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【前編】ACSLとは何者?─国産ドローンの歴史と誕生の背景

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今回から3回にわたって、国産ドローンメーカーとして注目されるACSL(エーシーエスエル)についてご紹介します。前編では、「ACSLはいつ、どのようにして誕生したのか?」という沿革や、会社の設立背景を中心に見ていきましょう。


■そもそもACSLってどんな会社?

ACSLは正式名称を「株式会社ACSL(Autonomous Control Systems Laboratory)」といい、2013年に千葉県で創業されました。もともとは千葉大学の研究室から生まれたベンチャー企業で、自律制御技術を活かした産業用ドローン開発に特化しているのが特徴です。

皆さんがイメージするドローンというと、まず思い浮かぶのは一般向けの空撮ドローンかもしれません。でもACSLは、物流やインフラ点検、防災など、産業・社会インフラ領域で活躍する無人機を主力としているんですね。

実は、2018年にACSLは東証マザーズ(現在はグロース市場)へ上場しています。ドローン専業メーカーとして世界で初めての上場企業、という点で業界の注目を集めました。ここがまず「ACSLって何かすごそう」と言われる理由のひとつなんです。


■ACSL誕生の背景にある「自律制御技術」

ACSLが生まれた背景には、創業メンバーが大学の研究室で培ってきた自律制御技術があります。自律制御というのは、いわゆるGPSやセンサー、画像認識などを組み合わせて“ドローンが自分で考えながら飛ぶ”ための技術。周囲の障害物を避けたり、位置を正確に保ったりするためのソフトウェアが強みです。

千葉大学の野波健蔵教授が率いる研究室で長年進めていた、「GPSが無くても安定して飛べるドローンを作る」プロジェクトがルーツといわれています。そうしてできあがった技術を実際の社会課題で使うには、大学の研究だけでは限界がある。そこでスタートアップを立ち上げて、社会実装を加速しようという流れになったわけです。

■ドローン社会実装へ向けた実証実験の数々

創業後のACSLは、さまざまな実証実験にトライしてきました。たとえば2017年には千葉市(国家戦略特区)でドローン配送の実験を行い、東京湾をまたぐ長距離飛行を成功させています。また同年の九州北部豪雨では災害現場での被害状況調査にドローンを使い、メディアでも取り上げられました。

さらに2018年からは日本郵便と組み、離島や山間地域での「郵便局間の物資輸送実験」を実施。ここでACSLのドローンが採用されて、郵便物のドローン輸送という新しい可能性を見せたんですね。後ほど詳しく触れますが、これは日本郵便とACSLの“長い付き合い”の始まりでもあります。

■上場と国産ドローンの需要拡大

こういった実績が評価され、2018年にACSLは上場を果たしました。当時はまだ「ドローンメーカーが上場って珍しいよね」くらいの認識だったかもしれません。でも実際に、ドローンは年を追うごとに注目度が高まり、特に産業分野では労働力不足や災害対応でのニーズが急拡大しています。ACSLはその波に乗るかたちで事業を伸ばし、現在では国内で量産体制を持つ数少ない国産ドローンメーカーとして地位を確立しています。

ただ、日本のドローン市場は長らく中国メーカー(特にDJI)の独壇場だったこともあり、国産メーカーは苦戦が続いていました。そこで経済産業省や総務省が「国産ドローンを何とか育てたい」という政策を打ち出し、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトで支援を始めます。その代表的な存在がACSLだったんですね。

■なぜ「国策銘柄」? ドローンと日本の政策のかかわり

ACSLが「国策銘柄」と言われるようになった背景には、上記のような経産省や総務省の支援があります。ドローンは航空法や安全保障上の問題など、行政の関与がとても大きい産業です。日本政府としては、万が一のサイバーリスクを避けるためにも、国産ドローンの普及を推進しています。ACSLはまさにその最前線で研究開発を担っているため、「国策銘柄だ」とマーケットからも注目を集めているわけです。

とりわけ大きいのが「中国製ドローンへの懸念」です。近年、米国を中心に「中国製ドローンを政府調達から排除しよう」という動きが強まり、そこから日本も追随する形で官公庁が中国製ドローンを使いにくくなっています。となると、代わりの機体は国産しかない。その際に安定した生産能力と技術を持つメーカーとして名前が挙がるのがACSLなんですね。

■まとめ:ACSLの“過去編”を振り返って

ここまで前編では、ACSLの歴史や設立背景、なぜ国策銘柄と呼ばれているのかについて軽くおさらいしてみました。創業当初から産業用ドローンに特化し、実証実験で数々の実績を積み重ねてきたところにACSLの強みがあります。そして上場を経て、多くの官公庁や大企業から「国産ドローンの開発パートナー」として期待がかかっているわけです。

次回の中編では、さらに深掘りしてACSLと日本郵便、総務省・経産省との具体的な取り組みや、その技術的特徴などを見ていきます。物流ドローンってどうやって飛ばすの? レベル4解禁(有人地帯での目視外飛行)で何が変わるの? そんな疑問も交えつつ解説するのでお楽しみに!

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