最後、最期の形。
短い言葉のツイートはバズったけど、どこかに書かないと収まらないこの気持ち。
昨日土曜日、隠岐の海の引退相撲に行って来た。
動機は不純そのもの。
病気で解説をずっと休場している北の富士さんの安否を確認するためだ。
北の富士さんは、隠岐の海が所属する八角部屋の親方、元北勝海の親方で…
まぁつまり、隠岐の海のおじいちゃんみたいなもので、孫の引退相撲なら来るんじゃないか?!みたいな邪な気持ちでチケットを買ったのだ。
大好きなのよ、北の富士さんが。
勝昭ラブ。
要するに、隠岐の海が好きだったからというわけではないし、むしろお相撲を見始めた頃はずっと嫌いだった。好きになるまでに時間がかかったお相撲さんの1人だ。
それが、だ。
隠岐の海の引退相撲に私はいた。
ひょんなことである。
木戸でチケットをもぎってもらうなり、
「島根!島根!島根!」
が始まっていて、それに面食らいながらいつもと違ういつもの国技館を進む。
「しまねっこ」とかいう、頭に出雲大社の屋根をかぶった黄色い猫のゆるキャラが闊歩していて、その隣りには島根県知事が「島根県」と書かれた半被を着て笑っているのを見た。
なんだこれは。
ここは両国だぞ。
会場内の売店では島根の特産品と隠岐島の日本酒が所狭しと売られ、日比谷の島根アンテナショップのエプロンを着けたスタッフさんの姿もあった。島根総動員である。
外のキッチンカーでは「隠岐の海も大好き!サザエカレー!」が売られていて長蛇の列が出来ており、
また館内に戻ると、観光協会の方達が「島根に来てね!」とたくさんの観光地パンフレットが入った袋を手渡してくれた。
地下の広間では、隠岐島の写真が飾られていて、隠岐古典相撲の写真も少し展示されていた。
島根!島根!島根!に圧倒されながら人波をかき分けてマス席に座ると、これはこれはのほぼ満席。
この入り具合、本場所なら「満員御礼」の幕がおりたはずと思う。
先週終わった九月場所の間15日間ずっと、館内でチケットを手売りしていたという隠岐の海。
私も中日にここでご本人からチケットを買ったクチだが、本場所中に引退相撲チケットを手売りをした力士はたくさんいたけど、ほぼ全日やったという話は聞いた記憶がない。
引退相撲に花を添える十両取組が終わって、
「隠岐の海、最後の相撲です」
とアナウンスが入る。
最後の相撲。
この後すぐ断髪をするため、髷を付けて相撲を取る、お相撲さんとして最後の取組みだ。
私はお相撲を見始めて9年目。はっきりとしたデータは知らないが、最近では白鵬がそうだったように、自分の子供と取る人が多い気がしている。
それが、同じ部屋の後輩力士、隠岐の富士くんと取るという。
隠岐島伝統の古典相撲形式で取るのだという。
…なんのことかわからないまま見ている私。
隠岐相撲の行司さんが土俵に上がって来る。
江戸時代の武士みたいな羽織袴姿。
相撲協会の行司さんはどちらかというと、平安時代のおじゃるおじゃるー風装束なので、殿中でござる感がある。
不思議な感じのまま不思議な口上。
代わって、呼び出しさんも上がって来た。
名前を呼ぶというより、煽りだこれは。
力士と観客をこれでもかとばかりに煽る。
キャラつよ、クセつよ、笑かし係という感じ。
そしていよいよ東西力士が上がって来てー。
バズったツイートの、この大量の塩まきになったわけだ。
会場は一瞬ポカーンというか、えぇぇー?!というどよめきの後、割れんばかりの大爆笑&大喝采だった。
これは祭りだ。
お相撲というより祭りだ。
島の祭り、最高。
祭りとなれば、結果なんてどうでもよさ
そうだけど、
結果、隠岐の海の勝利。
で最後の相撲かと思いきや、隠岐相撲では同じ相手と二番取る習わしなのだそうで、二番目では勝った力士が負けた方に勝ちを譲るとのこと。
これは小さな島の中で遺恨を残さないための決まりごとなんだそうで、
隠岐の海は最後の最後、上手に後輩に負けてみせて、人生最後の土俵を降りた。
大きな拍手と歓声の後、隠岐島から来た小学生による相撲踊りがあり、同じく元町長さんを含む4人のご長老たちによる相撲甚句も披露された。
この間の九月場所。
熱海富士くんの活躍で熱海が大きく盛り上がるのを見て、故郷の名前を背負う四股名の持つ力と役割のことを思っていたけど、
隠岐の海の現役生活は、18年。
その間ずっとそれをやって来ていて、
そして最後の自分の花道に島根県を、
そして、満員の両国国技館の土俵に、隠岐島の相撲をブチあげて来たのだと知って、なぜか私に万感の思いが込みあげて来てしまった。
だって、おっきーがいなかったら、島の祭りの狂乱古典相撲も、かわいいちびっこたちも、両国国技館の土俵にあがることなんてなかったと思う。
こんなかっこいい力士おるか!!
(おらん!!)
みたいな気持ちでいっぱいになった。
「あんまり面白くて泣いてる。」
とツイートしたのは、
面白すぎて涙出た、というわけじゃなく、
面白いと思った後、全てのことが繋がって、笑いながら泣いてしまった。
という意味で書いた。
でも、最初本当におっきーのことは好きになれなかったんだ。
ほんとにごめん。
帰宅してからいろいろ見てたら、あの塩まきの中、おっきー楽しそうに笑ってるのがまた最高だった。
最高の漢の最高の最後の笑顔最高。
私も、自分のお店の最後とか、自分の最後とか、あんなお祭り騒ぎの中、笑いながら終えていきたい。
隠岐の海引退相撲。
という祭りの中に自分の死生観を見た話でした。
(NHK大相撲中継終わりの跳ね太鼓の音でさようなら)