブログの最大の特徴って、病人が書いて、病人が読んでるってこと。」
会場(ああーとため息があちこちから聞こえる)
幡野「ほんとは患者の視点から書かれたものは、患者ではない人に届いた方がいい。いかに患者『外』の人に伝えるかってことが大事だと思うんです。あ、ちなみに、医療者についても同じことが言えます(大塚の方を向く)」
大塚(びびる)
幡野「医療者も、論文って、医療者しか読んでないでしょう。まあ当然っちゃ当然なんですけどね。」
大塚(うなずく)
幡野「ほんとは患者も医療者も、双方の情報、双方の視点を共有することが大切なんだけど。それでね、患者の情報発信って、基本的に、怒りがベースになっちゃってるんですよね」
ぼく「ああ!」
幡野「患者はね、痛みもあるし、ストレスも多い生活になっちゃってるから、怒りっぽくなっちゃう。もちろん人にもよるけど……。患者同士は、お互いの気持ちがわかるから、共感できると思うんだけれど、患者以外の人にとって『共感できない怒り』ってのは不快でしかないんですよね」
大塚(すごい考え込んでる)
幡野「怒りってのは、共感されればすごく届くんだけど、共感が得られなかった怒りってシャットアウトされちゃうんですよね。怒りってのは共感できる人とできない人との間で、世界を二分しちゃうんですよ。」
山本(最前列でガックガクうなずいている)
幡野「患者が発信するときに、怒りをベースにしていると、健康な人には理解できない部分が出てくるので、どうしてもコミュニケーションエラーが出てくる……ほんとうに情報を伝えたいんだったら、もっと打算的に、使う感情をどれにするか考えた方がいいんじゃないかと思いますけれどね。」
ぼく「ああ……ヒントが多いなあ……」(←当日の会場音声を聞くとほんとうにこうやって言ってる)
・・・
ぼく「ああ……もっと聞きたいな……でも時間がないんだよな……ううー……大塚先生……締めの言葉」
会場(笑)
大塚(マイクを持って躊躇せずに前を向いて朗々と)「(このイベントの)第二回をやりましょう。みなさん、ぜひ」
ぼく「ああん、賢い~~~」(←突然のオネエ)
会場(拍手)
(イベントのログはここまでです。次回は簡単にまとめと雑感)(2019.12.22)
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