先々々々々々々々々々々週の國松
先々々々々々々々々々々週。 2020年1月16日。 三省堂書店神保町本店で、ぼくは、鬼才・國松と対談した。
まだ世の中では対談が許されていたころのことである。
どうしたログミー。はやく記事を出せ。
もうネタがないんだ。3か月前だぞ。こちとらかれこれ11回もクニマツを持ち上げている。それこそ #國祭り だ。
(※國祭り、というのは、この4月に4冊の単行本+小説の連載をはじめるという作家より書いてる内科医・國松の脳内フェスティバルをあらわしたハッシュタグです)
対談の文字おこしを校正して返してしばらくたつぞ。早く記事を出せ。
しょうがないので今日は國松の著作の中からぼくが本気で唸ったワンフレーズについて語る。
これはものすごい名著なので心して読んで欲しい。Amazonレビューが低いのが信じられないが、レビュアーのコメントを見ると「星ふたつをつけているくせにほめている」なんてのもあるので、たぶんAmazonレビューのやり方がわかってない人が「どうしてもほめたくて、はじめてコメントしました」みたいなことなんだろう。ありがた迷惑である。
この名著の188ページ、Section 4の冒頭部分を抜粋して引用する。
すこし考えればわかるが、不明熱の完全無欠の診断法はない。本項では、緻密な徹底的検討を行うやり方ではなく、「不明熱の初期」という概念を取り入れ、「不明熱の迅速診断」を最大の目標とする。その実践の内訳としては大まかに、
・素早く80点を取る
・その速さで節約できた時間で、例外的事項について慎重かつ個別に検討する
としこれを戦略の概略とする。
さて専門的知識がないと何言ってるのかわからないかもしれないが、ぼくがここで本気で感動するのは、彼の日本語能力の高さだ。
これは医学の専門書であるという前提で聞いて欲しい。
句読点のタイミングが完璧である。
箇条書きを使うポイントがキワだってうまい。
よくある医書で、これと全く同じ事を書こうと思うと、たいていの医者は次のように書く。
不明熱に対する絶対的診断法は存在しない。しかし「不明熱の初期」という概念を導入することで確定診断には到らずとも初期の治療方針を大枠で決定することができる。初動が確定すればその分鑑別診断に多くの時間を費やすことができassessmentが増え、追加検査などのplanも検討できる(出典:なんだかめんどくさい長ったらしい英語)。
ちょっと見比べてみてほしい。國松は、こう。
すこし考えればわかるが、不明熱の完全無欠の診断法はない。本項では、緻密な徹底的検討を行うやり方ではなく、「不明熱の初期」という概念を取り入れ、「不明熱の迅速診断」を最大の目標とする。その実践の内訳としては大まかに、
・素早く80点を取る
・その速さで節約できた時間で、例外的事項について慎重かつ個別に検討する
としこれを戦略の概略とする。
ふつうのおじさんはこう。
不明熱に対する絶対的診断法は存在しない。しかし「不明熱の初期」という概念を導入することで確定診断には到らずとも初期の治療方針を大枠で決定することができる。初動が確定すればその分鑑別診断に多くの時間を費やすことができassessmentが増え、追加検査などのplanも検討できる(出典:なんだかめんどくさい長ったらしい英語)。
わかりますか?
國松の本ってのは「読む気が起きる」のだ!
これに対して普通の医学書はまず「読む気が起きない!」
ぼくはこの差は、國松の異常な俯瞰能力……すなわち著者でありながらも同時に第一の読者であろうとする姿勢に依拠しているのではないかと推察するが、詳細な検討は今後の研究を待ちたい(医者っぽい書き方)。
(来週に続く。)