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『週刊DiGG』#7 -最新HIPHOP 8曲紹介('20/10/1〜10/8)-
今週も始まりました『週刊DiGG』。#7では、10/1〜10/8までに公開された最新MV8曲をレビューをつけて紹介します。数年後に資料としても使えるよう、曲にまつわるエピソードや関連リンクをブチ込みました。
HIPHOPには興味があるけど、どれを聴いたらいいか分からないという方にオススメの記事です。最新HIPHOPを一緒に味わってください。
※ 歌詞=リリック、サビ=HOOK、ラップをしているパート=Verse
とHIPHOP用語で表記しています。
※ アーティスト名に下線がある場合、Twitterとリンクしています。
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|ANARCHY & BADSAIKUSH / DAYDREAM (Prod.GREEN ASSASSIN DOLLAR)|
2020/10/08 公開
AbemaTV「ラップスタア誕生」では、1416人の若手ラッパーの審査をするなど後進の育成にも力を入れる ANARCHY と、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの埼玉県熊谷のクルー舐達麻の中心人物 BADSAIKUSH 。
Instagramのストーリーズに頻繁にこの2人が登場しており、仲いいのだと思ってたら突如発表されたコラボ曲。
ラッパーとしての成功を、「教えてこのゲームの負け方」と自信をもって語り、リリックでも映像でも提示することで若者に夢を与えるVerse1のANARCHY。
成功を手に入れたものの、これが俺の生き方だとギャングの道を選ぶ BADSAIKUSH。
「音楽と売人の間を行き来してる毎晩」
何かに追われるように急き立てられ、咳をしながらラップする。
それは常に危険と隣り合わせで、一瞬で崩れてなくなりそうな危うさを秘める。「DAYDREAM」というタイトルが意味深い。GREEN ASSASSIN DOLLARのトラックがエレガントなのに、いつになく淡く、そしてはかなげ。
映像を手がけたSpikey Johnの映像美が映える。
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|Andre / EVA (Prod. J Gryphin) |
2020/10/01 公開
「逃げちゃだめだ」
エヴァンゲリオンの有名なセリフだと思ったら、本当に「EVA」というタイトルだった。この曲を歌うのは2000年生まれ愛知県出身、3カ国語を操る日系ペルー人ラッパー Andre 。
戦闘機に乗り込み戦場へ向かう主人公“碇シンジ”に自分を重ねたリリック。作品を出すごとに、残酷なほど成果を数値で示されるのはアーティストの宿命。生きる希望をつかむため、怖いという感覚を歯を食いしばって殺し、前に進む痛みが感じられる。
「エヴァンゲリオン」と繰り返すHOOKに切迫感があり、怖さを感じた際、「逃げちゃだめだ」と何度も自分に言い聞かせたことが伺える。
「今じゃどこ見渡しても 使徒ばっかいて
だが此処にいたい 心痛いが いいんだ居心地が
己次第で変える未来 後戻りなんてもうできないな」
さらに映像作家・Hiroyasu Ogata による映像がめちゃくちゃカッコいい!エヴァ戦闘機のスケールの大きさと近未来感。これをどう描こうか、試行錯誤して導き出した映像だとビシビシ伝わる。
とツイートしたところ本人がこんなリプくれました。
ありがとうございます!自分自身にも逃げちゃダメだと言い聞かせ、最後の最後まで頭捻りました。そのお言葉でこれからも頑張れます!!!
— HRYZEE (@HryzeeC) October 4, 2020
YouTubeでは無料で見れるので忘れてしまいがちですが、どの作品にも多く人の思いと、時間と労力が注がれています。特にこのMVには様々な要素がつまっているので、一度見ただけでは気がつかないシーンもあります。何度も見て発見して欲しい作品です。
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|KID FRESINO / No Sun|
2020/10/07 公開
また新しい地平線を見せてくれた。
髪型を含め、独自の存在感を放つ孤高のラッパー KID FRESINO 。2018年発表のアルバム『ai qing』のリード曲だった「Coincidence」は、人の息づかいを感じるベース音で始まるバンドスタイル。ドラムの変拍子に、Steelpanが共鳴する壮大さがあり、新鮮さと驚きをもってHIPHOPファンに迎えられた。
あれから2年。現在制作中というNewアルバムからのリード曲は、ドラムが石若 駿からtoeのドラマー柏倉隆史に変わり、多少のメンバーチェンジはあるものの、小林うてな のSteelpanが鳴り響くバンドサウンド。
叩き方によりいくつもの音色を奏でるスネア、偶数拍の裏を鳴らすことで独特のグルーヴ感が生まれている。制作過程で、2つベースを左右で鳴らすアイデアを取り入れ、高音はSteelpanとシンセが、低音はベースがステレオでハーモニーを奏でる。キレのあるラップは、英語を多用しているため伴奏と一体化。
DJ+ラッパーという従来のHIPHOとは異なる、雄大な景色を見せてくれる。KID FRESINO本人が踊るコンテンポラリーダンスにも注目!
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|SHINO / Sieve (Prod.ryuki sumi) |
2020/10/04 公開
MCバトルで名を馳せるTERUや、R&Bメロディーを得意とするラッパーDraw4 を擁する大阪枚方のクルーHRKTに所属する SHINO 。
Autechreを連想するエレクトロニカ系ノイズが、快と不快の間で響く不気味なトラック。感情の揺れをできるだけ少なくし、要所要所で鋭い言葉を飛ばすスタイルは、普段は物静かな青年が、口に出せず脳内にため込んだフラストレーションを、ラップの力を借りて吐き出しているかのよう。
視聴後にノイズと共に訪れる静寂が、青い炎のように燃える。
降らす言葉の雨なら鋭利
貫通させるその薄いアンブレラ
脳みそ切手貼って
ビーツに詰めたレター
毎日揺れ動く景色の中
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|GEEK / 居間|
2020/10/02 公開
OKI、SEI-ONE、DJ EDOからなる東京のHIPHOPグループ・GEEK(ジークと呼ぶ)。
アルバム『LIFESIZE II』をリリース後、活動休止となり、再び活動を再開した矢先にSEI-ONEが脳腫瘍であることが発覚。再び活動休止を余儀無くされるなど紆余曲折を経て作られた12年振りとなる新作アルバム「LIFESIZE III」。
そのアルバムに収録されさ「居間」は、メンバーが40才になり、父親となった心情を歌にする。子供の振る舞いを見ながら、過ぎた時間をなぞるように自分の記憶を蘇らせる。
と同時に親はこんな気持ちだったのかと思いを馳せており、子供に話すように語りかけるラップは、聴き取りやすく愛に満ちてる。
「初めて100言えた日 初めて100蹴れた日
遊んでもらっているのこっち 俺にとって友達」
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|ENDY / PARTIR|
2020/10/08 公開
ラッパー達が集い、情報を交換し、レコーティングスタジオまである神戸のアパレルショップsaboを運営する ENDY 。
その土地に根を生やし、街並みや人の変化を見てきた20年間。大人ならでは大らかさと包容力があり、1人より、みんなで上がっていく方が楽しいという真理を、ザラついた弦楽器にのせてラップする。連打するベースが気持ちいい。
上がってこう 上がってこうぜ
上がってこう 上がって神戸
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|Random Square / Lame JPN|
2020/10/07 公開
ー 想定外の振り幅 ー
1st EP『take off』では、柔らかい歌声で時に爽やかに、時にダンサブルに心地よさを届けてくれた金沢の2MC兄弟クルー Random Square(Cee Scotch:兄 / Jay Curry:弟)。
さらにメロディを極めるのかと思いきや、1stアルバム『ORBIT NOVA』では、「PANDORA」という曲で幕を開ける。もしかしたらこの箱は開けてはいけなかったのかもしれない。
彼らの本性が出たのか、それとも悪い先輩と付き合うようになったのか(笑)。とにかくラップスタイルもキャラも激変している。
ビートジャック企画が盛り上がった「TOKYO DRIFT」を連想するアジア系Trapビートにのせ、ウィルスのせいで退屈になったこの国に怒りをぶちまけ、中指を立てながら喝を入れる。
アルバムでは、美しいハーモニー曲もあるので、1st EPで好きになった人はご安心を。振り幅が大きくて面白い。
「ビビってるてる日本
いつになっても半端なjudge
ウイルス跳ね除けまたFly
エイジアン暴行するWorld」
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|KID PENSEUR / MATSURI feat. 愛染 eyezen|
2020/10/07 公開
大阪の18才、若手ラッパー最注目人物:KID PENSEUR (キッドパンスール)。
個人的な話になるが、2019年12月に大阪で行われた『超忘年会』という100名近いアーティストが出演したイベントで、声の良さとリズムの乗りこなしから、“この人は有名になる”と慌てて名前を確認したほど頭一つ抜けた実力があった。
今までに2枚のシングルを発表し、10/21にリリースとなる待望の1st EP 『Wassup!!』からのリード曲。
声を発した途端、危険な香りを充満させるラッパー愛染 eyezen 。KID PENSEURは、十代とは思えぬほどの落ち着きをはらう。それは牙を内にひそめ、いつ襲いかかってくるか分からない不気味な存在感。金属質な高音が響く鐘の音は、これから始まる祭囃子の前奏のようで、否が応でも期待が高まる。
KID PENSEURの可能性しか感じない一曲に仕上がっている。
「大人になりなさいとか言われても
I don't care 当然
俺は俺だけだ In The World」
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今週のHIPHOPニュース
MCバトルでDJが流すビートについて、ラッパーJinmenusagi から問題提起がありました。
今後の国内の全てのMCバトルの大会において「はやい」のビートの使用を一切禁じます。
— LEEYVNG / JMSG (@Jinmenusagi) September 30, 2020
※現段階で映像・DVD化されていたり、そのリリースの過程にあるものを除きます。
これは自分とDubbyMapleの総意です。何卒宜しくお願い致します。#Jinmenusagi#DubbyMaple#業放つ https://t.co/HItFjCy27m
MCバトルでDJが曲を流すだけならいいのですが、それがYouTubeで多く再生されたり、DVDとして販売すると収益になります。
問題は、その収益がビートメーカーに還元されていないという点にあります。
私の意見は、MCバトルの主催者が、ビート制作に費やした時間や苦労への想像力が足りなかったのではないかと思います。バトル動画でも、ラッパーの表記はあれど、作曲者/曲名の表記があるものが圧倒的に少ないのが現状です。
今回の問題提起をきっかけとして、動画内でのビートの表記、ビートメーカーへの分配を考えて欲しいです。ちなみに私も動画でフリービートを使わせてもらっていますが表記をしています。
いいビートメーカーの存在抜きにして、いい曲は生まれません。業界全体でwin-winな関係になるようデザインし、みんなで盛り上げたいですね。
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さらにHIPHOPを知りたい人へ
最新HIPHOPを8曲紹介してきました。皆さんのお気に入りアーティストは見つかったでしょうか?コメントをお待ちしています。
『週刊DiGG』では、これからもHIPHOPを紹介していきます。毎週読むのは大変なのでまとめて読みたい、という人のために『月刊DiGG』も始めました。月1回 約30曲分をまとめてチェックできますので、ライフスタイルに合わせて読んでみてください。見逃さないようフォローをお願いします。
またYouTubeでもHIPHOPを紹介しています。登録者数が伸び悩んでいるのでチェックしてもらえると嬉しいです。では次週お会いしましょう。またね!
⬇︎ドラム師匠のYouTubeチャンネル
⬇︎毎月2回、厳選した30曲のプレイリストを作っています。'20/9/16〜9/30までに公開されたMVの中から厳選した30曲をセレクトしました。
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