アメリカの医療システムとCollective Health
Collective Health(カリフォルニア)は、企業やスタートアップ向けの、これまでの医療保険の代替となるサービスを提供している企業です。統合されたオンラインプラットフォームにより、従業員のヘルスケアを簡素化し、雇用主のコストを下げます。Collective Healthは、顧客体験に焦点を当てて保険業界を再構築できるソフトウェアプラットフォームを構築した企業と言えます。ソフトバンクビジョンファンドも出資をしています。同社は、全米でさまざまな業界の45社以上の企業顧客(Pinterest、Uber、Palantir、Zendesk、eBay、Red Bull、Restoration Hardware、Driscoll'sなど)と20万人以上の従業員にサービスを提供しています。
アメリカの医療保険システムとは
アメリカの公的医療保険制度は複雑で、連邦政府が制定する国の法律の基で、それぞれの州が保険に関する法律を制定しているため、州によって制度が異なります。公的医療保険の対象としては、65歳以上の高齢者や障害者、低所得者のみであり(上図でいうMedicaidとMedicare)、現役世代は民間の医療保険にて備えるのが一般的です。アメリカでは、多くの人が、勤務する企業または所属する団体を通じて民間の健康保険に加入しており、このような保険プランは団体保険と呼ばれます(上図でいうEmployer Spons.)。これまでの団体保険は、複数のプランを従業員に提示し、その中から従業員に加入するプランを選択させる場合もあれば、企業が選んだプランのみ提供がされる場合もありますが、個別にカスタマイズされているとは言えませんでした。
Ali Diab氏 Founder / CEO
ピーター・ティール氏のFounders Fundも出資しているCollective Healthは2014年8月12日、医療保険の代替となるサービスをローンチしました。FounderでCEOのAli Diab氏は自身の体験からアイディアが浮かんだと語っています。Diab氏は骨折し病院へ行った際、本来600ドルの治療費を、3700ドルと免責として1500ドル払うことになったそうです。この経験から、従来の保険業者を通さなくてもいいサービスのCollective Health創業の発想へと至ったとのこと。
ミッションは、“to make it effortless to navigate, understand, and pay for healthcare”:「ヘルスケアへの取り組み、理解、支払いを簡単にすること」とされています。また同社のオンラインプラットフォームでは、雇用主(企業)が、プラットフォームから従業員1人1人のプランを管理し、コストをコントロールできるようにすることができます。また、医師紹介サービス「One Medical Group」、医師検索・予約サービス「Better Doctor」、先に挙げた従業員健康支援サービス「Jiff」といった最新の医療サービスを組み合わせて提供することで、従業員により良い医療体験を提供することも可能とされています。
資金調達
同社はこれまで多数の資金調達を行なっています。シリーズAでFounders Fundをリードインベスターとする、Formation 8などのVC数社と、マックス・レブチン氏らエンジェル投資家から資金調達を行っています。シリーズEラウンドでは、ソフトバンクビジョンファンドがラウンドを主導し、DFJ Growth、 PSP Investments、 Founders Fund、 GV (formerly Google Ventures)、 Maverick Ventures、 New Enterprise Associates、Sun Lifeなどから2億500万ドルの資金調達を行い、これまでで総額4億3400万ドルの資金調達を達成しています。現在の評価額は明らかにされていません。
(crunchbaseより)
最新の技術と研究成果
Collective Healthの特許出願中の機械学習エンジンであるCH Cortex™は、慢性疾患管理から放射線科サービスに至るまで、個々の会員のケアニーズを特定し、適切なパートナー、施設が提供する治療を案内します。いかにもソフトバンクビジョンファンドが好みそうな技術です。
また、Collective Health Insightsという機能では、雇用主やコンサルタントに、医療費の動向を知る機会を提供します。これにより、雇用主が健康問題をよりよく理解し、管理できるように支援するというCollective Healthの取り組みをさらに発展させることができます。
Collective HealthとOne Medicalは共同で、JAMA Network Open誌に、Virtual + In-office Primary Care Model が、雇用主の医療コストを45%下げたと発表しました。こういった学術的な取り組みも通して、同社のサービスの普及を狙っているようです。
2018年の米国の医療費は3.65兆ドルに達しており、また雇用者向け医療保険業界は約1.2兆ドル規模と言われています。まだまだ眼前には大きな市場が広がっており、今後の成長持続が期待されます。