山際の向こう、2秒の先に(4) 今からだとお歳暮
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前回のあらすじ:
さてもにぎにぎしくはじまったシャータニとホムー(トムとジェリーっぽく読んでください)。 和気あいあいと自己紹介、「タニタくんにさんを付けるか問題」の平和的解決、書き割りがガンガン燃えてる前でシャープが話してる名シーンなど進行は順調だったのに、とつぜんホムが失言したよ、
「きみら企業は広げてバズりゃいい立場だと思うんだけどサー」(※意訳)
こりゃたいへん、鴨のサングラスが割れちゃった、犬の耳が4つあるのはなんでかな、こ、こ、この先、どうなっちゃうのー!? まあ見て頂戴(トムとジェリーテレビアニメ版っぽく読んでください)。
***
冒頭、シャープが語っていた。
シャープ「お医者さんの話とぼくらの仕事が同じとは決して言えないと思うんですけど……。
ぼくらは基本的に、自社製品を宣伝している仕事ですが、普通にやってもこっちの言い分は聞いてもらえない時代になっています。
危機感がある。
広告したって誰も聞いてくれない、伝わらない。
そういうことをずっと感じてやってきている。
そういう意味では、お医者さんの言っていることが患者さんに間違って伝わるとか、患者さんに話を聞いてもらえないといった、『こちらのこと』をあまり信用してもらえない状況に共感します。
う、う、うまーい。
営利企業公式SNSの担当者が本セッションに登壇することの意味を、的確に見出してくれている。
「共通の素材で語り合うことができますよ」という声かけ、歩み寄り。
うれしい気遣いだ……。コミュニケーションのきっかけとしてこれ以上ない話の振り方である。
ところが、ほむったら!
堀向「たぶん、企業さんがSNSなどで宣伝・広報をされるのは、(ぼくのやり方とは違って)たくさんの人たちに知ってほしいという部分があると思うんです。」
ぼくは笑ってしまった。
いいなーこのズレ……。
そこに鴨が、すぐにパテを持ってきて、スッスッとそこをなでた。
浅生鴨「医療情報というのは製品情報とちょっと違って、人によってはものすごく明暗が分かれるような情報もあると思うので、そこは少しだけ気の遣い方が、ベクトルが違うのかなという気がしますが。
とはいえ、シャープさんもタニタさんも実は医療や健康に関する製品を作られている会社なんですよね。」
う、う、うまったー!
ぼくは感動した。そうなんですよ。
タニタはもちろんだが、シャープも偶然(登壇者としてのお声がけをしたあとに)マスクを作ることになって、いまや「医療や健康にたずさわる企業」である。
ここにはギャップよりも、共通点がある。
「やさしい医療の入口はどこですか」に話が戻せる!
ぼくはワクワクホムホムした。
さあ、ほのぼのクイズ大会のスタート。
フリップは小さくて、YouTubeの画面からはちっとも見えなかったけど、ぼくらには想像力があるから一切問題ない。
シャープの選択肢が数字順に並んでないことも、視聴者の深読みによる誤答を誘発するから一周回ってテクニカルだ。
タニタ社長がツインスティックでバーチャロン、のくだりで、ほむが地声で「まさか筐体でやってるんですか」って思わず専門用語を漏らしたシーンは本日のハイライトだ。ぼくはひそかに、ほむは元・重症ゲーマーではないかと疑っている(いつものYouTube時のヘッドセットを見ても怪しい)。
タニタもシャープも、楽しくてなんかちょっとへえ!ってなるようなクイズを出してくれた(たぶん後日動画が公開されますので、興を削がないために詳細は省きます)。
さあー、今度は我らがほむほむ。
どんなクイズを出すのかなー?
堀向「クイズ、難易度としては重いものからライトなものまで考えたんですけど、中間くらいのを用意させていただきました(笑)。
例えば外来で患者さんとお話していて、患者さんにおうちでやる治療法をお教えすることがあります。そしてお帰り頂き、自分でやってもらう。
で、私はアトピー性皮膚炎の患者さん方を見ることが多いのですが、触診などをすると……今日の朝はきっと塗らなかったんだな、もしくは、洗って塗る治療のときにうまく洗えていなかったんだなということがわかるときがあります。
もちろん患者さんはすごくがんばっています。がんばっているのは間違いない。そして、「がんばっています。でも、うまくいかないんです」と言います。
このとき私たちが考えていることと患者さんが考えていることに、ズレが出ていることがわかる。
患者さんの行動、とくに「自分でうまくやれていない部分」を、医者として見抜けるときがある。でも、そういうとき、ぼくは、患者さんがぼくに話をしづらかったんだと思うことにしています。
では、そういったシチュエーションで、どういうふうにインフォメーションをすれば患者さん側が自分に話をしてくださるのか。もしくは治療がうまくいくのか。
あるいは、企業の方々がSNSでうまくやっているような、「短い言葉でどう伝えるか」ということがインパクトあるのかもしれない。もしくはセッションの中程でシャープさんがおっしゃったように、「長く関係を続けていくことで伝える」という手法もあると思うんですけど。
ということで、患者さんが「自分でうまく治療している」といい、医者が「あまりうまく治療できていないな」というギャップを、どうやったら調整できるのか。
お二人にはそういったことを聞いてみたいと思っていました。ちょっと難しいですかね……ごめんなさい(笑)。
(※当日のメモです)
日曜日の職場でぼくは人目もはばからず(一人しかいなかったが)声をあげて笑った。ほむめ……!
そしてぼくはこのとき同時に、ほむクイズの本質的な難しさを思った。
堀向はこれまで、バズはねらわず、狭い範囲のコアな情報を、ほんとうに必要としている人にていねいに渡すというやり方で、一貫してやってきた。
あくまで「自分の情報とマッチする人々にむけて」情報を取り扱ってきた。
そのやりかたはどこまでも優しく易しい。
……SNSに限った話ではない。彼のSNSはそもそも、「診察室の延長」なのだ。彼は日常診療とSNSをいい意味で使い分けていないのである。
外来では、殺人的なスケジュールにもかかわらず、ひとりひとりの患者に時間をかけて、じっくりと。
電子カルテに記入する時間は2分しかない。そのたった2分間、患者から目を離してキータッチをしている時間すらも「恥じ」、患者がここぞという話をしそうなときにはすかさずキータッチの手を止めて、じっと患者に向き合うのだという。
そこまでやって。
そこまで狭く深く、やさしくやさしくやって。
なお、「ズレる」のだという。
このズレをどうしたらいいか、という、原罪に対して禊ぎを果たすにはどうしたらいいですかレベルの超高難易度命題を、「ほのぼのクイズ形式」にしてニコニコたずねている。慈悲はないのか。
おまけに「どうしたらいいと思いますか」と聞く相手は今日が初対面で、ついさきほど、
「たぶん、企業さんがSNSなどで宣伝・広報をされるのは、(ぼくのやり方とは違って)たくさんの人たちに知ってほしいという部分があると思うんです。」
思いっきりズレを顕在化させたばかりの、企業公式SNS担当者。
ぼくは思った。
「そんなの、『SNSの達人』に聞く質問じゃないじゃん……
答えようがないよ……医者でもない限り……」
……
「えっ、いや、医者なら答えられるとでも……?」
(※当日のメモを元にして描いたパワポです)
ここからのシャータニの返答を、
文字おこしして掲載する。
シャープ「たぶんですけど、ぼくも例えば歯医者に行って、どれくらい手入れしてますか、と聞かれて、本当は2週間に1回くらいしかしてないのに『毎週やってます~↑』って、ちょっとウソというか、取り繕ってしまうんですよね。
そのときのことを思い出すと、『ちょっとエエカッコしたい』という気持ちがぼくの中に芽生えている……。
あるいは、やれと言われたことをきちんとできてないって自分で認識しているから、もしや怒られるんじゃないかなという気持ちがきっとあると思うんですよ。
いや、お医者さんに対する信頼がないわけではないと思うんですけど、こちらにある種のやましさがあると、ついつい身構えてしまうというところがあると思うので。
たぶんものすごく乱暴に言うと、ぼくらがお医者さんに怒られないという経験を積めば、おのずと改善するような気もするんですけど。
たとえば、アトピーって比較的長くお付き合いすると思うので、『あ、私は怒られないんだ』という経験を積めるチャンスは比較的高いような気がするのですが。
ぼく(スキマに海が流れ込んだ……!)
(※当日のメモを元に描いたパワポです)
浅生鴨「時間をかけて積み上げていく。時間をかけることの大事さについては、タニタさんはどうですか?」
タニタ「今、堀向先生がおっしゃっていた『短い言葉で伝える』というのは(SNSにおける)ひとつのパワーワードというか、キーワードなんですけど……
たぶん、医療でのコミュニケーションは、そういうことではないんじゃないかなという気がしていました。
(同じSNSでも、むしろ、ツイートは毎日するものだという性質のほうをフィーチャーして)継続して時間をかけてやっていくことで、自分がどういう人間かというところをとりあえずさらけ出していくとか。
そういったところから抵抗がなくなっていくのかなという印象はあります。
時間をかけつつ『攻略』! と言ったらおかしいんですけど(笑)。
あと、患者さんが人それぞれ個別で違うということ。そこがたぶん、お医者さん側が次に試されるところなのかなという気はしました。
ぼく(スキマの海から四方に航路が伸びた!!!)
シャープ「あともう1つ、『誰が言うか』ということもですが、『誰から伝わるか』というのもけっこう大事だと思っていて。
たぶん堀向先生が『ぼくは怖くない医者だよ!』と自分で言っても、『あ、そうですか』という話なんですけど、ぜんぜん違う人から『あのほむほむ先生は優しいんだよ』という話を聞くと、途端に『あ、そうなのかあ!』というふうに印象が変わるわけですよ。
それってたぶん、SNSなどでみんながシェアしたりリツイートしたりしている状態と一緒で、自分が言うんじゃなくて人の口を経由して伝わっていったほうが実は信頼性が増すという、心理的なものがあると思います。
例えばお医者さんの診察のあとで、会計をする受付の方に『あの先生、優しいでしょ』と一言言われたら、ぼく次の日からめちゃくちゃ『あの先生は優しい!』という印象になると思うので。そのお医者さんの人となりが、自分以外のところから目に入るような仕組みが病院の中にあると、より敷居が下がるような気はします。」
(※当日のメモです)
ぼくは感動していた。イヤホンをギューッと両耳に押し込んだ。
会場の満足感がびんびんに伝わってきて。
セッションでは多方向に議論が広がった。それは、思考の衝突によって飛び散った可能性の火花であった。新たなコミュニケーションのありようを照らす灯りになりそうな、火種に違いなかった。
ぼくはモニタの前で大量のメモを取った。
浅生鴨さんは、しずかに場を締めにかかった。
浅生鴨「このセッションのタイトルが『マスクと体重計と医療の、やさしい入り口はどこですか?』なんですけども、一番最初のやさしい出会いはどうすれば生まれるんでしょうかね?」
……そういえばこのセッションには、「入り口」という言葉が用いられていたなということを、今さらながらに思い出す。
ぼくはまだ入り口にいる。
鴨の最後の質問を受けて、タニタ、出る。
タニタ「タニタと医療との関係でいうと……、体重計はどちらかと言うと、予防とか、病気になる前に確認をするものだと思っているんです。ところが、なぜか体重計に乗るのが怖い。ほむほむ先生もですか(笑)。
これも、一種のエラーだと思っています。我々としては本来、毎日継続して体重を測っていただいて、変化があったときにそれをカバーするように使っていただきたいんですけど、そもそも体重計に乗ってもらえないという商品特性がある。
そういったところをなんとかしたいというのも、実はSNSを用いたミッションとしてはあるかなと思っています。
できるだけ抵抗なく体重計に触れてもらう、あるいはあえて強制的に、『乗れ!』と言ってしまう(編注:タニタはアムロ・シャア・キティさんなどをフィーチャーした体重計を出しており、彼らの声で『乗れ!』(意訳)が聞けます)。
そういうところで、まず接点を作るところは……優しいというか、むしろ厳しめではあるんですけど。あえてそういったドS感でやっているかなというのはあります。
(※当日のメモです)
(※当日のメモを元にして描いたパワポです)
(2020.8.28 第4話)
追:タニタとシャープは今回、顔出しで出演してくれた。この記事を書くにあたり、noteでは画像加工しましょうか? とたずねた。それに対する、シャープのお答え:
シャープ「私自身は、今回『だれが言うか』と『その人の信頼性』という話を避けて通ることはできないだろうなと思っていたので、自分が顔を隠すのはフェアでないなあ、との意思で出演しました。」
か、か、かっこええ~~!
(でも演出的に隠した)
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