ゆめのはかば　＊たばこ＆リップ＊

ゆめのはかば
作：石川惠理

１

扉を叩く音がする
遅れて女の子の声

女　　ねえ、開けて、開けて。お願い。

扉を叩く音
どんどんどん

女　　ねえ、誰か、誰かいないの？ねえ、お願い！

どんどんどん

女　　何がいけなかったの？私、悪いことしてない！何もしてないじゃない！ただ、
　　　ただ・・・好きなものを好きって言っただけ、嫌なことを嫌って言っただけなのに・・・
声　　それが愚かなんだよ
女　　なんで？
声　　そういうものだ、みんなそうしているんだ。我慢して、知らないふりをして。
女　　そんなの、そんなのおかしいじゃない！

どん！と、ひときわ大きな扉を叩く音
女の子はその場に打たれたように崩れ落ちる

暗転

雑然した舞台
椅子や箱、おもちゃ、ぬいぐるみ、花や星など様々なものは狭い空間に散らばっている
そこに女の子がひとり
座っているのか寝ているのか曖昧な格好

時計の音が鳴り響く
女の子、目を覚ます

女　・・・

しばらくきょろきょろ見渡すと、一点を見つめてつぶやく

女　・・・大きな時計

時計の音が鳴り響き、びっくりして後ずさる女の子
時計の声が響き渡る
それは歌っているよう

時計　ここは平和　安全のへや　きずや痛みといちばん遠い　
あなたのきずはあなたのもの　それはここに捨て置くにふさわしいもの
　　　ここは平和　安全のへや

がちゃがちゃと施錠の音

女　　待って！

女の子の手は虚しく空を切る

女　　・・・なんのこと？ここはどこ？

声１　ここは平和
声２　安全の部屋

声に振り向く女の子

女　　・・・だれ？だれかいるの？

声１　こんにちは、お嬢さん
声２　こんにちは、お嬢さん

女　　どこ？どこにいるの？

たばこ　ここだよ
リップ　ここだよ

女　　・・・え？もしかして

たばことリップを手に取り、まじまじと見る女の子

たばこ　はじめまして、お嬢さん。
リップ　はじめまして、お嬢さん。

女　　・・・（警戒して）あなたたちは、だれなの？

たばこ　ようこそ
リップ　ゆめの世界へ

暗転
同時に音楽