さよなら、ブラック・ジャック(2)語り部ごとの物語
こちらの記事(↓)の続きになります。
#医療マンガ大賞 におけるマンガ原作用のエピソードは全部で10個。
このうち6つは、株式会社メディカルノートが監修した架空のエピソードである。
残りの4つは、ツイッター経由で一般公募された。
すべてのエピソードは下記のリンク内(コミチ)にまとめてある。
まず、メディカルノートが監修したエピソード6つをおさらいしておこう。2つごとに、ペアになっている。
テーマ1「転院/退院」
1-1: 患者の妻の視点
1-2: 主治医の視点
テーマ2「人生の最終段階」
2-1: 患者の娘の視点
2-2: 在宅医の視点
テーマ3「脳卒中」
3-1: 患者の視点
3-2: 救急医(しかも患者の息子でもある)の視点
各モチーフを、それぞれ2つずつの異なる視点から描いている点に注目してほしい。
場面が一緒であっても、患者が思うこと、患者の家族が思うこと、そして医者が思うことが少しずつ異なっている。
当然だろう。視点が異なるからだ。
視点が異なれば、語られる物語(ナラティブ)もまた異なる。
このことは医療政策の広報を考える上で非常に重要だ。扇の要と言ってもいいだろう。
お役所が、お役所の考えるストーリーでだけ医療広報をしても意味がない。そのことはきっと横浜市職員もわかっている(少なくともかつてO山は力説していた)。
同じように、医療者や病院が、医療を施す側のストーリーでだけ医療広報をするのも、たぶん違う。絶対に違う。
患者も、患者の家族も、患者と医療者をとりまく社会も、行政も、医療者も、すべてがそれぞれに物語(ナラティブ)を語る。
であれば、語られるナラティブごとに、医療の文脈(コンテクスト)が変わるはずなのだ。医学というコンテンツを毎回同じように適用していればいいというものではない。
それをわからずに、限定的な視点から、一方的な立場で語られた医療情報をいくら広報したところで、その情報は視点ごとに分断されてしまうだろう。
であるから、今回の #医療マンガ大賞 において、お題となるエピソードを視点ごとに変えたことは素晴らしい判断だったと思う。
ただし……メディカルノートの用意した6エピソードは、それでもまだ、ちょっと偏っていたかもしれない。
あらためて見直してみると、患者視点のエピソードも、患者の家族視点のエピソードも、教訓めいた結論が目立っている。結局はこれって医療者の目線だよね。
でもしょうがないのだ。だってこれらはすべて、メディカルノートという医療者側がよかれと思って抽出した患者の視点なのであるから。
良いとか悪いとか言いたいわけではない。そういうものなのだ、きっと。
だからこそ重要になってくるのが、ツイッターによる一般公募エピソードであったのだと思う。
医療者の視点とは異なる目線で書かれたモチーフが集まってくる可能性があるからだ。
ハッシュタグつきでつぶやかれたエピソードを集約したエクセルファイルがぼくの元に送られてきた。総勢、156エピソード。
ぼくはこの一般公募エピソードの選考委員だ。すべてに目を通した。
そして、決して最初からそう決めていたというわけではなかったのだが、結果的に、「医療者が語ったエピソード」については初期段階でリストから外した。特に、医療者が思惑通りに何かを達成したエピソードはその時点で選外とした。
なんかさー、医療者の思った通りになるマンガ大賞っていやだなーって思っちゃったんだよね。
ぼくらが言いたいことをぼくらの代わりにマンガにしてもらったところで、それは、チラシを配ったりリーフレットを撒いたりすることと本質的には変わらないのではないかと思った。
それはきっとO山が目指しているものとは違う。
・・・
横浜市が運営しているプロジェクト「医療の視点」。そのロゴマークはウインクしている。
そしてこの「つぶった方の目」は、視点の違いを表しているようだ。横浜市のコンセプトページで、どうやっても解像度が最高にならない残念なイラストを見ることができる。
なんできれいに拡大できねえんだチキショー。もやぁっとするぜ。
でもまあ意図はわかる。このウインク、「市民」「医療関係者」「行政」がそれぞれ異なる視点を持ち寄ってプロジェクトを作るという意思なんだよな。
【さよなら、ブラック・ジャック(2)語り部ごとの物語】
アフタートークイベントの第1部は、 #SNS医療のカタチ によるトークセッション。
SNS医療のカタチのメンバーは、ぼくと同じように、それぞれツイッター公募エピソードをひとつずつ選んだ。
彼らの視点もまた、それぞれに、思惑があり、そして、思惑だけではない多様さを秘めていた。
togetterまとめを作っていて、第一部に対する感想ツイートはあまりないな、と思った。このセッションでは文字情報が多く、また、医者たちの一人語りも多かったので、ツイートしづらかったのだとは思う。
次回、 #SNS医療のカタチ のオリジナル3たちが当日しゃべった内容を元に、彼らの視点がこのイベントに対してどのように「異なり」を与えようとしていたのか、振り返ってみる。
キーワードは視点の違いなのだ。
(文中敬称略)(2019.12.16 第2話)
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