HIPHOPのMV 21曲をレビュー(2022年12月公開作品)
TwitterでHIPHOPのレビューを毎日書き続け、5年目に突入した ドラム師匠 です。今回は、2022年12月に公開されたオススメMV 21曲をレビューしました。
ヤバい曲をまとめて知りたい
曲にまつわるストーリーを知りたい
なんて人にオススメの記事です。もし、お気に入りの楽曲と出会えたら、"スキ"や"フォロー"をお願いします。では、最後までお楽しみ下さい。
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舐達麻 / BLUE IN BEATS(Prod. INGENIOUS DJ MAKINO)
2022/12/02 公開
音楽以外のことでニュースになった舐達麻が、2020年7月リリースした「BUDS MONTAGE」以来、約2年半ぶりに新曲を発表した。
逮捕されようが何しようが揺るぎないリスナーの支持を集め、言いたいことは曲で吐き切ってしまったが、それでも暮らしの中から生まれる言葉を探すクリエイターとしての日常が描かれている。それは苦悩というよりも、真理を追求する救道者だ。
HIP HOP DNAのインタビュー動画の中で、「(リリックを書く時に)スランプはありますか?」との問いに、BADSAIKUSHは「そりゃありますよ。それしかないと思いますよ。基本そうじゃないですか、創造するって、芸術、何かを作るっていうのは」と語っていた 。
ひたすらにリリックと向き合っているからこそ、言葉の密度と純度が高い。この内容なら、1曲ができるのに時間がかかるのも頷けるだろう。
宮本武蔵が、剣術の奥義をまとめた兵法書「五輪書」を書いた姿と彼らが重なってって見えた。
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Ring-to / ミリオン
2022/12/04 公開
T-STONEやWatsonを輩出し、ホットスポットとして注目を集める徳島からの新星・Ring-to 。
彼の声がザラついているのは、この状況から抜け出したい必死さが表れているが、むしろ今この瞬間、魂を燃やしているからだと分かるだろう。前がかりなラップにも気持ちが乗っていている。Disry の熱さが好きな人は聴いてみて欲しい。
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Mono_Holly Beggar / Ark of Sky (Prod. re os - REO MATSUMOTO)
2022/12/05 公開
「なんだこれは!」と岡本太郎ばりに違和感を感じさせるHIPHOPがここにある。それは強烈な個性と個性がぶつかり合った化学反応。
荒いヤスリで削ったようなカスレた声のラッパー Mono_Holly Beggar 。イメージを羅列させる世界観は、漢字が並んだお経ともポエトリーとも言え、パンクの要素もある。うまく形容できないが、前衛的で心を揺さぶられる。寺山修司の劇団・天井桟敷を思い出した。
REO MATSUMOTO. によるコツコツと一定に刻むビートが心地よく、別世界へと誘ってくれる。
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Zion rabbit / Cold Town
2022/12/05 公開
キレッキレのラップはいかが?
埼玉県を拠点にするクルー"2BAD COMPANY"に所属するラッパー Zion rabbit 。すでに2枚のEPをリリースするなど着実にキャリアを積み重ねている。
ベロを高速で回転させまくし立てるVerse1、抑揚を抑えたHOOKからの、巧みに間合いを入れたフローでグルーヴを作るVerse2。曲中で変化をつけることで最後まで聴かせてくれる。
もっと曲が聴きたくなるアーティスト。ラッパー JJJ が好きならチェックしてみて。
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Glocky / Made in Jap feat.Young Dee
2022/12/11 公開
神戸のラッパー Glocky 。
優雅な和楽器と、連続するハイハット、そして言葉が高速で駆け抜ける様が、忍者っぽい疾走感を生み出している。「Made in Jap」から始まる歌詞は日本文化を背負いつつ世界に目を向けている証拠。コメント欄の英語の多さがそれを物語っている。
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MICHINO×共進ランドリー / Freeway
2022/12/12 公開
宮崎出身のラッパー MICHINO と、沖縄出身のフィメールビートメーカー / DJの 共進ランドリー による7曲入りEP『ContraAtaque』に収録された曲。
共進ランドリーのトラックは、天使が音を奏でているような幸福感と、雲の中にいるような浮遊感がある。
しかしMICHINOのリリックは、羽を伸ばしても飛び立てず、じっと空を見つめるしかない虚無感が漂う。直接的な描写はなくとも、過去に何かがあったであろう痛みが言葉のはしばしをササクレさせる。ラップをすることで、魂を昇華させる様がカッコいい。
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▼さらに深堀り
共進ランドリー って 食品まつりa.k.a foodman ばりに風変わりなアーティスト名だと思いません?実は、祖父、祖母、母が営んでいたクリーニング屋の名前でした。祖父が他界したことを機に店をたたむことになり、"共進ランドリー"という屋号を受け継いだそうです。なんかいい話ですね。
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JUMADIBA / Assaji | 03- Performance |
2022/12/14 公開
DJ KRUSHのフィーチャーされたりralphとのコラボ曲が話題になるなど2022年に飛躍したラッパーの1人である JUMADIBA 。
普通のラッパーが選ばないであろう、アブストラクトで濁った空間系トラック。緩いでもなく、早いでもなく、ヌルヌルと展開するフロー。
一見寄り道しているような展開が、ドキッとしたフレーズを呼び起こすマジック。「妥協もする気なし 全てつまむ箸」といったユーモアセンスも見事!
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Black petrol / PLUS ONE
2022/12/15 公開
空音との共演も記憶に新しい、HIPHOPバンド Black petrol の一年ぶりの新曲。
「PLUS ONE」と高音ボイスでリフレインする SOMAOTA 。異次元すぎて異星人っぽいつかみどころのなさ。対比する ONISAWA の重量感あるフロー。
それらが管楽器を中心としたバンドサウンドと合わさった時の破壊力たるや・・・!!!!絶句。
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SAW ft. PRIMAL / UNDERDOG pro. BAKU
2022/12/16 公開
今や伝説となった新宿拡声器集団・MSCのメンバー SAW が PRIMAL をフィーチャー。プロデュースがレーベル"KAIKOO”主宰 DJ BAKU とゆかりの深いメンツで制作された楽曲。
MSCは、日本のHIPHOPが斜陽に入った2000年代に、アンダーグランドで劇薬のようにシーンに衝撃を与えていた。
あれから月日が経ち、シングルファーザーとなって守るものができた SAW 。当時の思い描いた理想とは違う現実への戸惑いや苛立ち。それでも再び立ちあがろうと拳を上げる様が描かれている。
野良犬のようないつギラついた飢餓感はそのままで、大人な視点が加味された味わい深い作品になっている。それにしても PRIMAL は体型が変わったな〜。
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Mr.Reboot a.k.a carefreeman / Distract feat.ZAO
2022/12/16 公開
根底にJAZZがあり、心地いい音を奏でる滋賀ベースのビートメーカー Mr.Reboot a.k.a carefreeman 。
待望の1st BEAT ALBUM『Loosey』を12月9日にリリースした。去年シングルでリリースした曲のRemixやedit versionが含まれており、じっくりと制作された10曲が収められている。
アルバムに収録されたこの曲は、花鳥風月を大切にし、記憶の奥底に訴えかけるメロディアスな歌が特徴的なラッパー ZAO をフィーチャー。この時代の新しい価値観についていけずに息苦しさを感じながら、共に生きることに喜びを見出している。
美しきピアノの旋律は、冷たい風の隙間から陽が差し込むようで、この手に温かい希望を与えてくれる。
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GoodYellows / KEEP ROLLIN"(Remix)
2022/12/16 公開
都内中心に活動する4MC1DJ(LazyFoxx、Lil Ken、Seed、Sloud、※DJは不明)からなるクルー・GoodYellows 。
「力になるのは継続らしい」
まだ何者でもない彼らができることは、とにかく転がり続けることと
自分たちに言い聞かせるように「rollin rollin rollin rollin」と歌っている。
幻想的なトラックは、目的地までの道のりが長いことを物語る。
HOOKの切なげなメロディセンス。Verse4の Sloud が、言葉を倍音で乗せるなどアクセントをつけており、最後まで飽きせない構成もいい。
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Kourt / 俺らがやる feat.MeDo
2022/12/17 公開
「この街にはスターがいない」
そう言われてみれば、THE BLUE HERB や B.I.G.JOE 、Refugeecamp以降に目立ったラッパーはいなかったかも…(私がチェックできてなかったらすいません)
冒頭のリリックを書いたのは札幌の若手ラッパー・Kourt 。自らがNo. 1を目指すというよりも、札幌を背負い、街全体を盛り上げていこうというリーダー器質が気持ちいい。
「除雪でもしながら待っとけ」というフレーズが、雪国で暮らすリアリティを感じる。
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Dollar Scott / Forget
2022/12/20 公開
愛知県東郷町出身で、ラッパーそしてシンガーソングライターとして活動する Dollar Scott 。 自身がプロデューサーを務めるヒップホップ・クルー ”TG STYLE" を主宰している。
この曲は、アンニュイな歌声と共に、忘れたくても忘れられなかったあの娘の記憶が、次第に曖昧になっていく様を描く。月日が過ぎただけ とも受け取れるが、次の一歩を踏み出せたとも受け取れる。
あの娘を忘れるために夜通しドライブした明け方の景色や、あの娘がいたであろうベッドを眺める視点にも注目してほしい。
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Jelonica / One Mo'Gin
2022/12/20 公開
▌何この色っぽさは?
2002年生まれで端正な顔立ちのラッパー・Jelonica 。レビューで「ブルース混じりの歌はguca owl のに通じる〜」なんて書こうと思ったら、実の弟だと知り驚いた。
バーカウンターでグラスを傾けながら1人想いにふける瞬間を切り取った作品。ギムレット、ネグローニといったカクテルの名前が登場する楽しさ。味わい深い時間を楽しむ姿を想像してしまう。
母音を曖昧にする歌唱には、男が嫉妬する色気がある。HIPHOPでは珍しいミクロな視点から、普遍性を見つける世界観。音楽は、もっと自由でいいと改めて気付かされた。
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梵頭 / モノクロの街 feat 輪入道(Prod. DJ CUTMASTAA KATO)
2022/12/23 公開
「1分1ラウンド」で決める総合格闘技イベント『BreakingDown6』になんと選手として出場し、話題になったラッパー 梵頭 。柳ヶ瀬エリア発祥のライムクルー HIKIGANE SOUND の中心人物である。
「格闘技はもうやらない」と話していたが、MCバトルでは彼の名前を目にすることが多い。AbemaTV『フリースタイルモンスター』では、感動のバトルを繰り広げた 輪入道 をフィーチャーした曲。
美しいものと醜いもの、生と死、欲望と理性といった相反する言葉が、情景と共に描かれていく。そこには強烈な光と長く伸びる影が常にあり、暗闇が全てをなくしてしまう儚さもある。JAZZYなビートと相まって、影が大人の色っぽさを演出してる。
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▼さらに深掘り
梵頭が刑務所に入っても交流が続いていた2人。互いにリスペクトしているのが伝わって胸が熱くなる名勝負。
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Chan-K / 365(Prod. DJ I.N.I)
2022/12/26 公開
新潟県加茂市出身。新潟県県央地区を拠点とするCrew "FLEX" に所属するラッパー Chan-K 。5月1日にリリースしたアルバム『JUMANJI』に収録された曲。
「365」のタイトルからわかるようにこの1年間、音と向き合い続けてきた。いや、ラップを始めてから3年間変わらない姿勢を貫いていると語る。そこには、周囲や環境が変わっていくことで、続けることの大変さも見え隠れ。
それでも、死ぬと分かった前日に何をするかが語られており、どれほど硬い決意でラップしているか伝る。
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KyonCeeAPartment / 夢宙(Prod. B.T.Reo 440)
2022/12/28 公開
西東京を中心に活動するクルー・KyonCeeAPartment(キョンシーアパートメント) 。
その存在は神出鬼没で、PRKS9のインタビュー記事 には、メンバーは20名前後のコレクティブで、いくつか小隊のクルーがあり、全貌がつかめない存在。
そんな彼らが、同郷のビートメイカー B.T.Reo 440 との共同制作アルバム『Hit The Spot』を5月7日に7曲入りリリースした。そこに収められた楽曲「夢宙」。
記憶の断片と断片を無作為に繋ぎ合わせたようなラップは、金属音がスプラッシュするトラックの中で、焦点があってはまたボヤける。
「音に揺れてたい」
無理してつかもうとせず、音に漂うことを楽しんで欲しい一曲。
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98jams / TOUCH DOWN feat. eyden, TOME, kiddy & 1ich paddy
2022/12/28 公開
AbemaTV『ラップスタア誕生2021』のチャンプとして名を挙げた eyden が所属するクルー・98jams 。千葉を中心に活動し、他にTOME、1ich paddy、kiddy、DJ NAOYA、DJ TAIGAがメンバーとして所属している。
同番組でeydenは、「俺の仲間たちも仕事辞めて俺についていこうとか そいうことやってくれているからさ 負けるわけにはいかないんだよね」とクルーへの愛情と責任感を語っていた。
クルー名義での新曲は、eydenが無邪気に、そして遠慮なしにラップしているのが印象的。強烈な地元愛にあふれてた作品に仕上がっている。
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YU-DAI / Not A Hustler
2022/12/29 公開
ビートボクサー、プロデューサー、サウンドエンジニア、MCと多彩な顔を持つ YU-DAI 。約半年振りの新曲は、メロディメーカーとのしての才覚が発揮されている。
夜のキラびやかさを身にまとったBoomBap。ソウルフルな女性ボーカルが重なり合うサンプリング。黒人特有のダイナミックさがある。
そこからインスピレーションを受け、メロディがあふれ出して止まらない。そう思わせるメロウなVerseからHOOKの展開力がスゴい。この音にずっと浸っていたいと思わせてくれる。
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$ink / 未発芽(Prod. Bmonument)
2022/12/29 公開
「過去に馬鹿にされた日から籠り磨き上げたFlow」
大阪府吹田市出身23歳のラッパー $ink 。気忙しいトラックに乗せたフローで描く独特のリズム感。まくし立てているのに滑らさがあり、布が小刻みにゆらめていいる感覚に近い。
タイトルは「未発芽」とあるが、もう蒔いた種から芽は出ている。
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Eee. / Resilience
2022/12/30 公開
▌Resilience = 回復力
東京都狛江市出身、Eskimoというクリエイター集団のクルーに所属し、「好きなままに、自由に」をコンセプトに 音楽の幅を広げているアーティスト・Eee. 。
ゴスペルの要素を取り入れたコーラスワークが特徴的。
弱気な心をグサりと刺す問いかけ。日々移り変わる空模様と共に、心がかきむしられる。それでも力強い言葉とHOOKまでの高揚感が、前向きな気持ちを奮い立たせてくれる。
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終わりに
最後まで読んで頂きありがとうございます。好きな曲と出会えたでしょうか?
12月に公開されたMVでも、紹介しきれなかった曲がまだまだあります。毎月2回、プレイリストを作っているので、さらに深堀したい人はYouTubeチャンネルをご覧ください。では次の記事でお会いしましょう!
以上、ドラム師匠でした。