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【ポケポケ】ピカチュウex詳説 なぜ強かった? 最強の遺伝子環境と共に在り続けたデッキを紐解く
0.はじめに
最強の遺伝子環境が終わりを告げ、「幻のいる島」環境が始まろうとしている。
この記事は最強の遺伝子環境の中期から執筆を開始していたものだが、「ミュウツーex」の台頭でピカ一強に終焉の兆しが見えたことでお蔵入り寸前になっていた。
しかし、その後環境が変遷する中で、ピカは上位の座をキープし続ける。ミュウツーの分布が20%以上という険しい環境でも、ピカは依然高い入賞率を誇った。
今回の記事は、最強の遺伝子環境を象徴するデッキの一つ「ピカチュウex」を詳細に解説し、なぜトップを維持できたのか? 最強の遺伝子環境とはどんな環境だったのか? という点を考察していく。
こうした記事を残すことで、次弾以降の研究や新規プレイヤーのゲーム理解が進むことを祈る。
1.ピカチュウexの基本
まず、デッキの中心となるピカチュウexの性能について。
ピカexは、場のかみなりポケモンの数 * 30の威力を発揮するわざ「エレキサークル」を持つたねポケモンである。
エレキサークルの威力は最大90点であり、この威力は2エネ打点の中では最高クラス。
他の2エネ打点との違い
同環境には、ピカ同様に2エネで起動できる中打点が複数存在した。「スターミーex」や「キュウコン」が代表的で、運や条件達成が絡むものの「オコリザル」「ガラガラex」なども居る。これらよりもピカが好まれた理由は複数存在するが、ピカ人気の根底には「ギミックの再現性を構築次第で底上げできる」という強みがあった。
ピカ以外の2エネ中打点は基本的に1進化であり、たねポケモンのピカexと比べて場に繰り出しづらい。他方、ピカはたねポケモンの枚数を調整することで本体 + ベンチポケモンが揃う確率を上げられたため、再現性において他デッキと一線を画していた。
たねポケモンの採用数は初期は8枚前後が多く、後に6,7枚程度に収まった。環境中期には各トレーナーズの役割が明確になったため、役割のあるトレーナーズを増やしつつギミックも担保できる6,7体制が好まれた。
2.構築
ピカの構築は多種多様で、プール内のかみなりタイプ全てがたねポケ枠の選択肢に入っていたと言えるほどだった。今回はいくつかの代表的な型を紹介する。
どの型も最速エレキサークルを押し付けて勝つという理念は共通しており、ある程度ピカの打点に依存している。自由枠のポケモンはワンパン範囲の拡張やベンチ放火、壁ポケなど、ピカの補助としてそれぞれ異なる役割を与えられていた。
2-1.マチス軸
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環境初期に流行したが、後に大きく数を減らす。しかし、ピカミラーの「ライチュウ」が全ての相手をワンパン可能なため、ピカ一強時代に一度復権した。
「レアコイル」が置けている際のライチュウが非常に強く、サブアタッカーの破壊力は他の型と比較にならない。しかし、1進化 * 2に加え「マチス」もライチュウ不在時に腐るため、他の型よりも安定感が無かった。
たねポケの枚数は必要十分を確保できていたが、トレーナーズ枠の狭さが不評であり環境終盤で見なくなった型の一つ。
2-2.ライチュウ型
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マチス軸との折衷的な構築。レアコイルを採用せず、ライチュウとマチスのみを採用したリスト。環境初期から一定数存在し、最初から最後まで人気のある型の一つだった。
マチスに寄せ切った構築よりもトレーナーズ枠が広く、仮想敵に合わせて構築を変えやすい。140ラインの打点が刺さる対面では非常に強い型で、ダメージを受けたピカのエネルギーをライチュウに渡してフィニッシュできる点も噛み合っていた。
ミュウツーの流行により減少したが、ピカミラーの捲り性能が非常に高かったため環境に残り続けた。
2-3.マルマイン型
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初期に大きく流行し、終盤まで根強い人気のあった型。
「マルマイン」が逃げエネ0のため、「ナツメ」による遅延を貫通しやすい。他の型と比べて受け性能が低いが、最速の通しやすさでは目に見えてトップだった。
マルマインはサブアタッカーとしても及第点の打点で、打点が全く出ずに負ける試合が少ないのも利点だった。
2-4.ゼブライカ型
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環境中盤に登場し、以降ピカexの最多シェアであり続けた。
ピカがワンパンしづらい大型を「ゼブライカ」のベンチ放火でも削っていく、分割キルを強く意識した型。ゼブライカとピカのスイッチタイミングが難しい他、「サンダーex」などのサブアタッカーを育てる択もありプレイングの幅が非常に広い。
この型がシェアを増やした頃には「バチンウニ」の人気も上昇しており、ミラーで強い90 + 30点への意識が高まった。
トレーナーズが絡まないやり取りでは群を抜いて強かった型で、この型が登場したことで「キズぐすり」の価値が上がった。
2-5.進化ライン不採用(ピカサン)
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環境初期~終盤にかけて少数ながら存在したリスト。
進化ラインを切ることで「レッドカード」などの干渉系トレーナーズを搭載しやすくした型。レドカ受けが非常に良い型でありながら自身はレドカを打てる。ミラーでも対面の手札を削り、トレーナーズの枚数差による勝ち切りを狙う。
環境中期に大きく数を減らしたが、環境終盤にはレドカ需要が高まったこともあり最後まで若干数が生存。入賞はあまり伸びなかった。筆者は最終的にこの型で詰めていた。
3.デッキの強み
ピカ系デッキの強みは、その取り回しの良さと構築の多彩さにある。
かみなりタイプのカードは全体的に逃げエネが軽く、わざの起動も比較的早い。そのためメインアタッカー以外も活躍させやすく、ゼブライカやバチンウニなども活用した柔軟な立ち回りができる。逃げで時間を稼ぎながら対抗札を探すことも可能で、プレイヤーのゲーム理解と練度をよく反映するデッキだった。
環境に応じたサブアタッカーのコンバートができる点も強い。ライチュウ・マルマイン・ゼブライカの3種はいずれも異なる強みを持ち、大会でピカ以外を使う場合はこれらへの全対応が要求された。
環境後期ではゼブライカが仮想敵に据えられがちだったが、その間隙を縫う形でマチス軸やライチュウ型も活躍した。ミュウツーが台頭するまでピカ一強が続いたのは、この対策の難しさも一因である。
4.環境とピカex
ここからは、環境の変遷とそれに合わせたピカの立ち位置を振り返っていく。
ピカは常に上位争いを続けたものの、絶対的なトップだった時期とそうでない時期がある。ピカが環境に与えた影響や他デッキとの相性関係などを中心に、ピカの歴史を紐解く。
4-1.先行プレイ~リリース直後
この時期からピカの評価は高かったが、「フリーザーex」中心の「フリ単」や「ミュウツーex」「リザードンex」など、ピカよりキャッチーなデッキも環境で争っていた。
勝率という意味では、この時期がピカの最盛期だったと言っていい。有利対面の水タイプ系はもちろん、発展途上だったミュウツーリザなども餌にしてピカは圧倒的な入賞数を誇った。
ピカは構築コンセプトがシンプルということもあり、この時期からある程度まとまったリストが多かった。この時期特に多かったのはライチュウ型とピカサンで、ゼブライカ型が支配的になるのはもう少し先の話。
4-2.環境中期① ピカ一強時代
この時期は、環境が少しずつ固定化され始め、ピカの大会分布が抜きん出て多くなった。
ピカミラー中心の環境で一気にシェアを伸ばしたのがゼブライカ型。ピカをゼブライカのベンチ放火で補助し、ポイントレースを制しやすくした型である。
この頃ピカに勝てるデッキはピカしかおらず、そのピカミラーを制すための構築が求められた。分割キルができるゼブライカとワンパンの広いライチュウの競り合いがこの頃激化し、環境末期までこの2タイプは残り続ける。
4-3.環境中期② メタデッキの出現
ピカ一強を受けて、いくつかのメタデッキが環境に進出してくる。
その中でも「ウインディex」は評価が高かった。「サカキ」込みでピカの採用ポケモン全てをワンパンできるウインディは、ピカメタのデッキとして使用率を上げる。他にも「カイリキーex」のようなタイプ有利を活かしたメタデッキも現れ、「ピカ vs それ以外」の構図が激化した。
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しかし、この時期も依然ピカはトップであった。
対ピカにウェイトを寄せすぎると、ピカの後を追っていた他デッキが刺してくるというのがこの環境だった。ウインディは水タイプ、カイリキーはミュウツーに苦戦を強いられる。また、最速エレキサークルが結局受からない場合も多く、これらのメタデッキは環境では伸び悩んだ。
4-4.環境後期 ピカ一強の終焉
ここに来て、高い対ピカ勝率と基礎性能を併せ持つデッキが現れる。それが、非exの「ミュウツー」を搭載したミュウツーexである。
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元々、ミュウツーは「サーナイト」さえ間に合っていれば全対面に目のあるデッキの一つだった。高速デッキへの勝率だけがネックだったが、後期のミュウツーは壁役に非exミュウツーを採用。
非exミュウツーはエレキサークルを1回耐えられる壁役であり、エネがつけば逆にピカのワンパンを狙うこともできる。ピカ相手に時間を稼ぎつつ処理圧もかけられる優秀なスタッフであり、この変化によりピカ・ミュウツーの相性関係が逆転した。
非exミュウツー採用は勝率を優位に変えた。有識者の集計では、この型のミュウツーは対ピカ勝率が20%近く上方修正されている。
参考
この時、遂にピカ一強環境が終わりを告げる。最速サーナイトだけでなく時間を稼いでからの「サイコドライブ」も負け筋になり、ミュウツーを倒しきれないピカは一時的に評価を落とした。これによってシェアが逆転し、環境最多シェアの座はミュウツーが手にすることとなる。
4-5.環境末期 3強環境で復権
ピカを押さえることに成功したミュウツーだったが、ここで対ミュウツーのカウンターデッキが出現する。それがリザexとウインディexを両採用した「炎ex」である。
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ミュウツーとの殴り合いに滅法強いこのデッキは大会でも分布を伸ばし、ピカ・ミュウツー・炎の3強環境が始まる。この環境ではピカの分布が再度増加し、上位のピカ比率もまた増加した。
なぜピカは復権できたのか?
環境末期、多くのプレイヤーはミュウツー > ピカの認識を持っていた。炎exも、ウインディで殴るプランをとることでピカに十分対抗できる。にもかかわらず、環境末期でもピカは表舞台で活躍した。
ピカがTier1に相当するデッキだったことは疑いようもないが、Tier1間の競争で図抜けていたかといえばそうではない。しかし、ピカは多くの大会で20%以上の使用率をキープし続けていた。
なぜピカは上位争いを続けられたのか?
環境初期に定着した「強デッキ」という印象を引きずった部分もあるかもしれないが、水タイプなどと比べてもピカの人気は高い。
最後までピカが上位で争えたのは、ピカデッキの対応力の高さにあったものと私は考える。
ピカの強さはハイスタンダードだ。素早く飛んでくる90点と、逃げ1を活かしたアタッカーの柔軟なスイッチ。加えて自由枠の豊富さ。ピカは環境でも有数の練度デッキであり、ベンチに展開する都合でナツメなどの汎用も効きづらい。
汎用にワンチャンを取られず、自身は汎用でワンチャンを作りにいける。ミュウツーやリザには「ワンチャン」の余地があるが、ピカ相手にワンチャンを通せる機会は非常に少ない。最速サークルをナツメで妨害できたら嬉しいよね程度で、これもスピーダー1枚で貫通される。トレーナーズで相性が覆せない。
ミュウツーやリザが出力ブレ・汎用受けで落とす試合をピカは落としづらく、それが結果的には優秀な成績に繋がった。
デッキの強さは、再現性の高さや最速の速さ、そして対応力を総合して判断される。上位間の打ち合いで不利になってなおピカが人気を集めたのは、対応力も含めた高い安定感のおかげだったと考えられる。
5.最強の遺伝子環境とは
ピカの立ち位置の変化からは、最強の遺伝子環境がどんな環境だったかまで読み解くことができる。
最強の遺伝子環境は、ピカとミュウツーにより、ポケポケにおける「強さ」が定義された環境だったと言える。
環境初期、各デッキはギミックの再現性優先の構築を取り、3P先取の短期決戦に適応を図った。ここではピカやスターミーといった高速デッキが評価され、環境は高速デッキの速度レースになる。後を追うミュウツーもまた「ニャース」や「ひみつのコハク」採用など、再現性でピカを追おうとした。相手の動きを遅らせるレドカの評価が高かったのもこの時期だろう。
しかし、中期ではゼブライカ型やライチュウ型といった対応力のある構築が評価され、ミュウツーもまた非exミュウツーの採用に踏み切る。3P先取のデリケートなポイントレースの中でこそ、長期戦に堪えうる対応力が重要であることが知らしめられた。
環境末期にリザとウインディが複合されたのも、この流れが関係していると感じる。
炎exはウインディ採用が結果としてギミックの再現性も上げたのだが、その背景には「相手に応じてアタッカーを切り替えたい」という思想も含まれている。ピカに勝てるウインディとミュウツーに勝てるリザを一つにまとめられないか? というアイデア込みで炎exは強い。
この二ヶ月で環境はギミックの再現性から脱却し、より高次な「勝利の再現性」へ転換した。競技層以外にとって今期は大味な環境だったかもしれないが、その裏にはプレイヤーの繊細な希求があったと自分は思う。
6.総括
ピカはその圧倒的なシェアだけでなく、環境に合わせた構築の変遷もまた遺伝子環境を象徴するデッキだった。
次弾以降のピカがどのような立ち位置になっていくかはまだ誰にもわからない。しかし、ピカはこの遺伝子環境を常に牽引し、初弾にしてメタゲームとプレイヤーを大きく進展させた素晴らしいデッキだった。いちデッキタイプにこのような表現が適切であるかは分かりかねるが、自分はこのデッキに敬意を表したい。
幻のいる島環境でも、ピカはTier1~2を争うデッキとなることが予想される。もしこの記事でピカに興味が湧いたプレイヤーが居たら、次弾で握ってみるのもいいかもしれない。
以上
謝辞
この記事を執筆するにあたり、他投稿者様のnoteもいくつか参考にさせていただきました。この場を借りて、参考にしたnoteを紹介させていただきたく存じます。