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世界最高のベストセラーも通読はなかなかされない
2021年7月1日、日本時間20時。
私たち(大須賀、ヤンデル)は、TwitterのSpacesという機能を使って、14時間の時差を乗り越えてウェブラジオで座談会……というか、おしゃべりをしました。
コーディネーターとしてたらればさんをお招きし……
告知用の画像をたらればさんに作ってもらい……
話すお題もほとんどたらればさんに考えてもらいました。ありがたいことです。でも、犬がゲラゲラ笑うと回線が落ちる。
一夜限りのトークイベントは、ハッシュタグ #SNS医療話 で盛り上がりました。Twitter Spacesはアーカイブが残りませんので、ご興味のあるかたはTwitterでハッシュタグ検索していただければ、ふんわりとではありますが、おしゃべりの雰囲気がつかめると思います。
さて、突然このようにイベントのご報告をしたのにはわけがあります。
私たちが、Spacesのトークをなぜやろうと思ったか。
それは、皆さんが今ご覧になっているこの往復書簡マガジン『俺たちは誤解の平原に立っていた』の進行状況と、大いに関係があるのです。
『誤解の平原』は、前回の更新までに15本の記事を掲載しました。
大須賀も、私も、あちこちに思考を寄り道させながら、医療情報にかんするさまざまな側面を、がんばって文字にしてきました。
(バックナンバーはこちらからどうぞ)
いい機会ですので、これまでの「名言」を、ちょっとまとめてみましょう。
医療情報がぐちゃぐちゃに絡んだ毛糸玉だからです。
多彩な色の無数の糸でできた毛糸玉。その1本を引っ張ろうとすると、他の糸と絡んでいて抜けない。無理に引っ張ろうとすると、余計に絡んで、全くほぐせない。
そんなやっかいな毛糸玉。
――「医療情報を俯瞰する」より
「あのニセ医学をぶっ倒す!」と二項対立の構図にしてしまうと、あたかも、「ニセだったもの」が、「マイナーだけど尊重すべき別の論理」みたいに見えてしまうんですよね。なんなら、注目も集まってしまう。
――「二項対立のワナと情報の聖塔」より
つまり、我々個人レベルで、論文を勉強して、まとめて、それを一人で書いて、世に出すとは次元の違う作業を、専門家集団で行っています。そこには膨大なお金と時間がかかっています。だからとても正確なのです。
――「正確な医療情報の中心はどこだ!!」より
/) /)
( 'ㅅ')ฅ <ハーイ
――「磨かれた大剣」より
例えば、日本医大の勝俣教授が「これは効きそうだ」というと、みんなが勝俣先生は超偉いから、「そうです」といって決まるのでしょうか?
もちろん、そうではありません。
――「『正しい』の決め方」より
しかし、public health(公衆衛生)の場面においては、「各人が好きなように考えて実行して良い」という考え方より、「みんなが足並みを揃えておいたほうが結果的にみんな少しずつ幸せになる」という考え方のほうが、おそらく適切だろうと考えられることがいっぱいあるのです。それはたとえば「手洗い・マスク・三密回避」であったり、「風疹、麻疹、HPV、そして新型コロナウイルスなど多くの感染症に対する認可済みワクチン」であったり、「標準治療」であったりします。
――「約束の地」より
このような状況の中で、良い医療者とは変われる人です。
ダイナミックに変わるデータを常に追いかけて、その瞬間でのベストの答えを見つける。それは勘ではなく、科学的にです。そして、その後に間違いがわかれば、すぐに変更する。その素早さが求められています。
――「変化こそが正確さの源」より
ここで、歴史のことをまったく知らない人が、途中から議論に入ってきて、「邪馬台国って本当はなかったんじゃないか。日本人は全部宇宙から連れてこられた可能性もあるよな」と言い出すことには、かなりの無理がある……と思いませんか?
えっ、「起」に戻っちゃったの? みたいな。
――「ベルナールのガンキャノン」より
正確さを追求すればするほど、それはわかりにくく、冷たくなってしまう。
正確な医療情報を「やさしく」伝えるということは、時に、絶対に解けない連立方程式をとくのと同じになります。
――「不正確な情報はやさしい」より
「ふだん、ワクチンを2倍にしたらワクワクチンチンって言ってるヤンデルがここぞとばかりにまじめにRTした厚生労働省のツイートだ、きっと重要な情報なんだろう!」
――「悠然と広がる裾野のように」より
SNS時代の医療情報収集でとても大事だと思っていることは、「大きな過ちを犯さないこと」です。
――「複数の情報源を使うことの大切さ」より
「あーヤンデル先生それはあきませんわ、おおすが~先生じゃなくて、おおすか~ですよ。か~ですよ。そこ間違ったらあきませんよ。それはないですわ。失礼きわまりないですわ。ないわ~」
――「我々の街と塔を作ろう」より
「数字自体は嘘をつかないですが、嘘をつく人は数字で騙します」
――「分母を意識することの大切さ」より
はい、ここまでの15本の記事すべてのダイジェストでした。
いい内容の文章がだいぶ溜まってきたと思います、が……。
ここでちょっと皆さんに質問です。
今の15本分のダイジェスト、読んでいただけましたか?
その中で、どれが印象的でしたか?
あっ、上にスクロールしないでください。今覚えているかぎりで、考えてみてください。
……もしや、とは思いますが、あなたは……
ウサギと、ワクワクチンチンしか、記憶に残っていないのではないでしょうか?
あるいは、けいゆう先生のモノマネでお送りした、「あーヤンデル先生それはあきませんわ、おおすが~先生じゃなくて、おおすか~ですよ。か~ですよ。そこ間違ったらあきませんよ。それはないですわ。失礼きわまりないですわ。ないわ~」しか、ちゃんと読まなかったのではないでしょうか?
「適切な医療情報」や、「医療情報の見極め方にかんする記事」は、じつはもうすでに、世の中にいっぱいあると思うんです。
厚生労働省をはじめとする公的機関や、善意の医療従事者たちのボランティア的活動によって、あちこちに優れた情報源や解説記事があります。
それらの記事は、おそらく、「不正確な、不誠実な、ニセの、大げさな、デマっぽい情報」よりも、総量としては多いです。
でも、人の目を引きづらい。
私たちは、考えを交互に述べてきたこのnoteを、「内容がいいからこれでよし。」とは、あまり思っていません。
書いて終わりにするのではなく、もっと効果的に、悪貨を駆逐するかのように、世の中に広げていく努力をしなければいけない。
*
ある日、大須賀からDMがきました。
大須賀「作戦会議をしましょう。Zoomでどうですか」
ヤンデル「りょ」
さっそく私たちは綿密な話し合いをしました。
大須賀「noteの記事をさらに発展させていくにはどうしたらいいでしょうか、今日は相談をしましょう」
ヤンデル「それな」
大須賀「メディア、あるいは書籍と接続するのがよいのでしょうかね」
ヤンデル「わかる」
大須賀「しかし、この文章をそのまま本にするというわけにはいかない気がする」
ヤンデル「あーね」
大須賀「複数の、『専門家』の声が聞きたいなあ。編集者とか、伝えるプロの人たちの声が……」
ヤンデル「わかりみ……」
大須賀「誰か……心当たりはありますか?」
ヤンデル「ワンワン」
大須賀「なるほど。たらればさんですね。彼なら相談に乗ってくれそうだ」
ヤンデル「おけまる水産」
大須賀「あ、そうだ、たらればさんにDMで相談するよりも、その相談の過程を、公開でトークイベントにしてみたらどうでしょうか」
ヤンデル「マ?」
大須賀「そのほうがブレインストーミングにもなるし、私たちのやりとりを多くの人に聞いていただくこと自体に、医療情報を取り巻く現状を良くしたいという信念を広げる意味がある……」
ヤンデル「神降臨」
大須賀「じゃ、たらればさんにお声がけしてみましょう」
ヤンデル「りょ」
というわけでTwitter Spacesで公開ブレストを行うことになったのです。それが、
このイベントだった、というわけです。
1時間10分に及んだ番組はあちらこちらに話が脱線しました。インフォデミックの現状、官公庁の中の人たちってたぶんすごいがんばってるんだろうなってこと、contentsとcommunicationをcharacterを介してconnectするという「4C」のこと……。なんと1400人近くの人びとにご視聴いただき……
そして、なんと、まさかの、「note『俺たちは誤解の平原に立っていた』を今後どうする問題」に触れることなく、トークは終了してしまったのです。わはは。忘れてた。
わはは言うてる場合じゃない。もっと、広げる方法を鋭く考えていかないと。