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【エッセイ】僕の大好きなアルバム④ D'Angelo『Voodoo』

華やかなポップスの歴史の根底には常に通底奏音の様にブラックミュージックという黒く深い河が多くの支流となって流れています。
僕が知る限り数十年に一度、その支流の多くが注ぎ込む大運河のような作品が生まれるようです。
ジミ・ヘンドリクスが建てたスタジオでレコーディングされ、1970年代にスティービー・ワンダーが使用した楽器によって演奏され、プリンスへのオマージュを収録したこの『Voodoo』も正にそんな作品のひとつです。
長年様々な音楽を楽しむ内に、例えばメロディ、ハーモニー、リズムなど、いつのまにか楽曲を分析的、批評的に聴く曲がクセがついた僕を、この作品は嘲笑うかのように、翻弄しました。
プレイボタンを押すたびに何か得体の知れないドス黒い塊が忍び寄って来るのです!
それまでの自分の物差しでは到底押し計れない未確認物体に周りを囲まれ、止めどなく打ち寄せるグルーヴに身をさらわれるうちに、気がつけば僕はこの音楽の虜になっていました。
それはタイトルが暗示するような、太古の呪術的な祝祭に身体ひとつで放り込まれたようでした。
それは「音楽の魔法」と言うには実に生々しくも、甘美な体験です。
聴き過ぎにはくれぐれもご注意を。

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