『週刊DiGG』#10 -最新HIPHOP 8曲レビュー紹介('20/10/23〜10/31)-
今週も始まりました『週刊DiGG』。#10では、10/23〜10/31までに公開された最新MV8曲をレビューをつけて紹介します。ロック寄りの曲が3曲もあって、トレンドになりそうです。
数年後には資料として使えるよう、曲にまつわるエピソードや関連リンク、そしてこの瞬間の空気感を封入しました。
▶︎ HIPHOPに興味があるけど、どこから聴いたらいいか分からない。
▶︎ 手っ取りばやくカッコいい曲を教えて!
という方にオススメの記事です。最新HIPHOPを一緒に味わってください。
※ 歌詞=リリック、サビ=HOOK、ラップをしているパート=Verse
とHIPHOP用語で表記しています。
※ アーティスト名に下線がある場合、TwitterまたはInstagramとリンクしています。
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|FinalWeaponCompany / siba (Track by CraftBeatz)|
2020/10/25 公開
シヴァ =「破壊/再生」を司る様相
“song”では「生きてるよりも死んでないだけ」とつづっていたからこそ、この曲の「君と幸せも歌えるようになったから」というHOOKの幸福さに祝福をあげたくなる。
MC Hangが主宰する謎に包まれた集団 Final Weapon Company。このグループの仲の良さ、活動を続けることが、不安定な彼らの希望となっている事が伺える。
「本当に仲いいんだねってだからずっといる」というリリック笑う2人の映像が微笑ましい。ビートメーカーCraftBeatzによる太くてドンと打ち付けるドラムが、確信を鳴らす。
3枚組EP+Tシャツ付きのBOXセットが即日完売するなど嬉しいニュースが飛び込んできたのは偶然とは思えない。
「クルーと家族の違い ほかと訳が違う
愛は分けるんじゃなくて あふれるもんだった」
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|Ace the Chosen onE × EIGHT OH KLASSIX / MIND HACK|
2020/10/25 公開
90年代〜00年代の初頭にかけて、日本語ラップ第3世代が盛り上がった。ハードロック、ブレイクビーツ、デジタルロックなど様々なジャンルが入り混じり、ミクスチャロックと呼ばれ化学反応を起こしていた。
その代表格だったのがDragon Ashでチャートを賑わせていた。しかし2002年、キングギドラが「公開処刑」という曲でkjをdisしたことから、急速にHIPHOPとハードコアロックとの交わりがしぼんでいった。
そこからまた世代も変わり(今は第8世代らしい)、トラップとハードコアロックの親和性も強いことから、ジャンルへのこだわりがなくなりつつある。
それを象徴する曲がこれ。名古屋のハードコアロックバンド EIGHT OH KLASSIX が、同郷のラッパー Ace the Chosen onE とのコラボした楽曲。
EIGHT OH KLASSIX は、ギターをハードに鳴らしつつ、ボーカルはシャウトせずにいつも以上にタイトなラップを披露。対するAce the Chosen onEは、ザラついた声が、ディストーションがかかったギターとマッチ。さらにハードコアさを深め、どちらがバンドのボーカルか迷うほどバンドサウンドに溶け込んでいる。
“ハードコア✖️HIPHOP”このコラボが今度も増そうな予感。今度こそ、いよいよ壁はなくなるぞ。
⛏さらに深掘り
▼EIGHT OH KLASSIXが、ラッパーやDJを招いたイベントを主催していることが分かる記事。ジャンルをまたいで交わろうという意図が伺える。
▼ライムスター宇多丸が、日本語ラップを世代ごとに分類したラジオの書き起こし記事。面白い。
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|2key × seldom / For Life(prod.ARATA) |
2020/10/26 公開
以前はM.V.Rのメンバーであり、現在はRAMPAGEのメンバーでもある2key と 飛燕a.k.a chakr@とのユニットNAVY MAGICのメンバーであるseldom 。
共に兵庫県を中心に活動し、ソロでも数多くライブをこなす2人によるジョイント曲。
M.V.Rの時にはにぎやかさと荒々しさの象徴だった2keyのかすれた声。しかしこの曲では切々と内面を語り、この声だからそこ真実味が増していく。
一方、seldomは留置所に行った仲間とのエピソードを語る。
これはHIPHOPな生き方を選んだ男達の鎮魂歌。ビートメーカーARATAによる丁寧に織り重ねるボーカルサンプリングと相まって、言葉が胸をひっかいていく。
「閉ざされた瞼の裏に刻まれた歴史
一度だけ通る 人混みに埋もれた改札機」
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|Menace無 / Doctor Fish (prod.G4CH4)|
2020/10/23 公開
元TENG GANG STARRとしての活動でも知られるラッパーKamui が、気鋭の若手を集めたプロジェクトMUDOLLY RANGERS 。
そのメンバーでもあるフィメールラッパーMenace無 のソロ作品。
リバーブをふんだんにかけ幻想的でありながら、突き刺すトゲトゲしさがある。1分37秒という短い時間に感情曲線を描く表現力。つかもうと思うと逃げてしまうようなミステリアスさが魅力的である。
ビートメーカーG4CH4 によるサウンドは、トラップに容赦なくエレクトロニックを注入し、斬新さが際立っている。
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⛏さらに深掘り
▼Menace無の客演が光るMUDOLLY RANGERSの楽曲
▼MUDOLLY RANGERSを紹介した記事
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|(sic)boy,KM / Kill this feat.Only U |
2020/10/28 公開
インタビューで“ラッパーなのか?”、“ロックのフロントマンなのか?”との問いに、「僕は何者なのか、答えを無理に探す必要はない」と答える (sic)boy 。
ラップをしない曲もありロック、HIPHOPと考えるのがバカバカしくなるほど楽曲の良さ、口ずさみたくメロディーでジャンルを凌駕している。
この曲は他人との比較ではなく、自分に問い、自分を見つけ、捨てることで得られた開放感に満ちている。アルバム前半で渦巻く葛藤がハードに歌っているからこそ、後半に位置されたこの曲の吹っ切れ感が生きてくる。アルバムを通して、1人の青年の成長が感じられる。
短いフレーズの中に洗練された言葉を入れる(sic)boyに対し、客演の Only U はまだ葛藤の途中。ムダな時間も過ごすと書かれたリリックがなんとも若者らしく、フローの遊び心にも反映されていて面白い。
Even if you feeling alone
生きてく意味を探すよりも
死にたくない理由を数えよう
いらないもんは過去に捨てよう
⛏さらに深掘り
▼これが本当にタダ?とビビるほどの雑誌並みの情報量で、日本のインディーロック掲載するフリーペーパー skream でのインタビュー。ロックサイドから(sic)boyが時代とどうリンクしているかを知る事ができる。
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|YAMATO HAZE / GOOD TING feat.MAVEL & Taix2 (track by CAMEL BEATS) |
2020/10/27 公開
Rappin Deejayと名乗るように、レゲエとHIPHOPの要素を取り入れた人懐こい声が特徴の YAMATO HAZE 。
ニューオーリンズ・ジャズの息吹を感じるCAMEL BEATSによる軽快なトラックは、“Go To Eat”を合言葉にようやく歓楽街に活気が戻ってきた気分とマッチ。
我慢を強いられた2020年のハードな日々を、水ではなくアルコールに流して、「今日、死ぬまで遊ぶって話さ」と仲間とこの瞬間を遊び切る楽しさが、躍動する管楽器と共に伝わってくる。実際に BAR604 の切り盛りをする沖縄のラッパー MAVEL と、604レーベルの Taix2 の酩酊感もいい。
この陽気さは2021年に繋がる。
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|Chainsaw Dew / Hello Hello Bad (Prod.Another_A)|
2020/10/31 公開
「今夜が門出だ」
芸術家集団"影絵"(KAGEE)と称し、 詩、映像監督、写真、グラフィックデザイン、イラスト、絵画を1人で行い、ラッパー剛斗とのユニット・回収屋としても活動していたラッパーHATE 。
“影絵”という曲では、「他人のDissより てめえをDigしな」「ただ今日常、地獄日和」というリリックがあるように、内側に眠る闇を掘り起こし、暗闇から必死に手を伸ばしているようなBoomBapを顔を歪めながら歌っていた。
そんな彼が、19才の時に名付けたHATE名義に終止符を打ち、28才になった今、 名前を Chainsaw Dew(チェーンソーデュー)に変えて活動するという。
"こんな人生をもう変えたい"思ったのが一番の理由
と話すように、リスクは承知の上で、今の感情に正直に、自分の感性を頼りに新しい表現に挑む。
HATE時代から制作を共にするビートメーカーAnother_A による落ち着いたオルガンの音色は、これまでを振り返るには丁度いい温度感。「伝わらねえのか言葉は」「遠回りも飽きてきた頃だが」と深読みしたくなるフレーズが気に掛かる。
これまでは闇の中で苦しみを分かち合っていたのに対し、これからは闇の向こうの光を見つけるため、自ら動き出した瞬間が記録されている。
「Everybody Listen Walking」
⛏さらに深掘り
▼「Hello Hello Bad」と時を同じくして配信されたHATE名義の作品集「叫」。アンダーグランドなBoomBap好きにはたまらないドープさが味わえる。
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|Madaler kid / 1ndependent|
2020/10/24 公開
鹿児島から横浜に居を移し活動してるラッパーMadaler kid 。
Trapといえば、MCが声を張り上げるあおりからのモッシュが気持ちいいが、Madaler kidは違うアプローチをしている。柔らかい声質で、COOLにラップ。TB808のダークなベースを基にしながら、高音パートにリズムを合わせて聴ける作品になっている。
それは飛び跳ねるというより、重力を奪われ浮き上がるような軽やかさ。Normcore Boyzのデビュー曲「Call I」を連想させる不思議な感覚で、共にお寿司をテーマにしているのは偶然か?
本人は努力型というが、マネしようと思ってもマネのできない天性の才能を感じる。
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📰今週のHIPHOPニュース
この『週刊DiGG』でも度々取り上げているAbemaTV『ラップスタア誕生』シーズン4が、10月29日に遂にファイナルステージを迎え幕を閉じました。
誰が優勝したかは見てない人のために伏せておきますが、無観客のスタジオでソファーに座った審査員を前にパフォーマンスをするのは、気持ちをどう持っていくのか難しかったと思います。
そんな中、若手のパフォーマンスに「クラっちゃって」と終始ノリノリだった審査員のSEEDAさん。若手の緊張をほぐす気遣いがあり、素直な大人って感じで可愛いかったです。
ここまで勝ち残るのは伊達じゃない。これを機に、ファイナリスト達は人気が出るのは間違いないので要チェックです。(AbemaTVで無料で見れるのは11/4まで)
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さらにHIPHOPを知りたい人へ
最新HIPHOPを8曲紹介してきました。お気に入りのアーティストとの出会いがあれば嬉しいです。これ見逃してるぞ!っていうオススメのMVがあれば教えて下さいね。
『週刊DiGG』では、これからも毎週HIPHOPを紹介していきます。まとめて読みたい、という人のために『月刊DiGG』も始めました。月1回 約30曲分をまとめてチェックできるので、お好みでどうぞ。
“海外に向けて発信する”と先週書きましたが、時間を作り出せず頓挫しています。もうしばらく悩ませて下さい。あと先週、フィメールラッパーのP-NOMさんのインタビューを行いました。他にいないタイプのラッパーだったので、記事を楽しみにしといて下さい。ではまた来週お会いましょう!
▼筆者によるYouTube動画
▼毎月2回作成しているプレイリスト。'20/10/1〜10/31までに公開されたMVの中から厳選した30曲をセレクトしました。今回紹介しきれなかった曲がたくさんあるので聴いてみて下さい。
HIPHOPを広めたい一心で執筆しています。とは言え、たまにこれを続ける意味があるのかと虚無感に襲われます。 このまま頑張れ!と思われた方、コーヒー1杯おごる感じでサポートお願いします。自信をつけさせて下さい。