沈丁花の夢
沈丁花の夢
作:石川惠理
あらすじ
——人類はこの世に
生まれてくるべきではない——
反出生主義の哲学者、朝野吾郎。
子どもを望む妻の聡子とは
最近、言い合いばかりの毎日だった。
そんな折、不思議な力を持つ
「妖精」と出会うことになる。
妖精は、他人を疑うことを知らない。
妖精は、吾郎だけにしか見えない。
妖精は言う。「子どもを作り、
働いて、死ぬのが一番幸せだ」と。
反論し、反出生主義を説く吾郎。
そのうち「一緒に妖精の世界に行こう」と
誘われて———。
登場人物
朝野吾郎
妖精
聡子
家臣
国王
生徒
母(声)
1
朝、鳥の鳴く声
めざまし時計が鳴り響く
一人の男が眠っている
男が起きて時計を止める
吾郎 ・・・
しばし呆然とする吾郎
幸せそうな笑い声と目玉焼きの焼ける音がして、パタパタと娘が入ってくる
娘 お父さん!まだ寝てたの?また変なところで寝てるし!
吾郎 え、ああ・・・
娘 早く起きてよね!今日はみんなで遊園地に行く日でしょ?
吾郎 え、ああ、そうだっけ・・・
娘 そうだよ、ほら!
ぼーっとする吾郎
犬の鳴き声と娘の笑い声が響いている
妻が入ってくる
妻 やっと起きたの?
吾郎 ああ、うん
妻 あのこ、ずっと騒いでたのよ、お父さんまだかなーって
吾郎 あのこ?
妻 今お弁当と朝ごはん作ってるからね
娘 ねー!お母さん!ぽちも一緒に遊園地いけるでしょ?
妻 ええ、いけるわよ。ぽちも楽しみにしてたもの、ねえ?
犬 わんわん!
吾郎 ・・・うちの犬、こんなにでかかったっけ
妻 なあに言ってんのよ、急に大きくなったわけじゃないでしょ
犬 わんわん!
吾郎 (仕方なく頭を撫でる)
娘 ねえねえ、私今度運動会でリレーの選手になったんだよ
妻 え!そうなの?すごいじゃない〜!ね、吾郎さん、すごいわよね。最近お勉強も頑張ってるし、張り切ってるわねえ
娘 えへへ。今度生まれてくる赤ちゃんのためにも、いいとこ見せなきゃね!
妻 そうね、うふふ
犬 わんわん!
吾郎 赤ちゃん・・
娘 お父さん?どうしたの?まだ眠いの?
吾郎 ああ、そうなのかな・・・
娘 どうしたの?
吾郎 いや、なんだろう、僕・・・・・
娘たちの声がリフレインしながら、目覚まし時計の音
吾郎、しんどそうに椅子にもたれかかる
徐々に明かりが変化し、妻、娘、犬は去る
吾郎は一人。目覚まし時計がなっている
吾郎 ・・・
同じく朝、鳥の鳴く声
聡子が入ってくる
聡子 ・・・どうしたの?
吾郎 あ・・・。聡子。
聡子 おはよう、吾郎さん。昨日、ソファで寝ちゃったの?
吾郎 ああ、うん・・・そうみたい
聡子 そう。目覚まし、止めなよ
聡子が出て行く
吾郎、目覚まし時計を止める
同時に音楽
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