先週の國松
今となっては、彼の著作にはじめて触れたのがいつだったのか思い出せない。
しかし、最初に衝撃を受けたのは、おそらくこの本だったろう。
ぼくは、これを読んで、ひっくりかえってしまった。
なんていい本なんだ。
用いている知能のレベルが、高すぎる……。
三省堂書店池袋店でやっている自分のフェア(ヨンデル選書)に、さっそくこの本をねじ込んだ。絶対に売ってやるという固い決意をもって、書評カードを書いた。以下に書評カードの内容を引用する。
ぼくはずっと、ヨンデル選書フェアやツイッターで、医療者のタマゴにおすすめする本の筆頭として『私は咳をこう診てきた』を紹介してきた。この本には、臨床家の矜持とプロセスと思考回路が載っている。どんな教科書を読む前にも、まずは『私は咳を』から入ることを薦める。
そして令和元年、とうとう、『私は咳を』の次に薦めるべき本に出会うことができた。それが『病名がいなくてもできること』である。
この本は少しレベルが高い。研修医や医師に読んで欲しい。素人にはおすすめしない。そのかわり、一度読んだら世界が変わるだろう。
臨床のとらえ方、診断推論のあり方、気づき方、心の配り方、知性を正しく使うために何をしたらいいかということ。
ぼくはこの本を読んで、通り一遍の研修医教育をしてきた自分を大反省している。教育とはこれだ。医者がものを書くってのはこれだ。
國松淳和は鬼才である。
***
先週。
2020年1月16日。
三省堂書店神保町本店で、ぼくは、鬼才・國松と対談することになった。
控え室に入ると、彼は高らかに笑った。
明るい!
それが第一印象だった。
ぼくは武者震いを起こした。
そしてものの5分で、武者震いとは違うタイプの痙攣を、何度も起こすことになった。
彼は語り甲斐に満ちあふれた、複雑系の申し子だった。ぼくは一発で彼に魅了された。なんとか彼のことを書き残したい。それも、複数の目線で……。
複数の目線で……。
(来週に続く。)