医の中の蛙(3) 偶然を必然と読みたいぼくらの高笑い
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というわけでぼくらは、医療をめぐるあれこれを、たき火のまわりに集まってざっくばらんに話すイメージで、YouTubeで座談会をやることにした。
命名: 「医」戸端会議。
ハッシュタグを考えるときに、入力する人が毎回「井戸端会議 → 井を削除して → 医者って入力して者を消して → 医戸端会議」みたいに入力するの発狂するだろうなと思ったので、
思い切ってざっくり削り込んで、 #いどばた にした。
字面的に、あたふたドタバタした感じがあって、温かくていいなと思った。
ぼくは座談会ではとにかく「けいゆう」にしゃべってもらいたいなと思っていた。
彼はNHK「フェイクバスターズ」や、イベント「Cancer X」など、他業種の方々と同席して自分の職能を発揮する経験が豊富だ。座組みを見ながら、自分の専門性をどれくらいのボリュームで言葉にすればその場が引き締まるかを高精度で計算している。頼れる、と直感した。
これは自己流の理論なのだけれど、車座になってわきあいあいと対話するとき、「誰かひとりの圧倒的なスピーカー」がいると、結局その人の独演会みたいになってしまう。
その点、けいゆうだったらバランスを取れそうだ、と思ったのだ。
ところが。
いざ、座談会がはじまると、#いどばた (1)にお招きしたゲスト3名は、全員が「みずからの体験を色彩豊かに述べる言語」をお持ちで、
それ以上に、
「互いの言葉を借りながらしゃべるタイプ」だった。
(あっ、これ、楽だな。)
#deleteC の中で、3名は何度も「届くか? 届くか? これでどこまで届くか?」というのを考えてきたのだろう。
その中で、「誰かが目立つ」ことよりも、「互いを引き出す」ことを自然に身につけたのではないか。勝手な予想だけれど。
これなら思ったよりずっと伝わるぞ。ぼくはひそかに揉み手をした。
ヤンデル「さ、お題のひとつめですけれど、えーと、deleteCとHOPEの進捗報告。これは? まずどなたがしゃべるのがいいですか?」
オグニン「あ、じゃ、ぼく。小国で。」
中島ナオさん(すっ、とZoom上で小国さんの方を指し示す)
(5分51秒付近)
ぼく(うおおおおおお信頼関係熱い……!)
*
オグニン「deleteCってなんだ、っていうのを簡単にいうと、こういうやつです。」
オグニン「『Cを消す』は誰でも気軽にできます。ぼくらは、暮らしの中で誰でもがんの研究を応援できる仕組みをつくりたい。」
オグニン「もともとは、今こうして一緒にdeleteCやってる中島ナオちゃん……普段ぼくらナオちゃんって呼んでるんですけど」
ナオちゃん「クス」
ヤンデル(燃え上がる嫉妬の炎)
オグニン「ナオちゃんが、がんをもっと治せる病気にしたいということで、えーと……今から2年前か」
ナオちゃん「あ、ちがう?」
藤マッツ「3年前かな」
オグニン「あそうか」
ヤンデル(この人たちいっつもこうしてお互いの言葉を照らし合わせてやってきたんだろうな)
オグニン「ぼく自身はもともとNHKのディレクターをやっていて、その後はフリーのプロデューサーをやっていて、ぜんぜんがんの治療研究ってのは『遠いジャンル』だったんですけれども」
※小国さんは、「にわかラグビーファンプロジェクト」などにも関わっていらっしゃったと記憶している。たしかに仕事が手広い。
オグニン「ナオちゃんとは元々べつのプロジェクトでご一緒してたのですが、『がんを治せる病気にしたい』という彼女の問いを……ガチでぶつけてきてくれて」
ほむ「ほむ」
オグニン「で……まあ、それまでちょっと、そんな(がんの治療うんぬんなんていう、命に関わるなんていう)ガチの問いは、自分にはどうにもできないところだな……と」
ほむ「……」
オグニン「逃げてきたところでもあって」
ほむ「……」
オグニン「そのころナオちゃんがStage IVの状態でちょうど2年ほど経ったころだったかな」
ナオちゃん「そうですね、ちょうど2年」
オグニン「この問いは本気なんだ、ちゃんと考えよう、ってなって」
*
オグニン「それにしても何からどうやって取り組めばいいのかって途方にくれていたところに、この、ナオちゃんがもらったっていう名刺が」
オグニン「この名刺の中で Cancer(がん)がダラッと消してあるのを見て……『これだ、ナオちゃん、C、消そう!』と」
ヤンデル「はっはぁーーーー!! こ、これがきっかけだったんですか!」
ナオちゃん「そうなんですよ」
オグニン「これいいなと思って。がんの専門病院の人が本気でこれをやっている意思がすごいなと思ったし……あと、ちょっとユーモアも。すっごい強い線じゃなくて、フニャっとした線。やさしい線なので。」
ヤンデル「おおおお」
オグニン「そこでdeleteCの仕組みみたいなものがブアッと出来て。じゃああとはCを消してくれる企業さんに当たろう、とか、コンセプト自体がプロの医療者に受け入れるだろうかちゃんと聞こう、とか」
ヤンデル「わあああ」
オグニン「やる前は、このテーマこういう風に扱っていいのか不安もあったんです。炎上するかもって。がんっていうテーマってそんなに触っていいんだっけ……みたいな」
ヤンデル「ああああ……」
オグニン「だけど、医療者の方が、それもがんの治療研究の現場に立ってらっしゃる方が、むしろ、これをやってほしかったとか、こういうの待ってたとか、もっとやれっていうような熱い声を、SNS上などで展開してくださったので」
ヤンデル(ひええSNS地味に役に立ってるんだ……)
オグニン「だから企業の方も安心して、これに乗れるようになった」
*
オグニン「いろんな人が応援してくださって……『キャプテン翼』の高橋陽一先生も、ほらこうやってCを消してくださって」
けいゆう「あっははは」
ヤンデル「アプテン翼だ(笑)」
オグニン「いやーこれ売るわけにいかねえなーこれどうやって活用しようかなーってむしろ困っちゃって(笑)」
*
オグニン「こうして、企業が協賛してくれて、SNS上ではみなさんが思い思いに商品を買って『Cを消して、投稿する』。すると企業がひとつの投稿につき100円の寄付を代わりにしてくれる、という仕組みを作ることができたんです。人々と企業が『がっちゃんこ』してやるっていう、そこはもう、ほんとたくさんの」
オグニン「それで……AIさん。AIさんが新曲作って下さったんですけど」
ヤンデル「あーあれ、すごいですよね!」
オグニン「その曲名が『HOPE』っていうの、あれ実は偶然で」
ヤンデル「えええっ!!?ぐ、偶然なんですか!」
ナオちゃん「えへへ偶然なんですよお」
けいゆう「おおおおお」
オグニン「たまたまAIさんが、この感染症禍の一年をすごして、思い描いてたのがHOPEという曲で……我々が相談しに言ってお話ししたら、実はHOPEっていう曲を書いててって言われて、えっぼくらも deleteC HOPEっていうのやるんですよって」
ヤンデル「まじかああああ」
オグニン「だったらぜひ一緒にやりましょうって、AIさんもすごくノッてくれて」
これを聞いた瞬間……
「ぼくの感動をみなさんにどう伝えるべきか?」。
猛烈ないきおいでシナプスをばしばし組み換えながら、ぼくは座談会の方向を考えた。
この人たちに、もっと語って欲しい。
ヤンデル「さあ中島ナオさん。次はあなたの声を聞きたいんですよ。予定ですとこのあと、(2)で『がんと研究について医師が思うこと』ってのがあるんですけど……もう、医者のパート削ってもいいやと思ってるんですよ」
ほむ(プロポーズのときと同じ決意でうなずく)
けいゆう(子どもが生まれたときと同じ笑顔でうなずく)
ヤンデル「もうここは、(1)のセッションで、じっくりお話をおうかがいしたいなと。どうですか? 中島さん。フリートークなかんじで」
ナオちゃん「はい、そうですね……」
(続く)
↓まだ当分やってるぜ
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