ゆめのはかば 千秋楽

幕に覆われた舞台。子ども部屋のように、ガーランドなどが飾ってある。
そこに、一人の女性が入ってくる。

女   はい、じゃあおやすみ。・・・え?まだ眠くないって・・・お話?またあ?・・・いいよ、どれにしよっか。・・・またあのお話?本当に好きだねえ。

女、奥から一冊の本を取り出して。

女   じゃあ、読んだら寝るんだよ。いい?・・わかったわかった、読むから。・・・これは、「おろかなおんなのこのはなし」。

暗転

演劇ユニットSPOON リモート公演
「ゆめのはかば」千秋楽特別脚本


暗転
(暗転中から以下の声の再生始まる)

明転すると布団は消えており、さきほどの女性走っている。
それはかつて部屋に迷い込んだ女の子。
物語を綴る声が響く。

声   むかあし、むかし・・・こことは違う世界のおはなし。意地悪な時計のもとに生まれた女の子の話です。
    その女の子は、時計の元に生まれましたが、時計に愛してもらうことが出来ませんでした。
    なぜかはわかりません。でも賢い女の子は、ずいぶん小さな頃から、そのことをわかってしまっていました。
    時計は、女の子に着せたい服、着せたい食べ物、させたいことを与えました。
    しかし、与えられるもの、すべて女の子の望んだものなどありませんでした。
    彼女が何を好きかなど、まったく関係なかったからです。時計はちくたく、意地悪な音を立てて笑うだけでした。

走っていた女の子、転ぶ。

女   痛!・・・だめだ、止まったら、だめだ、せっかくあそこから出られたのに・・・

また走り始める。

声   女の子は必死に抵抗しました。そして、自分の気持ちを伝え続けました。しかし、時計は、女の子の気持ちなど望んでいませんでした。そうして女の子は、行動を矯正するための部屋に入れられてしまいました。

女   誰か、誰か・・・

声   女の子が言うことを聞くように、いろんな罰が与えられました。女の子は心も体も傷つきました。それは、小さく、幼い彼女が受け止められないほどの傷です。ついに彼女は、諦めました。

女の子、止まって

女   言うことを聞きます。もう、馬鹿なことはしません・・・・。

声   時計はたいそう喜んで、下品に笑いました。ちくたくちくたくちくたく。きもちのわるい笑い声が部屋に響きます。それも、気にならなくなっていました。そして扉は開かれました。女の子は久しぶりに外に出ました。明るい太陽、季節は夏になっていました。その時です。

女   なんて、私が言うと思ったかああ!!

女の子、再び走り出す。

声   なぜ、そう言ったかは女の子も覚えていません。けれど、そう言わずにいられませんでした。こうして、女の子の、意地悪な時の進んだ時計から逃げる旅が始まりました。

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