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ニンジャ飯!『ナラクの適当塩むすび』
このニンジャスレイヤー二次創作は一人のドクペ中毒によって書かれました。色々拙い所とか、見るに堪えない所があるかもしれませんが、生暖かい目で見守って貰えると嬉しいです
◆◆◆◆◆
────コトダマ空間において、時間と言うのは酷く曖昧なモノだ
一日が240時間の様に感じられる時もあれば、24分のようにも感じられる時もある。そもそもコトダマ空間、特に個人の持つローカルコトダマ空間では日が昇る事も、沈むことも滅多にない
ただただ太陽代わりの黄金立方体が浮かんでいるのを眺めているばかりだ。果たして、そのような空間でどのようにして”一日”を定義すればよいのやら
腹も減らず、喉も乾かず
ある種の拷問染みた退屈が、コトダマ空間の住民を……ナラクを襲っていた
「……暇じゃの」
フジキドのローカルコトダマ空間に寝そべりながらナラクはそう独り言ちた
この空間の本来の主であるフジキドは、どうやら酒でも飲んで浮かれているらしい。茶の間に置かれたブラウン管TV(どういう訳か、このTVを通じてお互いの状況が見て取れるのだ)の中で次々とジョッキを空けて行くフジキドを横目に見ながら、ナラクは再び見飽きた天井に視線を戻した
恐らく、ニンジャは現れないだろう。現れたとしても、取るに足らんサンシタか、それ以下の塵芥か。どちらにせよナラクには関係のない事だ
「…………」
そうして天井を見つめる事数分
彼はのそのそと起き上がり、茶の間の隣にある台所へと向かった
なんの為に?暇つぶしの為にだ
「ニンジャ憎し」「ニンジャ殺すべし」を胸に何百年も憑依者を変えて現世に復活し、その度に大いなる災いを齎した彼と言えど、四六時中ニンジャを殺そうと暴れていた訳ではない
誰かから奪う形ではあるが飯を食う事もあったし、僅かながら睡眠を取る事もあった
そもそも今の”ナラク”を形成する大元はモータルなのだ
遠い昔、最早マトモに思い出せない程の過去の話ではあるが、台所に立ち飯を食らう事もあった……はずだ
「……こう、だったかの」
鳥の囀りの様な音を立ててコンロに火が付く
その隣では炊飯器がコトコトと揺れ、柔らかな米をあやしていた
どちらも”ナラク”が生きていた頃には存在しない、想像も出来ない様な物だったが、こうして触れてみると意外と便利で使いやすいものだ
コンロの火でチリチリと海苔を炙りながらナラクはそんな事を思った
『おコメが出来ましたドスエ』
「おう、出来たか」
返す必要のない返事を返しながら炊飯器の蓋を開ける。ほわりとした湯気と共に艶々と光り輝く米が姿を現す。これもかつては滅多に見れなかった実際貴重な光景だ
その光景にナラクはしばし感激したかのように息を吐き、そして気を取り直したようにしゃもじを手にその米を掻き出した。適当な分を取り、自身の手に載せる
「あつつ……あつつ……」
ニンジャとのイクサではこれ以上の業火に焼かれた事もあると言うのに、何故だかそんな言葉が出て来てしまう。これもかつてモータルだった頃の名残だろうか?
最早戻れぬと言うのに女々しい事を思う自分を嘲笑う様に一つ鼻を鳴らし、パッパッと塩を振る。鮭やら梅干しやらを入れることも考えたが、そこまでするやる気は今のナラクにはなかった
それに、こういう素朴な握り飯と言うのもいいモノだろう
そう結論付けてナラクはグッグッと米を握る。なるべく米が痛まぬように柔らかく、しかし米が冷めないように迅速に。ニンジャ筋力やらニンジャ洞察力やらを使うまでもない
「よし、出来た」
少し歪な三角形に炙ったばかりの海苔を撒き、適当な皿に置く
そこにこれまた冷蔵庫から適当に取り出した麦茶を添えれば、成程、どこかの田舎で見た事のあるような簡素な昼飯の出来上がりだ
久しぶりの料理と言え、意外と見れたモノだと自画自賛しながら再び茶の間に戻る
TVにはフジキドと赤いコートの女、レッドハッグが何やら夜会めいた所で踊っているのが写る。ダンス、と言うには少し不安定で不格好な、だが何とか見てられる程度には整えられた、そんなダンスを
「グググ……何を浮かれおるか、フジキドめ」
そう嘲りながら握り飯を頬張る
パリッと言う小気味のいい音と共に海苔が裂け、熱い米が口に入る。仄かな甘みと、しっかりと塩の味が舌の上で転がった
ゆっくりと味わう様に一つ、また一つと塩むすびに手を伸ばし、麦茶を啜るそして満足げに息を吐く
無論、コトダマ空間での食事に意味はない
砂を固めて作った泥団子を食う振りをするような……そんな無意味で児戯染みたモノだ。腹も膨れない、喉も潤わない(そもそも減る腹も乾く喉も今のナラクにはないのだが)
それでも得られる満足感と言うものがある
ナラクは満足げに溜息を吐いた
そしてほんの少しの満足感を得て暇つぶしを終えたナラクは、再度TVの方へと視線を向けた。指を振るえば皿もコップも露と消える
TVの向こうでは果たして何があったのやら、顔を真っ赤にしたフジキドとレッドハッグが薄汚い路地裏で暴れ回る様が映しだされていた。ブザマ極まるカラテを構えようとして嘔吐するフジキドの声がTVから響く
『オゴゴーッ!!』
『アイエエエ!』
『何やってンだい全くもう』
それを見ながらナラクはほんの少しだけ眉を上げ、心底愉快そうな笑みを浮かべ、一言呟いた
『ブザマの極み』