会者定離 and Live in the Moment 🐾

旧来の知人、いや、盟友と呼ぶに値する先人が黄泉に旅立ち、浮世から永遠に隠れる=死去するという人生のピリオドを打ったと、穏やかな秋風の便りに知った。

齢40を過ぎ早5年。若かりし頃の戦友や先人たちも既に初老の域に達し、時世の影響と、そのReal Hard Knock なライフスタイルが故に、酷使した身体の限界が無慈悲に生命を貪り、近代としては比較的短命で、この世を去るという実例を、何度か目にしてきたけど、その都度、密かに感じる事がある。

それは悲しさ的な類いの感情ではない。むしろ、故人のやりきった生に対する敬意と憧れが複雑に入り混じったような不思議な感覚だ。

人生の価値は長さにあらず。この世に生を受け、何を成し、何を残したか？が、数億の種子から選ばれた魂である事の結果であり、たった今息をする意味だと思って日々を過ごしているのは、己がアーティスト/表現者を志しているからだけではなく、個人的な死生観に基づく考え方なのかもしれない。

人生をひとつの作品として捉えるなら？死は最期と言うより完成の方が言葉として近いと思っている。物事には終わりがあるからこそ今が輝くのだと。ひとりの人生=個の作品が、人々の記憶を巡り、ふと出会った誰かの人生を照らす光になる事もあるからだ。

時に不慮の終わりを迎えてしまう場合もあるかもしれない。その喪失感は遺された者に深く刻まれる哀しみとなるのが人の世の常だ。でも、ある程度の年月を生き、成人し、老齢に達するまでの足跡が故人にあったのなら？少なからず幸せな時間もあったであろう事を、身近な者がゆっくり憶い出してあげると、その生は輝きを増すと思う。

生きていれば辛い事も悲しい事もある。逆に楽しい事も嬉しい事もある。そのどれもが心象風景の記憶となり、人を人たらしめる糧になる。

自分と同じ人間は誰ひとりといない。自らの経験や記憶は刹那の個性となり、この世に生まれた証となる。生きとし生ける全ての命が、進化の果てを思い描く、新しい起源の可能性を秘めた種なのだ。

おっといけねぇ、また遠い方の目を使って話がマクロな次元につい流れちまった。話が壮大になり過ぎて、宇宙の果てまで語り出すと長くなるから、とりあえずシャワー浴びてサッパリして来よう。

閑話休題.....しばらくお待ちください。

あースッキリした(ホカホカ)

さて、話をミクロな次元に戻してみようかな。

なんで今こんな話を綴りたくなったか？といえば、かつて世界で1番アナログレコードが集まる街と言われた渋谷宇田川町のハードディガー、奥の部屋の板前料理長、バイナル極道総本部顧問、こだわり濃過ぎ黒過ぎ裏支配人 Mr.Itagaki こと我らがイタチョーが、どうやらあの世に飛んでったらしいとの事で、軽く物思いに耽ってみてるのだった。

ざっと知り合った頃の記憶を辿るなら？当初はYAMAHA TWバイクに跨る渋谷 Manhattan Records の巨漢トレーダー。アメリカ各地など、海外買い付けによるレアなアナログレコードを所狭しと鱈腹せしめ、奥の部屋でひたすら試聴&値付けをしていた宇田川町の黒きトルネコ。

その頃、自分も近所にあった「Savage! 」という King of Diggin こと MUROさんのショップで、ラッパー店員兼バイヤーをやりはじめていたから、チル(昼)休憩によく遊びに行った。その後、イチ社員イチ部長に収まりきらない器だったイタチョーは 「BAMBU TRADER」 という店を渋谷宇田川町にかまえる。そこにもよくチル休憩に立ち寄った。

BAMBU TRADER にはイタチョーコレクションからの蔵出しアナログレコードは勿論、更にレアな海外アートポスターや最新ヘッズアイテムが取り揃えられていた。

当時、自分もNY買い付けによく行っていた手前、より深くてリアルな、古き良き海外土産話を聞いたり、イタチョー特製低音チューニングが施されたアンプから、様々な漆黒グルーヴを、我が浅き耳と脳に叩き込む為に足繁く通った。

基本的に超毒舌無敵親方キャラだったイタチョーと小一時間ほど問答すると、自らも軽くレベルアップして強くなってるような気がした。天然リアルビッグマンは、敬意をもって真摯に向き合う者に対し、胆力を与えてくれるって事をイタチョーからも学んだ。

それにしても、自分が BAMBU TRADER に行くと、決まって直ぐ後に某DJ KA◯RIさんが現れて、すかさずジョイントグルーヴの輪に乱入してくるという、お決まりの流れみたいな縁はなんだったのだろう？店によく来ていたらしいコンさん(D.L)とかにはあまり会わなかったんだけどな。とにかく、様々な玄人に愛されていた店だったのは間違いない。

後に、イタチョーによる MIX TAPE クラッシック 「BAMBU」の名を冠したプロデュース楽曲を、NITRO MICROPHON UNDERGROUND(以下NMU)の前身だったRequiemメンバーによる「NITRO WORKS」というEPに収録したのは知る人ぞ知る事実。

今思えば、あの時「BAMBU」を7inchレコードのみでシングルリリースしたのは、早すぎた先見の明だったのかもしれない。

気がついた時には、NMU名義の楽曲を中心に、多岐に渡る関連作品にまで、常に縁の下の力持ち的番人として、イタチョーが我々の背中を守っていてくれたから、若気の至り、勢い余りまくりで傍若無人な我々の燦々たる活動に、黒き深淵なる含蓄が付加されていたのだと思う。やべ、ちょいと目から汗が滲みそう...

そんなイタチョーの BAMBU TRADER にて、自分が買い物した中で1番記憶に残っているのは？初期 US 本家 DEFJAM のでっかい RUNDMC のポスターだ。それはフォントが見た事もないスポンジエンボス加工で装飾されたレアな特注品で、アメリカ内地のコレクターから仕入れたらしい、程度も新品未使用な奇跡の逸品だった。

普通に店に出してる売り物なのに、お気に入りのアイテムをなかなか売ってくれない方針の頑固な店主=イタチョーに3回ぐらい面談交渉して、最終的に買った時の値段がいくらだったのか？紫煙の彼方に忘れてしまったけど、当時、DEFJAM JPN とソロアーティスト契約を結んでいた自分に「言われてみれば確かに日本で今このポスターを買うに値するのはお前なのかもな」とボヤいて渋々売ってくれた事を覚えている。何回も言うけど、店に置かれた売り物を客が買っただけの話なんですがね。

で、実はこの話には続きがあって。

そのBAMBU TRADER で買った 初期 US 本家DEFJAM 特注 RUNDMC ポスターを、当時、青山1丁目にあったUNIVERSAL MUSIC JPN 本社ビル内の DEFJAM JPN フロアーに、海外ドラマ 24 みたいな、ガラス張りの特別室をしつらえさせて重役を気取ってた、某辣腕女性エグゼクティブ R に「額縁に入れてこの部屋に飾るにふさわしいポスターをプレゼントするよ」と言って渡したら、その後、その某辣腕女性エグゼクティブ R が、私の部屋には過ぎたる宝だと、US 本家 DEFJAM の社長だったリオコーエンさんに贈呈して、なんだコレ見たことない！素晴らしい！となり、その結果、NYアップタウンにあった UNIVERSAL MUSIC 本社ビル内の US 本家 DEFJAM オフィスに飾られたという逸話が残っている。因みに、ユダヤ人ブルジョワ御曹司でアートコレクターだったリオさんの社長室には、奈良美智さんの絵画が飾られていた。

余談だが、その流れで後続日本人ラッパー達が RUNDMC/WALK THIS WAY のカバーをMTV VMA JPN で披露してたけど、この裏話に関しては、今となっては極めてひと握りの関係者だけが知る、日本人ハードディガーが探り当てた、1枚のレアポスターが、海を越え世界を巡り、人と人を繋げ、ルーツに帰還するという、奇縁の物語である。

イタチョーには「お前がカバーすれば良かったのに」と軽く詰められたけど、個人的な趣味として、S-WORD はリオさんの大学盟友であった Beastie Boys/Fight for Your Right のカバー権を貰う事でディールしたし、イタチョー的にも、自らディグったポスターが本家に届いた流れが悦な誉れだったらしく、この件で、私の存在を1人前として認めてくれたような気がする。あのポスターをお前に売って本当に良かった、トレーダー冥利に尽きると言ってもらえたから。

その後、数々の戦役を NMU 参謀としてイタチョーに後方支援してもらいながら、自らも S-WORD として先陣を切り、あまねく戦場を縦横無尽に駆け抜ける流れの中で、かなり歳下な私に対し、敬意を持って接してくれるようになっていった。

今思えば、クソ生意気な若造の頃から世話になっていた私が、イタチョーみたいな極めて頑固な親方に、最終的に敬意を持って接してもらえたという事は、かなりレアケースなんじゃないかなと、やっぱり、天然リアルビッグマンは関わる者に胆力を与えてくれるんだなと、再認識しました。いかん、また目からちょいと汗が...

近年は活動域の違いから、ほとんど顔を合わせなくなってしまいましたが、リックルービンの様な仙人髭を蓄え、最終進化を遂げたイタチョーの生き様の欠片は、私の記憶に刻まれ、更なる未来を切り開く礎となります。

なにより、イタチョーが遺した作品/楽曲達は、リアルに濃過ぎて、これからも浮世の黒き玄人達を唸らせるだろうと思いますよ。

だって、当時は濃過ぎて、参加した私すら通して聞かなかったイタチョーのアルバムの自分曲以外の流れを、実はさっき初めて聴いたのですが (スンマセーン笑) 冒頭からいきなりムセラッキーだし、メンツ濃過ぎ辛口スキル満載だし、ドSにも程があると、腹の底から笑いました！

いや〜こんなん誰も真似出来ないし作れないす。マジで。

そんな濃過ぎるスキルがお好きな方へ▼

あ、「オレが居なくなってから宣伝されても印税貰えねぇじゃねえか！」とイタチョーから詰められそうだな。ま、そこは長年のよしみで許してくだされ。このご時世、印税なんて大したもんでもないんで(笑) でも、少なからず、このタイミングで、皆でなんとなく追悼の意を共有出来れば、個人的には御の字かなと思う次第であります。それよりなにより、長年の積み重ねコレクションの行き先が軽く気になるところですが、その辺はディガー同志や先代とかがなんとかするだろうと勝手に期待して任せときますね。

ほんと、みんな急に逝っちゃうからなぁ。見習いたいけど、自分にはまだ早いな。やらなきゃいけない事あるし。ま、こんな事を言うのは不謹慎かもしれませんが、すでにそっちには数々のレジェンドやコンさんもいるし、我々も遅かれ早かれ逝くんで、その時は、またゆっくりチル休憩でもしたいと思ってます。

どうかそれまで、しばし高みからご観覧を。

自分はまだ、今生でやるべき事、成すべき事が残っているらしいので、我が宿命がしっかり果たせるよう、フォースの源から援護よろしくお願い申し上げます。

相変わらず、不躾に頼ってばっかりでアレですが、結果だけは、しっかり出すのでご安心を。

とかなんとか書いてたら、なんとなくイタチョーに鼻で笑われた気がしたんで、今回はこの辺にしとこかな。

えーそんな感じで、僭越ながら、自分勝手な追悼の儀とさせていただきました。

当人の人柄的に、広く浅くは好まず、知る人ぞ知る日陰の番人だったのかもしれませんが、ここに記す事により、その完成した人生の陰影に、ささやかな花が添えられていれば良いなと祈りつつ。

Rest In Paradise

Mr. ITAGAKI A.K.A. ITA-CHO

Bambu Trader / Digger, Beatmaker, Producer, DJ, Record dealer, Vintage Poster Dealer and My Comrade.

これはかなりニッチな業界の裏話。

でも、全ての世界は繋がっている。

小さな蝶の羽ばたきが、果てなく地球を巡り、昨日には無かった新しい風となって、浮世に旋風を巻き起こすかもしれない可能性を秘めている事に、ほとんどの人は気がついていない。

Do not fear death so much, but rather the inadequate life.

If you would not be forgotten as soon as you are dead, either write things worth reading or do things worth writing.

SW×××